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最終話 終わりかけた世界。


 突然姿を見せたヒトの形を成した異なる存在(モノ)。黒いタキシードを身に纏い、スラッとした身体つきの男。特徴的なのは、顔の部分にあたる能面の様なデスマスク。


「オマエ、何者だ?」


 スズタクが最大の警戒をしながら問い掛ける。


「フッ。口の聞き方も知らぬとは、所詮は下等なニンゲン。と、いった所ですか……」


 デスマスクの男は、人差し指と中指を額に当て、やれやれ。と、いった風の仕草を見せた。


「まあ、よろしいでしょう。教えて差し上げます。(わたくし)は至高なる主様の五人の腹心が一人、『無のオゼヴィア』。どうぞお見知りおきを」


 オゼヴィアと名乗った男は恭しく一礼をする。『無』の……? 男が付けている仮面と関係があるのだろうか?


「さて、ご挨拶も済んだ所で……早速ですがお別れです」


 オゼヴィアが言い終わると同時に、足元が揺れ地響きが聞こえ始めた。


「何じゃ? この振動は……?」


「施設全体が揺れている様に思えます」


 不安そうに辺りを見渡すお爺ちゃんと麻莉奈さんの疑問に、横手から答えが(もたら)された。


「『ノア』が落下を始めたのだ」


「レオン!」


 身を起こしてそう答えた彼。顔面蒼白で肩で荒い息をしている事からかなり辛そうに思えた。


「レオン、無茶はしないで」


「そうも言っていられなくなった。アリサ、よく聞くんだ。現在『ノア』はある場所に向けて降下中だ。その場所とは、洋上都市エウディア」


「何じゃと?!」


「彼の地は『扉』を開ける為のドアノブの様な役割をもっている。そしてこの『ノア』はそれを開ける為の『カギ』だ」


「つまり、『ノア』がエウディアに墜ちれば、『扉』は開かれる……」


 レオンはコクリ。と、頷いた。


「だったらやる事は一つだな」


「タク様。どうするおつもりですか?」


「そんなの決まっているだろう? ――この施設をぶっ壊す!」


 普通は、アイツ(オゼヴィア)を倒して、装置を操作して回避する。とかだと思うんだけど?


「まさかセオリーを無視するとはな。だが、そっちの方が面白そうじゃ!」


 最年長のお爺ちゃんも煽らないでくれるかな……


「なる程、そうきましたか。しかしながら、そう上手くはいきませんよ」


 オゼヴィアの背後から青い靄の様なナニカが溢れ出し、瞬く間に私達を飲み込んだ。



「な、何だっ?! ここはっ!?」


 レオンは驚き辺りを見回しているが、そのれもそのはず。『ノア』の中にいた筈なのに、上は雲一つない空が広がり、下は刈り込んだ芝の様な草が、地平線まで延々と続いていたからだ。


「異空間ってヤツじゃな」


「ほぅ、即座に気付くとは思いもしませんでしたよ」


「なぁに、ファンタジーの定番じゃからのう」


「ファンタ? ……まあ、良いでしょう。ここならば施設を壊される心配も無い。と、いうものです」


「ふ……わざわざこんな空間を用意してくれるとはな」


「なんですと……?」


 スズタクの言葉にオゼヴィアの眉が僅かに動いた。


異空間(ここ)ならオレ達も存分に戦えるってもんさ」


 まあ、スズタクの場合、どっちでも全力でやってたろうな。


「言ってくださいますね。たかがニンゲン風情、がっ!?」


 瞬時にオゼヴィアの背後に移動をしたスズタク。その際、鍔鳴りが一つ響いた。


「だから人間舐めすぎだっつってんだよ。魔族共は」


 驚いた表情(かお)のままで固まるオゼヴィア。その上半身がゆっくりと横にズレて地面に転がった。


「や、やった……?」


「そんな訳ないでしょ」


 あれくらいでやられる様では、五人の腹心なんたらは名乗れないだろう。しかし――


「おかしいの。普通は発生主が倒れれば異空間も消えるはずなんじゃが……」


 念の為。と、地面に転がるオゼヴィアの身体を細切れにするお爺ちゃん。容赦ないな。


「ってー事はだ。麻莉奈、一発かましてやれ」


 言いながらスズタクは地面に向かって指を差した。頷いた麻莉奈さんの口から、祈りの言葉が紡がれる。


槍聖十字ホーリージャベリン・オブ・クロス!」


 宙に現れた光り輝く十字架の槍が、大地に突き刺さる。と同時に、青々とした空や芝の大地に歪みが生じ、その中心部にオゼヴィアが姿を見せた。


「な、何故私の居る場所が分かったのだ?!」


「なぁに、ファンタジーの定番じゃからのう」


「大方、この空間自体がお前の腹の中なんだろ?」


 オゼヴィアが黙り込んだ所をみると、どうやら図星らしい。それにしても、異世界(ソッチ)系の知識がある人物が、これ程までに頼もしいとは思わなかった。


「さあ、観念しろよ魔族。逃げて『カギ』を失うか、滅びて『カギ』を失うか、好きな方を選べ」


 どちらにしろ、施設は破壊する気なのね。


「逃げる。ですと? 弱小の小動物が随分とナメた口をきくじゃぁ、ありませんか……」


 言葉を区切ると、ゾワッと産毛が逆立った。ヤツ(オゼヴィア)から漏れ出している黒いモヤには、この世のあらゆる災厄が含まれている様に思えて仕方ない。


「下等なニンゲンがァァァ。全力で相手をしてくれるわァァァッ!」


 更に勢いを増して、黒いモヤは空間を覆い尽くそうとする。そのモヤの中を一匹のネコが駆ける。


「ニャッ!」


 気合の入った声に似合わず、ペモッとしたコミカルな音が響き、オゼヴィアの身体が宙を舞う。その上空で待ち構えていたのはお爺ちゃんだ。


「ホイよ」


 身の丈よりも大きな戦斧を軽々と振るい、オゼヴィアを地面に叩き付けた。


「グハッ!」


聖槍十字ホーリージャベリン・オブ・クロス!」


 虚空に現れた無数の十字架が、大地に刻まれたクレーターに降り注ぐ。


「グオォォォッ!」


 爆音に混じって耳に届く絶叫。土煙が晴れると、今度はスズタクが立ち塞がった。


 耳をつんざく鍔鳴りの音。直後にオゼヴィアの腕が‘、ボトリ。と地に落ちた。


「ギャオワォォォッ!」


 まるで獣の様な叫びを上げて、地面を転げ回るオゼヴィア。


「テメエが本性を現すまで、待ってる訳ねーだろうが」


 そう言ってスズタクは私の方を見る。


「美希! お前がトドメだ!」


 スズタクに頷き、チカラある言葉を口にする。


「『四辺陣』展開!」


 大きな四角形の魔方陣がオゼヴィアの周囲に現れて、その中に閉じ込める。ただ、紋様魔術は防御主体な為、これだけではオゼヴィアを滅ぼす事など出来ない。そこで、攻撃主体の魔女の力を付与してやる。


「光よ。我が意に従い力と成せ!」


 チカラの解放と共に、オゼヴィアを閉じ込めている魔方陣が白く輝き、外には漏れぬ絶叫を上げてオゼヴィアは消滅した。


「フンッ、私のレオンをたぶらかした報いよ」


 冷ややかな目で、消滅したオゼヴィアを見つめる私を皆が見ていた。


「なに?」


「女って怖え」


「なんじゃ知らんかったのか? 普段大人しく笑みを向ける者達も、ある日突然牙を剥く。それが女じゃよ」


 あんたら、酷い事を言うね。


「タク様。どうやら異空間が解除される様です」


 空の一部に亀裂が入る。それは瞬く間に空間全体に広がり、ガラスが砕ける様な音と共に砕け散った。


「クッ!」


 元の室内に戻ると、レオンは慌てた様子で装置に向かって駆け出した。そして、何やら操作を始める。しかし――


「だっ、ダメだ! もう落下を止められないっ!」


「なんじゃと!?」


「では、『扉』は開かれてしまうと言うのですか?!」


 グッ。と目を閉じて頷くレオンに誰もが言葉を失った。


「いや、まだ手はある。レオンさんよ、この施設に脱出できる様な乗り物はあるのか?」


 乗り物……? 一体何をするつもりなの?


「ああ、ある。下部の格納庫に脱出ポッドが用意されている」


「オーケー。それじゃ、この施設の動力炉の場所を教えてくれ」


「な、なんだ? 何をするつもりだ?!」


「動力炉をぶっ壊して施設ごと破壊する。その後に脱出だ」


「そんなの無茶だ!」


「いいや、出来るさオレ達ならね。美希、お前はレオンを連れて先に脱出しろ」


 一瞬、スズタクが何を言っているのか理解が出来なかった。


「え……? ちょ、ちょっと待ってよ! 私も一緒に――」


「ダメだ。お前はコイツが自殺して責任逃れをしない様に、見張っていてくれ」


 スズタクはレオンに向かって鋭い眼光を放った。


「レオンさんよ、仕出かしてしまった事をとやかく言うつもりは無い。これからアンタは世界を見つめ復興に尽力する。それがアンタの償いだ。分かっているな?」


「ああ、無論そのつもりだ」


「オーケー。ああ、それともう一つ。美希の事をよろしく頼む」


「ちょっと! 何勝手に纏めてんのよ! 私も絶対に――」


 ついてゆく。そう言いかけた時、下腹部に感じた衝撃に息がつまる。


「幸せにな」


 朦朧とする意識の中で、スズタクのその言葉がやけにハッキリと聞こえた。




 毛布に包まれた様な安らぎが全身を包んでいた。仄かに感じる温もりの中、トクン、トクン。と、聞き慣れた鼓動を響かせている。その逆では、騒音よりも五月蝿い音が届いて来ていた。その音は少しづつ更に大きくなり、やがて大気をも震わせ始めた。


「気が付いたか、アリサ」


 目を覚ますと、私は既に地上に居た。雲一つない青々とした空に、楔の形状をした軌道ステーション『ノア』が浮かぶ。ソレが少しづつ、地に在る黒い板状に突き出た塔。洋上都市エウディアの観光スポットでもあった、フアロトルムに向かって墜ちてゆく。その様子がここからもよく見る事が出来た。どうやらここは、東方大陸沿岸に聳え立つ山の山頂付近らしかった。


「何で!? どうしてよっ!」


 レオンの胸倉に掴み掛かる。同時に、大粒の涙がこぼれ落ちた。この広い異世界でたった七人しか居ない日本人なのに、一人だけ除け者にされた気分を味わう事になるなんて思いもしなかった。


「あの男は、ボクの為にキミを残したんだ」


 グッと抱き寄せるレオン。確かに長き時を経て私達は再会を果たした。だけど、出来うる事なら最後まで一緒について行きたかった。そう思うだけで涙が止めどなく溢れ出る。


「アリサ、『ノア』が墜ちる。『扉』が開かれるぞ」

 

「そんな!」


 見れば軌道ステーション『ノア』の先端がフアロトルムに迫っていた。このまま墜ちれば世界は崩壊へと向かうというのに、スズタク達は間に合わなかったっていうの?! あんなに偉そうに踏ん反り返っていて成す事なくに終わる。というの!? 私はレオンの腕の中から抜け出して、大きく息を吸った。


「こおんのバカスズタクっ! 何やってんのしっかりしなさいよっ!!」


 声帯が潰れる程大声で叫んだ。次の瞬間、空は何事も無かった様な静けさに包まれた。


「え……? き、消えた……?」


 先端部が塔に突き刺さったかと思われた瞬間、本のページをめくった様に巨大な質量を持つ『ノア』が消失していた。


「そ、そんな、そんな馬鹿な!」


 レオンの狼狽ようから察するに、これは予定外の事らしい。


「まさか、何処かへ転移した……?」


 あれ程巨大な質量を転移させる術など聞いた事も無い。


「いや、恐らくそれは無いだろう。生じる筈の魔力波動をボクは感じなかった」


 レオンも知らない、か。でもこれで希望が見えた。


「アリサ……?」


「彼等は生きているわ」


 施設が破壊されたのでは無い。何処かへ飛ばされたのだ。しぶとく図太い彼等の事、ましてや有名人として成功を収めたスズタク。という強運の持ち主が居るのだから、絶対に生きている筈だ。


 探し出す。何年掛かろうとも必ず。そう心に決めた。


「よし、それじゃ行くわよレオン」


「え……? 行くって何処へ……?」


「まずはタロンね。施設を破壊して『扉』を閉じなきゃ」


 『鍵』を失った今も、『扉』は消えずに残っている。このままにしておく訳にはいかない。今回の一件で相当な犠牲者が出てしまった。もう二度とこんな事が起こらぬ様にする事が残された私達の急務。その後に各地を回ろうと思っている。


 被害の確認、復興の手伝い、そして人探し。暫くは忙しい日々が続くだろう。時々俯いてしまう事もあるかもしれない。だけど私は、前に進み続ける。いつかきっと仲間(スズタク)達に逢えると信じて……


 仲間に再び会えるその日まで、私、異世界で憑依生活始めます。

異世界で憑依生活始めます。の、第一部はこれで終了となります。

二部目も書き始めてはいますが公開は未定にしています。ある程度まとまり次第、公開しようと思っております。


これまで拙い文をお読み頂き感謝に耐えません。今まで有難う御座いました。

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