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魔の宴  作者: Gno00
Black March

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28/39

炎の鬼

 メルズは歯噛みする。額から少しの汗を流しつつも、報告に来た青年から情報を聞き出し始める。


「火の手は空中から飛んできたのか?」

「…そうなんだ。突然火球が空から飛んできて、それが木に燃え移ったんだ……」

「空中戦艦の類は飛んでいない。だとすれば魔法か……!」


 カルバネラは若干の雲が浮かぶ青空を見上げると、浮遊する両手を視線の先に掲げる。

 それから密着していた両手を外側へと広げるように離していき、自身の『沈黙』の能力の行使し始めた。


「木の上に魔素を通さない層を張っておいたぞ。これで次の攻撃は出来ない筈じゃ」


 それを聞いてグッシュデムはカルバネラの顔を見やる。すると、カルバネラは目を閉じ微笑んだ。


「なぁに、心配は要らんよ。これから範囲を広げていくが、楔を複数破壊したおかげで魔力には多少余裕があるんじゃ」

「楔を破壊した、だと…?まさかお前たちは…」


 カルバネラの発言を聞き逃さなかった、褐色肌の耳長の男が声を上げる。驚きの色を示す数多くの視線が、カルバネラ達魔族へと向けられた。

 それに伴う詮索を、メルズが上に伸ばした手で止めた。


「今は火事の対処が先だ。行くぞ!」


 一行はメルズを先頭に森を南東に進む。



 少しの時が経ち、一行は木々に囲まれた開けた空間へと出る。

 そこには周囲の木々とは独立した大樹が伸びており、大樹の表面には木製の大きな箱が幾つも存在している。

 そしてその大樹は、燃えていた。火は大樹の頂上にある細い枝から下へと徐々に燃え移っている。


 集落の住人であろう、耳長の者達が仲間を避難させつつ、魔法を火へと放っている。風や水といった属性の魔法は火の手を鈍くさせていた。

 しかし、根本的解決には至っていない。それどころか押され始めている。


 歯噛みするメルズは真っ直ぐ火を見つめる。一行の中に居た、褐色肌の耳長の者の1人が加勢するよう進言するものの、メルズは却下する。

 そして、メルズは魔法を行使する者達に号令をかけた。


「皆、魔法の行使を止めよ!」


 意外な言葉に疑問の声が上がる。それらは、メルズが火を指差した事でぴたりと止んだ。


「『魔喰いの火』だ、してやられた!あの炎に向けた魔法は、全部奴に食われてしまうぞ!」


 何かの合図ともとれる彼女の叫びに、慌てて集落の長耳の者達は魔法の手を止める。彼らに残された選択肢は最早、火が大樹より降りてくる前に、避難する事しか無かった。

 しかし、避難行動を取るより先に、1人の女性が声を上げて大樹を指差す。見ると、大樹の箱にある丸穴に長耳の子供が居た。

 その箱へと火の手が刻一刻と迫っていた。


「子供たちが逃げ遅れたんだ!一体どうすれば…」


 長耳の者達が考えるより先に、ある1つの影が一同から飛び出した。

 グッシュデムである。彼は素早い足運びで大樹の幹を駆け上がっていく。


「あの少年は…!」

「良いんじゃ。それより、援護を頼めるかの」

「ああ、任せておけ」


 メルズは外套の下、革の入れ物よりナイフらしき刃物を数本取り出すと、火に向かって投擲する。

 ナイフは火に接触すると爆発を起こし、吹き飛ばしていく。連続する爆発は、火の勢いを弱めていた。


「吸えるものなら吸ってみろ。その爆炎は()()()()では無いぞ?」


 魔法の類のようだが、『魔喰いの火』が吸収出来ていない。恐らく、『魔喰いの火』が魔素を取り込む条件を熟知しているのだろう。

 彼女の仲間たちも続いて彼女が放ったものと同じナイフを投げ、火の勢いを継続して弱めていく。


「頃合いか、放て!」


 後方にある木々に向かって彼女が叫ぶと、木の枝の上より大量の青白い光が放たれた。

 どうやら、先程の叫びで後ろで待機していた者達に準備をさせていたようだ。

 青白い光は他の光と融合していき、やがて火より下の位置で大樹に衝突する。


 その直後、火をせき止めるように氷の壁が形成された。こちらも魔法だが、『魔喰いの火』は干渉できていない。


「後は頼むぞ、グッシュデム殿」


 手は打ったといった様子でメルズは樹木を駆け上がるグッシュデムの姿を見守っていた。



 体全体が落下を始めるより早く、次の足を出してグッシュデムは大樹の幹を駆け上がっていく。

 魔界という秘境で鍛えられた彼の身体能力だけでなく、彼が持つ炎の力も登っていく彼を支えていた。


 彼の足元より噴き上がる小さな火。その火が速度を加え、上へ上へと彼の体を押し出していく。『焔唄』の『一の型』に該当するこの技にも、『(ふん)(えん)』という名があった。

 耳長の子供たちが居るであろう木製の箱が目と鼻の先まで迫り、グッシュデムは火の加速を利用して箱の手前へとたどり着く。


 扉に手をかける。火の手がまだ来ていないからか、扉は無事に開いた。


 2人の子供が箱の中央に固まり、泣いている。心細い思いをしたのだろう。グッシュデムは駆け寄ると、そっと抱きしめた。


「助けに来たよ。後は僕に任せてくれないか」

「お願い、大樹さまを助けてぇ」


 耳長の女の子が涙ぐむ瞳で彼を見る。


「苦しんでるの。あついようって」

「――分かった、すぐに助けるよ。ここで待っていてくれ」


 子供たちの了承を得ると、グッシュデムは箱を後にした。


 外に出てすぐさま大樹の表面を蹴り、箱の屋根に上る。更に屋根の上から火をせき止めている氷の壁へと飛び移った。

 当然、『魔喰いの火』はそこで止まっている為、グッシュデムの体は火に包まれる。

 しかし、その火が彼の体に燃え移る事は無かった。


(魔法を食う火…僕も食われてしまうかもしれないけど、試してみるか…!)


 呼吸を整え、グッシュデムは腹をくくる。すると、彼の体の一部が赤熱し始めた。


 そして、周囲の火は彼へと吸い込まれていく。正確には彼の胸部と背中に、だが。



 彼――グッシュデムには生まれつき、足りないものがあった。それは、左目と、魔力の制御機能である。

 体が取り込み続ける魔素と、彼の意に反して暴れる炎の力は、周囲を苦しめ、彼の命ですら奪いかけた。

 それでも、生きようと足掻いた結果、彼の身に足りなかった制御機能が宿った。

 制御機能は紋章のような形となり、彼の胸と背中に浮かび上がった。その紋章こそが、『魔喰いの火』を取り込むものの正体である。



 それぞれ『胸炉』、『背炉』と呼ばれる部位は時間を掛ける事無く火を取り込んでいく。次第に火は小さくなっていった。

 種火程の大きさの火を吸い込んだところで、『胸炉』と『背炉』は吸収を止める。大樹の先は黒く染まり、大部分の葉が燃え尽きたが、それでも消火が出来たのは事実である。

 周囲を見渡した後、グッシュデムは箱へと降りる。そこでは言いつけ通り、耳長の子供たちが待っていた。


「もう大丈夫だよ」


 腰を下ろし、優しい声色で言う彼へと、子供たちが飛び込む。すぐに彼の胸の辺りから泣き声が聞こえ始めた。

 それを見て、彼は優しく子供たちを包み込んだ。




 ◇◆◇




 先の焦げた大樹の後処理が始まる。メルズ率いる長耳の者達の軍団は二手に別れた。

 メルズと同じ褐色肌の長耳達は彼女に連れられ集落の外部の偵察に向かい、彼女と同行していた、木の上から魔法を放った長耳達は落下してきた枝や建造物の片付けを手伝い始めた。


 グッシュデムは集落の緑の地面へと座り込み、休むように静止する。

 そこへ、ハサミのような先端を持つ六本足が近づいてきた。カルバネラだ。


「よく火を消してくれたな。体の具合はどうじゃ?」

「少し休めば、良くなると思います」


「…そうか」と区切りを付け、カルバネラは復興作業の様子を見始める。

 丁度その時に、グッシュデムは自らの異変に気がついた。


「…ぐっ」


 近くに居るカルバネラに聞かれない程度の小声で、彼は呻く。

『魔喰いの火』は、彼の肉体の魔素を取り込もうとしている。微々たるものではあるが、いずれ看過出来ない程の事態になるだろう。

 打つ手を考えなければ。そう思う彼へと近づく影があった。


 影が立ち止まるのを見て、彼は顔を上げる。白く綺麗な衣服を着た、人型のようだが、目の前に映る、布に包まれた大きな物体により、顔を見る事が出来ない。

 首を傾げる彼へその人型は腰を下ろし始める。顔が合った事で、はじめてその姿が明らかになった。


 白い肌と長い耳、銀に輝く長髪を持つその整った顔立ちは、気品を感じさせる。

 ほのかな花の香りを持つ彼女は、青い双眸を彼へ向けていた。


「貴方が、此処の危機を助けてくれたのね?」


 大人びた優しい声色がグッシュデムへと問いかける。紡ぐ言葉を考え、彼は冷静に答えた。


「はい。…皆さんの協力もあって出来た事ですが……」


 すると、彼女の白い手が伸び、彼の黒い髪を優しく撫でた。


「そう。ありがとうね」

「えっと、どうも…」


 彼の返答を聞き、彼女は上品に笑った。


「角は立派なのに、可愛らしい子ね」


 それから、彼女はグッシュデムの隣に座る。優しい風が、彼らの頬を撫でた。


「私、シレナティ・ハシェールと言うの。貴方は?」

「僕は、グッシュデム。グッシュデム・ウィーキンズです」

「そう、グッシュデムくん。グーくんと呼んでいいかしら?私も気軽にシレナと呼んでいいから」

「グーくん…そう呼ばれるのは貴方で二人目ですね」

「へえ。私以外にも居るのね」

「姉が居るんです、3人。でも、2人は義理の姉なんです」

「お姉さんの名前、聞いてもいいかしら」

「クシルカレ・パルセデンと、スロンシェイル。そして、双子の姉が――エルナーテ・ウィーキンズと言います」


 シレナと名乗る白い耳長の女性は、興味津々と言った様子で彼の発言を聞いていた。


「義理の姉2人に、双子の姉。お姉さんに囲まれる生活はどう?」

「楽しいですよ。3人とも強いので、よく稽古をつけてくれるんです。あと気分転換に付き合ってくれたり」

「その気分転換とは具体的にどういったことをしてるのかしら?」


 意外な点に食いつく彼女の様子を見て、彼は小首を傾げながらも淡々と答える。


「散歩したり、自然を観察をしたり。それぐらいですよ」


 すると、彼女はグッシュデムの両肩に手を置いた。花の香りが少し濃くなり、青い眼差しが少年を捉える。


「貴方はまだ幼い。そのままの貴方で居て。くれぐれも間違いは犯さないように」

「…? 分かりました」


 間違いとは何なのだろうか。皆目見当がつかない彼は適当に相槌を打つほか無かった。

 彼女は肩から手を離し、続いてカルバネラの方を見る。


「逞しい姿ね。あの方は?」

「カルバネラ兄さんです。…兄と言っても300年くらい、年が離れていますが」

「じゃあ、お兄さんは310歳ぐらいかしら?」

「いえ、400歳は過ぎています」


 シレナは目を見開くと、再びグッシュデムの元へ向き直った。


「…聞くけど、貴方は今何歳?」

「えっと、今年で90歳、ですね」

「という事は、双子のお姉さんも同じ年……」


 彼女はため息を吐いた。


「こんな幼い子が私より年上なんて…どんな顔をすれば良いのかしらね……」

「…どうしました?」

「何でもないわ。人は見かけによらないってよく分かった」


 会話が終わり、グッシュデムは小首を傾げつつも集落の復興の様子を見守ることにした。

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