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魔の宴  作者: Gno00
Black March

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18/39

招かれざる客

 外壁の扉が差し掛かる直前、防寒着を身に着け、銃を背負った集団がクシルカレ達に合流する。

 警備隊に加え、外からの脅威に対抗する為の部隊も居るのだろう。中には、雪国の王が言ったように、背の高い者も混じっていた。


「どうぞ、こちらを」


 部隊の一人が畳んである厚めの布をクシルカレに渡す。広げてみれば、2人分の防寒着だという事が分かった。

 大きさを確認した上で小さい方をグッシュデムに渡す。そして2人は青い防寒着姿となり、フード部分を深く被る。

 両手両足を見なければ、部隊の者との違いが分からない程に、彼女たちの姿は溶け込んでいた。


「説明が遅れましたが、その服は姿を隠し、私たちと見分けを付けなくさせます」


 説明の後、彼女はグッシュデムの姿を見る。特徴的な角は何処かへと消えたかのように見えなくなっていた。

 部隊は外壁を登り、上から侵入を防ぐ者と、クシルカレ達と同様に外から迎え撃つ者達とに別れる。

 大きな扉を目前としたところで、部隊は持ち場につくべく行動を開始した。


 その中で、2つの部隊のそれぞれの隊長に彼女は声をかけた。


「あなた方は、魔法は使えますか?」

「まあ、使えるよ。あまり効果は出てないが…」

「水属性の派生、氷魔法だけならな。だが、たかが知れているし、それぐらいなら武器やら兵器やらを使った方が手っ取り早いしな」


 それを聞いて、クシルカレは薄く笑う。


「でしたら、今回は魔法も取り入れてみてはいかがでしょう?使える時に使わなくては、損ですよ」


 部隊長は顔を見合わせる。半信半疑な様子だったが、2人は頷いた。


「そうだな、考えてみよう」

「部下にも連絡して、使わせてみるか」


 そう言って、2人はそれぞれの持ち場へ向かい始めた。見送るクシルカレを、グッシュデムは見上げる。


「辛うじて抑えられている、という感じですね」

「勝てるかどうか分からないから、彼らにも持てる全てを出してもらう。まあ、今は勝ち負けを考えるよりも――」


 彼女は、自分を見上げる少年に目を向けた。


「――生き残ることを考えましょう」


 山賊たちを追い払い、生きて魔界へと帰還する。

 彼女の決心を見てか、グッシュデムは微笑み、応じた。




 雪原へと出た頃合いに、雪山は()()き始める。迎撃部隊は既に準備を整えていた。

 一人が指差したのを見て、部隊長は双眼鏡を覗く。クシルカレには、その大きな瞳で、それの存在を把握することが出来ていた。


 巨体を持つ無数の人影。徐々に大きくなっている辺り、近づいていると見て間違いはない。


「総員、構えろ!」


 部隊長の号令と共に迎撃部隊は姿勢を低くし、持ってきた銃を構える。上からも、号令らしき声が微かに聞こえてきた。

 それを見て、クシルカレとグッシュデムも準備を始める。クシルカレは見えない剣を持つように腰に手を寄せ、グッシュデムは自らの右腕を大きく後ろへ動かした。


「『マトロク』。私の元へ来て」

「『オシロビ』。力を貸してくれ」


 クシルカレは先程のように黒い光の塊を発生させ、グッシュデムは右腕を大きく振り上げる。

 彼の右腕に連動するかのように炎が地面を走り、次第に大きくなっていく。雪を溶かさないまま、やがて彼の右腕に触れた。

 触れた直後、彼の右手から炎が吹き上がり、一つの長い棒状の物を形成していく。

 冷まされたかのように次第に色が黒くなっていくそれは、炎が消えてなくなると、彼の手元に残った。


 柄らしき丸く細く削られた部分の両端に、小さな輪と、角の削られた長い六角柱を持つそれは、彼の手により六角柱側を下にして、地面に突き刺さる。

 見ると六角柱には、奇数列と偶数列に分かれて規則的に並んだ、膨れ上がった丸みが存在する。

 また、彼がそれを振り上げると、先端にも同じ丸みが存在する事が明らかになった。

 黒くなったその棒は時折、まるで脈動のように赤熱する。その異質さに目を向ける者がちらほら居ることを、クシルカレは視認する。


 サーベル状の武器、マトロクと、所謂、棍棒と呼ばれる形状の武器、オシロビ。

 それぞれの得物を出現させた彼女たちもまた、準備を整えた。


 集団が接近してきた事で、その正体が明らかになる。

 正規兵の者と殆ど遜色のない、鎧姿の集団だった。動きやすく作られているからか、彼らは積もった雪に足を取られる事無く足を進めていく。

 その先頭に、集団よりも一回り程大きな体格の男と、背中側、腰の上に剣状の得物を吊っている細身の男が居る。

 恐らく巨体格の男が山賊の長で、細身の男が彼らに味方する実力者、なのだろう。


 巨体格の男がその太い腕を前方へ向ける。すると、後方に居た大男たちが次々と外壁目掛けて突撃を開始した。

 王の話によると長銃から放たれる弾丸の多くは鎧に弾かれてしまうため、あまり効果が見込めないらしい。

 それに、大男たちの武器は最初から接近戦を想定したかのような、制圧力と破壊力に長けた大戦斧。あの体格ならば軽々振り回す事が可能だろう。

 国の戦力では10人であの大男たちの1人を抑え込むのがやっとなので、接近戦に持ち込まれれば不利になる。


 当然ながら、迎撃部隊は構えた長銃を発砲。激しい光が何度も銃口から放たれた。

 だが、効果は薄い。殆どは鎧の装甲に阻まれ、万一大男の体に当たっても、勢いを削ぐには至らない。


「射撃しつつ魔法の行使を急げ!持てる手段は全て使うんだ!」


 発砲音に負けない大声で、部隊長は号令を送る。それから、長銃を構える者たちは次々氷魔法を使う準備を始めた。

 大男たちが持つ斧が届くほど接近を許すより先に、部隊は氷魔法を放った。


 地面を走る氷が作り出され、まるで水面から浮上するように大きくなっていき、それは他の者が放った氷と混ざり合って大きく広がっていく氷を発生させた。

 鋭く尖ったそれらは鎧を貫き、男たちの足に突き刺さる。それを回避できた者も居たが、進み続ける自分の体を止める事が出来ずに、大きな氷に足を奪われ、前に倒れた。


「威力が上がっている…!?」


 部隊の1人が驚き、声を上げた。恐らく、今までの戦いならば見込める事の無かった効果だったのだろう。

 楔が破壊された事で、魔素の質が変化した。それによって行使する魔法の威力も上がったのだ。


 一方でクシルカレはこの国に来てから、自らの肉体より力が湧き上がるのを二回、感じていた。

 一回目は城の地下にあった楔を破壊した時。二回目は、部隊の者たちが魔法を行使する少し前である。


 向こうの楔も破壊できたと見て違いない。グッシュデムも同じように感じ、そう思っている筈。

 楔2本を破壊した状態で、何処まで力を出せるか試すべく、クシルカレは大男たちの元へ踏み込んだ。


 クシルカレが近づくその間に、倒れていた者が起き上がる。そして、接近する彼女を見て大きな斧を構えた。

 大男が行動するより先に彼女が構え、振り下ろしたマトロクの刃が鎧に当たる。だが、マトロクは鎧に弾かれ、小さくない衝撃が彼女の両腕に走る。


「甘いなあ!この鎧は斬れないんだよ!」


 勝ち誇った顔をした大男の斧が、振り下ろされる。その間に彼女は次の行動に移った。

 腰を落とし、刃も下ろす。一瞬、マトロクの黒色が増したのを見てか、大男は顔を引きつらせた。


 彼女が放ったのは振り上げ。その一撃もまた鎧に防がれる――はずだった。




 鎧は深く抉れて変形し、大男は血を吐き出し倒れる。大斧もクシルカレに当たる事無く落とされた。

 ありえない結果に、大男達は驚嘆の声を上げた。


「こ、こいつ、何をしやがった!?」

「剣でぶっ壊れるなんて、ありえねえ!」


 鎧の砕かれた男が起き上がらないのを見て、効果あり、とクシルカレは悟る。更に彼女は、大男の皮膚に煤のような黒い痣が広がり始めている事に気がついた。


 鎧を砕いた剣の一撃。その正体は斬撃ではなく、打撃であった。

 彼女が持つ闇属性の魔力、それは直接手段の1つとして行使する事も可能だが、マトロクに宿す事によって剣の性質を変える。

『純魔剣』と名付けられたこの変化に該当する、打撃に置き換えた斬撃を繰り出すこの技にも当然、『(くろ)(きり)』という名前があった。


 大男たちは焦りを覚えながらもクシルカレの元へと迫っていく。だが、彼女を包囲しようと接近した者たちは次々と『黒斬』の餌食となっていく。

 マトロクを振るう度に舞う黒い粒子が、次に近づいた大男の皮膚に触れる。すると、1人が悲鳴を上げた。


「あでででっ!!(いて)え!」


 痛みに呻く大男の顔が、徐々に黒色に侵食されていく。それを見ていた大男の仲間の肌も、黒色に侵食され始めていた。

 マトロクが宿す、闇属性の魔力の特性に、彼らは体が蝕まれている。クシルカレは表情を変えずにそう思った。


 だが、それを恐れずクシルカレに迫る者たちが現れ始める。次第に皮膚の痛みを表に出す者よりも、その者たちの数が上回った。

 1人1人、時に他の者を巻き込んで、クシルカレは順に対処していく。しかし、彼女1人でさばき切れる数では無かった。


 たちまち、追い詰められていただろう。――彼女1人だけ、では。


 クシルカレの周囲に集中する大男達へ大きな氷弾が放たれる。更に氷の刃や地面を走る蛇のような氷と、氷にまつわるものが彼女を助けた。

 言われずとも、彼女には迎撃部隊の援護だと判断できた。一瞥すると、いくばくか自信のある表情で、彼らは長銃の射撃と交互に氷魔法を行使している。


 そして、彼女を助けるのは、彼ら迎撃部隊だけでは無かった。


 ある程度の距離から、男たちの断末魔が微かに聞こえてくる。また、他の大男を巻き込むように、弾き飛ばされた者がちらほら現れ始める。

 その者たちより一瞬火の粉らしきものが見え、彼女は確信する。グッシュデムの仕業だと。





 先に突撃したクシルカレと少し離れた少年、グッシュデムは彼女の様子を確認しつつ、外壁へ迫る男たちを相手取る。

 オシロビの異様を見てか、男たちの顔が引きつったように見えたが、すぐに自信に満ちた笑みに変わる。 


「何だ?そんな棒きれで俺たちと戦おうってのか?」


 様相通り、見下した態度を取っているが、そう言われる少年は、特に不快とは思わなかった。

 それもその筈。少年は大男たちの実力を知らないからだ。また、大男たちもそうなのだろう、と彼は推測する。


 得物である大斧に容易くなぎ倒されるかもしれない。あるいは、それとは違う結果が生まれるか――


 彼は、自分に都合の良い結果を考えようとはしなかった。ただ冷静に、得物であるオシロビを構える。

 そんな彼へと大斧が振り下ろされる。受けるのは無理だと判断し、避けながら大男の動きに割り込む。


 彼の振るった横薙ぎが、大男の脇腹へ叩き込まれる。大男を守っていた鎧が砕け、大男は弾き飛ばされた。

 それを見ていた大男達が一瞬驚いた気がしたが、彼は気にせず構え直す。


「こいつ、何しやがった!?」

「何かの間違いだ、そうに違いねえ!」


 今度は2人同時に襲いかかる。対処は無理だと判断し、グッシュデムは後ろに跳んで回避する。

 煙幕のように舞った雪の中から大男が1人突進してくる。彼はそれを見て、オシロビの持ち手を左手のみにし再度構え直した。

 先程とは若干角度を変えた振り抜き。だが、それが見えたらしく、大男はオシロビをかわす。


「得物さえかわせりゃ、隙だらけ――」


 次の瞬間、少年の右足が迫ってきていた。恐らく大男にはそう見えていたのだろう。

 火の粉を散らしつつ、少年の蹴りが大男を大きく弾く。鎧に焦げたような跡のある凹みを残しつつ、男は倒れて動かなくなった。


 彼が振るった足を接地させたと同時に、足に纏わせていた炎は消える。

 それと同時に、もう1人大男が突進を仕掛けてきた。既に斧を横に構えており、回避は難しい。


 先程見せたような、大斧による横薙ぎ。体格差からして受けるべきではないが、一か八か、少年は賭けに出た。

 振るわれた斧に両手を使ってオシロビを割り込ませる。瞬間、大斧の刃がオシロビに当たる。


 少年の体は横に弾かれた。姿勢こそ崩してはいないが、無理に動かされた為か、足元の積もった雪が抉れて小さな山が出来てしまっている。

 大斧を振るわれた場合の威力を体感した。衝撃が響いた両手の感触を確かめ、少年は次の行動に出る。


 グッシュデムがオシロビを上段に構えると、オシロビから炎が吹き上がった。

 その様相を見て、悪い予感がしたのか、先程突進を仕掛けてきた大男は再度踏み込む。

 足を進めながら、刃を隠すように持ち手を振り上げる。恐らく、攻撃が届く前に叩き潰すつもりなのだろう。


 ――だが、男の動きよりも、少年の踏み込みの方が早かった。

 足元の雪を溶かしていき、足跡のような小さな炎を発生させつつ男の懐へ迫る。

 斧が振り下ろされるが、もう遅い。オシロビが男の着ている鎧に命中するのは時間の問題だった。


 表面が焼き焦げた鎧が砕けると共に、大男は崩れ落ちる。少年は前髪に隠れた右目で男の様子を見るが、起き上がろうとする様子は無かった。




 片や、剣の性質すら変える闇の魔力を纏わせた剣術。

 片や、肉体はおろか得物にすら炎の魔力を纏わせる棍棒術と体術の併用。2つの独特な戦い方を目の当たりにし、大男たちから当初の勢いは削がれていた。


 そんな中、微かに拍手の音が聞こえてくる。グッシュデムとクシルカレは、その音の方を向いた。

 見ると、長剣を腰に吊っている細身の男と、先程までの者たちと比べて、一回り大きな大男が2人の元へ近づいてきていた。

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