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第三十七話 凋落した王都

 アルスネル王国、王都アルスネル。周囲を山に囲まれ、広大な盆地の中心にある都市。小高い丘の上に建つ、テーマパークで見るお城を何倍にもした王城を中心に、バームクーヘンの様に円形状に建物が立ち並ぶ。


 気候も穏やかで、肥沃な大地からは様々な恵みが齎され、その恵みは全てこの地に集まる交易と貿易の中心地でもある。


 石を加工し積み上げた巨大な城壁から王城に向けて東西南北に延びる大通りには、数多くの露店が並び連日賑わいを見せる活気溢れる都市。


 それが今や、無残にも荒れ果てていた。かつての賑わいは全く感じられず、重苦しい空気だけが、城壁の内部に淀んでいた。


「……酷い」


 その様子に呻くように呟いた。王城やその近辺にはさしたる被害は無い様だけど、第四城壁から第三城壁に至る間は酷い有様だった。


 倒壊した建物や焼けてしまった建物がチラホラ見え、兵士以外の一般人など何処にも居ない。時折行き交う兵士も、私達を見掛ける度にねめつける様な視線を投げかけてくる。


「幾ら戦争状態だからって、ヒトと魔物の区別ぐらいつくだろうに」


 スズタクが怒り口調で呟く。ここまで来るのにそんな視線を幾度となく向けられて気が立っている様だ。まあ、第四城壁の門で追い返されなかっただけでも、十分だと思うケド。


「タク様。私は病院に行って負傷者の治療のお手伝いをして来ます」


「ん? ああ、分かった。終わったらマジックパールに連絡を入れる。……無理すんなよ。それとミルクも一緒に行って手伝ってやってくれ」


「はい。では」


「分かったニャ」


 麻莉奈さんとミルクさんとは途中で別れ、私とスズタクは王城へと向かう。目的は騎士団ナンバーワン、ラスティン=アレクサード。もしくはナンバースリーであるフィリアン=オルフェノに会う事だ。できればそこで、現在の状況などを聞ければ幸いなんだけど……無理かなぁ。



「すまんが中に通す事は出来ない。我が国の為に戦ってくれるというのであれば、街の斡旋所が徴兵の受付になっているのでそちらに行ってくれ」


 城内へと続く吊り橋の前で、警備をしている兵士に御目通りを願ったがそんな返答だった。


「そんな! 一目だけで良いんです! ラスティン様かフィリアン様にお会いさせて下さい!」


 私はなおも粘るが兵士の答えは変わらなかった。


「どうする? 強行突破するか?」


 スズタクの過激な発言に、さしもの兵士も顔が険しくなる。状況が悪化するからヤメてくれ。


「どうなさいましたの? 騒がしいですわよ」


「こっ、これはリーナ様っ!」


 兵士は私の後ろに向かって直立不動で敬礼をする。振り返るとそこには、銀の板金鎧(プレートメイル)にその身を包み、白いマントを靡かせて仁王立ちしている女性騎士。その後ろには、淡い赤の鎧を着た騎士が四人控えていた。全員女だ。


 ハテ? リーナ? それにそのやたらと胸部を強調する胸当ては……


「あ! あげ底リー……ぶぷっ」


 私は慌てて自分の口を塞ぐも、どうやら手遅れだったらしい。リーナは下を向き、両拳を身体の横に付けてワナワナと震えていた。


「どぅわれがっ、アゲ底ですっとぇぇ!?」


 アゲ底ですっとぇぇ……


 ですっとぇぇ……


 リーナの咆哮が城壁に当たって木霊する。


「お、落ち着いて下さいリーナ様っ! この者も悪気があった訳では……」


 後ろで控えていた女騎士達が、ガニ股で地響きを立てながら私達に迫るリーナを取り押さえようとする。が、その顔が笑って見えるのは気のせいじゃないだろう。


「悪気が無くても許せません! 悪気があったのなら尚許せませんっ!」


 いや、あの、どーせいっちゅーんじゃ。……お?


「お久し振りです。リーナ殿」


 スズタクがリーナの視界から私を隠す様に立ちはだかり、その人物を見て重戦車の如き怒涛の進撃が止まった。


「あなた……スズキタクですの?」


「ええ、その節はお世話になりました」


「いえいえ、こちらこそリリアナ王女を助けて下さり、感謝しておりますわ。それで、何故この様な時にここへ?」


「ラスティン様かフィリアン様に御目通り願おうと思いまして。ですが、こちらの兵士の方にお断りされ、途方に暮れていた所なのです」


「あらまあ、そうでしたの。フィリアンには会えませんが、ラスティンでよろしくて?」


「はい。有難う御座います」


 スズタクは深々と礼をすると、その後ろにいた私とリーナと目があった。


「それで? そちらの方は?」


「この者は私と共に旅をしております、近藤美希と申します」


「近藤美希です。先程は失礼致しました。どうぞお見知り置きを」


 私はリーナに向かってカーテシーを行い顔を上げると、リーナは驚きの表情で私を見ていた。


「コンドウミキ……まさか本当ですの? 本当に貴女があの……直ぐにいらして! ラスティンに会わせます。通しますわよ」


「ハッ!」


 兵士はリーナに敬礼をし、私達はリーナと共に城内へ続く吊り橋を渡った。




 私達が通された部屋は、二階の一角にある小部屋。小部屋といっても、それはこの王城の中では、であり、それでもちょっとした教室程の広さがある。


 全体的に落ち着いた雰囲気で纏められ、風に靡くレースの様なカーテンが掛けられた身長の倍以上もある窓の向こうには、部屋と同サイズ程のテラスが見えていた。


 恐らくこの部屋は要人の迎賓室で、私達が入ってきたドア以外のドアの向こうは寝室などになっているのだろう。


「では、こちらでお待ち下さる? ラスティンを呼んできますわ」


「有難う御座いますリーナ殿」


 スズタクが頭を下げると、リーナは和かに微笑んだ。


「なんだ、私より知り合い多いじゃん」


 まあな。と、返事をして、スズタクはドサリとソファーに腰を下ろした。スズタクは気付いていないようだけど、どうやらリーナはスズタクの事を好いているらしい。顔が乙女してたもんね。


「美希もそうだったんだろうが、オレも根掘り葉掘り聞かれたクチでな」


「王女救出の英雄なのに?」


「まぁ、得体の知れない野郎だしな。誘拐犯の一人だと思ったらしい。仲間割れをおこして、姫様救出に(かこつ)けて褒美を貰う。ってな」


 スズタクは両手の平を天井に向け、やれやれといった風の仕草をする。


「まあ、宝玉の情報も聞きたかったしな、その過程で色々と聞かれたのさ。結局スカだったけどな」


「七徳の宝玉。タロンで手に入れたので三つ目だっけ?」


 私はスズタクの横にストンと腰掛ける。


「ああそうだ。そして四つ目があの塔の中にある」


「スズタクってどうしてこの世界へ来たの?」


 スズタクは身体を私の方へ向けて、私の目をマジマジと見つめる。


「なんだ? 今日はやたらと聞きたがるな。まあ、いいか。暇だし聞かせてやるよ」


 スズタクは映画の撮影の為、スタジオの扉を潜ったらこの世界に飛ばされたらしい。橙色の瞳をもつ七賢人の一人、(とう)のサラに召喚され、元に戻りたければ宝玉を集める様にと云われたらしい。


 その身勝手な振る舞いに、スズタクも全開でキレたけど、相手は異世界を創造出来る神様の様な存在。当然、生身ではどうする事も出来ずに、渋々条件を飲んだという話。しかも、タダ飲んだだけで無く、チート級の武器を寄越せと言ったそうだ。転んでもタダでは起きない人だ。


「そういや、麻莉奈さんはスズタクの武器が該当してたよね」


「ああ、あいつの場合は武器の所在は殆んど判っている。今は、残りの一つを探している所さ」


「所在が判っているのに、取りに行かないの?」


「皇国の聖騎士王、帝国の英雄、アマゾネス族長。取れると思うか?」


 私は首を激しく横に振る。そりゃあ取れんわ。へたすると……いや、間違いなく国際犯となり、その後の活動に支障をきたす事になる。


「だから、オレの宝玉集めが終わる直前にしなくてはな」


 成る程。奪って集めて直トンズラか。それしかないよね。下さいって言ってくれるモンでもなし。それにしても……


「麻莉奈さんだけやたらと難易度高くない?」


「ああ、一体何を願ったのやら……っとおいでなすった様だ」


 スズタクが言い終わるか終わらないのかのタイミングで、部屋はのドアが開かれた。



 ドアが開かれ室内に入ってきた人物は、白い板金鎧プレートメイルを身に纏い、肩当てから赤いマントを下げるアルスネル王国騎士団近衛隊隊長ラスティン=アレクサードと、そしてフィリアン……ではなくリーナだった。


「久しいなスズキタク」


「お久し振りですラスティン卿」


 スズタクは立ち上がって胸に手を添え軽く一礼する。


「して、そちらの者は?」


 私もスズタクと同じく立ち上がり、カーテシーを行う。


「お久し振りですラスティン様。私は近藤美希です。以前は大変お世話に――」


「お前は本当にあのコンドウミキなのか?」


 は? え、えーと? そりゃまあ、ミキ=アウレーちゃんの時とは姿形が全く違う訳だけど。年齢も。


「お前が本物だというのなら、証拠を見せてみろ」


 ラスティンは鋭利な氷柱のような視線で私をねめつける。私はその視線を真っ向から見据えたまま、腰に差していた小剣ショート・ソードを引き抜いた。それを見て、ラスティンの背後に控えていたリーナが、腰の長剣ロング・ソードの柄を握り一歩を踏み出したが、ラスティンはそれを手で制した。


「炎よ。我が剣に纏て力と成せ」


 チカラある言葉を解き放つ。途端、私の持つ剣が赫い輝きに包まれた。


 付与魔術。何の変哲も無い物質に魔力を介し、付与した属性の力を与える魔法。炎は剣尖に重さが増し、風は鋭さが増す。そういった細かな違いはあるが、斬れ味、耐久性アップは全属性共通している。


 そしてこの術の真骨頂は、手に触れられる物総てに付与出来る事だ。その数は数万種にも上り、そしてそれは物だけに留まらず、人体にも付与する事が可能。


 そんな万能の付与魔術。この世界に於いて使用が出来る人物は、私以外にあと一人しか居ない。だから、これだけでも十分に証明となる筈。


「なるほど。確かにコンドウミキの様だな……だが、挨拶をする前に一つ聞く」


 そう言ったラスティンの視線に鋭さが増してゆき、部屋の温度が数度下がった様な錯覚と共に、ラスティンの冷徹な瞳が私達を見据える。


「封印を破ったのは、オマエか?」


 言葉を放つのと同時に、ラスティンから堰を切ったように噴き出す殺気が私達を襲った。

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