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魔の宴  作者: Gno00
Black March

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31/39

炎の戦い

 白銀の鎧に身を包んだ男、ネレイオは段々と近づいてくる気配に身構えていた。

 強大な魔力。何処か強引に抑えつけられているとも感じ取れるそれは、警戒するのに十分な代物だった。


 無造作に伸びた黒髪の男、ボルクスもまた気がついたらしく、魔法の行使が出来るよう準備を整えていた。彼の右腕より赤い魔石をはめ込んだ金色の腕輪が顔を覗かせる。


 始めは微かな声だった。だが、その声は次第に大きくなっていく。それは人間の悲鳴のようだった。

 何かが風を切るような音も聞こえてくる。悲鳴が起きるのは、決まってその風切り音の直後だった。


 草を踏む音が徐々に大きくなるに連れ、強大な魔力もゆっくりと迫ってくる。

 接敵は既に時間の問題だった。そして、長く伸びた草をかき分けて人影が姿を現す。ネレイオはそれに目を見開いた。

 目の前に居たのは報告に上がっていない異種族だった。


(オーガ…!?しかも少年、だと…!?)


 額から生えている、先の赤熱した2つの角がよく目立つ少年は、装甲のような漆黒の両足の動きを止める。

 彼が止まると同時に、強大な魔力の接近も止まる。魔力の正体は間違いなく彼だ。


(見覚えの無い服装…あれは異国のものか?それにあの四肢は何だ?)


 紫黒の衣服はネレイオの出身である王国はおろか、森の近隣でも見かけなかった代物だった。

 装甲のように変質しているのは両足だけではない。両腕も同じで、赤褐色の肌を侵食している。


 右側の方が太く長い角も含めて、彼の異質さを感じ取れた。


「おのれ、オーガのガキがぁ!」


 木陰より白い外套の男が1人飛び出し、少年の頭上より火の魔法攻撃を仕掛けるも、少年はそれが見えていたようで、手に持つ長い棍棒で迎え撃とうとしていた。

 軽やかな動きで棍棒を振るうと、上段に構え、男を叩き落とした。男は地面に叩きつけられるも、自身に掛けた火属性の防御魔法で衝撃を和らげた。

 しかし、無傷ではない辺り、棍棒の威力が伺える。ネレイオは額から汗が流れ落ちるのを感じ取った。


『マスター、分かりますか』

「ああ、あの棍棒も異質だ」


 六角状で且つ無数の丸みを持つそれは、表面に深い亀裂が走っている。そしてその亀裂より黄色い光が熱を帯びて点滅している。

 点滅の規則性は、まるで棍棒自体が脈動しているかのようだった。


「なるほどな。ネレイオが言ってた協力者ってのはこいつか」

「ああ。だが、この少年だけとは限らない。油断するな」


 ボルクスは合図を送ると、白い外套の者達が並び出る。彼らは各々が得意とする火属性の魔法を放った。

 巨大な火球に、口からの火炎放射。刃状にした炎を振り下ろす技や地を走る火炎などが一斉に少年へと迫っていく。


 少年は避ける気配すら見せず、その技の全てを一身に受ける。何か対処法があるのか、と踏んだボルクスとネレイオの表情は堅い。


「…!避けろ、てめぇら!」


 ボルクスが指示を送るが少し遅かった。地面より噴き出した熱の放射が白い外套の者達に襲いかかる。

 見ると、地面に亀裂のような線が無数に走っていた。その線をたどると、少年の足元、振り下ろされた棍棒の先にたどり着く。


「火属性吸収か…ボルクス、気をつけろ!彼もまた火属性の使い手だ」

「分かってらァ!てめぇら、『魔喰いの火』を応用しろ!」

「ボルクスさん、それなんだが、魔力の消費が激しくて長く持たねえぞ…!」

「うるせぇ!だったら手早く仕留めろってんだ!火だ、火を放て!」


「そうはさせませんよ」


 少年はその棍棒の先で数度地面を軽く叩く。すると、何処からともなく火が燃え上がり、円を描くように一同を取り囲む。

 その炎は完全に少年と王国の兵士達を森から孤立させた。


「もうこれ以上森を燃やさせはしない」

「何言ってんだ、このガキ。自分から火を付けてる癖に…」

「馬鹿がァ!火をよく見ろ!」


 見ると円を描く火は、巻き込んでいる筈の草を燃やしていない。まるで幻であるかのように他のものには燃え移らなかった。

 試しに白い外套の者が1人、火の魔法を放つと、その火は円を描く火に取り込まれて同化した。


「聞いたことがある…より高度な火の魔法は燃やす対象を選べるってな…それでいて『魔喰いの火』と同じ性質を持っている…このガキが俺以上の火の使い手だと…!?ふざけやがって!」


 ボルクスは怒りを露わにしながら、金の腕輪を露出させるように右腕を振るう。すると、赤い宝石が一瞬光り、彼の元に揺らめく火の生命体が姿を現した。

 その火は鳥の姿をしていた。鳥型の火は翼をはためかせると、少年へと迫った。


 最初から生き物だったかのように、滑らかに動くその鳥達に少年はその棍棒を振るって対応する。

 少年が鳥の対処をしている間に、ボルクスは次の魔法の行使を始める。それを見てボルクスの部下である白い外套の者達は援護するべく両手を構えた。


 先程と同様に様々な火の魔法が少年に迫る。その全てが『魔喰いの火』だった。

 会話から察したのか、少年は鳥を弾き飛ばすと、火の魔法をなるべく(かわ)すべく動き回り、回避が困難なものだけ棍棒で防いだ。


「ちょこまかと、逃げやがって!」


 繰り出す攻撃の(ことごと)くを防いだり、背後の火に取り込ませたりなどして無力化する少年の姿に苛立つ一人の男が手に多大な魔力を充填させ、魔法を発動させる。

 出現したのは、地を走る巨大な火。それは段々と広がっていき、少年の逃げ道を狭めていく。


 回避は不可能だと判断したのか、少年は動きを止める。少年を火が呑み込んだのを見て、男は不敵に笑う。

 だが、数秒と経たずに火は小さくなり、勢いが弱まっていった。見ると、少年の胸の真ん中辺りが赤熱しており、その箇所に火が取り込まれている。


(またしても火を吸収した…ボルクスが言うように練度の高い魔法使いのようだ……)


 数が多かろうと、範囲がどれだけ広かろうと、火属性の魔力を取り込む事に成功している。

 この場に居る多くの人間にとって、相性の悪い相手だとネレイオは確信した。

 勝算の()(いだ)せない状況下に置かれ、ネレイオはボルクスの様子を伺う。

 すると、諦めていないボルクスの姿がそこにあった。先程広範囲の火を放った男に声を掛ける。


「おい、さっき吸わせた火は『魔喰いの火』か?」

「えっ?…ああ。念の為にと――」

「――上出来だ」


 ボルクスは次に少年の方を見る。ネレイオもそれに続くと、ある変化に気がついた。

 火を吸収してから、少年があまり動いていない。それどころか、動きが少し鈍っているように見えた。


「どうやら、『魔喰いの火』の性質までは消せないらしいな」


 ボルクスの両隣に炎の獅子が2頭出現する。その肉体の表面は揺らいでおり、その中でも(たてがみ)が激しく揺らいでいた。


「ご丁寧に自分の逃げ道を塞いでいるからな。奴を追い詰めろ」


 獅子や部下に指示を送り、各々が目の前の少年を倒すべく動き出す。

 その大きな体躯を駆り、獅子はそれぞれ異なる方向から少年に迫ったが、後数歩の所で飛び退く。

 すると、先程までの獅子の位置に氷の礫が飛んできた。更に飛んでくる礫は獅子の動きを追い、少年から遠ざけていく。


 取り囲む火より高い位置からの攻撃。火の外からの援護だというのは明らかだった。


「仲間が居たか…火で囲んだのはこれを悟らせない為かァ?」

「……」


 ボルクスの問いかけに少年は黙して答えない。面白くないと見たか、ふん、とボルクスは奥の木に目を向けた。

 その太い枝の上に無数の人影があった。それぞれが得物を構えている。


「『炎獣』ども、火の外の奴らを狩ってこい。てめぇらは俺を援護しろ」


 指示を変更し、『炎獣』と呼ばれた獅子や鳥達は一斉に火の外へと飛び出そうとする。

 だが、それが想定済みだったのか、氷の弾幕が展開される。鳥たちは撃ち落とされ、獅子も少なからず損傷を受けた。


「そういや居たなァ。氷の魔法を得意とする耳長共が。だが、それがどうしたよ?」


 ボルクスは両腕を広げて構える。その動作から何かを察したらしく、先程まで『炎獣』相手に繰り出していた氷の弾幕がボルクスに向けて撃ち出される。

 それに続き、少年も鈍ってはいるがあまり衰えていない動きでボルクスに迫る。だが、それらを許す王国の兵士ではない。


 少年を白い外套の者達が炎の弾幕を展開して阻んでいる間に、ネレイオはボルクスの援護に向かった。


「忙しくなる、いけるか?」

『お任せ下さい、マスター』


 その手にある剣が一瞬白く光ったのを確認し、ネレイオはボルクスの前に立つ。

 そして、素早い剣捌きでボルクスに当たる筈であろう氷弾のみを弾き飛ばす。また弾き飛ばした氷弾を別の氷弾にぶつけ、弾幕の軌道を反らしていった。


 ネレイオ自身が肉体に付与した風属性の特性である身体強化と、更に剣――正確には剣に宿る精霊――が持ち、剣身に付与された光属性の反射の魔法。その2つが備わる事ではじめて成せる技だった。


「はん、やるじゃねぇか」


 軌道を反らす事は、ボルクスの視界を確保する事に繋がる。ネレイオは氷弾を捌きながら、ボルクスの発言から十分な時間を稼いだと確信した。

 周囲が赤い光に包まれる。氷の弾幕が中断されたのを確認してから、ネレイオは剣を下ろして見上げる。


 そこには、巨大な怪鳥が翼を広げていた。揺らぐ火で構成されたその姿は、伝説の不死鳥のよう。


「舞え、そして燃やし尽くせ」


 ボルクスの言葉と共に、大怪鳥はその大きな翼で羽ばたき、縦横無尽に飛び回ろうとする。

 最早、周囲を取り囲む火の高さなど関係ない。怪鳥へ向けて放たれた氷の弾幕も全く意味を成さない。それどころか、肉体の炎が糧にすらしている。

 暴れだすのは時間の問題だった。止められる者は術者であるボルクス以外にもういないと思った矢先、動き出すものが一人、居た。


 角の少年である。彼は白い外套の者達が繰り出す火の弾幕を掻い潜り、怪鳥の元へ近づいていた。

 少年の意図に気づいたのか、複数人のボルクスの部下が少年の行く手に立ち塞がるも、彼らが繰り出す魔法より早く、少年はその赤熱する棍棒を振るった。


 まるで花のような火炎を散らしながら、白い外套の者達を弾き飛ばしていく。そこから間髪入れずに魔法の発動準備を整えた他の者達が飛び込むも、彼はそれを見越したように、強く足を踏み込んだ。

 すると、少年を中心に爆発が巻き起こり、飛び込んだ者達も吹き飛ばされる。何が起きたのか考える間もなく、少年は爆煙の中から飛び出していく。


 彼ならやりかねない、と判じたネレイオも彼を迎え撃つべく、自身の魔力を行使して緑色に光る影のような分身を作り上げる。

 そして、分身を空中の少年へと飛ばし、少年を阻もうとした。しかし、分身が振るった剣は容易く棍棒で防がれた。

 そこから分身が押され始める。棍棒にかけられているであろう力で分身の位置が少年より下になると、その足で分身を踏みつけた。


 次の爆発が起きたのは、分身が踏みつけられた直後だった。直撃を食らった分身は霞のようになって消えていく。

 それと同時に、少年は更に推進力を得て、怪鳥の懐へと飛び込んだ。叩きつけるその棍棒が、怪鳥の姿勢を崩させ、落としていく。

 怪鳥は必死にもがくも、少年は微動だにせず、怪鳥を押さえつける。その予想できる落下地点を見て、ネレイオは目を見開いた。


「まさか、大怪鳥を吸うつもりか!?」


 落下していく怪鳥の真下には、少年が展開した火の結界があった。ボルクスは少年にされるがままの怪鳥をどうにか制御しようとするが、既に遅かった。

 怪鳥は燃え上がる火の中へと叩き落され、炎が怪鳥を包み込んでいく。


 まさしく身を喰われている怪鳥は悲鳴を上げ、少年に押さえられたまま暴れ狂う。だが、そんな怪鳥を助けられる者は誰一人としていなかった。

 こうして、全てを焼き尽くそうとした怪鳥は炎に燃やし尽くされた。


(あめ)ェなァ!オーガのガキ!俺の切り札がそれだけだとでも思ったのかよォ!」


 間髪入れず、ボルクスが叫ぶ。すると、傷ついていた2頭の獅子が飛び出し、少年に食らいついた。

 見ると、火の結界の勢いが弱まっている。結界の維持すら難しくなっているのだろう。


「予定変更だ、このガキを殺し、またデケェ『炎獣』を作り出してやる。そうすりゃ成す術なぞ無くなるだろうがァ!」


 獅子はその牙を倒れた少年の体に突き立てる。力が残っていないのか、少年は抵抗しなかった。

 少年の体は一際頑丈らしく、牙が通らない。だが、その度に火が揺らいでいる。

 獅子の肉体を構成する、『魔喰いの火』が徐々に彼を蝕んでいた。


「喰らえ獅子共!ガキなんぞ食らっちまえ!」

「待てボルクス!様子が変だ!」


 獅子2頭が何度も少年の体を齧ろうとするも、彼の肉体は傷一つ付いていない。

 それどころか、先程まで弱っていた筈の火が勢いを取り戻し始めている。


「うるせぇ!心配性は黙って見てろ!」

「間違いない、これは―――」


 すると、王国の兵士を取り囲んでいた炎が激しく燃え上がった。

 ネレイオはその直後、自分が額から汗を流している事に気がついた。決して、暑いからではない。本能的な恐怖から彼は汗を流していた。

 それから、震える目で少年の姿を見る。出会う時に感じた強大な魔力がより一層強くなっている。


 少年の左目には、赤い火が灯っていた。

次話、10/15 23時公開です。お楽しみに。

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