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ガジスト一族の正統後継者は、精霊の神の復活を目論む。

 街へと続く川沿いの行路で、青と魔の賢人達と精霊使いが遭遇戦を繰り広げていた。タクボは戦場から後方に位置し、風の呪文をいつでも唱えられるよう準備していた。


 背中に二歳児のパルシャを抱えている以上、タクボが戦闘に参加する事など論外だった。


「今君達は、精霊の神を復活させると言ったな?我々の城を襲ったのも、その精霊の神と関係があるのかな?」


 最前列のメーシャとローニルの後ろから、ルトガルがテデスに問いかける。青と魔の賢人の城の書物庫には、世界の歴史と知識の全てがあるとされていた。


 だがルトガルは、精霊使いなどと記された書物を見た記憶が無かった。それにしても、とルトガルは思う。


 実際の戦闘状態になり、城を脱出してからの高揚感が突然跳ね上がった。今レベル一のルトガルは命の危険を間近に感じ、どう仕様もなく興奮していた。


「俺達は復讐者達に協力しただけだ。お前達賢人の力を奪う為にな。その奪った力が、精霊の神を復活させる為に必要なのだ」


 ルトガルはテデスの返答を聞きながら、テデスの傷付いた右肩に、淡い橙色の光が輝いている事に気付く。


「その光。魔法で言うと治癒呪文のような物かな?」


「我々精霊使いには、治癒の力など無い。治癒なる物は、自然の摂理、精霊の世界に反する物だ。これは、精霊の力で痛みを和らげているだけだ」


 ルトガルとテデスの会話を聞きながら、ウォッカルは内心思った。精霊の力と魔法。似たような物だろうと。


「不思議だな。君は魔法を忌み嫌っているかのように聞こえる。何か恨みでもあるのか?」


 ルトガルは質問を通して、未知なる精霊使いの情報を引き出そうとした。その重要性をメーシャとローニルも暗黙のうちに理解し、自ら仕掛けようとはしなかった。


「······遥か太古の時代。生きとし生きる者は全て精霊と共にあった。だが、それもロッドメン一族が魔法を造り出す迄だ」


 ロッドメン一族。世界で最初に魔法を生み出したと伝えられる伝説の一族。魔法を学ぶ者にとって、知らぬ者などいない一族だった。


「世界はまたたく間に、魔法の力に塗り替えられた。数千年の時の流れは、世界から精霊の存在を消し去った」


 テデスは続けて語る。そんな世界の片隅に、少数だが精霊の力を操る一族が存在した。ガジスト一族もその一つだった。


 ガジスト一族は、島で静かに暮らす一族だった。だが、一族の後継者争いが一族の運命を激変させる。


 精霊の神、ラバートラの黄金の剣はオルギスの手に渡り、ガジスト島は戦場となり破壊された。


 オルギスに黄金の剣を渡した男は、一族の後継者に選ばれた。だが、真の後継者になるべき一族の子孫が別に存在していた。


 それこそ島を守る為に、我が身にラバートラを降臨させ死んだ

、真の後継者の子孫だった。


「真の後継者。それが俺とクダラだ。我が一族の後継者の座を盗んだ愚かな連中の子孫は、俺とクダラが全て始末した」


 テデスとクダラは、現在のガジスト一族の代表一族を殺害した

。それは、千年前に奪われた後継者の座を、取り返す行為だった


 真の後継者であるテデスとクダラ達は、特殊な能力を持っていた。それは、次世代に記憶を継承させる力だった。


 テデスとクダラは、先祖代々受け継がれて来た怨念を継承していた。それは千年前、静かな島民の暮らしを破壊したオルギス皇帝への恨みと記憶だった。


 小さな田舎町で黄金の剣を持つ騎士がいる。三年前、テデスとクダラは黄金の剣と黄金の甲冑を捜索する旅の途中、偶然その噂を聞きつけた。


 小さな街に辿りついた時、勝者無き戦争が集結した頃だった。黄金の剣を持つ騎士は、カリフェースへ去った後だった。


 テデスとクダラは千年前のオルギスへの復讐と、精霊の神の復活の為に動き出した。そして、その準備は整いつつあった。


「······精霊の神ラバートラが復活したら、この世界はどうなる?極楽浄土にでもなるのかな?」


 ルトガルが鼻で笑うように挑発する。聞いた事も無い神の名に、元世界一の魔法使いは一部の感銘も受けなかった。


「······精霊の神は怒りに震えているだろうよ。精霊をないがしろにしたこの世界にな。ラバートラは大掃除をするだろう。魔法などと俗な物に染まりきったこの世界をな」


 テデスは冷たい目の温度を、更に下げるかのように睨む。事の真意は計りかねるが、このテデスと言う男の底が知れない怨恨の深さは、真実だとルトガルには思われた。


「残念だが君達一族の大願は潰えるだろうな。そんな世界、我々青と魔の賢人が決して容認しないからだ」


 ルトガルがテデスを睨みながら断言する。その言葉を合図に、メーシャ、ローニルが武器を構える。


「レベル一のお前がそれを言うか?ルトガルよ。生き残った数人で何が出来る?」


 テデスが言い終えると、突然川の水が流れを静止させ、何かに引き寄せられるように、川の水が空に浮かび上がる。


「メーシャは魔法障壁、ローニルは物理障壁を張れ!」


 ルトガルがすぐ様指示を出す。空に浮いた大量の水は、槍のような形に変わっていく。


「我々精霊使いは治癒の力は無い。だがその変わり、お前達魔力を使う者達に、俺達精霊の攻撃を防ぐ手段は無い」


 空に浮かんだ無数の水の槍は、矛先をルトガル達にむける。


「水の上位精霊の力。とくと見るがいい」


 空気を切り裂く音と共に、水の槍が一斉に地上に降り注ぐ。ルトガルは目撃した。水の槍が、メーシャとローニルが張った障壁をすり抜ける光景を。


 ルトガルは、誰かに後ろから襟首を掴まれ、水の槍が着弾し爆発した場所から、一瞬で遠ざかった。


「タクボか!?」


 ルトガルが叫ぶ。タクボは風の呪文で後退する直前にルトガルの襟首を掴み、パルシャと共に後方に移動した。


「これで君の命を救うのは二度目だ。この借りは利息付で返せよルトガル!」


 タクボは、ルトガルに明確に借りの返済を要求しながら、メーシャとローニルの安否を心配そうな表情で探る。


 幸い二人は生きていた。だが、身体中に槍で傷付けられたように血を流している。


「あのテデスと名乗る男の言う通りだ。精霊の攻撃は、魔法の障壁では防げない」


 タクボは呟き、再び風の呪文を準備する。こうなった以上、全員で逃げる可能性も選択肢に入れなくてはならなかった。


「······タクボ。退却はあり得ない。少なくとも、メーシャとローニルが応じないだろう。

仲間の仇を目の前にしてな」


 ルトガルの言葉通り、メーシャとローニルは負傷しながらも戦意は衰えなかった。


「精霊だか妖精だか何の神か知らないけど、そんな事の為に私達の仲間を殺した報いは受けてもらうわ!」


 絶叫したメーシャは、漆黒の鞭を振り上げる。テデスの前に土色の壁が立ちはだかり、メーシャの鞭を弾く。


 だが、それはメーシャの陽動だった。テデスの右側面に回り込んだローニルは、小剣の光を伸ばし、テデスの右腕を切断しようとした。


 だが、その攻撃はウォッカルの土色の壁に防がれた。


「おいテデス!お前は俺を呼びに来たのだろう。さっさと行くぞ!」


 汗を流しながらウォッカルは叫ぶ。こんな危険な連中の相手は、御免こうむる。ウォッカルは心からそう思った。


「······いいだろう。行くぞウォッカル」


 テデスとウォッカルの身体が浮き上がる。ウォッカルは生き残った手下達に逃げるように指示する。


「逃がすと思ってんの!!」


 怒りの形相でメーシャが漆黒の鞭を振るう。鞭の先端はテデスの足首を削ったが、空に浮かんだ二人は飛び去って行った。


 すぐ様メーシャは、風の呪文を唱えようとする。その身体をローニルが後ろから押さえる。


「······メーシャ!今は駄目だ······傷を負っているし危険過ぎる」


 ローニルの言葉にメーシャは歯ぎしりしたが、四つ年上の男の判断を、認めざるおえなかった。


「······分かったから離してくれるローニル?貴方の両腕で胸が苦しいんだけど」


「······ご、ごめんメーシャ!」


 ローニルにしては大きな声を出し、慌ててメーシャの胸から両腕を離した。ローニルは顔を赤らめながら、治癒の呪文をメーシャにかける。


 あの城での関係者が現れた以上、タクボはマイルに関しての事を、ルトガル達に明かした。


「······マイルがサラント国の密偵だった!?」


 メーシャが驚きの声を上げる。国を上げての復讐か、サラント国の人間の個人的な行動か。タクボには判断がつかなかった。


「城を攻めた兵士達は、恐らく個人が組織したのだろう。我々の報復を考えた時、国のお偉方がそんな危険を冒すとは思えん」


 ルトガルが冷静に断言した。そしてテデスと呼ばれたあの精霊使いは、復讐者達の協力者と思われた。


「······タクボ。ルトガルから力を奪った女は······本当にテデスと同じ顔だったの?」


 ローニルが小声でタクボに確認する。タクボは頷いた。


「間違いなく同じだった。顔も格好もな。双子としか思えないな


 タクボの背中でパルシャが泣き出した。メーシャはおしめが原因だろうと、確認の為にパルシャを地面に立たせる。


「······これからどうするんだ?」


 タクボは三人の賢人達に質問する。メーシャはパルシャのおしめを脱がしながら即答する。


「皆の仇を取るに決まってるでしょう。手始めに、あの精霊使いとやらを血祭りにしてやるわ」


 メーシャは咆哮するように、怒りを込めた言葉を発した。タクボはため息をつきながらルトガルとローニルの顔を見るが、両人ともメーシャと同意見なのは聞かなくても分かった。


「でもその前に街に行きましょう。パルシャの換えのおしめが必要だわ」


 泣き叫ぶパルシャを抱えながら、魔族の少女は今すべき一番大切な事を提案した。


 


 

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