エピローグ 告白
ジャンル:異世界〔恋愛〕に設定していますから、ちゃんと書かないといけませんよね?
あと、この話の次で完結だと思います。
私とリコリス様はオッサン貴族のお屋敷でその日は最上級のもてなしを受けた。
学園での入学式は午前から開始していたので、昼前にはオッサン貴族のお屋敷に世話になり始めたのだが、なかなかどうして………良いお屋敷だった。
私の夢のマイホームの参考になりそうなところが沢山あって眼福だ。
え? その後の展開?
仕方がないので説明しよう。
私とリコリス様は、王国と帝国の両軍に直筆で1日待機する命を記した命令書と状況を知らせる手紙を早馬で送った。
そうしないと、数日後にはこのお世話になっているお屋敷ごと火の海になりかねないからね。
「ご説明いただけますか? リコリス様?」
最低限、必要な事を手続きや連絡を済ませると、私は今日の騒ぎの真犯人を問い詰める事にした。
考えて見れば分かる事だった。
悪巧みをするのが、馬鹿公子ファン君だけでもなく、私だけでもないのだ。
リコリス様が入学式にだけ出たいと言った時点で、何か企みがある事を理解するべきだった。そして、私が失敗をした時の為に、父も皇帝も何も手を打たないはずがないのだ………。
「ア、アルベルト様がいけないのです。学園で他の女性と親しくされようとしたから………」
先ほどの学園の入学式の会場でのリコリス様の姿と違って、急に弱々しくなってしまった。
まあ、これが私と出会った頃のリコリス様だ。
そして、こうもモジモジとされては、私も気付かない訳はない。
敢えて皆に言おう。これはこれで良いものだ!
「分かりました。ですが、私の気持ちを無視した婚約を結ぶのは如何なものでしょうか?」
だが、私が欲しいのは可愛い嫁であって鬼嫁ではない。
ここは立場をハッキリと示す必要がある。
「え、あ、その………申し訳ありません」
私に責められた事で、しゅんと小動物のようになってしまったリコリス様は、そのままの姿なら私の希望するまさしく可愛い嫁そのものだ。
「ですので、私の気持ちを無視した件は、私のお願いを聞いて下さったら許しましょう」
自分でも分かるくらいに少し意地の悪い顔でそう告げる。
少しビクッと怯えているリコリス様の姿は可愛い。………うん。私は間違いなくSのようだ。
か弱い声で「わかりました」と答えるリコリス様を手招きで呼んで、私の膝に座らせる。
普通ならご令嬢に、ましてや皇族の女性にこのような事は普通は出来ない。だが、今は私は両国に認められた婚約者だ! 私を批難できるものは居ない!!
「そうですね~。どんなお願いを聞いて頂きましょうか?」
私は、膝に座ったリコリス様の頭をそっと撫でながら、反応を確かめてみる。
私の言葉にビクッとしたが、頭を撫でられるのは受け入れてくれているようだ。
「そうだ!」
私の言葉にまたビクッと反応する。いつまでもこの感覚を味わっていたいが、焦る必要はない。私の婚約者なのだ。もう私のものだ。誰にも渡すつもりはない。
「確かに婚約は結ぶ事になりましたが、私は政略結婚だからと言っても、婚姻を結ぶ相手とは愛を育みたいと思っています」
今度は出来るだけ優しく頭から髪の先まで撫でるように、話しかける。
その言葉に多少の緊張しながらも、少しそわそわとしているリコリス様を見て、私が『逃亡王子』として攫った頃の様子を思い出していた。
「もし、リコリス様が私の事を愛して下さるのであれば、その愛を言葉にして頂けませんでしょうか?」
この私の言葉にリコリス様はどんな反応を示すだろうか?
私に好意があるのは、この状況であれば気付かない者はいないだろう。
それに私も、あんな大勢の中での婚約発表よりも、本人から愛の言葉を受けたい。これも1つの男のロマンだと思わないかい?
「わ、私は………」
私のお願いを聞いて、少し緊張して身体を強張らせ、俯いていたリコリス様が、俯いたままで言葉を口にし始めた。
「あなた様に助けられたあの日からずっとお慕い申し上げておりました。その後も不安な日々はこうして頭を撫でて頂き、両親にもして貰える事のなかった安心を与えて下さいました」
その言葉を聞いて、私の心にも暖かい思いが伝わってくるのが分かる。
確かに、当時怯えていたリコリス様を慰める方法が分からなかったので、妹にしていたように頭を撫でていた事があった。
当時の私は既に王子を辞めたものとしていたから、気にならなかったが、今考えれば高貴な血筋同士の異性で行なったはマズイ行為だった。
うん。これは責任をとらなくてはいけないな。
「その後、私と無理やり婚姻を結ぼうとしていた方も遠ざけて下さったり、私を皆が認める皇族の一員としてくださった事も感謝の気持ちだけでは足りなくなりました」
当時、成人していなかったリコリス様の後ろ盾になっていた30歳を超えた貴族が娶ろうとしていたんだったな。
まあ、皇帝と一緒に、緊張の高まる国との国境線の最前線送りにしたんだがな。そのロリコンは。
「私はその気持ちを兄に相談いたしましたところ、アルベルト様に無断で婚約出来る立場へとお戻しになりました」
なるほど、皇帝が私を王国へ売り渡した理由はこれか………。
そして、父もその時点で私の婚約者はリコリス様と決めていた訳か。
「その後は折を見て、ご婚約のお話をして頂けるはずでしたが、アルベルト様がこの公国の企みを潰す為と嫁探しに出向かれたと聞かされてしまい、いてもたってもいられなくなってしまいました」
確かに学園の女性たちは可愛い者もいたが、リコリス様より可愛い者はいるだろうか?
私の答えはNOだ。
「それを知った兄が手を回して、公国の貴族にはアルベルト様が動かれるよりも前に圧力をかけて、本日の手はずとなりました………」
最後の方の言葉はだいぶ弱々しくなってしまっていたが、私が聞きたいのはそうじゃない。
「私を愛しているとは言ってくださらないのですか? リコリス様」
我慢が出来なくなりつつある私は、リコリス様の背中から耳元へ向かってそう呟く。
「わ、私は、アルベルト様を愛しています!」
必死に正面を向いて赤くなった顔を隠しながら、そう答えたリコリス様に応えないのは男じゃないよね?
「貴女は私のものだ。攫ったのは私です。他の誰にも渡すつもりはありませんので覚悟して下さいね」
無理やりこちらを振り向かせて、瞳を見つめてそう告げた。
「私もリコリス様を愛しております」
今の自分の気持ちを伝えて………………可愛い嫁を美味しく頂きました。あくまで婚約者として許されている範囲でね!
可愛い嫁を手に入れた事で、残りの事は全て瑣末な問題ではあるが、今の私には、心の余裕があるので結末を語ろう。
リコリス様が語ったように、既に公国内には私とリコリス様が滞在する屋敷を用意したオッサン貴族のように圧力を受けていた者たちがクーデターを起こした。
城に足止めされていた馬鹿公子ファン君の父親である大公は、城に乗り込んだオッサン貴族の手によってあっさりと拘束された。
本当に国が滅ぶ瞬間など一瞬だったのだ。
そう、私とリコリス様が甘い時間を過ごしている時にティーグラッセ公国は滅んだのである。
「うむ。よくぞ『嫁探しのついでに国ごと持ち帰った』。アルベルトよ」
父のこのブラックジョークが好きなところは何とかならないものか………。
「リコリス様もお久しぶりでございます」
「国王陛下。この度は我が帝国よりの要請をお聞き頂きありがとうございました」
「これからは義娘になるのだ。堅苦しい挨拶は必要ない」
「はい。ではお義父様。私の事もリコリスと呼び捨て下さい」
「うむ。アルベルト頼む。義娘リコリスよ」
なんだ。この茶番は………。
元々王国と帝国間で密約が成立してた為、ティーグラッセ公国の事後処理は外交官たち文官が引き継いだ。
私とリコリス様は特にする事がなかったので、ラテスウィート王国へと報告を兼ねて帰国したという訳だ。
「アルベルトよ。皇帝陛下より書状が届いておる。後ほど部屋へ届ける」
「かしこまりました。陛下」
「うむ。それと婚約発表とビターオレ公爵就任の式典は来月の予定となっておる。皇帝陛下への返事と共に招待状を用意せよ」
………………今まで同盟国であった隣国が滅んだというのに、そんなに式典を早く行なう余裕があるのだろうか?
「詳しくは皇帝陛下の手紙を読めば、おそらく分かるはずじゃ」
この食えない狸親父め………。人の表情を読んでそう説明した父に心の中で悪態を付く。
今回の国が滅んだ一件の黒幕の1人は間違いなく父だ。そんな父は私よりもずっと腹黒い事が分かるようになったので余計腹立たしい。
「かしこまりました。陛下。式典の支度を含めて早急に対応いたします」
これ以上、ここにいてもからかわれるだけなのが分かったので、早々に退席して、自身の執務室で皇帝からの手紙に目を通す。
『無事に妹を貰ってくれて助かる。これでおまえは俺の義弟になるわけだ。ハッハッハ! おっと、手紙は破るなよ? 本題はここからだ』
これだけでも既に破り捨てたい気持ちで一杯だ。父も皇帝も私で遊んでやがる。また逃亡するぞ?
『リコリスが嫁ぐ支度金として、ティーグラッセ公国の帝国へ分配される領土を送る。これで次代の心配もなくなったろ?』
まったく、皇帝はしっかりと皇帝様をやっているようだ。
『追伸:逃亡するには帝国を通る必要があるから、無駄な事を考えるなよ? おまえにもう逃げ場はない』
こんな可愛い嫁も手に入って、未来の心配もなくなったんだ。いまさら逃げないさ。
「アルベルト様。兄はなんと手紙を?」
私が手紙を読んでる時に表情が変化していたせいだろうか………。心配そうにリコリス様が声を掛けてきた。
「リコリス様が我が王国へ嫁ぐ支度金として、元ティーグラッセ公国の領土の全てがラテスウィート王国の領土となりました」
「まあ、兄もよほどアルベルト様の事が気に入っておられるのですね」
私も皇帝は嫌いじゃない。いまさら義兄弟になっても、気にならないほどに近しく思っている。
「でも宜しいのですか? 帝国の貴族達との亀裂が生まれませんか?」
「はい。大丈夫です。この方面へ兵を割く必要がなくなった分、他の侵略しようとしている国に兵を向けられるようになりますから」
なるほど。奪い取る土地は他にあるという訳か。
今回は実際に戦争にならずに国を滅ぼした訳だから、帝国貴族達も権利を主張しづらいしな。
「そうなってくると、元ティーグラッセ公国の大公を含めた主要な者たちの処分は我が国で決めなくてはいかなくなりますね」
「はい。それは被害を受けたラテスウィート王国の権利だと考えております」
うん。政務モードのリコリス様よりもあの時のリコリス様の方が好みだ。
ん? 『馬鹿王子』こと元公子ファン君へのざまぁ?
そんな事より嫁のことが優先だ。
「話は変わりますが、私達の婚約式典にドレスなどは間に合いそうですか?」
「え、………はい。兄より婚約式典用のドレスが送られております」
この程度の攻めではまだ足りないか。
「では………」
執務用の椅子から立ち上がり、近くの長椅子に腰をかけていたリコリス様の隣に座って肩を抱き寄せる。
顔を赤らめるリコリス様には、これだけで十分ではあるが、大事な話もしなくてはいけない。
「私達の結婚式はいつに致しましょうか?」
「え………あ………はい………」
「婚約式は国によって決められてしまったので、結婚式はわたしたち2人で話し合って決めたいのです」
出来るだけ耳元で囁くように相談する。
私の可愛いリコリス様はこっちの方が似合っている。
私はその反応を楽しみながら、婚約式から結婚式までの話し合いを一晩中かけて行なった………………。その夜は季節はずれのとてもあつい夜となってしまった。
-後書き-
ユーザー名がカタカナの名前の方が感想を書いて頂くと、
このように物語に登場することがあるかもしれません。
著者としては名前を考える行為が苦手で、かなり適当なので、
被害者になってくれる方がいらっしゃいましたら、物凄く助かります。