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第五十八話 白き魔女の伝承(嘘)と古の巨人。

「良いか? 一度しか言わんから、聞き逃す事の無いようにな」


「は、はいっ!」


 セーラさんは元気よく返事をし、正座して前のめりでお爺ちゃんの話を聞く態勢になった。


「遥か昔……には…………で」


 お爺ちゃん。聞き逃すも何も……声小さいわっ!


「あ、あの。ギャルソン様?」


「……での……という……ん? なんじゃ?」


「もっと大きな声で話をして頂けませんか?」


 やっぱりセーラさんもそう思ってたか。


「なんじゃ、年寄りに大声を出せ。と、言うのか?」


「すっ、すみません! すみませんっ!」


 ペコペコと頭を下げるセーラさん。お爺ちゃんに揶揄(からか)われていると知ったら、一体どんな顔をするだろう?


「良かろう。よーく聞いておくのじゃ。そして、子へ孫へと伝えるのじゃぞ!?」


「はいっ! お願いしますっ!」



「遠い遠い。それは栄華を極めた古代魔法文明時代よりも遠い昔。女神リーヴィアを妬む対極の神。男神エリオドアは、リーヴィアが生み出した全てを滅ぼす為に、巨人を地上に下ろしたのじゃ。それなりの塔程の高さを持つその体躯は、筋肉隆々で日に焼けた様な色黒。身体中に獣油をかけた様にテラテラとしておったそうじゃ」


 ん? それって……


「巨人の腰には、人類を半分壊滅させられる程の威力を秘めた必殺の最終兵器が内蔵されていて、ブーメランパンツによって巧みにカモフラージュされていたのじゃ」


 真剣な面持ちで話を聞いているセーラさんには悪いが、話無茶苦茶だからね。


「世界の危機を感じ取った女神リーヴィアは、自身の分身ともいえる一人の女性を地上に遣わされた。それが伝説の白き魔女じゃ」


「白き……魔女!」


 ゴクリ。セーラさんは目を輝かせながら固唾を飲む。


「黒き巨人と白き魔女の性交……交戦は――」


 おいおいおいっ!


「――長きに渡り繰り広げられた。それは、大陸を吹き飛ばし、天候をも変える程の激しい戦いだったそうじゃ。じゃが、永遠に続くと思われた戦いは、巨人が力尽きて終わりを遂げたが、魔女もまた激しい戦いで昇天し果てた」


 いくらセーラさんが純真無()だからって、そこまで盛るのもどうだろうか? しかも下ネタベースで話が展開してるし。


「魔女が力尽きる際、謎めいた言葉を残した。『この世に巨神現れる時、我は再び蘇りて其を薙ぎ払うであろう』とな。そして、この美希こそが、その白き魔女の生まれ変わりである!」


 なっ、なにぃぃぃ!?


「ミキさんってそんなに凄い御方だったのですね!」


 祈る様に両手を組んで、目をキラキラと輝かせながら、セーラさんは私を見ていた。御方って。


「ああそうか。それで知らない魔法も使えたんですね。納得です」


 納得されちゃったよ。


「知らない魔法とな?」


 うっ!


「はい! 大地を風の様に走れる魔法です」


「ほぉう」


 あああ、グラナート王からの視線が痛いぃ。


「いやその……それはですね――」


「陛下。もう間も無く降雪エリアを抜けます」


「あい分かった。コンドウミキよ、その話は後ほど聞かせて貰うぞ」


「は、はいっ!」


 ハー。取り敢えずは助かった。無闇に魔法を使った事が知れたら、大目玉を喰らいそう。



「あっつ……」


 降雪エリアを抜けた途端、強烈な陽の光が私達の身を焦がす。空気は乾燥し、少し先の砂丘が熱によって揺らぐ。砂漠エリアと降雪エリアの気温差は八十度。これ程の気温差があって、両方とも同じ地域。しかも隣り合わせで存在している事自体が未だ信じられない。


「美希!」


 スズタクが私に向かって何かを投げて寄越した。キャッチするとチャポン。とした音が聞こえた。水筒?


「ここは俺達に任せて、ソリの中で休んでいてくれ。熱中症にならない様に水分はこまめにな」


 背を向けたままで手を上げる。なんとまあ、お優しい事で。でも、少し目眩らしきモノもするし、甘えさせて貰おうか。ソリの中を見るとミルクさんが既にダレていた。


「美希っちぃ、冷たいの出してニャー」


「そうしたいんだけど、下手に魔法を使うとグラナート王に睨み付けられるから」


「そんニャァー」


 側面に備え付けられた長椅子に、ミルクさんはグテっとなった。



 ソリの引き手を馬から砂トカゲに変え行軍を再開する。皇国の兵士達は砂トカゲではなく、ラクダに似た動物に騎乗する。乗ってきた馬は、寒さにはある程度の耐性を持っているが、暑さにはめっぽう弱く直ぐにバテてしまう。その上、蹄鉄で火傷を負ってしまい、再起不能となってしまう為だ。


 なので入出国する者は、必ずこの経由地で乗る動物を変える必要がある。これを無視した場合、暑さで干からびるか砂ミミズの餌となり、寒さで凍死するか氷のオブジェになる。と、いう、気候を上手い具合に利用した天然の防壁が築かれている。その為東西南北の経由地までには、壁や柵といったものは一切存在しない。


「待機している先行部隊より情報が入った。巨人は都市内に入り込んでいた虫を駆除した後、その動きを止めたそうだ」


「動きを止めたじゃと?」


「そうだ。湖の中心に向かって片膝をつき(かしず)いているそうだ」


「不味いな……」


「どうかなさいましたか?」


「巨人はただ暴れていたのでは無く、虫達から何かを守る為に活動していたとしたら……」


「ふむ。辻褄は合うの」


「え? 巨人って守る為に現れたんですか? 総てを破壊する為だって、ギャルソン様は仰っていたじゃないですか」


「考えを纏めたいのでな。少し黙っていてくれんかの」


「はっ、はいっ! すみませんっ!」


 セーラさんに偽情報を吹き込んだ張本人のクセに扱いが酷い。


「何かとは、古代の遺跡か」


「ああ。もし、俺達が遺跡の封印を解こうとすれば、襲われる可能性が非常に高い」


 それで不味い事になった。と、言ったのか。


「お前達。何か勘違いをしておるな」


 どうしたもんか。と、考えていた私達に、グラナート王が一喝する。


「襲われようが襲われまいが、街を民を傷付ける者は排除するのみ。この案件は私の国で処理すべき問題であって、元からそなた達の力を借りようとは思ってはおらん」


「しかしのうグラナートよ。白い巨人は、聞く限りでは恐らく遺跡を守護する者。おぬしらの戦力ですらどうにかなるとは思わんが?」


「フッ。我がエリージアが誇る精鋭の二万だ。その上、この私が立つのだ。負ける要素は何処にもない」


封緘を解きし劒(シール・ブレイカー)か」


「そうだ。全ての縛を解き放し我が宝剣があれば、あの様なモノなど相手にならん」


「だと良いがな……まあ良い、それでは儂らは高みの見物といかせて貰おうか」


 ソリ内に、お爺ちゃんとグラナート王との険悪な雰囲気を満たしながら、目的地へと進んでいった。



「人がゴミのようじゃな」


 どこかで聞いた事があるセリフだな。私達の眼下にはエリージア皇国の精鋭部隊二万が集結を完了しつつあった。私達はその遥か後方の大砂丘の頂上に居を構え、彼等の奮戦ぶりを見物する運びとなっていた。


「ねぇ、スズタク。私、アレに見覚えがあるんだけど……」


 筋肉ムキムキのやたらとリアルな造形に、ソコは要らないだろっ。っていう所までリアルに付けてある。


「奇遇だな。俺もだ」


「私もです美希さん」


 コレ、(りょく)のタロンが関わってないか?


「それにしてもオジサマ。よろしいのですか? コレで」


「ヤツはガンコ者じゃからな。一度決めたらテコでも曲がらん。少し痛い目に遭わなければ分からんじゃろうて」


「しかし、それでは多くの兵が傷付く事になります。その上、グラナート王が失脚する様な事態になってし

まっては、都合が悪いのでは?」


「そうじゃ。じゃが、儂らはあくまでも他国の人間じゃからの。じゃが、これでまたヤツに貸しが出来そうじゃわい」


 お爺ちゃん。悪役の顔になってるから。


「私は行きますね。助けられる人を見殺しには出来ませんから」


「そうだね。私も行くよ麻莉奈さん」


「ありがとうございます美希さん。美希さんが来てくれれば百人力です」


「全く……どいつもこいつもお人好しじゃな。分かった儂も出よう。しかし、奴等が居る以上全力は出せんぞ? 巻き込んでしまうからの」


「爺さん。巻き込まない様に全力を出せば良いのさ」


 それはスズタクの言う通りだね。


「フッ。若造が生意気言いよる。お、どうやら始まる様じゃな」


 振り返れば、整然と隊列を成していた部隊が、左右と中央に別れて巨人を半包囲しようと動きを見せた。


「よし。それじゃ儂等も行くかの」


 戦端が開かれたエリージアの軍に向け、一歩を踏み出したその時、太陽を直視するよりも眩い光が、私達の目を焼いた。直後、耳をつんざく轟音。そして、熱風が襲う。


「クソッ!」


「一体何が?!」


「目がぁっ、目がぁっ!」


「ニャァァァ!」



 視力が回復し、一体何があったのか確認して声を失った。黄色の地面に横に一閃された黒が映える。吹き付ける風は、何かがコゲた臭いを乗せたままで私達を通り過ぎてゆく。


「な、なによ……コレ」


 整然としていた兵達はその面影も見当たらない。


「ウソ!? あれだけの兵を一瞬で?!」


「ああ、どうやら薙ぎ払った様だぞあの巨人がな」


「フッ。某巨人よりも元気じゃの。行くぞ皆の者! せめて生き残った兵だけでも、故国に帰そうではないか!」


「うんっ!」


「はいっ!」


「おおっ!」


「ニャァァ!」


 私達は、未だ口から煙を上げる巨人に向けて駆け出した。

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