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人生は、その時間に比例して、よけいな荷物か増えていく。

  

 少女は、自分を拾ってくれた盗賊団に感謝していた。自分に出来る事は、何でもしようと子供心に誓った。

 

 最初に覚えたのは盗みだ。教えられた通り、街中で故意に人にぶつかり、金目の物を盗む。でも、上手く行かなかった。少女が身体をぶつけた相手は、毎回瀕死の重症を負い騒ぎになった。

 

 次は、遺跡荒らしだ。高名な勇者の墓は、家三軒分の面積が、地下に広がっている。地下宮殿。勇者の墓は、盗賊団にそう呼ばれていた。財宝目的で、地下に足を踏み入れる。

  

 しかし、少女は暗闇が苦手だった。恐怖と緊張から過呼吸になり、パニックになる。我に帰った時、地下宮殿は崩れ去り、一緒に居た筈の仲間は生き埋めになった。少女は、どうやって地上に戻ったのか分からなかった。

 

 最後は戦闘だ。お尋ねもの盗賊団は、いつも国の軍隊に狙われている。また、縄張りを巡って他の盗賊団ともいざこざが絶えない。

 

 あれは、長年争っていた盗賊団との戦いが始まった時だ。戦いは決着が着かず、双方の疲弊が極限に達した時だった。国の軍隊が突如現れ、二つの盗賊団に襲いかかった。

 

 どうやら国の軍隊は、事前に情報を得ており、この機に両盗賊団を同時に殲滅しようと計画していたらしい。両盗賊団が、疲弊するのを待ち構えていたのだ。

 

 疲れ切っていた両盗賊団は、草を刈られるように、倒されて行った。少女の傍に居たお頭の首が、どこかへ飛んで行ってしまった。

 

 少女は、盗賊団の団員から気味悪がられていた。あのガキがここに来てから、妙な事が起こる。不吉だと。神の存在など信じない盗賊団も、自分達のツキが落ちる事は恐れていた。

  

 それでもお頭は、少女を盗賊団に置いた。周りの声は気にするなと言ってくれた。少女は嬉しかった。このお頭の為に、役に立ちたいと思った。そのお頭が、目の前で死んだ。次の瞬間。少女の視界は暗転した。

  

 気づくと、戦闘が終わっていた。どの勢力が勝利したのか分からなかった。ただ、戦場には多くの屍が横たわっていた。頭にもやがかかったように呆けている少女に、仲間である筈の盗賊団が襲いかかって来た。

 

「この化物が!」

 

 よく聞き取れなかったが、仲間はそれに近いような事を叫んでいた。お頭の居なくなったこの盗賊団を、少女は惜しむ理由が無かった。

 

この日、二つの盗賊団と、国の正規兵三百名が全滅した。

 

 それからニ年間。チロルは、街を転々とした。街には、戦災孤児を受け入れる施設があったが、集団生活を強いられるので、チロルは入らなかった。自分は集団の中にいると、災いを呼ぶからだ。

 

 街の裏道を歩くと、荒れた人相と服装の大人達が近寄って来た。仕事を探していると伝えると、不敵な笑みを浮かべ、紹介してやると親切にしてくれた。

 

 それからのチロルは、裏社会の組織の運び屋になった。運ぶのは主に、麻薬、盗品、取引用の金貨。子供の運び屋は、怪しまれにくい貴重な人材だった。

  

 持たされた荷物を運ぶだけで報酬が貰える。チロルは、生活の糧を得て、安心した。

 

 だがその安寧の終わりは、すぐに訪れた。ある日、チロルは指定された時間に間に合うように、早足で掛けていた。急ぎ過ぎて、取引相手にぶつかってしまった。その相手は、体ごと飛ばされ、手にした麻薬を革の袋から外にぶち撒けてしまった。チロルの持っていた支払いの金貨が入った袋も同様に。

 

 その通り道に、運悪く憲兵の集団がいた。チロルは、憲兵に雇い主を聞かれ、素直に答えた。チロルを利用していた組織と、取引相手の組織は、その日の内に憲兵に検挙された。

 

 仕事の失敗の代償に、チロルは裏社会から懸賞金付きのお尋ね者になった。運び屋の仕事を失ったチロルは、住む街を変えた。だがどの街に行っても、柄の悪い人達に追い回された。

 

 自分の居場所は、どこにも無い。少女は、自分は、なぜ生まれて来たのかと自問するようになった。

 

 そんな時、小さな街で野良猫に餌をあげている大人を見た。なぜあの人は、見返りも無いのに、あんな事をしているのか。

 

 チロルは野良猫に、帰る家も居場所も無い自分を重ね合わせた。あの餌をあげている人の傍にいれば、生きた疫病神と呼ばれた自分にも、何か良い事があるような気がした。

 

  

「この人は、師匠のお友達ですか?」

  

 チロルは、笑顔で魔王軍ナンバー2の魔族を指差した。タクボは、チロルを見つめ心の中で戒める。人を指差してはいけないぞ少女よ。いや、この死神は人間ではないので、指差してもいいのか?いや、差別は駄目だ。それよりも、この死神と友人になった覚えは無いぞ。どこから順番に、この少女に訂正していいか迷っていると、死神から口を開いた。

  

「久しいなタクボよ。此度は、そなたに聞きたい事があって参った」

 

 サウザンドは、剣を帯びていなかった。良かった。どうやら、荒っぽい話では無さそうだ。タクボは胸を撫で下ろす。

 

「そうか。まあ、立ち話もなんだ。座ったらどうだ?」

 

 店員に、イスをもう一つに用意してもらい、サウザンドは素直に座った。

  

「食事中に済まないな。ん?その匂い、紅茶と言う飲料かな?」

  

 人間の文化に傾倒している死神は、チロルの飲んでいた紅茶を、興味深く注視した。

 

「はい。そうです。良かったら飲まれますか?」 

 

 少女が、笑顔で死神に陶器のカップを渡す。タクボは、また心の中で呟いく。チロルよ。飲みかけの物を初対面の人に渡すのは失礼だぞ。いや、お前も素直に飲むなサウザンド。毒が入っていたらどうする?

 

 もう知らん。人間と魔族に、礼儀と用心を同時に教える事など出来るか。

  

「で、最近の戦況はどうだ?あまり良い噂は聞かないが」

 

「以前にも増して悪化している。先日、勇者達に、最重要拠点を陥落させられた」

  

 魔族が誇る難攻不落の要塞が落とされ、魔王の居城は、守る砦が無い裸同然の城にされた。

  

「他の魔族の国々に援軍を要請したが、色良い返答な無かった」

 

 タクボは驚いたが、魔族も一枚岩では無いらしい。魔族同士、争う事もあるとか。全く人間と同じではないか。

  

「受け取った勇者の武器はどうしたんだ?」

  

「あれは人間用に造られた武器でな。我々魔族には、容易に扱える物では無かったのだ」

  

 魔族が誇る名工が今現在、不眠不休でその武器を魔族使用に改造しているとの事だった。

 

「間に合うのか?」


「分からんな。間に合わなければ、我が魔族は滅びるだろう。先日落とされた要塞の兵達のように」


  

 難攻不落の要塞が落ちた後、魔族の戦闘員、非戦闘員合わせて二千名が全て殺された。勇者とその仲間達に。

 

「二千人が!?」


「酷い。非戦闘員まで殺すなんて······」

 

 ウェンデルとマルタナが、驚きと悲痛の声を出す。

  

「勇者の復讐心は最早、常軌を逸脱している。彼は魔族をこの世から一人残らず屠るまで止まらないだろう」

  

 サウザンドは、殺された同胞を思ってか、目を閉じ天を仰いだ。タクボは空気を読んだ。いかん。場が沈んでいる。話題を変えよう。


「なぜ、私がこの街に居る事が分かったんだ?」

 

 タクボは、分かり切った事を、あえてサウザンドに質問した。

 

「そなたなら、聞くまでも無かろう。青と魔の賢人だ。人間側の配下から、そなたの居場所を知り得た」

  

 チロルは、タクボと死神の顔を、交互に見ている。

 

「では、何用で来たんだ?賢人の配下でも知り得ない事など、私に聞いても無駄だと思うぞ」

 

 文字通り無駄だと思うが、一応予防線を張って置く。面倒事に巻き込まれるのは勘弁願いたい。タクボは心からそう願う。

 

「あの森で、一人の魔族が死体で発見された。私がそなた等から武器を受け取ったあの日から、行方不明になっていた魔族の者だ

 

 厄介事の匂いが、明後日の方向からしてきた。

  

「我が魔王軍、序列3位の者だ。あの日、勇者の武器をいち早く手にする為、私を後から追って来たらしい」 

  

「私達を疑っているのか?誓って我々はその件に関わっていないぞ」

  

 まずい。サウザンドが、あの場に居た我々を疑うのは、当然かもしれない。タクボは内心、冷や汗を感じていた。

   

「あの森から一番近い街はここだ。そなた等で無いとすると、この街の住人の誰かと言う事になるな」

 

 いよいよきな臭くなって来た。サウザンドは、犯人を炙り出す為に、この小さい街を襲う気か?タクボは、身構える自分に気づいた。

 

「師匠。その魔族の人、殺したの私です」


 チロルが無邪気な顔で、タクボに告白して来た。いや、隠す気など毛頭ない顔をしている。

 

「冗談だよね?チロル」

 

 エルドが優しくチロルに微笑む。子供の戯言だと、この場にいる人間は誰もが思いたかった。

 

 あの日、馬車で街を出るタクボを見かけ、チロルは後を追った。森の中で大きな爆発音が聞こえ、自分も森の中に入ろうと思った時、一人の魔族がそれを阻んだ。

 

 この森の中は、戦場になる。子供は家に帰れとその魔族はチロルに言った。タクボに弟子入りを願い出るつもりだったチロルは、魔族の言葉を無視し、森に入ろうとした。

 

「それで、どうなったの?チロル」

 

 マルタナは、目の前の少女が普通の子供である事を願っていた。

 

「はい。マルタナ姉さん。その魔族が私の腕を掴んで来たので、殺しました」


  チロルは、笑顔で答えた。ウェンデルとエルドのチロルを見る目が変わって来た。

 

「少女よ。聞かせてくれないか?如何なる方法を持って、その魔族を殺したのだ?」

 

 サウザンドは、冷静な声を崩さない。

 

「はい。このようにしてです」

  

 チロルが、細い右手を上に挙げた。その瞬間、少女の右手から刃のような形をした、まばゆい光が輝く。

 

 死神以外の人間は、驚愕の余り声が出ない。

 

「ふむ。これは勇者にしか扱えない光の剣だ。となるとこの少女は勇者の卵と言う事になるな」

 

 死神は、まるで同僚と茶飲み話をしているかの口調だった。

 

 勇者の卵?このあどけない顔をした少女が。タクボは幻覚でも、かけられているのかと疑った。だが、チロルの話を総合すると、辻褄が合う。あの森での頬の血、全滅した盗賊団と国の正規兵。

 

 普通の子供に、そんな芸当が可能である訳が無かった。

 

 この茶店の主人は、カウンターで皿を拭きながら、タクボ達のテーブルを一瞥した。この店には、冒険者の来店も多い。連中は手品のような事を、よく笑いながらやる。

 

 以前、冒険者が葉巻に炎の呪文で火をつけようとして、店内でボヤ騒ぎを起こされた事もあった。何やら子供の腕が光っていたが、また魔法の類だろう。いちいち気にしていられ無かった。

 

 主人の前を、白いローブを身に着けた者が横切る。店の中でもフードを被り、顔を見せない。主人は、別に怪しまなかった。冒険者連中は、普通じゃない奴等ばかりだ。

 

 

「だが、その光の剣は、勇者の資質を持つ者が、特別な剣に発動させるものだ」

 

 特別な剣とは、希少鉱物を名工が鍛え上げた、勇者の剣と呼ばれる物だ。

  

「生身の体に、光の剣を纏うなど聞いた事が無い。まさかこの少女は······」

 

「勇者の金の卵だ」

 

 サウザンドが言いかけた時、後ろから男の声がした。全員振り返り、白いローブを着た男を見る。

 

「今、金の卵と言ったのか?君は何者だ?」

 

 タクボは、ローブの男に質問した。男は、フードを被っており、顔も年齢も分からない。

 

「あれから二十年か。お互い年を重ねたものだな。タクボ」

 

 男は、ゆっくりとフードを脱いだ。男は、真紅の髪の色をしていた。その長い前髪で両目が隠れていた。

 

「私を知っているのか?君は誰だ?」

 

 タクボが口を開いた瞬間、エルドとマルタナが椅子から立ち上がった。いつも飄々としているエルドが、顔を引きつらせ身構えている。額には汗が流れている。マルタナに至っては、肩を震わせている。

 

「真紅の悪魔······」

 

 エルドが小さく呟く。隣に座っていたウェンデルは、少年の様子がただ事では無いと感じた。

 

「どうやら、私を知っている者もいるみたいだな。血生臭い人生を歩んで来た身だ。恨みは、星の数程買っているが、物事には優先順位がある。今立ち上がった者達はひとまず黙っていてくれ」

 

 静かな口調だが、男の言葉は反論を一切許さない圧があった。

 

「私を忘れるのも致し方ない。施設を出たのは、二十年も前の話だからな」

 

 施設······二十年前······真紅の髪の色······タクボの脳裏に、一人の固有名詞が浮かんだ。

 

「アバル······?もしや君は、アバルか?戦災孤児施設で一緒だった」

  

 あの目が隠れる程の長い前髪。あの時と変わっていない。タクボの記憶が蘇る。

 

「君にその名で呼ばれるのは懐かしいな。施設での偽名だったが、その名で呼んでくれて構わんよ」


 アバルは、微笑して答えた。

 

「さて、積もる話もあるが、ひとまずその少女をこちらに渡してくれるかな?タクボ。」

 

「二十年振りに再会したと思ったら、突然何を言い出す?なぜチロルを?」

 

「この少女が、勇者の卵だからだ。只の卵では無い。百年に一人、現れるかどうかの金

の卵だ」

 

 この昔馴染みの男は、何を言っているのだ?金の卵。百年に一人。頭がついていかない。タクボの頭は混乱していた。

 

「そなた、青と魔の賢人の者だな」

 

 サウザンドが、静かに口を開く。一人の少女以外、人間の大人達は、全員見えない糸で縛られたように動けなかった。

 

 アバルが青と魔の賢人?この世界の頂点から、歴史を操る組織に属する者だと言うのか?

 

 タクボは、タチの悪い演劇でも観ているような気分になった。

 

 遥か遠くの空から、タクボ達が居る小さな街へ、風の呪文で移動して来る者がいた。風の呪文は、移動距離の長さに、魔力の大きさが比例する。四つの国を横断して来たその魔力は、常人の魔力の比では無かった。

 

 その者は、全身を覆う甲冑を身に着けている。余計な装飾は一切排除され、実践の為だけに造られたような鎧だ。鎧と盾には、無数の傷がついており、その壮絶な戦歴が伺い知れた。

 

 兜の中にある両目には、復讐の黒い炎が、燃えたぎっていた。それは、見る者全てを焼き尽くす、危険な炎だった。


 

 

 


 


 

 

 

 


 

 

 

 


 


 

 

 

 


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