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第四十六話 洋上都市と秘密の部屋

 ラスティンとの謁見を終え、一足先に宿に戻った私達。戻る間スズタクは終始無言だった。一体何があったというのだろう?


 少ししてドアがガチャリと開けられ、麻莉奈さんとミルクさんが帰ってきた。


「ただ今戻りました。……どうされたのですか? まるで倦怠期の夫婦みたいに……」


「あ、おかえりー。さあ? 私にもサッパリ分からないのよ。サラと会ってからこんな調子で……」


 ……ん? なんか変な事をサラリと言った様な……


「皿ですか? それなら大量に買い込んでありますけど……」


 ……それ別なサラね。しかも、そんな大量に一体どうするつもりなんだ?


「麻莉奈。そっちは何か情報はあったか?」


「え? いいえ、特には……」


「そうか……こっちは良い話と悪い話が一つずつ……だな。良い話は船を出して貰える事になった」


「はい。それは喜ばしい事ですね。あの海を渡るには、それなりの船でないとキツイですから」


 アルスネルが在るこのヴィオール大陸と西方のコラルリウム大陸との間には、太平洋にも似た大海が横たわっていて、それを船で渡らなくてはならない。帆船で風にもよるけど約三週間。風に左右されないガレー船だともう少し早い。


「――でだ。悪い話の方なんだが……塩湖が干上がったらしい」


「それは本当ですか?!」


 麻莉奈さんは驚いて声を上げたが、そんな悪い事のようには思えないんだけど……


「ねぇ。何でそれが悪い話なの?」


「ああそうか。美希にはまだ話をしていなかったな。以前、南方に魔石が採れる場所があるって言ったよな」


「え? ……ええ」


 あー。そんな事を言ってたような……うろ覚えだわぁ。


「ソコなんだよ。魔石が採れる場所」


「え?! じゃあ、湖が干上がって見つかった遺跡っていうのは……」


「昔に建設された採掘場だろうな。……これから魔石が大量に出回り、世界は混沌としてゆくかもしれない。なにせ生活基盤そのものがガラリと変わっちまうんだからな」


 確かに。魔力を内包した石を使えば、今迄出来なかった事が出来るようになる。使用魔術のランクも上がり、それを悪用して小競り合いが多発する。そして、更なる力を求める者も必ず出てくるだろう。そうなれば……


「全く、どこの七賢人の仕業かは知らんが、面倒な事をしてくれたもんだ」


「え? 自然に干上がったんじゃ無いの?」


「湖といっても、ほぼ塩の塊だ。その上を街道が通っている。そんなモノが自然に干上がるはずがないさ」


 湖と聞いて、水を湛えた普通の湖を想像していたけど、話を聞くと全く違うなぁ。


「だから、七賢人がやったと」


「ああ、こんな超常現象を起こせるのは奴等くらいしか居ない」


「じゃあ、あのサラさんが?」


「いや、アイツはそういうのには関与しない。別な奴だろう」


 他の七賢人か……じゃあタロン。彼女も干渉しなさそうだな。……まさかクレオブロスじゃ?!


「こうなっちまった以上考えても仕方がない。美希、渡した魔石は後幾つ残っている?」


「え? ええっと……」


 私は魔石が入っている袋を逆さまにして、中身を床の上にガラゴロとぶちまける。


「二十四個だね」


「ふむ……じゃあ十個ほど売るか」


「え!? 十個も?!」


 一個でさえ城が買える程のお金が、コロリンと入り込んで来るのに、それが十個となると国でも買えそうだな。


「値が暴落する前に捌かないとな」


「捌くって一体どこで? ココ(アルスネル)じゃ無理だよ?」


 復興によって物資が不足しているくらいだ。そんなお金もないだろう。


「丁度良い所があるだろう? これから俺達が立ち寄る場所にさ」


「あ……」


 ある。高価な魔石を売れる場所が。




 洋上都市エウディア。東方大陸ヴィオールと西方大陸コラルリウムとのほぼ中間に位置している海に浮かぶ都市だ。


 古代魔法文明時代に建設された補給基地を基盤として街が形成されていて、それ故に都市の中心部には金属製の建物が多く、外側にゆくにつれてどこでも見られるような石や木の建物という構成になっている。


 時の大商人エマン=マグニティスが、長年放置されていたこの地に目を付け、表向きは航海の休息地として村を作ったのが始まりらしい。


 西方大陸・東方大陸だけでなく、南方諸島からも物資が流入する為に、年中ひっきりなしに船舶が出入りし、ルドウェア随一の活気溢れる都市。


 しかし、それは表社会だけに限らず、闇社会に属する者もこの地に多く潜んでいて各諸国から問題視されているが、自治領であるこの都市にはどの国でも手出しが出来ないでいるのが現状の様だ。



「すご……」


 船上から直に見ると、その凄さが身にしみてよく分かる。『見て見てすごーい』なんてチャラっ気は何処かに吹っ飛んでしまい、ほぼ絶句状態だ。


「後で展望台にでも行ってみるか?」


「え!? そんなモノもあるの?!」


「ホラ、都市の中心に塔があるだろ? あそこは灯台を兼ねた展望台になっている観光スポットなのさ」


 スズタクが指差す塔は相当な高さがある。……え? ぱっと見、超高層ビル並みのアレを登る!? 階段で?!


「お客人」


 ムキムキマッチョでサーファーのように日に焼けた人物。この船の船長キャプテンであるラトゥール=オットーさんが、物珍しげに都市を眺める私達に声を掛けてきた。


「もう間もなく接岸しますんで、部屋にお戻り下さい」


 出航・接岸時には甲板上に乗組員クルーが大量発生し、一般人はただ邪魔なだけだ。だから私達は、その様子を船窓から眺める事とした。



 桟橋に降り立つと、フワリとしたまるで雲の上を歩いている様な錯覚に見舞われた。生まれて初めて船に乗った後遺症? なのかな?


「ここの桟橋は海の上に浮いている。気を付けないと落ちるぞ」


 あ、なるほど。ゆらゆら動いている様に思えたのは、気の所為じゃ無かったんだ。


「にしても、凄い数の船だね」


 見渡せば、大中小の船フネふね。一体何隻停泊しているのだろうか?


「ここは東方・西方・南方から売買に来るからな、世界一賑やかな場所なのさ。それだけに一日で動く金がハンパない。だから、アレを売るのにはうってつけなのさ」


「エウディアにようこそ」


 揃いの鎧を身に纏う二人の男達の前に、白に近い灰色のローブを着て気持ち悪い程の笑みを浮かべた男が、私達の行く手を遮った。


「私、入島管理官のユライ。と、申します。此度の訪問、どのようなご用件でしょうか?」


 なるほど。一応は入島チェックをしているのか。


「ビジネスだ。一週間ほど滞在させて貰う」


「ビジネス……ですか?」


 管理官の顔から気持ち悪い笑みが消えた。……コレ、良いのか良くないのか非常にビミョーなんですケド……


「コレが通行証だ」


 スズタクが、ポケットから小袋を取り出し管理官に手渡すと、あの気持ち悪い笑みが復活した。賄賂と書いて通行証と呼ぶか。


「どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ」


 あの笑みのまま、ユライは深々とお辞儀をし、踵を返して去って行った。……審査ユルッ!



 厳格なユルい審査を通った私達は、宿に行く前に魔石を売り捌くべく、そのテのお店に向かう。


「ほえーっ」


 見渡す限りの人の群れを見れば、そんな間の抜けた声しか出てこない。コレ一体何千人いるのだろう?


「ここは三番目の繁華街だな。通称露店街って云われている場所だ」


 コレで三番目ってか?! ……じゃあ、一番街はどれだけの人でごった返しているのだろうか? そんな繁華街から一歩裏手に入ると、人通りは極端に少なくなる。


 看板すらも出ていない、店かどうかも一目では分からないボロ屋のドアを開けると、内部は意外に掃除が行き届いていて、カビ臭や埃っぽさは感じない。狭い屋内にカウンターが設えてあり、壁際の棚にはパッと見高価と分かる品物が並んでいた。


 そのカウンターに、なんていうかその……。アロハシャツを着て、派手なサングラスを掛けたハワイ気触かぶれのオッサンが立っていた。


「よう、マスター。久しぶり」


「オー! タク! ヒサシブリネ!」


 何故に片言だ?


「キョウハ、イタイナンノヨウ?」


「コイツを買って欲しい」


 ゴトリとカウンターに置かれた魔石を見て、カブラー(そう呼ぶ事にする)の眉毛がピクリと動いた。


「ホウ。コイツは……ここじゃなんだから、奥で話そう」


 奥? 奥って言っても壁全面棚だらけじゃん。つか普通に話せるんだ?!


 カブラーが棚に飾られた水晶で出来た塔の模型らしきものを倒し、オーブの台座をクルリと回す。砂金が入った砂時計をひっくり返し、立て掛けてあった杖を床の穴に差し込む。短剣を鞘から取り出して……。その後色々とやり終えると、棚の一部が奥へと引っ込んだ。多いなっ!


「サアドウゾ、シャチョサン」


 あ、言葉が元に戻った。



 地下の応接間に通されてソファに腰掛けると、タイミング良く別なドアが開かれ紅茶が運ばれてくる。このテのもてなしは良くあるけれど、どこかで覗いているのだろうか?


「さて、魔石を売りたいって事だが?」


 紅茶を一口啜ってカップをコトリと置いたカブラーに、スズタクは『そうだ』と頷く。


「フム。……実はな、ある噂を聞いたんだが……。なんでも、ある場所で魔石の鉱脈が見つかった。そんな話だ」


「ああ、そうだ。だが、その噂を知らない者達がまだ多いだろう? だから、知られて値が落ちる前に、そいつ等に売るなりしてくれれば問題無いはずだ」


「確かに……な」


 カブラーは顎に指の腹を当て、何やら考え込んでいた。


「売りたい個数は十」


「十!? ……お前さん、そんな大金どうするつもりだ?」


「どうもしない。旅費にするだけさ。見ての通り大所帯なんでね。流石に女子供を安宿に泊まらせる訳にはいかないだろう?」


 子供って私の事?! 失礼な! 見た目は幼女でも十七なんだからね! でもまあ、カブラーが驚くのも無理はない。魔石を一個売るだけで王家御用達の超高級ホテルに十年は泊まれる額になる。それが十個ともなれば、ホテルごと買い占める事も出来る。


「……すまんが、足元みさせて貰うぞ?」


「ああ、構わない。それで? 何時用意できる?」


「そうだな。…………六日は掛かる。なにしろ額が額だからな」


「ギリギリか。分かった六日後に取りに来る。俺達はホテルグラッセに泊まるつもりだ。なにかあれば伝言をくれ」


「……あいよ」


 席を立ち部屋を出てドアを閉めると、室内から大きなため息が聞こえた。


「良かったの? なんか、カブラー……じゃなくてマスターさん困ってたようだけど?」


「ヤツも裏社会に通じている一人だ。なんとかしてくれるだろうさ」


 こうして魔石を売るアテが付いた所で、私達は宿に向かって一休みする事になった。はずが……


「え? 何? どこなのここは」


 気付けば、私だけが見知らぬ場所に立っていたのだった。

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