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奇襲する者、される者、反撃する者。

 薄暗い室内で、男は台座の上に腰を降ろし両腕を組んでいた。両目に黒い布を巻いており、表情は伺えない。


 男は数日前の出来事を思い出す。この広くもない天蓋付きの馬車内で、かつての宿敵と邂逅した。その日以降、男は自分の身体に表現し難い違和感を感じていた。


 敢えてそれを言葉にすると、自分の中に異質な魔力が存在する。その魔力は決して大きくない。むしろ僅かな量だ。


 だが、自分の魔力以外の物が身体の中に内包されている違和感は、男を不可解な気分にさせた。


「コドレア様!報告致します。物見の報告によると、人間達と魔物達の戦闘が始まった模様です!」


 馬車の外から、兵士の叫び声が聞こえた。開戦はまだ先だった筈だったが、人間とバタフシャーン一族、どちらが期日を指定を破ったのか。


 そんな事はゴドレアには些末な事だった。刃と血と死が混在する場所こそ、ゴトレアの居場所であり、望む場所だった。


「準備だけしておけ。出陣はまだ後だ」


 今回の戦は、ゴトレアの過去の戦歴の中でも、最大の規模だった。それは彼にとって、大きな祭りだった。


 楽しみはまだ先だ。戦に沸く自分の血を自制しながら、流血王は唇の端を吊り上げた。


小さな街の中を、北門に対って疾走するニ頭の馬があった。シリスの一報を受け、ヨハスとボネットは北門の外に待機させている、聖騎士団の元へ急ぐ。


「坊主!魔物達が南から現れたって事は、お前の予想が外れたな」


 長身の魔族は、自分の腰にしがみつく少年に無遠慮に話しかける。


「······ボネット様。状況は、人間達に良くないかもしれません」


 モンブラは、ボネットの乱暴な馬の操り方に、振り落とされないように必死だった。


「モンブラ君、それはどう言う事だ?」


 長い白髪を風に揺らし、ボネットの馬と並走するヨハスが質問する。


「バタフシャーン一族が、風上の利を放棄するとは思えません。西からの攻撃を加え、人間達の軍を十字に攻め立てるのではないでしょうか?」


「十字に······なる程、南と西からの攻撃が交差すると確かに十字だな」


 ヨハスがモンブラの予想に、感心したように呟く。


「人間という獲物を、ナイフとフォークで串刺しにする気か」


 ボネットか乱暴な物言いをしたが、バタフシャーン一族の意図を、的確に表現していた。


 双頭の大鷲と黒の傭兵の奇襲は、センブルク軍を壊滅的状況に追い込んだ。勢いを増す魔物達は、続けて二つの国の陣を襲い、センブルク同様に散々に蹴散らした。


 だが、四つ目の国の陣を襲った辺りから、魔物達の勢いは減速した。人間達が、反撃の準備を整えたからだ。


 セイマン国、ジール国、フォルツ国の三国は、十カ国の軍の中で、唯一連携を組んだ。その三カ国が、整然と魔物達を迎え討つ。


「全方の敵兵に矢を放て!!頭上の大鷲には火矢だ!」


 一万本を超える弓矢が、黒い雨となって魔物達に降り注ぐ。ある黒い傭兵は八本の矢が身体に刺さり倒れ、ある傭兵は盾で矢を防ぐが、つま先に矢が命中し進めなくなる。


 双頭の大鷲は急降下した所を火矢で狙われ、羽が燃え盛り地上に落下する。そこを複数の兵士達が襲いかかる。大鷲は火矢が届かない高さに、足止めならぬ羽止めされた。


「宮廷魔術師達を出せ!!」


 三カ国の魔法使い達が、最前線に並ぶ。半数は空の大鷲に、もう半数は地上の傭兵達に火炎の呪文を唱える。


 火球が命中した大鷲が火だるまになり、味方の傭兵達の群れに落ちる。黒の傭兵達も各所で悲鳴が起きる。即死する者、頭部が炎上しのたうち回る者。


 黒の傭兵達の陣形が綻び始めた。そこに三カ国の騎兵隊が突撃する。黒の傭兵達は、四倍の兵士相手に、完全に勢いを止められた。


 三カ国の軍は、黒の傭兵達を半包囲しつつあった。その時、西の方角に異変が起きた。最初にそれに気づいたのは、センブルク軍の歩哨だった。


 彼は上官の命令を誠実に遂行し、三カ国に魔物襲来の報を伝えていた。その甲斐あって、魔物達は包囲されつつあった。


 だが、歩哨は西の方角に見える砂塵と影に、嫌な予感しかしなかった。その無数の影は横に広がり、こちらに向かって来る。


 三カ国の軍隊めがけて近づく影は、馬に見えた。だが、馬と見られる頭部には長く鋭い角が生えている。


 金貨級魔物、冥府の一角獣。その角は人間の甲冑を容易く貫く。そして、その一角獣に騎乗している者がいた。


 金貨級魔物、霧の狩人。緑の衣服に頭にはフードを被っている。そのフードの中の両目は閉じられていた。霧の狩人は視覚では無く、嗅覚で獲物を認識し、弓矢で攻撃する。


 一体の闇の狩人が、弓矢を放った。弓は西風に乗り、センブルク軍の歩哨の、すぐ近くの兵士に命中した。


 胸を射られた兵士は、声も発せず前に倒れる。その瞬間、爆発が起きた。霧の狩人が使用する矢は、炸裂の矢と呼ばれ、鏃が獲物に触れると爆発を起こす矢だった。


 冥府の一角獣は九千体。その一角獣に騎乗する霧の狩人は、一斉に弓を放つ。九千本の弓矢が、三カ国の兵士に降り注ぐ。


 一斉射撃で、実に七千箇所で爆発が起きた。歩哨の周囲に爆風と、腕や足、頭部など人体のあらゆる部分が撒き散らされる。


 霧の狩人は、魔法使い達を優先的に狙った。その恐ろしい程の精度は、魔法使い達をほぼ全滅に追い込んだ。


 魔法使い達を失った人間達は、魔法で障壁を張る事も出来ず。恐慌状態に陥った。そこに距離を詰めてきた冥府の一角獣が、角から雷撃を人間達に放つ。


 九千の光の筋が、波打ちながら三カ国の軍列に襲いかかる。耳を塞ぎたくなるような爆音が、次々と起こった。


 勢いを止められていた黒の傭兵が、前進を再び始める。地上に降下出来なかった双頭の大鷲も、人間狩りを再開した。


 三カ国の軍隊は、その兵力の四割を失い、悲鳴の様な撤退命令が各所で叫ばれる。センブルク軍の歩哨は、地獄のような光景から逃れるように馬を走らせる。


 歩哨は、サラント国の陣に向かっていた。この劣勢は、十カ国の中で最大の大国、サラントにしか覆せないと思われた。


 一定に高度を保つ双頭の大鷲の背に、バタフシャーン一族の頭目とその孫は乗っていた。頭目は望遠鏡で、地上の戦況を見る。


「次はサラント軍が出てくるのお。奴らにまともにぶつかれば、こちらも被害が大きくなるわい」


 二十歳前後の容貌をした頭目は、孫に次の命令を下す。黄色い髪をしたベロットは、角笛の準備をした。


 総崩れになった三カ国の軍隊は、雪崩を打って退却を始めた。そこに非情な命令が下される。


「雇った冒険者達を殿に出せ!高い報酬を払った分、働かせろ!


 各国は今回の出兵で、冒険者達を雇っていた。冒険者達は魔物の扱い方に関して、軍隊より一日の長がある。


 彼等は魔物相手に大きな戦力になる筈だった。だが、冒険者達は最も危険な殿に駆り出される。国の正規兵達は、とかく冒険者達を見下す風習があった。


 所詮冒険者という連中は、金目的に危険な仕事をする卑しい者だと。だが兵士達は気づいていない。


 冒険者の報酬も、兵士の給料も元を辿れば国の国庫から支払われている。戦う相手が魔物か、敵国の人間かの違いだと言う事に、冒険者を嫌う兵士達は気づかず、また気づかない振りをしていた。


 冒険者達も同様に国の軍隊を嫌っていた。冒険者達は、自分の腕のみで生きている自負があった。正規兵など、寄らば大樹の影の見本のような存在だと思っている。


 冒険者と正規兵の対立といがみ合いは、何処の国でも見られる光景だった。だが、この戦場での冒険者達は、そんな風習に構っている暇は無かった。


「ラストル!お前は俺達の後ろに隠れていろ。十五でまだ死にたくないだろう!」


 若さに任せて駆ける少年の後ろから、中年の男の声がした。ラストルと呼ばれた少年は、紺色の髪を揺らし振り返った。


 二人の中年の冒険者が、ラストルを手招きする。この二人は、ラストルが今回の出兵で行軍途中に知り合った冒険者達だ。


 二人共ラストルと同じ位の子供がおり、行軍中、何かとラストルに世話を焼いてくれた。ラストルが笑顔で返事をしようとした瞬間、二人の中年の内の一人が、双頭の大鷲に襲われた。


 中年は絶叫を残し空に消えた。絶句するラストルの目の前で、もう一人の中年に一角獣の雷撃が直撃する。


 黒焦げになった中年は、無言で倒れる。突然の惨劇に言葉を失った少年に、背後から黒の傭兵が襲う。ラストルは振り向きざまに、黒の傭兵に剣を叩き込む。


 肩に致命傷を負った黒の傭兵は、前のめりに倒れる。ラストルの目の前には、更に二体の黒の傭兵が向かって来た。


 ラストルは、亡き兄の形見の剣を構えた。つい先程まで言葉を交わしていた仲間が、一瞬で死体に変わり、それを驚く暇も無い。


 これが戦場か。田舎の村から出てきた少年には、余りにも残酷な世界だった。だが、後には引けなかった。


 冒険者だった兄に憧れ、剣の師である祖父の諌めも聞かず村を飛び出した。夢はいつか、勇者ソレットの仲間になる事だった。


 ラストルは姿勢を低く構え、長槍を繰り出す黒の傭兵に向かって行った。



 日が傾きかけた頃、サラント軍が動き出した。その兵力は三万。今回の各国の出兵で、最大の兵力を有していた。


 魔物達は南と西からの攻撃で、六つの国の軍隊を蹴散らした。魔物達は合流し、北に布陣しているサラント軍に殺到して行く。


「何処の国も頼りない。やはり我が軍しか、奴等には対抗出来ないらしいな」


 サラント軍大将、リメルドは茶色い髭を撫でながら呟く。右手を横に振り、配下に命令を下した。


 サラント軍には、二十人の千騎長がいた。千騎長達は、いずれも一騎当千と言われる猛者揃いで、ある千騎長はレベル三十の冒険者と一騎打ちし、完膚なきまで叩きのめす程の強さだった。


 サラント軍に、矢と雷撃の同時攻撃が行われた。センブルク軍の歩哨はその光景に、また他の軍と同じ悲劇が繰り返されると確信した。


 だが、弓と雷撃は障壁によって阻まれた。サラント軍の魔法使い達は、物理攻撃、魔法攻撃の障壁を二つ張っていた。


 遠距離攻撃を断念し、魔物達は接近戦に待ち込む為に前進する。サラント軍が動いたのは、正にその時だった。


 サラント軍は中央が後退し、両翼を斜めに広げる。魔物達は、後退したサラント軍の中央に誘い込まれた。


「今だ!中央を突出させろ!両翼と同時に攻撃せよ!!」


 リメルド大将の号令が下り、サラント軍は中央、両翼と三方から魔物達に襲いかかった。魔物達は、サラント軍に完全に包囲された。


 千騎長の一人、ロザンが槍を繰り出し、黒の傭兵の喉を貫く。ロザンの側面を一角獣の雷撃が襲い、ロザンは素早く盾で防ぐ。


 雷撃は、ロザンの盾から滑るように空に消えて行く。千騎長達の防具には、予め対魔法の防御呪文がかけられていた。


 ロザンは馬を操り、一角獣に向けて走らせる。一角獣に騎乗する霧の狩人が矢を放つ。ロザンの眉間を正確に狙った矢を、ロザンは首を反らし避ける。


「正確さが災いしたな。急所を狙うと分かっていれば、避けるのは容易いぞ」


 ロザンにとって、それは勝利宣言だった。ロザンは一角獣の首に槍を突き刺し、腰の剣で霧の狩人を切り伏せた。


 千騎長達が次々と魔物達を討ち取って行く。後に続く兵士達も勢いに乗り、包囲された魔物達は急速にその数を減らしていく。


 センブルクの歩哨は、サラント軍有利の戦況に、胸を撫で下ろした。このままサラント軍が勝ってくれる事を、心から祈った。


 サラント軍の北側に布陣していた残りの二カ国も戦場に到着し、勝利は間違い無いと思われた。


 センブルク軍の歩哨は、何かがおかしいと感じた。そう言えば、空を我が物顔で占領してい大鷲が、姿を見せていない。


 奴等は何処に消えたのか?歩哨は空を見上げた。歩哨の顔が、安堵から驚愕に変わっていく。双頭の大鷲の群れが再びその姿を現したからだ。


 大鷲は、ただ現れただけでは無かった。大鷲の足に何かが掴まっている。巨大な手だ。巨大な手は、大鷲の足から手を離した。


 人間と魔物の戦場の真上に、それは落ちて来た。着地した時の轟音は、人間達から戦場への集中力を一瞬奪った。


 土煙の上に、それは姿を見せた。


「······ゴ、ゴーレム?」


 人の形をした巨大な土の塊は、虚ろな両目で人間達を見下ろしていた。

 


 


 

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