表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔の宴  作者: Gno00
Black March

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/39

砕かれる門

 灰色の岩肌を晒す山岳地帯。その薄く雲の広がった青空の下に、小さな鏡の欠片が出現した。

 独りでに浮いているそれは突如として大きく広がっていき、やがて巨大な欠片へと変化する。


 その中から巨体の怪物、ヒルトが姿を現し、蛸足の少女、エルナーテも姿を現す。


 彼らの眼前、遥か向こうには黒紫色の長方形が見えていた。あれこそが、地上界と魔界を繋げる門。

 ヒルトは門を確認し、続いてエルナーテの様子を見る。少し顔色が悪くなっていた。


「体調はどうだ?苦しいなら一度魔界に戻ると良い」

「平気…です。やはり、慣れませんね、地上の空気には」


 魔界と地上界とでは空気に含まれる魔素の量が異なる。魔素の少ない地上界は魔族には不向きな環境だった。

 事前調査の名目でヒルトはエルナーテとグッシュデムを地上に連れ出した事がある。だが、その時も二人は地上の影響で体調を崩してしまった。

 その時と比べれば、少しだけ元気になっている。免疫がついたことは喜ばしい事だが、無理をさせている以上ヒルトは心苦しく感じていた。


「歴史の本で知りましたが、元々あの門は魔界のものでは無かったそうですね」

「そう。あれは天使が魔界と地上とを繋ぐ為に造ったものだ」


 装飾と色合い、そして強度の高い造りは、この門もまた魔界の技術で造られたものだと誤認させる為。

 度重なる魔族の地上への侵出、その反撃として、人間たちであっても魔界へ乗り込む事の出来る門を500年前に天使が作り上げ、それが現存している。


「地上に来るのにも、魔界へ戻るのにも、あの門は必要ない」

「それに門を破壊すれば、人間たちは魔界に来れなくなります」


 ヒルトは首肯する。想定できる脅威の侵入経路が無事なままではこの計画はすぐにでも破綻する。

 どれだけの効果があるのかは分からない。だが、門を破壊することは計画の成功確率を大いに引き上げるものだった。


「門の周囲に生体を発見。おそらく人間の集団と思われます」

「追い返した者達とも違う。あの者達の話を聞いて、確かめに来たか」


 ヒルトもまた、エルナーテの報告を元に確認を行う。ヒルトの持つ一本足の裏側には、無数の触手が蠢いている。

 その触手がヒルトを中心にしたおよそ500m圏内の足音の反響と、数多くの熱源を捉えた。

 そして遠方より複数の人影を視認する。確かにその者達は黒き門へと向かっていた。


「あの者達が辿り着く前に破壊せねばな。エルナーテ、門の周囲に結界を張ることは出来るか?」

「お任せください」


 右腕を振るい、彼女は結界を張る準備を整えた。ヒルトもまた、両手を前へ突き出す。






 魔界から出てきた者達。その者達の言葉はとても興味深いものだった。


 魔族を見た。これ以上魔界へは立ち寄るな。彼らは口々にそう言う。数日もすれば彼らの同業者の耳に入るだろう。

 だが物事の真偽が分からない。滅んだとされる魔族が500年経った今頃に、何故?


 分からない以上は確かめる必要がある。俺たちはその為に魔界に通じる門へと赴いた。


「魔族に生き残りが居たのでしょうか…」

「分からない。見間違えたという可能性もある」


 彼らは魔族と接触した根拠として我々に小さな麻袋を見せた。開けてみると、大きさは同程度の小粒の宝石が詰められていた。

 彼らはそれが魔石だと言う。にわかには信じがたいが、目利きの魔族が持たせてくれたとか。

 我々も魔石を見たことがあるが、これほど小さな魔石は見たことが無い。しかし、価値がありそうな物だとは理解できた。


 これから、目利きの者に鑑定してもらうと言う。俺たちの部隊から小隊を分け、彼らの護衛として同行させた。

 近隣の街と魔界の門。目的地は違えど、俺たちは確実に向かっていた。


 目の前に黒い長方形が見えてくる。あれこそが、魔界の門だ。


「…門番の姿が見えませんね」

「おそらく避難しているのだろう。彼らの役目は門の見張りであって門から出てくるであろう化外を倒す事じゃない。それに、彼らが居なくなれば誰が門の異変を伝え聞かせるというんだ」


「ほとぼりが冷めたら戻ってくるだろう」と俺は付け加える。ある程度門に近づいたところで俺は部隊の動きを止めさせる。

 身を守る装甲としてはいささか頼りない厚さと強度だが、それでも無いよりかはましな鎧姿の集団が振り向いた俺を見る。


「よく聞いてくれ。ここから先、何が起きるかは想定し難い。相手は我々の常識が通用するようなものでは無いと思え。各自、敵を倒すことよりも生きて情報を持ち帰ることを優先しろ」


 ましてや、この地上と違い、異常なまでの冷気に包まれた世界に好き好んで住んでいるような連中だ。こちらに都合の良い()()なんてのは捨てるべきかもな。

 力強い返事を受け取り、再び部隊を動かそうとした、その時だった。


 一人の部下が空を指差して、何かを見る。その視線の先には、異様な光景が広がっていた。

 巨大な物体が落ちてきている。表面からして岩石だと分かるが、それは落石というより、まるでおとぎ話に出てくるような、隕石のようだった。

 大気を割いて落ちてくる隕石は門に接触しようとしている。周囲にどれだけの被害が生じるかは想像に難くない。


「全員退避!物陰に隠れろ!」


 出来る限り門より離れるのも一つの手だが、その場合誰か一人が何らかの要因で倒れたら、それが連鎖して逃げ遅れてしまうか、想定外の被害が生じてしまう。

 時間はあまり残されていない。ならば遠くへ逃げるよりも、近場の物陰でやり過ごす方が最善と考えた。

 上ってきた坂道も、ある程度下って伏せれば物陰となり、被害を軽く抑えることが出来る。部下たちに坂道をある程度走らせ、姿勢を低くさせた。


 俺が伏せた頃には、門に隕石が接触していた。

 砂埃が入らないよう目を閉じる。しかし爆音が生じただけで強風は吹いてこなかった。

 目を開けてみると、またもや目を疑う光景が映り込んだ。


 球体状に広がる薄い白色の不思議な模様が、門の周囲を包み込んで、隕石が生む衝撃を防ぎきっていた。

 爆風と砂埃も、その模様がせき止めている。ある程度衝撃が和らぐと、模様は溶けるように消える。


 不思議な模様が受け止めた事で、被害は最小限に抑えられた。俺たちは呆然とする。


「…何だったんだ、今のは……」


 隕石の落下した先、そこには無数の岩の欠片と、粉々になった門の残骸が落ちていた。







 巨岩の投下による門の破壊は無事に成功した。門は粉々となり、人間たちは門だったものから遠のいていく。

 門の周囲の様子を確認した後、続けてエルナーテの様子を見る。依然顔色は悪いが、それでも先程とあまり変わらない。


「こちらの門は破壊できましたね。魔界側の門にも変化が無いか確認してみます」

「ああ。では、戻るとしよう」


 鏡の小さな欠片が彼らの頭上に出現し、それが大きく広がったものが彼らへと降りていく。

 降りる欠片が少しずつ彼らの姿を消していき、欠片が消えて無くなる頃には彼らの姿は完全に見えなくなった。




 ◇◆◇




 広場に戻り、集まった魔族たちが、ヒルトの方を見る。彼は今後の作戦について話し始めた。


「地上界と魔界、2つの世界を繋げていた門を破壊し、1つの懸念事項は無くなった。これにより、我らの作戦は成功に一歩近づいた。喜ばしいことではあるが、まだ懸念事項は残されている。続いて、その懸念事項である地上界に打ち込まれた楔、それら全てを破壊する作戦に入る」


 左右を見た後、ヒルトは続けた。


「まずは近場の楔から破壊を行う。門より南西に位置する森林にある楔をスロンシェイル、カルバネラ、エルナーテが、門より東に位置する雪山にある楔をクシルカレ、グッシュデムが担当し、どちらも破壊せよ。楔はこの世界を封じ、繋ぎ止めているだけでなく、地上界にある魔素を吸い上げ、その量を低く調節している。だが、我らの魔力をもってすれば破壊は容易い。現地にて他の知的生命体と接触した場合は、各自の判断に任せる。不慣れな地上界故、苦労をかけさせると思うが、各自協力して事にあたれ」


 各々の承諾を受け取り、ヒルトは作戦の開始日を伝える。


「開始日は明日だ。時間がかかっても、もし失敗したとしても構わん、生きてこの世界に帰還せよ。但し、この世界に時間はあまり残されていない事を忘れてくれるな。では解散せよ」


 魔界の防衛はヒルトだけで行う。今はこの世界を守ることよりも、この世界を蘇らせることが重要だった。

 魔族たちが広場を後にするのを見て、ヒルトもまた、魔界の闇の中へ消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ