表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔の宴  作者: Gno00
Black March

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/39

船上の戦い

「いやぁ、びっくりしたよ~。空を飛べる人間も居たんだね」


 帆船の甲板に降り立った青肌の少女、スロンは衣服を確かめつつ呟いた。

 幸い、義理の姉(クシルカレ)に作ってもらった服に傷は付いていない。彼女はほっ、と安堵した。


 その後、周囲から注視するような視線を向けられているのを感じ、彼女はその青と黒の双眸で見渡す。

 明らかに異質なものを見て、驚いているかのようだった。視線を下ろし、また、視線を上げると共に頭の角を軽く撫で、異質なものが何であるかを理解し、納得する。


 周囲に見える人間たちはその手に武器らしきものを所持しているが、それらは彼女を迎え撃つ為のものではないらしい。


「覚悟しろ、他種族の女!」


 人間らしき声が聞こえて、彼女は空を見上げる。見ると、丸みを帯びた特殊な乗り物に跨る鎧姿の人間が、剣を持ちながらスロンへと迫ってきていた。

 スロンは迎え撃つべく、その準備を整える。右手を斜め上に掲げると、その手のひらを乗り物へと向けた。


「何だ!?動きが鈍く――」


 鎧姿の人間の言うように、乗り物の勢いは急速に削がれていく。それを見て、スロンは目を見開いた。


 物は試し、とばかりに使った弱体化の1つ、魔法抵抗が乗り物に対し効果を発揮している。勢いが削がれたことが、それの何よりの根拠となっている。

 予想外の収穫に、彼女は鎧姿の人間とはまた違う意味で驚いていた。


 魔法抵抗が効いていると分かれば、()()として繰り出した弱体化のもう一つの効果も当然発揮されている。

 姿勢が少し崩れた鎧姿の人間相手に、スロンは右手を引くと同時に、左手の拳を勢いよく突き出した。


 その拳は乗り物の表面を大きく抉り、やがて彼女の予想通りの結果を生む。


 魔法抵抗と同時に乗り物へと付与させた、弱体化の1つ、劣化。それは対象の材質や肉質を脆くさせるという効果を持つ。

 森の石人形(ゴーレム)や遺跡の一部を破壊した際に使用したものと同じものである。


 砕けた乗り物から放り出され、乗っていた人間は甲板へと叩きつけられた。

 しかし、すぐに起き上がり、所持している武器を構え直してスロンへと突進を仕掛ける。

 スロンを間合いに入らせると共に、剣閃が振るわれる。彼女は剣の動きを目で追いつつ、後退しながら避けていく。


 それを見て苛立ったか、あるいは実力の差を認めたのか、少し剣閃の精度が鈍くなる。彼女はそれにより隙が生じるのを見逃さなかった。

 振るわれる剣の動きに割って入り、少し引いた左の拳を鎧の人間の腹部へと繰り出す。


「ぐっ…がはっ」


 弱体化を付与していない一撃だが、鎧が少し変形している辺り、威力は伝わっているらしい。

 表情を大きく歪ませ、倒れ込む。それでも、震える腕を伸ばして落とした剣を拾おうとした。

 そこに屈強な肉体を持つ薄着の大男が乱入する。剣の柄を蹴って滑らせ、鎧の人間を抑えつけた。


「やるな、青い嬢ちゃん!王国の正規兵を倒すとは!」


 正規兵と呼ばれた鎧姿の人間を抑えつつ、大男はスロンに声をかけた。

 悪い気はしないと思い、スロンは微笑む。そうしながらも、彼女の体勢は次の行動に移っていた。


 振るわれた戦棍の動きに合わせて足を振るい軌道を逸らす。その持ち主である少女は、紫の双眸をスロンに向けつつ微笑んでいる。

 正規兵と違った雰囲気を持つ少女は、続けざまに戦棍を振るう。スロンは若干目視の追いつかないのを感じつつもかわしていく。


「やるじゃない、あなた。少しは骨がありそう、ね!」


 身軽さと、戦棍の重量を駆使した乱舞。それが次第に速まっていくのを彼女は目視で確認する。

 だが、戦棍の猛攻を避けてばかりの彼女ではなかった。次に戦棍が振り下ろされていくのを見て、そして――


「そっちも、ね。だけど、似た武器を使う相手には心当たりがあるよ」


 戦棍の打撃部を掴み取り、少女の動きを阻害する。少女は戦棍を引き剥がそうとするものの、戦棍は動く気配を見せなかった。

 小柄とは言え、戦棍を軽々しく振り回せる以上、それなりに筋力というものはある筈。スロンには、今のこの状況が理解出来ないでいた。


 少し経ち、スロンは戦棍を手放して跳躍する。着地した彼女が次に見たのは、少女と瓜二つの少年の姿だった。


「すばしっこいね。その羽、斬り落とそうと思ったのに」

「むぅ。乱暴しようとしないでよ」


 スロンは頬を膨らませ、二対の翼を縮小させる。装飾のように小さくなったそれは、やがて彼女の腰の模様へと変化する。

 次に彼女が動こうとした途端、影が蠢くのを確認する。


(スロン、私の援護は必要?)

(うん。あまり無理できないし、お願いするよ)


 義理の姉(クシルカレ)の言葉を聞き、彼女は頭を上げる。すると、既に少年が得物を構えて迫ってきていた。


「よそ見を、するなぁ!」


 少年の刃が迫る。それはスロンの首を狙っていたが、彼女は敢えて動かない。

 すると、彼女の影より黒い物体が浮上し、彼女と少年の間に割って入った。


 黒い物体は表面の黒い液を影に沈み込ませるように落としていき、その正体を明かす。

 それは、大きな1つ目を持つ黒い女性、クシルカレだった。その手に得物である黒いサーベル、マトロクを握っている。


「油断に思えたなら、私の落ち度。だけど、これでも油断と言い切れる?」

「このタイミングで伏兵、だと…!」


 少年は動揺を隠しきれていない様子だった。恐らく、彼女は最初から居たと言われた所で信じないだろう。

 船に降り立つ前、エルナーテの能力により魔界より出てきたその直後に、クシルカレはスロンの影へと入り込み、彼女の飛行を密かに支援していたのだ。

 そして、今の状況のように、彼女の身に危険が迫った場合、何時でも助けられる準備をクシルカレは整えていた。


 少年は鍔迫り合いを止めて後方へと跳躍する。異質な存在の2人に、少し気圧された様相を浮かべていた。

 それは血縁と思しき瓜二つの少女にも伝播する。しかし、戦闘は継続する腹積もりで居るようだった。


 どちらかが動き出せば衝突は再び始まるであろうその瞬間、軽い拍手が響く。


「撤退しよう。作戦の練り直しだ」

「だけど、決着がまだ…!」

「僕らの目的は彼らを倒すことじゃあない。あわよくばの事で目的を見失っちゃいけないよ」


 少年少女は悔しそうな様子で、声をかけた青年の乗る人型の存在へと乗り込む。

 その人型は少年少女がしっかり掴まっているのを確認すると、滞空していた体を動かし、船から遠ざかっていった。

 人型に続き、正規兵の搭乗している乗り物も遠ざかっていく。


「これで、少しは休めるか…」


 船の長らしき少女がそう呟いたことで、船員らしき人間たちは手に持つ武器を収めていく。

 人間たちが警戒を解いたことで、スロンとクシルカレも戦闘態勢を解除する。すると、スロンは力なく座り込んだ。


「疲れた~。もう動けないよ…」

「お疲れ様。後のことは任せて、ゆっくり体を休めて」

「ありがとう、クシル姉…」


 先程まで元気よく動いていた少女が動けなくなったのを見て、船員たちは意外そうな表情を浮かべる。

 表情にも肉体にも疲労らしきものは先程まで感じられず、船に降り立った時点で疲労が蓄積していたと推察することが出来なかったからだ。


 座り込んだ姿勢から一歩も動かないスロンに、それを介抱しようとするクシルカレ。2人の異質な存在へと近づくものが一人居た。

 船の長らしき少女である。彼女は恐れ半分と言った様子でおもむろに近づいた。2人が少女の表情を伺う頃には、彼女は甲板の上に腰掛けた。


「…ありがとう。あんたたちが来なかったら、どうなっていた事やら……」

「こちらこそありがとう、だよ。この船が無かったら今こうする事が出来なかったから」


 にっこりと笑顔を浮かべるスロンの表情に感化されてか、船長もまた満更でもない表情を浮かべる。


「あたしはサフィリ。サフィリ・タギラルって言うんだ。あんたたちは?」

「私はスロンシェイル。よろしくね~」

「クシルカレ・パルセデン。呼び方は好きにして構いません」

「そっか、スロンに、クシルッカ。本当に、ありがとうな」


「どういたしまして~」と笑顔を浮かべたスロンは、ふとクシルカレの様子を見る。

 すると、彼女は顔を少し赤らめていた。少し目が見開いており、表情の黒色が増したのが何よりの証拠だった。


「どうしたの、クシル姉?」

「…何でもない、何でも……」


 そう言いつつ、スロンとサフィリから顔を反らしていく。不思議に思うスロンだったが、一方サフィリは申し訳無さそうにしていた。


「…すまねえ。これからはクシルさんって呼ばせてもらうよ」

「い、いえ、クシルッカで構いません。これからもそう呼んでください」


 サフィリもまた腑に落ちないのと恐れ多い、といった様子だったが、どうにか自分を納得させ「分かったよ、クシルッカ」と返答する。

 すると、クシルカレが次に浮かべたのは、自然な微笑みだった。




 ◇◆◇




 王国の正規兵を撃退した事で、船は何の障害も無く目的地へと進めていく。

 奇しくも、スロン達と、サフィリ達の目指す場所は、目的は違えど同じだった。スロンの休養も兼ねて、彼女たちは船に乗せてもらっていた。


 船の進む道中、海面より何かが勢いよく飛び出す。白い蛸足の少女、エルナーテだった。

 彼女は付着した海水をよく乾かし、クシルカレへと歩み寄る。向かう道中で合流した彼女には、現地の魚人や人魚と協力する形で警護に付いてもらっている。

 今はその定期報告をクシルカレへと行う最中だった。


「現時点で海中、及び空中に驚異は存在していません。接近するものの気配もありません」

「そう。船上もこれと言って目立った動きは無い。しばらくは安全と見て良いのかも」


 定期報告を終え、エルナーテは再び海中へと戻ろうとする。そんな彼女をクシルカレは引き止める。


「少しくらい休んでも良いと思うけど」

「活動に支障の無い今、休む訳には…」

「今だからこそ、休んだ方が良い。いざという時に動けなくなると困るのは貴方自身だから」


 思うところはあったのか、エルナーテは少し考える。それから、再度口を開いた。


「そう、ですね。後は現地の皆様方におまかせします」

「スロンの遊び相手もしてあげて。動けなくて暇そうにしてたから」


 すると、エルナーテの顔がみるみる赤くなった。頬から黒色が浮かび上がるのを見て、クシルカレはそう確信する。


「私もスロン様と遊びたいと思うのですが、足を触られるのだけは、お許し願いたいです…」

「一体、どんな遊びをしているというの…」


 変な事をまだ幼いエルナーテに吹き込んでいるのか、と思いクシルカレはため息を吐いた。

次話は6月16日 12時更新予定です。お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ