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魔の宴  作者: Gno00
Black March

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32/39

「沈黙」するという事

 黒髪の男を中心に、白い外套の者達は火を振り撒いた。先程まで緑だった地面が一瞬で赤に染まっていく。

 カルバネラは姿勢を低くし、構えを取る。魔女もまた、黒い箒に腰掛けたまま魔法の準備をしていた。


 カルバネラ達を焼き尽くさんと、楔へ向かう火は不自然な軌道を描き、上へ上へと放り出されていく。

 それはまるで、軌道を逸らされているかのようだった。


「何だ? …何が起こっている?」


 黒髪の男は困惑するも、要因までは探ろうとしないようで、続けて火属性の魔法を放った。

 カルバネラは構えつつ、目線を魔女に向けた。


「魔女殿、準備はよろしいか」

「はい。カルバネラさんもお気をつけて」


 会話が終わると共に、魔女とカルバネラはそれぞれ別方向に飛び出していく。

 白い外套の集団から見て、右側に魔女が、左側にカルバネラが移動した。


「それで包囲網のつもり?」


 怪訝そうな表情と共に、黒髪の男はその手から火の魔法を放っていく。その直後、彼の部下の約半数ずつが、魔女とカルバネラの迎撃に向かった。

 ありとあらゆる形状をした炎が飛んでくるも、魔女は軽やかな箒捌きで躱していき、カルバネラもまた、その巨体からは想像し得ない軌道を描いて火の魔法の範囲外に飛び込む。

 3次元的な身のこなしで火の弾幕を(くぐ)り抜ける1人と1体を見て、白い外套の男が驚く。


「は、速い……!」


 ある程度火の弾幕を凌いだところで、魔女とカルバネラはそれぞれ白い外套の集団に接近を仕掛けた。

 距離を詰めながらも火の弾幕を躱していき、やがてそれぞれが自身の射程範囲に人間たちを捉えた。


 カルバネラの方向からは計8つの手からなる拳打の嵐が、魔女の方向からは氷の礫が飛び、挟み込む形で白い外套の者たちを襲った。

 しかし、カルバネラ達の位置取りから察したのか、白い外套の者たちは突然姿を消す。

 攻撃を止め、カルバネラは忙しなく目線を動かす。そして、白い外套の者たちが上空に居るのを探り当てた。


(火の使い手だからのう、グッシュデムと似た芸当が使えて当然か)


 間髪入れずにカルバネラは魔女の前に出て手をかざす。次の瞬間、火の魔法が彼らへと降り注いだ。

 微妙に当たらない位置の火は正確な軌道を描いているが、彼らへ当たるものだけが避けるように軌道を逸らした。

 それに疑問を抱いたらしく、首を傾げる黒髪の男の姿をカルバネラは捉える。


「魔法の類かな?確かに軌道が逸れるのを見たよ」


 カルバネラに答えるつもりは無い。彼らが黙したまま様子を見ていると、白い外套の者たちは、構えだけをとって空中で静止する。


「どうした?さっさと来い」

「いやぁ、こう二度も逸らされたら、三度目もあるんじゃないかってねぇ。警戒してるのさ」

「ほう?ならば、こちらから動けばいいのじゃな?」


 そう言いつつ、カルバネラは自分の体1つ分、横に動いてみせた。魔女は額から汗を流しつつそれを見守る。

 カルバネラの行動を隙と見たか、白い外套の者たちは一斉に彼へと攻撃を仕掛けた。


 しかし、それこそが罠であったと直ちに思い知る事になる。


「な、何だ!?」


 炎は望んだものとは程遠い、まるで何かに阻まれているかのような軌道を描き始める。


「ぐわあぁっ!」


 白い外套の者たちの中から上がった悲鳴に視線が集まる。すると、球形を描く炎に襲われる者がそこに居た。

 予め掛けていた結界型の防御魔法により難をしのぐも、出力を高めすぎたせいか、外套が複数箇所、焼き焦げている。


「怪物、何をした!」

「動いただけで何もしとらんじゃろうが。ただ、ちと楔のせいか、()()()()()()()があるようじゃのう」

「ぐっ、おのれ!」


 だが、攻撃を仕掛けようにも迂闊に手が出せないらしい。敵に向かわせる筈の攻撃で自爆しては本末転倒だからだ。

 白い外套の者たちが判断に悩む矢先、木漏れ日を一瞬反射する何かが彼らの元へ迫った。


 そして、規模の小さな爆発が連鎖的に起こる。直撃を受け、3人程白い外套の者たちが撃ち落とされた。


「新手か!?」

「さて、どうする人間ども」


 白い外套の者たちの多くが歯ぎしりするも、黒髪の男の拍手がすぐに遮った。


「落ち着きなよぉ。僕らにはこれがあるじゃないか」

「…! カルバネラさん、避けて!」

「ぬぅ…!」


 ()()()()()()()()から、巨大な火球が飛んできた。

 カルバネラは不意を突かれたが、魔女の警告のおかげで辛うじて回避することが出来た。


「そこかっ!」


 カルバネラは浮遊する拳を火球の飛んできた位置に飛ばすも、空を切るだけだった。

 だが、彼は見逃さなかった。自身の魔力で生み出した球体越しに見える赤い装甲を。


 飛ばした手を更に奥へ向かわせ、叩きつけるように斜め下へと振るう。すると、鉄板のような堅い物体にその手が当たるのを感じ取った。


「感知できても見えてるなんて、嫌になるねぇ…!」

「やはりそうか。でなければ儂に魔法をぶつけるなど出来ぬものな」


 カルバネラは感知しているものが大気中に漂う魔素の異変だと推測を立てる。

 何も異常が無い場所は自由に魔素が動いているが、今のこの状況では不自然に魔素が跳ね返ったり、魔素の流れを隔てる壁のような箇所が存在している。それを異常と認識し、先程の装甲の持ち主は避けているのだろう。


 飛ばした手を戻し、赤い装甲の持ち主の様子見をする。

 空を漂う球体が時折赤い装甲を見せるが、段々と遠ざかっていくのが分かった。


「あれは、機甲兵ですか…!」

「知っておるのか、魔女殿」

「はい、噂程度ですが。魔石を動力にした、王国の無人兵器です」


 彼が目撃した赤い装甲の形状から察するに、それは赤い人型の兵器である。

「沈黙」が姿を見破っている辺り、普段隠れて見えないのは魔力を使っているからなのだろう。


(なるほどのう…毎日のように魔界に採掘に来ておったのはこの為か)


 魔石というものは地上でも採掘出来るが、やはりと言うべきか魔界産の方がはるかに質が良い。

 恐らく機甲兵の動力もまた、魔界産の魔石なのだろうと、カルバネラは予想した。


「これは、計画的に楔を砕かなくてはならんの」


 魔石でも、時に純魔石の8割程の出力を発揮出来る事もある。常にその出力を維持出来るなら赤い機甲兵は厄介な存在と言うべきだ。

 カルバネラは背中の6つの腕を格納すると、楔へと駆け出し、楔の表面を巧みな足捌きで登り始めた。


「怪物の癖に楔に触るなんてねぇ!」


 無礼者、と言わんばかりの語気で黒髪の男は赤い機甲兵を操る。楔ごとカルバネラに当てるつもりで複数の火球を射出する。

 それを迎え撃つべく、楔の頂上付近にまで登ったカルバネラは六本足で一斉に楔を蹴り、赤い機甲兵の居るであろう方向へ自身を飛ばす。

 飛んできた火球を展開した「沈黙」の魔法で逸らしつつ、カルバネラは目に見えない機甲兵を殴ろうとした。


「自分から突っ込んでくるなんてね、だけど、甘いよぉ!」


 カルバネラの拳が届くより先に、上からの重圧に襲われる。

 見えない以上、回避が間に合うはずもなく、彼は胸の装甲で受けつつ、撃ち落とされた。


 地面に叩きつけられてしまったが、カルバネラは少し装甲がへこんだ程度ですぐに起き上がろうとする。

 元より防御力に自信のあるカルバネラは、不意打ちを食らう事など想定の内だった。その攻撃が魔法でさえ無ければ。


(魔力を込めた殴打か…ちと効いたのう)


 戦闘は続行可能、機動力に問題も無いのを確認すると、カルバネラは視線をある一方に向ける。

 敵の懐である以上、考えを探られるリスクもあったが、今やっておくべき事であった。それは、視線の先に居る者たちへの指示である。


『こっちに来るな、予定通り援護に務めろ』。彼の視線にはそう言った意味が込められていた。


 メルズは今すぐにでも駆けつけたい気分だろう。だが、今カルバネラの側に来れば、集中砲火を食らう恐れがある。

 不用意に出てきてしまった事でダークエルフの者たちの位置が割られ、全滅しては元も子もない。


 正しく指示を受け取ったと信じ、カルバネラは視線を上に移す。すると、白い外套の者たちが真下へ向けて構えていた。

 恐らく、機甲兵も同じ事をしているのだろう。そして、その狙いはカルバネラや魔女ではない。


「楔さえ制圧できればそれで良いしねぇ。焼き払ってしまおうか」

「まずいな、手数が足りん…」


 カルバネラが考えを巡らせるよりも早く、集団は大量の炎を撃ち出した。

 一つでも地面に落ちればたちまち燃え広がるだろう。カルバネラは「沈黙」の球体を操作しその真っ直ぐな軌道上に割り込ませる。

 その援護とばかりに、彼の背後より球体に干渉しない軌道で氷の礫が飛んできた。


 だが、カルバネラの言葉通り、手数が足りていなかった。氷が命中した炎や、球体を割り込ませた炎は消す事に成功したが、迎撃が間に合っていない炎も幾つかある。

 急いで球体を動かそうとすると、炎に向けて飛んでいく物体を確認する。それは丁度炎の位置に到達する軌道で進んでおり――



 ――見覚えのある爆発と共に、炎が消し飛んだ。最初の爆発を合図とばかりに次々と炎が消し飛んでいく。


 その直後、遠方の草陰より何かが飛び出してくる。それは素早い足捌きで、カルバネラの元へと近づいた。


「メルズ殿!? お前さん何故出てきた!?」

「姿を現さねばこいつらを倒せないと判じたからだ。それに、部下を危険な目には合わせられないからな。私一人だけだ」


 見ると確かに、姿を現したダークエルフはメルズ一人だけだった。

 部下には引き続き援護をするよう命じているのだろう。メルズに続いて出てくる気配が無い。

 悩むカルバネラを見てか、彼女は安心させるように微笑んだ。


「案ずるな、カルバネラ殿。自分の身は自分で守れる」

「そうではない。この場にダークエルフがいるという事実を周知させるのはまずいのではないか?」

「それも問題ない。既に手は打ってある」


『ぐあぁ!?』


 メルズの言葉と共に、白い外套の者たちから悲鳴があがる。黒焦げになった白い外套の者たちが次々と落下していく。

 白い光を放つ、細長い肉体の胴長の竜らしき存在が出現し、空中の敵へ襲いかかっていた。


「あれは少々特殊な魔法で、魔法を行使出来る者が連携を取らねば成立しない魔法だ」

「お前さんだけ来たのはこのためでもあるのか」


 メルズは首肯する。胴長の竜を操っているのは、姿を隠しているダークエルフたちのようだ。

 カルバネラは構える。時を同じくして、メルズもナイフを2つ抜き取り、振りやすいように握る。


「あの男はお前さんに任せよう。儂らはあの赤いのを獲る」

「承知した」


 構えを維持しながら視点を上へ向けると、胴長の竜に撃ち落とされたからか、11人は居た人間たちは6人に減らされていた。

 更に胴長の竜が迎撃をものともせず突進を仕掛けるのもあり、また2人落ちていった。


「おのれ人外どもォ!」


 形勢がカルバネラ達に傾いたからか、黒髪の男が叫ぶ。彼は姿を現した赤い人型を制御し、巨大な炎を胴長の竜目掛けて飛ばす。

 巨大なもの同士が正面衝突を起こしたからか、空中で大爆発が巻き起こる。炎も胴長の竜も跡形もなく消え去っていた。


「神聖なる楔を汚し!更には僕らの邪魔をする!もう許せない!この森ごと燃やし尽くしてくれる!」


 赤い人型の装甲、その隙間より炎のような光が灯り始める。初見であれど、それが危険の兆候だと言うのはカルバネラ達でも予想出来た。


「お止めください!それでは機甲兵が…」

「――うるさい!黙って僕を手伝え!」


 慌てふためく様子で白い外套の者たちは黒髪の男の援護を始める。

 メルズは彼らが放つ炎が「沈黙」の球体で逸らされ、または無力化されるのを確認し、黒髪の男を見据える。


「何をしてこようとも、それが始まる前に術者を潰せば良い。魔法への対策、その基本だ」




 手に持つ2つのナイフを投擲し、続けざまに入れ物から次のナイフを引き抜き、跳躍する。

『魔喰いの火』の影響を受けない、爆発するナイフを見てか、飛んでくるナイフに対し白い外套の者たちは魔法を行使する。

 彼らの思惑通り、彼らに近づくより前にナイフは爆発を起こした。だが、怯んだからか少し判断が遅かった。故に、爆発に飛び込んで迫る私の姿に気づけなかったようだ。


 私はナイフを慣れた手付きで振るい、すれ違いざまに白い外套の者に斬撃を見舞う。急所を斬られたからか、また2人、崩れ落ちていった。

 そのままの勢いで赤い人型の装甲に乗る。そして、赤い装甲の背後に居た黒髪の男を捉え、ナイフを投げようとする。だが、突如として飛び出してきた物影に阻まれた。


 最後に残った白い外套の者たちだ。彼らは私へと突進を仕掛け、両腕を絡め取る。

 遠ざけようとする彼らを振りほどくべく、私は魔力の一部を解き放つ。


 それは風の刃となり、周囲に居た人間たちを切り刻んで吹き飛ばした。残る敵戦力は赤い人型とそれを操る黒髪の男のみになったが、既に遅かった。

 黒髪の男が自ら魔力を行使し、炎の弾丸として飛ばしていたのだ。


 私よりも速く飛ぶ弾丸を躱しきれないと確信しつつも、私は身を捻る。直撃は避けられたが、それでも肩を高熱が掠めた。

 弾丸は1つだけではない。続けざまに2発目、3発目が飛んでくる。回避は不可能と判断し、私は弾丸が迫る中ナイフを投げた。


 飛んでいくナイフが私の予想通りに弾丸に命中し、爆発が発生する。球状に広がるそれは弾丸をかき消したが、同時に私を赤い人型から強く遠ざけた。

 姿勢を立て直し、私は土を抉りつつ着地する。すぐ近くに、見慣れた装甲の足が見えた。


「すまない、カルバネラ殿。阻止に失敗した」


 非難をされても仕方が無い、と思いつつ私は落胆する。しかし、次の彼の言葉は私の予想を外れた。


「いや、よくやってくれたメルズ殿。おかげで、十分時間は稼げた」


 何の事だろう、と思っていると何かが砕ける音が聞こえてくる。音の正体を探ると、私はその光景に驚いた。

 巨大な楔に亀裂が走っている。外側から内側へと抉っていくそれらがある程度広がると、楔は砕け散った。


 残骸が舞う砂埃の中へ消えていくのを目撃しても、私にはその光景が信じられなかった。


「儂は、楔を初めて見た時思ったんじゃ。楔は魔素を取り込み機能を維持していく。で、あるならば。取り込む魔素が無くなったのなら、どうなるのか、と」


 それを聞いて、私はカルバネラ殿が行使する魔法の性質を思い出した。恐らくは人為的にその環境を作り出したのだろう。


「楔に取って魔素を取り込むのは呼吸のようなもの。つまり、楔は活動を維持出来ずに瓦解する…?」

「こうなったのだからそうなのじゃろう。本来なら、()()()()()()()()()()()()にこうなっていたか」


 楔が崩れていく様を見終えた後、はっ、と私は赤い人型の方へ向き直る。

 赤い人型から灯る炎がより強くなっている。攻撃に移るのは時間の問題だった。


「メルズ殿、儂の後ろに下がっておれ。後は儂らでどうにかする」


 私はその言葉を信じ、カルバネラ殿に任せることにした。




 カルバネラの指示に従い、メルズが下がったのを確認した後、彼は首を動かし魔女の方へ向いた。


「魔女殿、儂に考えがある。儂の前に来てくれんか」

「分かりました。こうですか?」


 箒に乗ったままの体を巧みに動かし、魔女の背中がカルバネラの前に出る。

 そして、魔女の位置を少し調節させると、彼は両肩の宝石を一層輝かせた。


 カルバネラは魔女の背中に浮遊する手を当てる。手の感触に気づいたからか、驚いた様子で魔女が振り向く。


「良いか、魔女殿。これは即席の魔力増幅装置と思うてくれ。今からお前さんの体に儂の魔力を流し込む。お前さんが魔力を使うことで、お前さんの意のままに飛ぶ筈じゃ。後は出力で打ち勝て」

「しかし、それではカルバネラさんが――」

「――良いんじゃ、伊達に長生きしておらん。儂の事など気にせず全力をぶつけてやれ」

「…分かりました」


 最初は乗り気では無かったものの、意を決し、魔女は正面に向き直る。

 そして、赤い人型は赤熱する太い光線を撃ち出した。それに対抗すべく、魔女もまた氷の魔法を行使する。


 その途端、カルバネラは力が吸われていく感覚を抱いたが、踏ん張りを掛けてそれに対抗する。

 カルバネラの魔力で増幅した氷の魔法は、光線に負けない威力へと強化され、放たれた。


 あまりの威力の強さに驚いたか、魔女が少し姿勢を崩したが、すぐに元の姿勢へと立て直す。

 氷の魔法と光線は正面から衝突し、先端より相殺を始める。しかし、徐々に押され始めていく。


(出力が足らんか…それならば!)


 カルバネラは空いていたもう片方の手も魔女の背中へと近づけ、送る魔力を更に増やしていく。

 結果的にそれは氷の魔法の威力を、光線を圧倒する程に強化し、光線を押しのけた氷の魔法が赤い人型へと直撃した。


 白い粉状の物体が赤い人型を中心に舞い、生まれた霧の中へ巨躯を隠していく。やがて、霧は薄まり、赤い人型がどうなったか明らかになった。

 装甲の表面に霜が貼り付き、赤い人型の動きが著しくぎこちなくなっている。機能を停止したのか、赤い人型は無造作に落下していった。


「くそっ、おのれ!」


 黒髪の男は悔しさを露わにしつつ、光る物体を下へ投げると、その物体から放たれた強い光に包まれる。

 たった一瞬にして、黒髪の男は姿を消した。


「取り逃したか…判断の早い男だ」


 カルバネラが魔女から手を離すと共に、メルズが前に出て辺りを見渡す。

 彼女の様子からして、遠くに逃げられたことは明らかだった。


 一先ず、脅威が去ったところでメルズが口を開く。


「しかし、楔を自然消滅させて良かったのだろうか。ああなった以上、失った魔素は戻らないはず…」

「ああ、その点に関しては問題ないぞ。楔さえ無ければ、魔素は幾らでも増やせるからの」


 カルバネラは浮遊する手で自らの肩を押さえると、そこにある宝石を軽くなでた。


「儂らのように魔素を糧にしているもの達は、謂わば高純度の魔素の塊じゃからの」

「…そうか」


 会話を終えると共に、カルバネラが崩れ落ちる。両肩の宝石もまた、輝きが鈍っていた。


「カルバネラ殿!」

「心配するな、少し休めば良くなる。…それより、まだ敵が居ないか確認を」

「……承知した」


 メルズは踵を返すと、仲間たちの元へ駆けていく。薄れゆく意識の中、カルバネラはもう一方で交戦しているであろうグッシュデムのことを案じていた。

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