『純剣』と『熱火棍』
細身の男は不敵な笑みを浮かべる。まるで、好敵手を見つけたかのような表情だった。
クシルカレとグッシュデムはそれぞれ構える。それを見てか、細身の男は口を開いた。
「やるねえ、君たち。此処の国に雇われたのかな?」
2人は答える素振りを見せない。少しの沈黙の後、細身の男は続けた。
「君たちの得物と、君たちの戦いぶりを見れば分かるよ。君たちが此処の住人じゃないってことぐらい。人型に見えるが、君たちは何なのかな?」
やはりと言うべきか、答えようとはしなかった。またしても訪れる静寂の後、「…つれないなぁ」という細身の男の呟きが聞こえてきた気がした。
「まあ、良いさ。僕たちはその国に用があるからねえ、邪魔するなら倒してでも進ませてもらうよ」
細身の男は腰の剣を引き抜く。髭をたたえた大男もまた、大戦斧を引き抜いた。
「そっちの剣術使いをお願いするね。あれ…棍棒って言うのかな、棍棒使う子は僕がやるよ」
「ふん、くれぐれも油断してくれるなよ」
大男の発言に「分かってるって」と軽口を叩きつつ、グッシュデムの方へ向き直る。
すると、細身の男が踏み込み、グッシュデムとの距離を一気に詰めた。見えた残像から想像できる速さに、クシルカレは目を見開く。
細身の男が放った斬撃が、グッシュデムに叩き込まれる。どうなったのかは、彼の背に隠れて見えない。
「何処を見ておる」
クシルカレが正面に向き直ると、既に髭の大男は戦斧を振り上げていた。
完全に振り下ろされるより前にクシルカレは軽やかな身のこなしで斧の刃をかわす。積もっていた雪が煙幕のように舞った。
飛び散る雪を腕で防ぎつつ、大男の動向を見る。片手で戦斧を引き抜いて見せ、再度構えていた。
細身の男が繰り出した斬撃。少年の目に辛うじて見えたそれを、彼はオシロビを割り込ませて防いで見せた。
「へえ、勘が良いんだねぇ」
不可視とまではいかないが、さほど遠くない領域にまで洗練させた肉体の動き。細身の男のそれを見るのは初めてだったが、少年は何処か既視感を覚えていた。
主に格闘術を使い、時に自身の相棒である青い球体を巧みに操作する、もう1人の姉の姿を彼は思い出した。そして、彼女の適性の事も――
「風属性の特性…身体強化ですか」
先程見せた男の動きは、スロンシェイルの動きの速さに近かった。訓練という名目で彼女と手合わせする事の多かった彼には、男が出す速度のからくりに心当たりがあった。
彼の背後に立つ男を一瞥すると、男もまた、意外そうな表情で彼の姿を見ていた。
「驚いたよ、魔法の知識を持っているなんて」
「知識が無ければ、使えませんから」
オシロビから炎が吹き上がる。それを見てか、男は薄く笑った。
「はは…やっぱりそれ、魔法なんだ」
男は再度素早く踏み込む。グッシュデムは、迎撃の為、燃え上がるオシロビを構えて見せた。
先程は辛うじて見えた男の動き。だが、今度はしっかりと目で追うことが出来た。
剣による横薙ぎ。それにオシロビを割り込ませようとしたが、次に少年が見たのは、急加速する男の姿だった。
驚き、硬直する。その一瞬の隙を突かれ、少年の右頬に刃が当たる。
少年が次に細身の男の姿を見たのは、背後を振り向いた時だった。
「深く切り込んだつもりだったんだけど、どんな体質なんだい、君…」
与えたダメージが予想を下回ったからか、残念そうに男は呟く。
少年は、頬に軽く触れて確かめる。幸いにも、傷の類は見られなかった。
「先程の急加速、風属性の魔法ですね」
「…そう、当たりだよ。僕はこういう芸当が得意だからねぇ、出し惜しみ無く使うんだよ。特に、君みたいな強敵相手だとね」
少年もまた、男と似たような感想を抱いていた。少年が向き直るとほぼ同時に、男は再度踏み込む。
男の速さは先程の急加速と同等のものだった。オシロビでの対処は不可能と判断し、少年は自身の魔力を肉体に込める。
グッシュデムが持つ火属性の魔力。その魔力の付与には、クシルカレと同様に作法があった。
肉体への付与、オシロビへの付与、あるいはその両方への付与。それぞれ、『一の型』、『二の型』、『三の型』と名付けられている。
そして、それらにも『焔唄』という総称があった。
今、少年が行っている、自身の肉体への魔力の付与は、『一の型』に該当する。火属性の魔力を防御に転用したもの――
男の姿は一瞬にして少年の視界から消える。おそらく、背後に回ったのだろう、と少年は予想を立てていた。
次に起こることも察し、その時をただ静かに待つ。しかし、何時まで経っても攻撃の感触は無かった。
少年は男が立っているだろう背後へと向き直る。すると、男は自身の得物の間合いより遠ざかっていた。
「反撃してくる結界とは、多芸に富んでいるね、君……」
男の額より汗が流れ落ちる。慌てて離れたのだろうと少年は予想していた。
グッシュデムの用いた、魔力の防御への転用。それ自体は、他の属性であっても可能な芸当だった。
だが、彼の場合は防御すると同時に火属性の魔力で反撃するという能力を持つ。これは他の属性では真似できない能力である。
反撃能力を兼ね備えた結界、それにも『熱火甲・爆』という名前があった。
勘が良かったのか、それとも男が気づけるだけの材料があったのか、少年は『熱火甲・爆』を解き、再度オシロビを構えた。
大男の猛攻の間を縫って、クシルカレはマトロクに闇属性の魔力を纏わせて、剣を振るう。
部下達と違い、厚手の衣服を身に着けた大男の肉体に、次々と斬撃が叩き込まれていく。それを目の当たりにしていた大男の部下達は驚嘆の声を上げた。
「あの剣、間合いが伸びてやがる!」
「持ち手を変えた訳じゃねえ!剣身が伸びているんだ!」
彼女の持つマトロクの剣身が、通常時より明らかに伸びていた。
これもまた『純魔剣』の一種であり、『宵ノ路』という名前を持つ。
『宵ノ路』の状態で繰り出される斬撃は確実に大男の体に命中している。だが、彼女はその中で異変に気がついた。
大男はまるで怯んでいない。それどころか、大男の体は黒に侵食されておらず、付けた傷が古いものから塞がっている。数秒も経たずして、大男に付けた筈の傷は体から消えた。
「ぬうぅ!」
大男が大戦斧を振り上げると、全体が黒く染まる。危険を感じ、クシルカレは攻撃を中断して後ろに跳躍する。
まるで間欠泉のような黒い光の奔流が地面の上より吹き上がる。丁度、大戦斧が振り下ろされた頃合いだった。
「闇属性の魔法…どうりで」
見覚えのある黒い光は、自身が先程まで使っていたものと大きく似ていた。
だからこそ彼女には、大男が使った能力の正体を素早く言い当てる事が出来たのかも知れない。
先程、闇属性の特性に体を蝕まれても、怯むこと無く接近してきた者が居たのは、これが理由なのだろう。
「驚いたよワシも。まさか、同じ属性を使う者がこの世界に居たとはのう」
髭の大男が闇属性の魔法を行使したからか、一瞬にして空気が変わったのを、彼女は感じ取る。
辺りを一瞥すると、先程まで観戦していた大男達は口を閉ざし、賊の長を凝視している。表情に出ては居ないが、おそらく髭の大男に恐怖を抱いていると彼女は思った。
「おめえ達!ボサッと突っ立ってねえでワシを援護せんか!」
「し、しかしお頭、闇属性に耐性の無いやつばかりで…」
「おめえ達の体質なぞ知ったこっちゃねえんだよ!てめえのことはてめえ自身で守りやがれ!」
髭の大男に言われるがまま、慌てて大男たちが飛び出していく。囲まれるのは時間の問題だと彼女は確信する。
それと同時に、彼女はこの状況を打開する手を思い浮かべ、『宵ノ路』を解く。
「は、はん!鎧が守ってくれんだ!剣なんて怖かねえぜ!」
「そうだそうだ!お頭が次に手を出す前に、倒しちまえば良いんだ!」
彼女は天を仰ぐようにマトロクを逆手に持って静かに振り上げる。同時に、鎧の防御力を過信している彼らに哀れみを抱いていた。
その体勢から目を下ろすと、自身の影が雪の上に映っているのを確認する。そして、その影目掛けて突き立てるように振り下ろした。
マトロクの剣身が雪の中へ、彼女の影へ深く突き刺さった瞬間、彼女に近づいていた多くの大男たちが突然血を吐き出し、倒れ込んだ。
一瞬にして起きた出来事に、大男たちの勢いは急速に削がれていく。倒れた者を揺り起こさせようとした者は、倒れた者が既に皮膚が黒色に侵食されているのを見て悲鳴を上げた。
何が起きたのか。髭の大男ですらも理解できずに時間は流れていく。そんな中、彼女だけは突き刺したマトロクを黙々と引き抜いていた。
「剣使い、何をした」
「鎧に阻まれる事の無い影の刃。私の剣にはこのような技もある」
「じゃ、じゃあ、斬撃の効かない鎧は…」
「最初から無意味。その鎧の対処はいくらでも思いつく」
その瞬間、大男達から戦意は消え失せた。攻撃から身を護る術を無意味と言われ、その根拠を目の当たりにし、尚且つ闇属性の特性に耐えられないのなら、無駄死にする事が目に見えているからだ。
同時に、クシルカレは安堵する。先程繰り出した『純魔剣』の一つ、『影華』は影を固定する為、マトロクを引き抜くまでの間その場から動けない。マトロクを引き抜くことしか出来ない以上、行動の前後が無防備になる。
マトロクを構え直すと、目の焦点の外から地を這う黒い衝撃波が近づくのを確認する。クシルカレは自身を逃しつつ、マトロクの剣身を当て軌道を逸らす事にする。
体格に合った衝撃波の力強さに苦しい表情を浮かべるが、最終的には軌道を変える事に成功した。
「だが、二度も同じ手は通じんぞ」
「闇属性の魔法に、傷の塞がりが早い体質。厄介ではある、だけど――」
彼女は大きく息を吸い込む。雪山の寒さが口に広がるが、彼女は気にも止めない。
続いて息を吐き出すと共に、彼女は自身に水のような、冷たい液体の感触を感じ取った。
「――破れないとは限らない」
大男の関心するような呟きと共にクシルカレは腰を落とし、腰と水平になるようにマトロクを低く構えた。
すると、マトロクが微かに波打ち始める。彼女はそれを確認する事無く、目の前の大男を捉えていた。
彼女――クシルカレにはその顔の特徴故か、生まれつき鼻が存在しなかった。それでも彼女がこれまで生きてこられたのは、彼女の持つ口が鼻の機能をも備えていたからである。
その口は呼吸という、生物が当たり前のように行っている生命維持の活動を少し工夫させることで、彼女に本来備えている能力とは別の能力を彼女に授けた。
それは、魔法属性の変化である。本来彼女が行使出来る闇属性の魔力以外の、他の属性の行使を、工夫した呼吸によって可能にさせた。
そして、魔法属性の変化は、直接使用できるだけでなく、マトロクに付与させる応用が利く。彼女以外で最初にそれを知った彼女の師匠が、『純魔剣』に因んで、こう名付けた。
属性に囚われる事のない黒の剣、『純黒剣』と。
魔法には、少なくともこの世界では6つの属性が存在する。
『火属性』。炎や熱に関するそれは、生み出した火や熱を阻害されにくい特性を持つ。
『水属性』。水や水の状態に関するそれは、魔素の流れを阻害しやすい特性を持つ。
『風属性』。風や雷に関するそれは、生物、無生物に限らず運動能力を底上げする特性を持つ。
『土属性』。泥土や鉱物に関するそれは、行使した対象をより頑強なものとする特性を持つ。
『闇属性』。闇や影に関するそれは、魔素及び魔力に対しての抵抗力を持たないものであるほど、魔力による干渉が強くなる特性を持つ。
『光属性』。光や聖に関するそれは、生物、無生物の状態の異常を発生させにくくするだけでなく、異常を元の状態に修復させやすい特性を持つ。
クシルカレには、闇属性以外の5つの属性を、特性を含めて行使する事も可能だった。
『純魔剣』と『純黒剣』、2つの異なる属性を使いこなせる黒いサーベル。その剣には純剣『マトロク』という名前があった。
彼女が繰り出した波打つ刃。それは、雪国の地下にて楔を破壊したものと同じものだった。
『純黒剣』の一つ、『濁リ打』。マトロクの剣身に水属性の魔力を宿す技である。
振るった剣から飛ばされる黒い水の斬撃が、大男の体に命中する。しかし、大男に付いた傷は塞がらない。
更に数度振るった水の斬撃が大男を傷つけていく。やはりというべきか、水の斬撃により付けられた傷は塞がろうとしなかった。
「ぬう…!」
「こんな話を聞いた事がある。属性に限らず、魔力の運用に長けたものは、その大元である魔素の操作だけで肉体の治癒能力を高める事が出来る、と」
闇属性の魔法は行使出来ても、回復に秀でた特性を持つ光属性の魔法を行使出来るようには見えない。もし使えたなら、その能力で部下への魔力の干渉を癒やす事が出来た筈。
大男の能力について推察しつつ、彼女は師匠の発言を思い出していた。
魔素の操作が異常なまでの回復力の正体ならば、水属性の特性を以て攻撃した場合、どうなるか。
結果は彼女の予想通りのものとなった。
「ならば、この力はどうする!」
闇属性の魔力の奔流。それは先程大男が繰り出したものに近かったが、範囲が広くなっている。
更に速度も上がっているのを確認し、回避は不可能と彼女は判断し、迎え撃つ為構える。
『濁リ打』の状態のまま、彼女は大きくマトロクを振り上げる。マトロクに宿した魔力が増幅するのを感じて、勢いよく振り下ろした。
積もった雪に剣の先が触れると共に、黒く濁った水の奔流が発生する。闇属性の魔力と衝突した途端、その箇所から水は飛沫を上げる。
マトロクの剣身より発生する水が、魔素の流れを阻害する能力を持つ。大元を絶たれ、闇属性の魔力は少しずつ押され始めていく。
闇属性の魔力の奔流の勢いを完全に殺しきったところで、水の奔流も止まる。それを見計らって、彼女は大きく踏み込んだ。
視界を阻まれた上での追撃は予想外だったのだろう。彼女の目の前に構えていない大男の姿が映った。
波打つ刃の一閃は、大男に深い傷を付けた。大男の動向を見るべく、マトロクを中段に構えた彼女は、滴り落ちる赤い血と赤く染まる雪を見てそう確信した。
大男は片膝を付いている。動く気配が無い辺り、これ以上戦う事が出来ないのだろう。
「見事だ、剣使い」
「その怪我では寒さが堪えるはず。今後の決断は早いうちに」
「ワシを気遣うというのなら殺せ」
それを聞き、クシルカレはその大きな目を見開く。
「ワシに勝った者の手で死ぬと決めておる。…それとも、ワシに恥をかかせる気か?」
すると、大男の肉体より黒い紋章が浮かび上がり始めた。
「…これは」
「仕込みと言えば、分かるか」
その言葉を聞いた途端、彼女は怒りを抱いた。
それから間を空けずに深呼吸をして、彼女は自身を宥める。そして、時間があまり残されていないのを把握した。
大男は首に人差し指を数度当てる。
「止めるには此処を斬るしかない。こんなからくりに殺されるより、お前の手で死ねるなら本望だ」
「……」
マトロクの剣身は未だ波打っている。黒い飛沫を散らしながら、その刃は大男の首へと迫った。
弧を描くように雪が赤に染まった直後、男の体に浮かび上がった黒い紋章は消滅した。
一方、グッシュデムの周囲では冷気を帯びた突風が吹き荒れていた。
「この風じゃ、近づけねぇぞ…」
「ああ、援護とか要らないからねぇ。しても良いけど、命の保証はしないよ?」
大男達から不満の声が上がるが、細身の男は気にしていない。
少年もまた、気にせず細身の男の動向を追っていた。
突風から生み出される風の刃。それはあらゆる方向から少年へと飛んでくる。
少年はオシロビで弾いたり、避けるなどして風の刃を対処していく。それはまるで、飛んでくる方向が分かっているかのような動きだった。
「魔法の知識があるとは聞いたけど、それだけじゃあこの刃はかわせない。君、相当な手練だね」
少年は細身の男の猛攻から、割り込む事の出来る隙を伺っていた。
その直後、細身の男が迫るのを感じ取り、背後、空中より斬りかかる細身の男の剣閃をオシロビで防ぐ。
ある程度受けた後、押し返すと細身の男が着地しようとする。それを好機と見た少年は直ちに行動に移った。
一瞬炎をまとったオシロビの先を地面に突きつける。すると、亀裂のように赤熱する線が枝分かれをしながら広がり始めた。
危機を察知してか、細身の男がすぐさま飛び退いたと同時に、亀裂が熱を放射する。
オシロビのみに火属性の魔力を纏わせる『二の型』の一つ、『熱火甲・裂』を少年は繰り出していた。
雪を溶かし、顔を出した黒い土がすぐに乾く程の熱を数秒、放射した所でグッシュデムは棍の先を引き抜く。
その間に細身の男は剣身に風を纏わせた剣を構え、迫ってきていた。抜き終わると共に少年は、横に振り上げた右足で迎え撃つ。
すると、細身の男は攻撃を中断し、再度間合いの外へと逃げた。少年は右足を地面に着け、纏わせていた火属性の魔力を解除する。
「また、その結界か。切れにくい体と言い、それと言い、全く嫌になっちゃうねぇ…」
細身の男は、右足に『熱火甲・爆』を纏わせていたのを読んでいたのだ。
食らってでも自身の剣を当てに行かなかったのは、『熱火甲・爆』が全身に付与されたものだったか、あるいは『熱火甲・爆』の威力を想定したものだったと少年は推測を立てる。
そして、どちらにせよ好都合とさえ、少年は思っていた。
体勢を崩し、雪に塗れた体を起こし、細身の男は再度構える。
向こうの決着が付いた以上、次の一手で終わらせるつもりなのだろう。少年はそれを薄々感じ取っていた。
突風と共に、風の刃が複数飛んでくる。それらを捌きつつ、少年は細身の男の動向を伺った。
先程見せた急加速。残像は見えているが、男の動きは捉える事が出来ない。
ある程度の間、姿が見えなくなったのを見て、少年は背後に回り込んだ、と推測する。
背後に回り込んだのは、オシロビの防御をやりにくくする為。
風の刃を作り出したのは、動きを読まれても対処させない為。
魔法と剣術。そのどちらもを行使した、見事な技術だと少年は感想を抱いた。
毛頭、少年に諦めるつもりは無い。少年は、こうして姿を隠している事、これから行う反撃に一抹の後ろめたさを抱いた。
そして、細身の男はこれを以て相手が人間では無かった事を知る、と確信していた。
肉体に纏わせた火属性の魔力は一点に集中し始める。背中の中央部が激しく赤熱し始め――――火炎が一瞬、放射された。
振り向くと、火だるまになった細身の男が吹っ飛ばされている。少年は、少し腰を落とし、オシロビを引き、開いた左手を手前に構える。
全身と、オシロビを持つ手がより一層熱くなるのを少年は感じていた。
肉体、及びオシロビに火属性の魔力を付与する『三の型』。これは、多用するべきで無い奥の手だと、彼の師匠は言う。
理由は単純にして明快。彼への負担が大きすぎるからだ。元々、魔力を多く持てない彼の体質と相性の悪い技ばかりで『三の型』は構成されている。
『一の型』、『二の型』、『三の型』。魔力を付与する対象を選択する事で、分類の変わるこの技を使いこなす少年。その相棒である棍棒は、熱火棍『オシロビ』という名前を持っていた。
そして、隙だらけの細身の男へ繰り出す『三の型』は、『灼熱走波』という技。
火属性の魔力による加速と、オシロビの突きを併用する技である。
「…見事だよ、棍棒使い」
そう呟いたのを微かに聞きつつ、少年は後ろにしていた左足を強く踏み込む。2つの地を走る火炎と共に、少年の体は瞬く間に細身の男へと迫った。
左手を引くと同時に突き出したオシロビの先が男に当たるのを少年は見ずとも把握する。
オシロビから吹き上がった火炎が男を一瞬で包み込む。火炎が消えた頃には、黒焦げの人間が横たわっていた。
髭の大男と、細身の男。2人の実力者を倒された山賊が投降するのは、時間の問題だった。
こうして、雪国の者たちは魔族の手で勝利を収めたのだった。




