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第四十話 万の兵と魔女の側近

「うっわー。結構な数居るわね」


 岩陰からコッソリ覗くと岩場の街道を埋め尽くす程の魔物の群れが、そこかしこにたむろっていた。種類としては、オーガやホブゴブリン、ゴブリン。げ、オークも居る。他はトロル、マンティコア、ゴーレムといった所。獣人種が多いな。


「敵が七分に岩が三分ってトコだな」


 私の頭の上から先の様子を覗いていたスズタクがそんな事を言った。


「なにそれ?」


「……いや、解らないのなら、いい」


 何だろう? 何かのネタなのかな……気になる。


「ミルク。この辺あたりでどうだ?」


 スズタクは、私達が立ったままでもスッポリと覆い隠してしまう程の大岩を指差した。


「ん。問題にゃいニャ」


「よし。……やれ」


 スズタクはモンスターの群れの方に向かって顎で指し占めす。ミルクさんがその方向に向けて肉球グローブで平手打ちをすると、ゴバリ。そんな音を立てて大岩は私達から遠ざかっていった。直後、耳を塞ぎたくなるような生々しい音が辺り一帯に響き渡る。


 突然襲来した大岩の射線上から離れていた魔物達は、通り過ぎたその大岩をただただ呆然と見送っていた。そこへ、ミルクさんが放った第二撃が魔物達を轢殺してゆく。そこでようやく私達の存在に気付いたようで、魔物達は親の敵と言わんばかりに私達に向かって殺到した。


 うーん。まさか、一直線に向かってくるとは……アホとしか言えないな。


「雷よ! 我が意に従い筒と成りて――」


 私の前に雷による円筒が出来上がる。


「――其を撃て!」


 円筒の端に載せた魔石が雷で出来た円筒のレールを伝い放たれた。瞬時に音速を超えた魔石は巨大な質量となり、押し寄せる魔物の中央を貫く。そして、ミルクさんの三撃目の大岩が、進撃を躊躇した魔物を轢殺した。あのヒトこの辺一帯更地にするつもりなのか?


 一時は混乱していた魔物達も立て直したようで、味方の死などお構いなしに私達に迫る。数で圧倒すれば良いとでも思っているのかな。まあ、実際魔物の数は数千……万はいってそう。それに対して私達は四人だけだからなー、そう思われても仕方がないか。


「居合……眉月!」


 鍔鳴りと同時に三日月型の衝撃波が生まれ、スズタクに迫った魔物達を上下に両断してゆく。


「女神リーヴィアよ。我等に仇なす彼者に、聖なる槍を以って裁きをお与え下さい。聖槍十字ホーリージャベリン・オブ・クロス!」


 麻莉奈さんから放たれた輝く十字の槍が魔物達を貫いた。んじゃ、私ももういっぱ……うぉっ?!


 呪文の詠唱を開始しようとした私の目の前を大岩が通り過ぎ、別な大岩に当たってゴガリ。と、双方が砕け散る。岩が飛んで来た方向に抗議の視線を向けると、ミルクさんは両手を合わせて謝っていた。あの猫、私を殺す気か!?





 私達が戦闘を開始してから、一体どれ程の時間が経っただろう? 三時間? 四時間? そう思える程長い間戦っていると思う。


 魔物の死体の数は増え続けているが、私達に寄る波は一向に減る気配がない。付与魔術と十発程の魔石を電磁加速させる(レールガン)魔法で、私の魔力も六割程に減っている。麻莉奈さんも疲労の表情が見え始めていた。元気なのは、スズタクとミルクさんの前衛職くらいか。スタミナあるなぁ。


「キリが無いわね」


「もし……かしたら、他の場所に居る奴等もっ……コッチに来ているのかもしれんな」


 スズタクは斬り結んでいた魔物を両断しながらそう言う。確かに、魔物の種類が当初よりだいぶ変わってきている。ワーウルフやリザードマン、ジャイアントスパイダーや……大ネズミ!? なんでそんな雑魚っぽいのが?!


 広範囲の殲滅魔法が使えれば一気にカタは付く。しかし、囲まれたこの状況では隙が大き過ぎるし、私達も巻き込まれる形になる。


「このままじゃ体力を消耗するばかりだ。美希、一点突破で塔へ行くぞ! ……アイツも来た様だしな」


 アイツ? そう思った直後、私の背筋がゾワリと粟立った。そして、静寂が訪れる。誰も彼もが戦闘中だという事を忘れその手を止めていた。


「美希!」


「雷よ! 我が意に従い筒と成りて其を撃て!」


 私から放たれた魔石が、戦いの手を止め呆けている魔物を一直線に蹴散らす。直後、何処からともなく重々しい音が地面を振動させて聞こえてきた。


「行くぞ!」


 ソレから逃げる様に、私達は包囲網にポッカリと開いた穴から塔に向かって駆け出す。そして、包囲網を抜け出た頃、私達を包囲していた魔物達が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出していた。



「ホントに……何なのよ……アレ」


「さあな……知りたくも……ない」


 街の外壁に身を預け、激しく上下する肩を深呼吸と共に落ち着かせてゆく。魔物達は、その殆どが逃げ出したか、アイツにやられたのだろう。残っているのは、単純な命令しか受け付けないゴーレムが数十体。私達の三倍も四倍も身長があるから遠目からでもよく分かる。そして、それも瞬く間に数を減らしている。そのゴーレムを屠っているのは……一体何なのかは解らない。


「今回はアレに助けられたね」


 あのまま戦闘を続けていたら、数で押し切られていた。今回ばかりは、アレに感謝しておこう。


「ああ、上手い事いってくれた」


 え、上手い事?


「え、何? アレ、任意で呼び出せるの!?」


「来るかどうかは賭けだったがな。ヤツは血の匂いが好きな様でな、一定の贄を用意してやるのが条件の一つらしい」


 贄ねぇ……アレ? そういえば……


 私はハッとして今迄戦闘をしていた場所に視線を向ける。何かと戦闘をしていたゴーレムは、全て倒された様で、平時と何ら変わらない静かな岩場の街道に戻っていた。


魔物の死体は(・・・・・・)!?」


 私達が倒し、地面に転がっていた千を超える魔物の死体がその何処にも見当たらず、綺麗さっぱり消えていた。


「恐らくアイツが喰ったんだろう」


 うーん。相変わらず謎の生物(?)だなぁ。


「さて、と。美希、麻莉奈。残りの魔力はどれ位だ?」


「残りは四割。と、いった所です」


「私は五割よ」


 先の戦闘が如何にキツかったのがよく分かる。


「魔物共も居なくなった事だし休憩。と、いきたい所なんだがな……」


 私は黙ったままコクリと頷いた。分かってる、このどす黒い威圧感。


「女神リーヴィアよ……」


「光よ……」


 麻莉奈さんが小声で祈りを捧げ、私は口の中でチカラある言葉を紡ぐ。


聖槍十字(ホーリージャベリン・オブ・クロス)!」


「ライト・ブリッド!」


 振り向きざま放たれた二つの魔法は、虚空に向かって、麻莉奈さんのは一直線に。私のは弧を描いてある一点を目指して突き進む。


 ギャリン!

 そんな甲高い金属音がして、放った魔法があらぬ方向へ弾かれ、荒廃した街の中に降り注ぎ土煙を上げる。アレを弾くか……相当なチカラを持った奴だな……


「全く、ちゃんと気配を消していたのですがね」


「そんだけ妖気をダダ漏れさせておいてか?」


 スズタクがスラリと刀を抜き放ち、虚空に向かって構えると景色の一部に亀裂が走った。それは蜘蛛の巣状に広がっていき、ワシャンというガラスを割った様な音と共に男が姿を現した。



 割れた空間の中から現れた一人の男。黒いスーツを身に纏う執事バトラー風のイケメンで歳は四十くらいだと思う。けど、コイツ等は外見イコール歳じゃ無い事を私は知っている。


「主が侵入者の排除を私にお命じになりましたが……」


 宙に浮いていた執事は、ゆっくりと地面に降り立つ。


「成る程。私を使わされた理由が良く分かりました。あのような攻撃を行えるとは、あなた方は只者では無いようですね。先程の巨大な気配、あれもあなた方の仕業なのですか?」


「だとしたらどうする……?」


 スズタクから緊張が伝わる。生唾をゴクリと飲み込む音。そして、スズタクは、正眼から身体の脇へ刀を構える。


 行く! そう思った私の心とは別に、口が異なる事を叫んだ。


「影よっ!」


「ちぃっ!」


 駆け出す寸前だったスズタクは、舌打ちをして横に跳ぶ。直後、スズタクが元居た場所に、黒く鋭利な針のようなモノが勢い良く生える。危うく串刺しになる所だった。


「ほう」


 執事は目を細めて驚嘆の声を上げる。


「大変素晴らしい反射神経をお持ちのようだ。それに、そちらのお嬢さんもその鋭い感性には驚きましたよ」


 そりゃどーも。


「我が主は排除を命じられましたが……、如何ですか? 私と共に主に仕えてみませんか?」


「残念だが、オレ達には行く場所があってな。誰かに仕えている暇など無いのさ」


「フム。行く場所というのが他の大陸の事を指してるのならば、次は其方になるので問題はありません」


「他の大陸だって、オレ達にとっては通過点に過ぎないのさ。オレ達の最終目的は……」


波旬滅聖幕(エクセリプシ・アギア・ベール)!」


 スズタクの陰で、コッソリと唱えていた麻莉奈さんの祈りが放たれると、執事(バトラー)の上空に向こう側が透けて見える光の幕が現れ降りてくる。


「見え見えです」


 執事(バトラー)の足元の影から、鋭利な錐の様なモノが上空に向けて射出され、光の幕に当たり霧散する。それを幾度と繰り返して麻莉奈さんの呪文を打ち破った。


封魔氷晶縛(ミナゲフィア・クリスタル)!」


「何っ?!」


 空に気を取られていた隙に、チカラある言葉を解き放つ。執事(バトラー)の足元から水が噴き出し、瞬時に結晶化して封じ込める。


「全く……人間ナメ過ぎだっての」


 陽の光に反射する、執事(バトラー)を封じたクリスタルを見ながら鼻息を吐いた。


「まあ、魔法技術が廃れた時代じゃ、誰もそうなるだろう」


「それもそうね」


 今現在、魔族に対抗出来る者は、ドワーフの錬金術で産み出された魔法剣を持つ者以外、誰も居ない。ランクC程度の呪文しか扱えない、宮廷魔術師や司祭では歯が立たないだろう。


「さて、と。スズタク、やっちゃって」


「アレ、斬れるのか?」


 魔力で出来たモノだから問題は無いはず。むしろ凝縮された魔力に、魔力を糧として斬れ味に転化する。と、いう能力を持つ、スズタクの刀とは相性は抜群なはず。



 ――ピシリ。そんな音が耳に届いた。私は慌てて振り向き目を凝らして執事(バトラー)を見る。胸の中央辺りに、小さな亀裂があるのを見て取れた。まさか、アレをも打ち破れるというの?!


「スズタク早く!」


「くっ!」


 スズタクは駆け出し、執事(バトラー)の目の前で大きく跳躍すると、手にした刀を頭の上に振りかぶり、執事(バトラー)に向けて振り下ろす。


「望月……」


「ガァァァァッ!」


 切っ先が届く寸前、執事(バトラー)の咆哮と共にクリスタルが砕け散り、執事(バトラー)から噴き出した黒い靄の様なモノによってスズタクが吹き飛ばされる。


「ハァッ……ハァッ……。よくもやって下さいましたね」


 ガクリと地面に片膝をつき、荒い息をする執事(バトラー)。その姿は異形のモノへと変わっていた。

ダラダラと四十話まで来てしまいました。読んで頂き有難う御座います。

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