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魔の宴  作者: Gno00
Black March

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16/39

接触

 接触せずに森から離脱するのは難しい。だが、なるべく自分から接触するような事は避けておきたい。

 そこでカルバネラは来た道を引き返すのでは無く、別の道を確保する方法を思いついた。


「スロン、この屋根を脆くしろ」

「分かったよ、カル兄!」


 スロンが上へ右手を構えたのを見てからカルバネラは屋根を殴りつける。

 遺跡同様黄金色の金属で出来た屋根はいとも容易く破壊され、前方へと飛んでいく。

 こうして、カルバネラでも飛び下りる事が出来る程の空間が確保された。それと同時に、物音に気がついたのか、足音が迫ってくる。


「行くぞ!」


 スロンとカルバネラは一斉に屋根の上へと下りる。そして、ある程度走った後、遺跡の外へと再度下りた。

 その直後にカルバネラは遺跡周りの魔素の遮断を解除する。振り向けば、追っ手がまだ追いついていない事と、ゴーレムが地中から出てくるのが見えた。


「やはり、遺跡そのものの機能じゃったか!」


 既に十分な量の魔素を蓄えていた楔が機能の1つとして備えていた可能性もあったが、カルバネラは遺跡が持つ機能の1つでは無いかという予想を立てていた。

 やぐらへ向かう階段を上がっていた際に天井から楔の一部分が突き出ているのを確認し、外壁と楔の様子とを比べて、楔の方が新しい事に彼は気がついた。

 つまり、楔は遺跡が造られた後にこの場所に置かれたものだと彼は結論づけていた。


 それを踏まえた上で、争いがあったからには、外敵の侵入を阻止する機能が後付で用意されたものではないと考え、楔を破壊した後も彼は魔素の遮断をすぐに解除しようとは思わなかった。

 そして、遺跡を脱出した後に魔素の遮断を解除してみれば、ゴーレムの生成が再開された。彼の予想は正しかったのである。


「あれで遺跡の中に居る連中は足止め出来るじゃろう。乗れ、スロン。お前はしばらく休んでおれ」

「良いの?…じゃあ、お言葉に甘えて」


 スロンは走る六本足の一本に寄り、それからカルバネラを飛び越えるように高く跳躍する。

 彼女の体はカルバネラの広い下半身へと着地し、彼女はくつろぎ始めた。


 四本の角を持つ青肌の少女を乗せた、仮面の怪物が森の中を駆け抜けていった。




 遺跡から遠く離れたが、カルバネラは走り続ける。


「エルナーテよ、人間の集団は遺跡に来た者達だけじゃったか?」

「人間らしき反応が複数、そちらに接近しています。別の集団だと思われます」


 人間たちを撒くのは不可能か。カルバネラは不都合な状況下に置かれているものと知り、足の速度を緩める。

 乗せているスロンに配慮しつつ、彼はゆっくりと足を止めた。


「スロン、済まぬな。面倒な事になってしもうた」

「カル兄は悪くないよ。それに、結構疲れてるでしょ?後は私に任せてよ」


 楔を破壊した影響からか、具合の悪そうな数時間前と違い、今の彼女はいたって元気そうにしていた。

 スロンが身構えると共に、カルバネラもまた浮遊する両手を構える。迎え撃つ準備は整っていた。


 風が草葉を揺らしてから、事態は急変した。


 草陰から掛け声と共に1つの人影が飛び出す。その正体である軽装を身にまとった若い男が剣を構えたままカルバネラへと突進する。

 構えた剣を横に振るうのに合わせ、カルバネラは右手の甲で受け止める。勢いを完全に殺してから剣を弾いた。


 続いて、木の暗がりから黒い外套の男がスロンの後方より迫り、それに気づいたスロンは後ろに飛んでかわす。

 息をつかせる暇もなく、着地した男が再度彼女に迫るも、スロンは放たれた拳を軽くいなして反撃に転じようとしていた。

 だが、彼女が反撃するよりも早く、男が離脱すると、男の居た位置より奥から大きな火球が彼女へと迫ってきていた。


 若い男の攻撃を右手で対処しつつ、カルバネラは空いている左手でスロンの前方の魔素の流れを遮る。

 そして火球は彼の予想通り、彼女に当たる前に自然と消えた。それを見てか、スロンは彼に微笑みを見せた。


「魔法が打ち消されてしまいました!…一体どうして……」

「分からない。さっきこの怪物が手を構えるのを見た。何かしたんだろう」


 草陰から声が聞こえ、それに軽装の若い男が返事を送る。


「そもそも、こんな生物、この森に居たか?」

「一応聞いておく。そこの女、お前たちは何者だ?」


 黒い外套の男の呟きに続いて、若い男がスロンへと声をかける。

 様相は違えど、人間に似た姿をしている為、会話を試みたのだろう。

 カルバネラへと目配せを行ってから、彼女は口を開いた。


「知らないなら知らないで、良いんじゃないかな。言ったところで信じてもらえないだろうし」

「訳の分からんことは良い。さっさと答えろ角女」

「この子の言う通りじゃ。お前さんらに知ってもらう必要はない」


 カルバネラが発言すると、人間たちは一斉に驚いた。そこまで驚くことなのか、とカルバネラは目を開閉させた。


「ただ、元々この森に住んでいるという訳では無いとだけ言っておく。それに、この森にもう用は無いからのう。お前さんらが来なければ、すぐにでも帰るつもりだったんじゃよ」


 すると、若い男は一度は下ろした剣を再度カルバネラへと向けた。


「みすみす逃すわけにはいかない!お前たちは怪しすぎる」


 やはりこうなってしまうか、とカルバネラは目を閉じる。それから、スロンがかばうように前に出たのを確認した。


「言ったでしょ、私に任せてって。カル兄は下がっててよ」

「元よりそのつもりじゃ。儂も少し疲れたからのう」

「そうはさせるか!」


 若い男がカルバネラに攻撃を仕掛けるも、カルバネラの持つ右手がその前に若い男の体を弾き飛ばす。


「うおおおっ!」


 すると屈強な男が雄叫びと共に木陰より飛び出し、大きな斧を構えたままカルバネラへと突進を仕掛ける。

 だが、彼が得物を振り下ろす前にスロンが目の前に現れ、斧を蹴って彼を弾き飛ばした。


 彼らが距離を離された事で、カルバネラの離脱を止める者は居なくなった。…とは言えど、戦いの場から少しばかり離れるだけだが。

 カルバネラはその大きな下半身を地面に落とし、彼女の戦いを見物する。不慣れな地上世界で、楔を1本破壊した状態で、何処まで戦えるのか。


「さて、カル兄が離れたことだし、私も頑張らないとね」

「はん、小娘一人に何が出来る?」

「あまり相手を見くびるな、何か仕掛けてくるぞ」


 黒い外套の男をたしなめつつ、若い男が警戒する。他の者達も、彼と同じように武器を構えた。

 スロンは左手の手のひらを上にして、斜め上に掲げる。


「おいで『バクサル』」


 すると彼女の左手の上に、光の粒が集まって物体を構築し始める。そうしてこの地上界に呼び出されたのは、青の球体だった。

 球体の中央に金属製の輪をはめ込んだそれを手に取ると、そっと地面に下ろして踏み押さえる。

 球体から放たれる青い光が球体を点滅させる。それはまるで脈動のようだった。


「暴れちゃおうか」


 球体を見つめて彼女は微笑む。そんな彼女に黒い外套の男は無防備にも近づいた。


「何だよ、そんな玉がお前の得物か?」


 へらへら笑いながら近づく男を見て、カルバネラは開いていた大きな目を半目にする。

 スロンは黒い外套の男を捉えると、先程まで球体を押さえていた足を地面に付ける。

 そしてその足で球体を思い切り蹴り飛ばした。球体に速度が加わり、それは無防備な男へと一瞬で距離を詰める。


 次の瞬間、男の体は大きく後方へと弾き飛ばされた。球体は男の腹に少しの間刺さると、跳ね返ってスロンの元へと戻ってくる。

 何が起きたのか。人間たちは理解できない顔をしていた。カルバネラは当然の結果とばかりに目を閉じる。


 青玉『バクサル』。それが彼女が呼び出した球体の名前である。

 主に投げたり蹴ったりなどして飛ばして使用する武器であるため、それに適した球体状に作られている。

 球体の硬度だけでなく、それに彼女が加えた速度が上乗せされて威力となる。彼女の力加減次第で化けやすい武器だ。


 返ってきたバクサルを足で受け、数度リフティングさせると今度は屈強な男へ蹴り飛ばした。

 得物である斧で辛うじて防いでみせたが、蹴った直後のスロンの追撃には対応出来ない様子だった。

 だが、それをみすみす許す人間たちでも無いらしい。先程火球を放った魔法使いが再度火球をスロンへと放つ。


 追撃を直前で止め、スロンは火球を受けつつ、宙を舞う自身の軌道を変えて綺麗に着地してみせる。

 火球の直撃を受けたが、彼女は至って平気な様子だった。彼女の近くに先程弾かれたバクサルが落ちて弾む。


「おかしいです、まるで効いていません!」

「もしかして、魔法の威力を殺されたのか?」


 カルバネラはそれが正解じゃ、と心の中で呟く。彼女が持つ能力、弱体化の中に、魔法に関するものも含まれている。

 魔法抵抗と呼ぶそれは、スロンもしくは彼女が選んだ対象が受ける魔法の威力を弱めるもの。

 それにより、火球の威力は彼女が無傷でいられるほどに下げられていた。


「お前たち、大丈夫か!?」

「何とかな…くそっ、良いもん貰っちまった……」

「一撃だけでもこの威力か…腕がまだ痺れる」


 黒い外套の男は倒れていた体を起こし、屈強な男は斧が上手く握れない様子でいた。

 軽装の男はそんな二人を見て、額から汗が流れ落ちる。おそらく勝てる見込みがないのだろう。


 スロンは出方を伺っている。戦いの終わりが近いと思った、その時だった。

 青い葉が揺れたと思うと、2つの人影がスロン目掛けて飛び出す。それらは目にも留まらぬ速さで一気にスロンへと間合いを詰めた。


 スロンは右へ左へ体を反らし、それらが繰り出す攻撃をかわしていく。上半身を狙われた時には腕を割り込ませて軌道を逸らして見せた。

 だが、相手の攻撃が速すぎたからか、ある程度攻撃を対処すると、軽い跳躍で後退する。見ると、スロンとカルバネラの距離は縮まっていた。

 彼女が振り返って、それを認識する。その直後に彼の目配せを見て軽く頷いた。


 彼女が正面へ向き直る頃には、新たな人間が2人、立っていた。

 金髪の少年らしい、同じぐらいの背丈の男2人。前に出ている一本の三つ編みが鏡写しのようになっているのを見て、双子なのでは無いか、とカルバネラは予測を立てた。


「見慣れない姿をしているね、兄さん。あの遺跡から逃げ出したのって、こいつらかな?」

「多分、そうだろう。ゴーレム達を利用するとは、中々頭が回る」


 兄、と呼ばれた右手側に三つ編みのある少年がちらりと後ろを見る。味方であろう者達の損害状況を冷静に確認してからスロンに向き直った。


「少しすれば他の仲間たちも追いつく。それまでに仕留められれば良いが」

「じゃあ、行くよ、兄さん」


 再び2人の姿が消える。微かに見える残像らしきものが、スロンの左右へと接近する。

 それを視認すると、スロンは前方に置いたままのバクサルに手を向ける。

 すると、バクサルは浮遊し、独りでにスロンの元へと戻っていく。頃合いを見計らって、彼女はそのバクサルを踏みつけた。


 バクサルを中心に青い光が半球状に広がっていく。それは、彼女だけでなく、彼女に近づく2人、また彼女の近くに居たカルバネラすらも包み込んだ。

 青い光が消えた頃には、スロンの左右に、攻撃を中断した2人の姿が見えていた。


「ぐっ、目眩ましとは…」

「だけど、それだけだよ、兄さん。逃げた訳でも無ければ僕たちに攻撃した訳でも無い」

「視界が悪くても対処する算段はついてるだろうし、逃げたところで、追って攻撃してくる、でしょ?」


 双子の兄弟の会話に混じりつつ、双子を見やる。

 バクサルを踏む彼女の足には、球体から外れた輪が近づいていた。


「エルちゃんには迷惑かけられないし、ここで区切りを付けておかないと」


 輪は彼女の足に合うよう形を変え、彼女の装備となる。その輪からは、バクサル本体と繋がる青い管が伸びていた。


「何それ、囚人の真似?」


 少年たちはまたも踏み込む。兄弟だからか、息の合った動きだった。

 だが、その挟撃も、彼女が上へ飛んだ事でかわされる。青い管を少し伸ばしつつ、バクサルも宙に浮かぶ。


 先程軽口を叩いた弟であろう少年がその追撃に向かう。それを迎え撃つ為、スロンは輪の付いた左足を大きく振るった。

 足の動きに連動して、バクサルが少年へと迫る。だが、それは難なくかわされた。


「空中に逃げたのは間違いだったね!」

「それはどうかな?」


 振るったばかりの左足を上げ、連動するバクサルを引き上げる。

 自分から迫ったばかりに、バクサルとスロンに挟まれる形になってしまった。逃げようにも、スロンが許さないだろう。

 何故、空中でこんなにも動けるのか。少年が思っているだろう事を考えつつ、カルバネラは、真に終わりが近い事を悟った。


 背中からバクサルが直撃し、少年の体は大きく打ち上がる。そしてそれをスロンの右手が打ち落とした。

 絶叫と共に、少年の体は地面へ叩きつけられる。一度途切れた後に再度上がった絶叫は、その痛ましさから断末魔とも取れた。


「どうしたんだ、しっかりしろ!」


 兄が駆け寄るも、弟はうずくまるばかり。それを尻目とばかりにスロンは静かに降り立った。


 痛覚強化。恐らく先程の光は兄弟にそれを付与したのだろうとカルバネラは予想する。そして、スロンの攻撃を食らった少年の様子を見て、それは確証となった。

 これもまた弱体化の一種であり、対象が攻撃を受けた際に生じる痛みをダメージに関わらず何倍にも膨れ上がらせるものだ。

 今の少年のように、攻撃を受けてしまえば動けなくなるのが殆ど。例外を除けば通用しやすい為、スロンは好んでこれを使用する。


 今は苦しんでいるこそすれ、時間が経てば動けるまでには回復する。そして、人間たちにこれ以上戦おうとする意思が無ければ、増援が近い様子も無い。

 撤退するには、今が好機だった。


「そろそろ良いかな、カル兄」

「ああ、もう良いじゃろう。エルナーテ、近くにおるか?」

「はい。撤退の準備をします」


 すると、スロンとカルバネラの頭上に、小さな鏡の欠片が出現し、間を置かずにその欠片は大きく広がる。

 それは静かに彼らの下へと降りていく。人間たちは、ただその光景を見ているだけだった。


 こうして、大森林の中より魔族は姿を消したのだった。

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