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第九話 鎮魂祭とメイド喫茶

「女神リーヴィアよ。この者達に祝福を……」


 神官の長い祈りの言葉と同時に、その場にいる者達は一斉に黙祷を捧げ始めた。先の戦闘で亡くなった人達の永眠祭。この国では死に対して、永眠という言葉が用いられる。来世の復活までの一時的な眠りとして捉えている為だ。


 神官の云うリーヴィアとは、この世界、ルドウェアを創造したとされる神様の一人。この世界は、女神リーヴィアと男神エリオドアによって創造され、女神リーヴィアは生命を誕生させたと云われている。つまりは、この世界の人達の母親みたいなもんかな。


 だけど、私がこの世界に来る時に、七賢人である(セイ)のクレオブロスが、自分達が創造した。と、ハッキリ言っていた。この違いの意味は一体何なのか? 一生懸命考えても答えが見つからない。



 先の戦闘から一週間。街は徐々に活気を取り戻そうとしていた。騎士団からの発表によると、自然発生的に魔物が押し寄せて来た事になっている。だけど、あの場に居た者なら大抵分かる筈だ。アレは人為的なモノであった事を。ネズミと狼が共に群れを成すなんて事はないのだから。


「ミーキー、一緒に帰ろ」


 参列した人達が、元の生活に戻る波の中から目敏く私を見つけたリアナが、私の腕を抱きしめる。


「ちょ、リアナ。当たってるって」


 華奢な体型が多いエルフ族の中でも、リアナは別格なマシュマロをお持ちだ。それが、フニュフニュと腕に感じる。


「当ててんのよ」


「それは男子にやりなさいよ」


 真顔で言うリアナに、私は即座に突っ込んでやった。


「ねね、緋赤(ひしゃく)の悪魔って噂、知ってる?」


 ひしゃ……え?


「なにそれ」


「何でも赤く光る魔物が、夜中草原に出没するんだって。その魔物が通った後には焦げ跡が付いているって話。それに、森の中では大木が切り裂かれていて、魔物の死骸もあったそうよ」


 あー、ソレ心当たりあるなぁ……。移動時の疾走状態を誰かに見られていたのか……そんな変な噂が立っちゃってるなら、暫くは控えた方が良いなぁ。


「そういえば、もうすぐお祭りだね」


 私はシレッと話題を逸らす。態度とかひょんな事から気付かれるかもしれないし……


「だねぇ。毎年かなり賑やかになるよ」


 話を聞くと、この国では年に二回お祭りが行われるらしい。元の世界での五月には、男神エリオドアの荒ぶる魂を鎮める鎮魂祭。十月には女神リーヴィアに感謝を捧げる豊穣祭が行われる。


 そのどちらも、国を挙げて大々的に行われるお祭りで、近隣の村々からだけではなく国交がある他国からも王族や貴族を招き、それを聞き付けた商人達、大道芸や吟遊詩人もやって来て、毎年てんやわんやの大騒ぎになるという。


「去年、アカデミーは何をやったの?」


 リアナは人差し指を顎に付け、空を見上げた。


「んんっとねー、確か……模擬戦だったかなぁ」


 リアナの話によれば、去年は一対一形式の勝ち抜き戦が行われたらしく、結構人気な催し物だった様だ。


「去年好評だったから、今年も同じモノやるかもね」


 リアナは、つまらなさそうにそう言った。



 黒板に書かれた字を見て、リアナはやっぱりかとため息を吐いた。まぁ、去年好評だったのなら、そうなるわな。こうやって何をやるかと、黒板に書き出されているのを見ると、去年の学園祭を思い出す。もう、遠い過去の出来事の様で何処か懐かしい。


 去年、元の世界での学園祭は定番の喫茶店だった。ただし、女の子達はみんなメイドだ。コレが思いのほか人気でとても好評だったが、男の子達がやたらと私の写真を撮りたがるので困っていた事があった。


「メイド喫茶かぁ……」


「おい、アウレー。メイドキッサってなんだ?」


「メイドってなに?」


「あ……」


 ポツリと呟いた私の方を、クラスのみんなが一斉に振り向いていた。シンと静まり返った室内で、思いのほか大きく呟いていたらしい。これは言い逃れ出来なさそう……


「メイドっていうのは、使用人って意味なのよ」


 正直、メイドと使用人の違いは私にもよく分からない。コレで多分合ってると思う。


 この世界には私が知っているメイドは居ない。代わりに使用人という職業が存在する。雇い主のお世話などをする仕事である。その使用人も王族や貴族、それなりのお金持ちくらいしか雇ってはいない。むしろ雇えない。


「それで? メイドキッサっていうのは一体何をするモノなんだ?」


「あー、えっとね。使用人の恰好話し方で、お客さんを雇い主のご主人に見立てて、飲食物をお出しするお店」


 概ね間違いではないと思う。私の説明を受けたその男の子は、なるほど。と、口に人差し指の腹を当てて考え込んでいる。あー、嫌な予感が……


 そして翌日。私の予感は見事に的中した。私の目の前には、こんもりと山積みになっている使用人の服。


「ウチの使用人のを借りてきた」


 昨日、考え込んでいた男子生徒が、家からゴッソリと持って来たのだ。その人の家が使用人を雇える程の貴族だった事にも驚いたが、素でこの服を持って来たのにも驚いた。……え? マサカこれで決定なの?!


「え? あの、まさかヤルの?!」


 その男子生徒は、何を言ってるんだキミは的な表情で私を見ていた。


「きょ、去年やったヤツで良いんじゃない?! ホラ……模擬戦だったっけ?」


 流石にメイド喫茶なんてモノが、この世界でウケる訳がない。私は一生懸命修正行為を行なった。


「いや、コッチの方が面白そうだ」


 男子生徒の一言で皆が夫々頷いた。うわっ、修正失敗してね?


「メイド喫茶なんてウケないと思うけどなぁ……」


 仮にも騎士を目指している者達が、使用人の格好で飲食物を振る舞うなんて、世間体が悪いのではなかろーか?


「いや、アウレー。コイツはウケるぞ。今迄に無かった発想だからな」


 そりゃまあ、私の世界の日本が発祥のモノだしね。そもそもだ。私達が給仕するとなると、男子(あんた達)が食べ物を作るんだぞ? 作った事なんてあるのか? 家事は女の仕事。と、思っている人も居るくらいなんだし。


「あんた達、調理なんて出来るの?」


「それくらい習えば良いさ。なあ、みんな」


 男子はこぞってサムズアップする。しかも爽やかな笑顔で、だ。……終わった。私の修正説得は失敗に終わったのだった。


「さあ、女の子達は着合わせしてみてくれ」


 ワッと使用人の服を手に取る姿は、まるでバザーに群がる人達そのもの。かくして、メイド・イン・ルドウェアのファッションショーが始まった。



「んーちょっとキツイかな……」


「胸がブカブカー」


 女の子達が夫々に着替え、あーでもないこーでもないと意見を言い合っている。私も使用人の服を着てみたんだけど……ナニコレ。胸元は大きく開かれていて、コルセットによってギュッと寄せられた谷間が丸見えだ。それにスカートの丈がやたらと短い。コレ絶対別な目的で作られただろっ! うう……やだよぉ、こんな恥ずかしい服着るのは……


 ゾクリ。背中に誰かの視線を感じ、身体がビクリと震えた。


「みぃきぃ」


 振り向くと、リアナが息を荒くしてウットリとしながら、私の身体を爪先から頭の天辺まで何度も何度も舐め回すように見つめていた。


「な、何よ」


「めっちゃ可愛いんだけど……持って帰っていい?」


「良い訳無いでしょうがっ!」


 リアナは私の両肩をガッと掴み、二人揃って百八十度回転する。そしてゆっくりとだけど直実に何処かへ向かって進む。


「ちょ、何してんのよ?」


「持って帰るに決まっている!」


 既に決定事項!? 肩越しに後ろを見れば、私なんかまるっと入るくらいの大きな鞄が行く手にあった。アレに入れるつもりか?! 私の頭の中には、良く鞄から出て来る、失敗がウリのとある芸人さんの顔が過る。


 そんな事になってたまるもんか。と、私は片足を軸にしてもう一度百八十度回転した。そして、リアナの両肩を掴みゆっくりと押してゆき、鞄へと到達する。


 ジジ。ゆっくりとファスナーを上げる。


「え?」


 ジジジジ。この間も、笑顔を絶やさない。


「ちょ、ミキちゃん? 嘘だよね冗談だよね?」


 私はニッコリと微笑んで……止めを刺した。ジジジジジ!


「ちょっとぉ! なにすんのよぉ!」


 これで悪は滅びた。



 それにしても。と、やいのやいのと騒いでいる女の子達を見ると、みんな良く似合っている。華やかで可愛らしい上に訓練で鍛えられている所為か、ボディラインが半端なく良い。……だけど露出多過ぎだな。私は開催までには衣装に布を盛る事を決めた。

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