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第六十五話 空に浮かぶ城と突き付けられた真実。

 ベッドから起き上がった姿勢のまま、私はボーッとしていた。久々に見た夢。あの夢は私の内に在った静さんのモノだと思っていた。しかし、その静さんはクレオブロスに連れ去られてしまい今は居ない。だとしたら、この夢は一体誰のモノなのだろうか? この身体。アリサさんのクローン体であるこの身体が、あの夢を見させているのだろうか? そう考えるのが妥当かな。


「あ……」


 ガチャリ。と、ドアを開けた人物と目が合った。黒い、サラサラのストレートヘアがよく似合う、神官服を着込んだ女性。麻莉奈さんだ。


「お加減は如何ですか?」


「うん。もう大丈夫みたい」


 静さんの魂を抜かれた事による虚脱感はもう何処にも残ってない様で、力が漲っているのが分かる。手を握ったり開いたりして具合を確かめていると、ベッド僅かに沈んでギシリ。と、軋み音が鳴った。


「麻莉奈さん……?」


 ベッドに腰掛けた麻莉奈さんは俯き加減でその表情は暗い。


「美希さんは、元の世界に戻りたいと今でも思っていますか?」


「え? ええ、勿論」


 その為に今まで頑張って来たのだから。


「もしそれが、多大な犠牲を出すと分かっていてもですか?」


「どういう事?」


「ゲームでもアニメでも、神降ろしを行う際は大きな犠牲を伴い、成されます。それでも、美希さんは元の世界に戻る事を望みますか?」


 ああそうか。麻莉奈さんは迷っているんだ。


「……麻莉奈さんは、戻りたくないの?」


「そうですね。私は……分かりません。ここでの生活も悪くはありませんから、皆と一緒に過ごせたら……とも思い始めています。どうせ戻った所で私の居場所はありませんし……」


 居場所が無い……? 麻莉奈さんの身に一体何があったのだろうか?


「私は戻りたいよ。パパとママにも会いたいし、彼とも会いたい。だけど、誰かを犠牲にするのは耐えられない。だから、クレオブロスのやろうとしている事を阻止して、その後でゆっくりと帰る方法を探せばいい。でももし、それが叶わなければ…………皆で住もっかこの世界に」


「美希さん……」


 私は目一杯笑顔を作ったつもりだったけど、心残りな気持ちがどこかで出たのかもしれない。麻莉奈さんは私をソッと抱き寄せてギュッとハグしてくれた。


「ダメですよ。美希さんは必ず戻って下さい。……もし、誰かの犠牲が必要ならば、私の命を使って頂いて構いませんから」


「それこそダメだよ。帰る時は皆一緒に――」


「良いのです。戻っても私の命は自らの手で失う事になるでしょう。ならばせめて、誰かのお役に立てれば私も嬉しいですから」


 それって自殺するって事? 


「…………麻莉奈さん。聞いても良い? あなたの身に何があったのか……を。勿論、言いたくなければ構わないケド」


「そう……ですね。美希さんにならお教えしても――」


 不意にガチャリとドアが開かれた。ドアを開けた人物はスズタク。その隣にはお爺ちゃんが居て、ミルクさんも側に居る。抱き合っていた私達はパッと離れる。


「おっ、何じゃな。女同士で何を話しておったのかのう」


「ん? まあ、今後の事?」


「今後……?」


「そうじゃのう。そろそろ儂等も覚悟を決めねばならんしの」


「覚悟って何だい? 爺さんよ」


 スズタクは理解していない顔をお爺ちゃんに向けた。


「なんじゃ、分からんのか? 奴に協力して元に戻してもらうかどうかじゃよ」


「ハッ! なんだ爺さん。そんな事で悩んでいたのか? 元の世界に戻る方法なんてアイツをぶち倒してから考えりゃ良い事だぜ?」


 ん。行き当たりばったりだな。だけど、スズタクらしいっちゃらしいか。


「でもさ、クレオブロスを倒しちゃったら私達は元の世界に戻れる保証は無いよ?」


「んー……そんときゃ、皆で暮らせば良いだろう?」


 あ……。私の思いはスズタクと繋がってた。なんか嬉しいな。


「実際、爺さんだって子供まで作って暮らしてたんだしな」


「まあのう。儂は元々戻るつもりはない。どうせ老い先短い命じゃ、死ぬのならこのドキドキワクワクのファンタジー世界で死にたいもんじゃわい」


「美希と麻莉奈はどうする?」


「私は戻りたいよ。だけど、気持ちはスズタクと同じ。誰かを犠牲にするのは目覚めが悪いから」


「私は…………タク様が行かれる所なら何処へでも着いて行きます」


 スズタクに目一杯微笑む麻莉奈さん。だけどその笑顔に、どこか陰りがあるのを見逃さなかった。


「おっしゃ! そうと決まれば出発するか。美希、奴が言っていた入り口に案内してくれ」


「うん。分かった」


 こうして私達はクレオブロスの計画を阻止する為に、彼の地へ赴く事にした。




 施設の奥深く、海底都市ゼーシタットを通り過ぎて最奥に待っていたのは、クレオブロスではなく魔法陣(サークル)


「うーん。多分転移の魔法陣だと思うけど……」


「コイツで来い。って事か」


「何処へ飛ばされるか分かりませんね」


 協力しろ。と、言うクレオブロスの事だから、変な所には飛ばさないと思うケド……


「ま、乗ってみりゃ分かんだろ?」


 言ってスズタクはその上に乗る。


「全く、行き当たりばったりじゃのう」


 次いでお爺ちゃんが乗る。そして、私と麻莉奈さんが乗ると同時に、今まで何の反応も示さなかった魔法陣(サークル)が輝き出し、私達の目を眩ませた。それでも何かに吸い上げられるような感覚は分かる。それは、魔石を用いた転移術と同じ感覚。次の瞬間には場の空気が変わった。海底施設特有のジメッとしていたモノから湿気やホコリ等が感じられないカラッとした空気。圧迫感の無さから広い空間だと分かる。


「よく来てくれましたね皆さん」


 聞き覚えのある声が少し離れた所から届いた。目を開けると、玉座の様な椅子に座るクレオブロス。そして私はこの場所に見覚えがあった。


「ここは、私が初めて来た場所……」


 床に映し出された、血に塗れ道路に横たわる私の身体が思い浮かぶ。


「そうだ近藤美希。ここはキミと契約を交わした場だ。覚えてくれていたか?」


「忘れる訳ないでしょう?」


 ここは私に絶望を与え、そして希望をくれた場所なのだから。


「ふむ、そうだな。忘れて貰っても困るがな。そういえば、他の人達は初めてだったね」


「転移陣で何処かに飛ばされたようじゃが……。まさか、天国とは言わんじゃろうな?」


「ここは天国ではないが、それに近い場所だな」


「近い場所?」


 スズタクの言葉にクレオブロスがパチンと指を鳴らすと、私の時の様に床一面が仄かに輝き始めた。そして、そこに映っていたのは、水を(たた)え、ソレが陽の光に当たって青く輝く美しい宝石の様なモノだった。


「これは、ルドウェア……か?」


「その通り。あれは君達が数々の冒険をしてきた場所だ。そして、ここはその遥か上空、静止軌道上に位置している」


「まさか、ここは……」


「そうだ藤林麻莉奈。君が思っている通りの場所さ」


 クレオブロスは椅子から立ち上がり両腕を広げる。


「ようこそ諸君。我が城、軌道ステーション『ノア』へ!」


 クレオブロスの言葉に皆が驚いているけど、私には何のこっちゃサッパリだった。


「え……? きど……? すて?」


「つまりは宇宙にあるんじゃよここは」


 ああ、成る程。……ってええっ!


「う、宇宙!?」


「そうじゃ。儂が言った事は当たらずとも遠からず。と、いった所かの」


 た、確かに地上よりは天国に近い場所だね。


「それにしても、困った事になったわい」


「そうだな。派手に暴れる訳にもいかなくなった」


「え……? どういう事?」


「外は宇宙じゃ。壁でも抜いた日にゃ儂らが宇宙に放り出される」


 それっておおごとじゃん!?


「何か物騒な話をしている様だが、ここでそんな事をしてくれるなよ? 折角拾った命を無駄に散らす事になる」


 拾った命……?


「それはどういう事ですか!? 私達は七賢人(あなた達)によって召喚されたはずでしょう?!」


「覚えていないのか? 藤林麻莉奈。医療ミスによる患者の死亡。糾弾されたキミは精神的に追い詰められ、耐えきれずにビルの屋上から飛び降りた」


「…………! 思い……出した。私は……死んだんだ……」


 麻莉奈さんは何かに気付き、その場にガックリと膝をついた。まさかそんな事があったなんて……


「そして元アイドルの鈴木拓」


「元じゃねぇ、現役だ」


「元だよ。キミは映画の撮影中にスタジオに入った所で大道具の下敷きになって死んだ」


「何だと!?」


「近藤美希。キミは分かるな」


「ええ……」


「まさか、儂も……か」


「そうだ。キミ達は既に死んでいる」


「クッ、世紀末みたいな事言いやがって! だったらこの身体は何だ!? コイツは紛れもなく俺の身体だ!」


「クローンだよ。キミも、キミも、そのご老体もね。魂の情報を基に作ったクローン体だ」


 クレオブロスが放った言葉に、誰もが言葉を飲んで場に静寂が満ちた。信じられない。そんな訳ない。多分、頭の中でそれを否定する為の材料を探しているのだろう。だって、私も信じられなかったから。それを破ったのはクレオブロス。


「おかしいとは思わなかったかい? やたらとハイスペックなその身体を」


 確かにクレオブロスの言う通り、スズタク達の身体能力は常識を遥かに超えていた。一人でこの世界の万に相当する力を持っている。


「長い年月をかけ、ようやく実ったクローン体を強化する技術を施してあるのさ」


 クレオブロスの言葉に夢の記憶が蘇る。確かにコイツはクローン技術の研究をしていた。


「……美希から聞いたぞ。お前は神になるつもりだとな」


「つもりではないよ。そうしなければ彼女は救えない」


「他の七賢人が黙って見ているとは思えんがな」


「ご心配痛み入ります。が、同時に無用の心配ですよ。何しろ七賢人なんて存在は居ないのだから」


 七賢人が居ない?!


「便宜上、そう名乗っていただけさ。初めに君達と相対していたのは全てボクだ」


 だからか。アルスネルで私がサラという七賢人に会った後、スズタクが別人の様だ。と、言っていたのは、同一人物が演じていたからキャラがブレたんだ。


「で、では、私達のクリア条件である武器や宝玉の収集は……」


「準備を整える為に必要な事だった。君達が倒してきた大型のゴーレム。守護者(ガーディアン)と呼ばれるあれは旧文明の遺物でね。当時の評議会が各施設を悪用しないように設置したものなのさ。戒めに縛られ続ける私は元より、全盛期の十分の一にまで衰退した現代人に到底倒せる相手じゃないからね」


 身体強化を施した私達に討伐させる為のエサだったって訳か。


「君達が攻略できる様、武器にそれなりの力を付与しておいたのだが、その所為で近藤美希が暴走状態に陥いる。といった予想外の出来事もあった訳だが、何事も無くて良かったよ」


「そりゃどーも」


 クレオブロスの上っ面だけの言葉に、私も同じく返してやる。


「これ以上何か知りたい事が無ければ、そろそろ始めようか。ボクも待ちきれないのでね」


「待てよ」


「ん? 何か知りたい事でもあるのかな? 鈴木拓」


「ああ、教えてくれ。お前のその身勝手な行いで、一体何人を犠牲にするつもりだ?」


「中々良い質問だね。んーそうだな……ゼロだ」


 ゼロ……? 誰も犠牲にならないって事?


「そんな訳はないでしょう。神降ろしを成す為にはそれなりの対価が必要となるのが一般的です」


 そんな一般的、私は知らないよ!?


「よく知っているな藤林麻莉奈。ならばハッキリ言おう、結果的にはゼロだ。誰も犠牲になってはいない事になる(・・・・)


「事になる。だと?」


「理解が出来ないかね? つまりはこういう事だ。現時点で何億人犠牲にしようが、過去へ戻って世界を改変すれば、今の出来事は無かった事になるのだよ」


「そんな! そんな事をすれば、この宇宙が破壊される恐れも出てきま……あ! その為の神の力……」


「ホウ。察しが良いな藤林麻莉奈」


 クレオブロスは嬉しそうに目を細めた。


「それにしても、タイムパラドックスの事まで分かるとは、君達の世界はどうなっているのかね」


 あくまで想像上の話だと思ったけど? 実際やった訳じゃないし。


「……まあいい。そのうち君達の世界にもお邪魔してみるとするよ。神の力があれば、平行世界の行き来もスムーズだろう。さあっ! 質疑応答はここまでだ!」


 クレオブロスが指を鳴らすと、床に映る星に七つの光が生まれ出でた。

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