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第十五話 ファースト・ミッション

 ガギンッ!

 正面に構えた盾から、腕の骨に響くような衝撃が伝わる。その衝撃によって私の足は地を離れ、少しばかり宙を舞った後尻餅をついた。


「もっと踏ん張れ!」


 その衝撃を与えた人物、フィリアン=オルフェノ教官が叫ぶ。無茶言わないで! 教官の本気を受けられる人なんか数える程しか居ないでしょうに!


 あれから一ヶ月が過ぎ、私の環境は大きく変わった。来年より新設される組織の一員として只今猛特訓中なのである。

 その組織は三十名程で構成され、国内の事件や問題を解決し、場合によっては他国にも派遣する攻勢組織。サージェント・タスクフォース。通称STF(仮)という組織。既に騎士団より二十名程が決定しており、残り十名はアカデミーからの選抜となった。


 アカデミーからは私以外に何故かエルミーヌが選ばれており、男が六人、女は四人が選ばれている。装備は騎士団のような重武装では無く、ライトファイター的な軽装鎧が支給予定となっている。


 今までは重装甲の鎧と盾でもって、相手の太刀筋を変えたり受け止めたりしていたのだが、流石に軽装甲の盾では衝撃がモロ伝わるし、流しどころが悪ければ身体を傷付けてしまう。慣れない私は教官の力を借りて特訓中という訳である。


 そうして半年程が過ぎた頃、私達STFアカデミー生のメンバー十名は、アルスネル城内の作戦室に呼ばれた。


「諸君。連日の訓練ご苦労だ。そして、これからは実戦となる」


 騎士団ナンバーツー兼STF隊長であるフィリアン=オルフェノの側に控えた人物が、背後にある黒板を教鞭の様なモノでピシリと叩いた。この人はSTF作戦参謀のモーリ=オルキーデアさんだ。


 基本的にSTFは行動は独自の判断に任せる。ただし、本部からの命令は絶対。破れば軍法会議にかけられ裁きを受ける事となる。あとは、なるべく穏便に。が鉄則である。現時点での秘密組織が、大っぴらに暴れる訳にもいかないのだろう。


「……以上により今回、班を三つに分けそれぞれ作戦に当たってもらいたい。それでは、チーム分けを行う」


 一班、二班と次々と名前が呼ばれてゆき、その中には私の名前は無い。そりゃそうか。十割る三だと一余るもんね。


「ミキ=アウレー、お前は一班だ。気合を入れていけ」


「は、はい!」


 溢れ居残りされるかと思っていた私は、一班のメンバーとして同行する事になった。

 第一班にはアルベロ=トゥーリ。指揮能力に定評があり、戦闘能力もトップクラス。アカデミーでも一、二を争う人物である。

 そして、ノワイエ=カスタノ。オツムは余り良くなく、付いたあだ名が木偶の坊である。だが、防御能力に関していえばアカデミーでもピカイチの人物だ。

 三人目は、何故かエルミーヌ=ハーシュ。最後に私の四名である。


 第一班のミッションは、森の中にある遺跡に住み付いたコボルトの掃討である。そのコボルト達は、遺跡を根城に付近の街道を通る商人達を狙い襲っているそうである。


「ハッ! コボルトなんざ数には入らねぇ。楽勝だぜ」


「バーカ。あんたじゃ返り討ちにされるだけよ」


 ノワイエにエルミーヌが突っ込みを入れる。確かにノワイエの硬さだけではコボルト倒せない。何しろ硬いだけなのだ。


「ノワイエが引きつけている間に、俺達が各個撃破ってトコかな。あとはその場の判断で。だな」


「あいよ。任せときな」


「結構いい加減ねぇ」


 呆れ顔のエルミーヌにアルベロはキッと視線を向ける。


「じゃぁ、どんな作戦があるんだ?」


「んー、適当で良いんじゃない?」


 いい加減はあんただエルミーヌ。見てみろ、トゥーリとカスタノが唖然としているじゃないか。


「アウレーはどうだ? 何かあるか?」


「へ? んー、トゥーリが言った通りで良いと思うけど?」


「あーん。ミキちゃんは私の味方でしょー?」


 抱き付いてくるエルミーヌをサラリと躱す。すぐに抱き付く癖をどうにかして欲しいものだ。



 アルスネル王都より北に半日。鬱蒼と茂る森の中を一本の街道が通っている。その道は幾つかの村を通り、北の隣国デリュクスへと至る行商人達の通り道である。そして最近になって、この街道の森の中にひっそりと建つ遺跡を根城に、コボルト達が暗躍しており商人達も通る事が出来ずに困っているのだという。


「ここか……」


 私達は今、その遺跡の前に立っていた。遺跡といっても城の様なモノでは無く砦が朽ちた感じの遺跡で、絶壁に建てられた遺跡の奥は、洞窟へと繋がっているそうである。


「じゃ、行くか」


「あいよっ」


 威勢良くノワイエが返事をすると、アルベロが遺跡のドアに手を掛け押し開く。ヒンヤリとした空気が中から外へと吐き出された。


「ねぇ。何かおかしくない?」


 砦の中へ足を踏み入れ、奥へ進みながら私はアルベロに囁いた。


「ああ、静かすぎるな」


 それだけでは無い。砦の入り口にはドアが付いていた。果たしてコボルトがドアの開閉など行うだろうか? それに加えて、外の地面には足跡なんてモノが無かった。コボルトは集団で商人を襲っている。と、いうのにだ。

 私の中のカンも告げている。変だ。と。


 それから砦内部の探索を行っても、コボルトのコの字も見当たらずに捜索を終えた。


「なんだなんだ。コボルトなんて居やしねぇじゃねぇか」


「ああ、何処かで情報が間違っていたのだろう」


「んじゃあ、帰ろうよ」


 最奥の部屋を出ようとした時、私達の背後の壁から音が聞こえてきた。警戒しながら慌てて振り返ると、高さが三メートル。幅は一メートル程の穴がポッカリと壁に開いていた。


「隠し通路だと?」


 警戒しながらノワイエが隠し通路を覗く。暗がりの向こうからモンスターが飛び出してきたのでは堪らない。


「ただの……通路だな。下へ降りているぞ」

 

「どうしようか?」


「どうする。と、言われても、進むしかないだろう。ノワイエ、先頭を頼む。ハーシュは二番。アウレーは殿を頼む」


 三人それぞれに返事をして明かりの魔法を使い、私達はその階段を降りて行く。一歩また一歩と私達は、魔物や罠を警戒しながら進んだ。そして、一枚の扉に辿り着いた。


「いくぞ?」


 アルベロが扉を押し開く。鍵などは掛かっていないようで、ドアはギギギと軋みをあげてスンナリと開いた。中は結構広い部屋のようだが内部は暗く、どれくらい広いのかまでは分からない。


「なにあれ?」


 エルミーヌが指差す方向を見ると、私達の正面。かなり離れた場所に炎が灯っていた。それは、瞬く間に左右に広がりこの部屋全体を覆い尽くしてゆく。

 壁に置かれた全ての灯ろうに火が灯り、この部屋全体が露わになった。そこは、コロシアムの様な場所。地面は土で固められ、周囲には塀と階段の様な観客席らしきモノが見える。


「何者だ?」


 周囲を見渡していた私達は、突然響いた声の主を注視し警戒をする。この人、いつの間に居たんだろう。


「我の家に何用があって入り込んだ?」


 その男は低い声で私達を威嚇する。男は身長が二メートル程でガッチリとした体型。白い仮面被っていてその顔は分からない。


「ここはお前の家じゃない。国が管轄している建物だ。今直ぐ出て行ってもらおう」


 アルベロが男に臆する事なく睨み付けながら告げる。


「何十年も放置しておいて今更だな。だが良かろう。我を屈伏させる事が出来たなら、ここから退去しようではない……」


「ウォォリャァ!」


「ノワイエ!?」


 男の話途中にノワイエが男に突っ込み力任せの攻撃をする。しかし、男はそれを難なく躱してガラ空きの脇腹に蹴りを入れた。


「そんな力任せな攻撃など当たらんよ」


 男が言った言葉に、私の中で引っかかるモノを感じた。


「さて……」


 背中に差していたバスタード・ソードを抜き放ち、ビシッと切っ先を私達に向ける。


「全員で掛かって来ても構わんぞ?」


 仮面の奥の瞳がキラリと光った気がした。途端、無風だったはずの部屋の中に気流が生まれる。風はその男から発せられ、私達に向かって吹き付けられると、ゾクリと私の背筋に冷たいものが走る。嫌な予感が私の中を駆け巡っていた。

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