じゃけん夜行きましょうね〜
あきた
野営地に戻ってきて、早速行動を開始した。
荷物の中からスコープを取りだす。
銃に付いていたのだが持ち歩く時に少しでも軽くしたかったので外していたのだ。
レールにネジ止めされていたが、幸い外すための工具が有ったので助かった。
近くの目標に高倍率スコープなんて使ってたら撃ち難くてしょうがないと思う。
無かったら
倍率は4倍と8倍があったので今回は4倍を使おうと思う。
そんなに遠くの的狙うわけでもないしな。
レールにスコープを通し、固定する。
ゲームでは一瞬で付けたり外したり出来ていたが、リアルでは結構な手間だ。
大体3分くらい掛かって漸く作業を終えた。
そして狩れそうな獲物を探す。
こっからが本番だ。
「なるべく肉が多く採れるのを狩りたいなぁ
次何時獲物が来るかわからんしな」
辺りをスコープで覗きながら探す。
幸いもここは動物が集まってくる水場なので、直ぐに手頃な獲物を見つけた。
「鹿じゃん、アレでいいかな。うーんでも鹿って可食部少ないんじゃなかったっけ?」
見え辛いが自分から見て右奥の森の中に鹿が見える。
たぶん水を飲みに来たのだろう。
こいつを仕留めて昼ごはんにしてやろう。
今思い出したが俺は腹ペコなんだ、
以前何かの本で読んだことが有るのだが、腹が減った人間は何だって出来るのだそうだ。
生き残るためには仕方がないと脳が理性や倫理観を抑圧し、獰猛になる命令を出すという内容だった。
今の自分はその状態になっているのだと思う。
大体1日ぐらい何も食べないだけでこう感じてしまう自分の心が情けないと思うが、そんなの気にせず本能の赴くまま行ってみようと思う。
「どうせこれは何かの悪い夢だ、そうなんだ。やりたいこと全部やってやる」
距離は大体150くらいだ。
暫くすると茂みに邪魔され見え辛かったシカがこちらに向かって歩き出した。
丁度池と自分がシカの進路上に入っているので目標は静止しているように見える。
これはチャンスだ。
スコープの真ん中に獲物を映す。
「ごめんな」
そう呟くと引き金を引いた。
パァン!
甲高い音が響き、池に集まっていた鳥や狙わなかった小さな動物たちが一斉に逃げ出した。
それに自分も驚いてしまい、獲物がスコープから外れてしまった。
「あっやべ、逃したかな?」
慌てて獲物を探すがどこにも見当たらない。
これはやってしまったかもしれない。
飯にありつけるのはいつになるのかなと考えながら、確認のためさっきまで獲物がいた場所に行ってみると、そこには出来立てほやほやのシカの死体があった。
延髄の部分が抉れており、ピクリともしない。
「初狩猟成功しちゃった.....マジか」
やってみるまで絶対失敗すると思っていたが、いざやってみたら凄く簡単だった。
銃って便利すぎひん?
幾らでも人殺せるじゃんこんなの。
そんな怒りとも驚きとも言えない思考と共に獲物を仕留めたという興奮も湧き上がってきた。
「狩猟楽しすぎだろ、こんなんもう止められませんわ」
ウサギ狩りとかレジャー目的で狩猟が未だに行われている理由がよく分かる。
これは凄く楽しい。
動く生き物を撃つというのは背徳感と共に官能的な快楽を与えてくれる。
ゲームとは全く比べ物にならない快感だ。
「よっしゃ食料げぇっと!食いてぇ〜」
とここである事に気がついた。
どうやってこの獲物を卸すのか、当然だが今まで生きてきた中でシカを仕留めて捌いた経験なぞ無い。
どの部位が食用で、どの部位がそうでないのか全く分からなかった。
「えーっと、確か吊るして血を抜かなきゃいけないんだっけ、そんで皮ひんむいてバラすんだっけか」
取り敢えず水辺の近くまで運びそこで作業する事にした。
足腰が限界なので引きずって運ぶ。
昔動画サイトで見た豚の解体作業を思い出しつつ、作業を始める。
シカの後ろ足を持ってきたロープで縛り、木の枝に引っ掛けて吊るす
首にある頸動脈?をナイフで切り、血を出す。
鹿の頸動脈の場所なんて分からないので適当にざっくり切った。
ぼたぼたと血が地面に流れ出て、地面が赤く染まる。
正直気持ち悪いが、そんなの御構い無しに両足に切れ込みを入れ、皮を剥いでいく。
「むっず、全然剥がれないんだけど」
動画でみた時は上から一気に引っ張って一度に皮をずるんと剥いていたが、そんなのはできなかった。
無理に引っ張ったら皮に切れ目が入ってしまい、丁寧にやらざるを得なかった。
さらにその途中何度もナイフで穴を開けてしまい、もうこの皮は使い物にはならないだろう。素人目に見てもボロボロだ。
「まあ服とかはあるし今必要なのは食料だし失敗も致し方なし、それに皮手に入れても鞣し方分からんし」
そう自分の失敗に言い訳し、作業を進める。
もう前足を剥がし終えて首筋のところまで達した。
ここまで終わらせるのに30分以上かかった。
結構体力を消費する重労働だ。
正午が近いのか太陽が高い位置からじりじりと体を照らしてくる。
上着を脱ぎ、Tシャツ一枚で作業していたが、それでも汗は止まらなかった。
一息つこう、そう思い機能の疲労が残る足を引きずるように歩き、池の水を飲みに行く。
「つかれたンゴ...腹減った」
空腹と疲労はピークに達している。
もうちょっとでも無駄なことは出来ない。
早く飯を食わなくては。
あのシカを解体し終えてから食べようと思ったがもうそれまで持ちそうにない。
なので予定を変更したいと思う。
内臓を掻き出したら食べられそうなところを切り落として手当たり次第に焼いて食べようと思う。
ほんとはもっと文明的なことがしたかったが緊急事態なのだ。
思考が鈍っている頭をフル回転させ対策案をひり出す。
案と呼べるような高尚なものではないが、今の頭ではこれが精一杯だ。
立ち上がり、ふらふらと解体中の肉の元へ向かった。
腹を裂いて内臓を取り出していこうと思う。
股から肋骨のところまで一気に刃を入れる。
するとピンクや真紅の色をした内臓が顔を出す。
「うぇっ...キモ...それにくっさい..」
猛烈な生臭さと糞尿の臭い、それが一気に吹き出してきた。
「病気怖いし内臓は食わないで埋めるか」
寄生虫や細菌が怖いし、そのまま放置していたら感染症の元になるので内臓は埋める事にする。
解体している場所の真下に穴を掘り、そこに埋めた。
なるべく触らない為だ。
「気持ち悪すぎて食欲失せたわ」
あまりの強烈さに吐き気が止まらない。
今すぐ腹に入れても戻しそうだ。
だがそれ以上に体は栄養を欲している。
唾を飲み込むと肉を焼くために火を起こし始めた。
枯葉を集めてそこに火をつける。
よく乾燥していたのですぐに火がついた。
枯れ木などを焼べて火を大きくしていく。
十分に火力が高まったら、打撃武器としてゲームに存在したフライパンを火にかける。
バランスが崩れないように石を置いて三点で支える形にする。
「初めは前足から頂きますか」
解体途中のシカから右前足を切り落とし軽く水洗いしてから、それを細かく切り刻んでフライパンに乗せていく。
忽ち辺りに肉の焼けるいい匂いが漂い始めた。
「腹へった...死ぬ」
もう立ち上がる気力はない、座っているだけで精一杯だ。
まだ少し赤かったがもう頂くことにする。
俺はレアの方が好きなんだ。
「うっま!生き返るー」
何も味付けしていない臭みが強い肉だが、今まで食べてきた肉の中で一番美味い、最高だ
吐き気もいつのまにか治っていた。
ガッツガッツムシャムシャ....
無言で肉を腹に押し込んでいく。
もう片方の前足も切り落として焼く。
止まらん、腹がはち切れそうになっても手が止まらなかった。
あきた