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第十四話 処罰の行方

「……という訳なのですわ」


 なるほど。そのスズキタクなる人物には、少し興味がある。


「その人物とお前が同じ場所から来た。と、いう事は、お前も何か課せられたのだろう?」


 そこまで知っているのなら、言わない訳にはいかない。


「私は……死んだ人間なのです」


リリアナ王女は『えっ?!』っという顔をし、ラスティンとフィリアンは眉を(ひそ)めた。純真な王女はともかく二人はキナ臭いと思ったのかも知れない。


「私は元の世界で不幸にも事故に遭い死にました。霊体となって呆然としていた私を、七賢人(セイ)のクレオブロスなる人物が拾い、ある目的を達成出来たならどんな望みでも一つ叶えると云われたのです。私は藁をも掴む思いで彼と契約を交わしました」


「望み? それはどんな望みだ」


「生き返りたい。父に母に逢いたい、元の世界に戻り元の生活に戻りたい。それが、私の望みです」


「して、それをどうやって達成するつもりだ?」


「私のレベルを最大まで上げる事です」


「れべる。とはなんですの?」


「簡単に言うならば魂の強さです姫様。経験を得て、それが一定の値になるとレベルが一つ上がります。それを繰り返し、レベルを最大値にまで上げる事が出来たなら、私は生き返る事が出来ます」


「お前は本当に生き返れると思うのか?」


 ラスティンの放った言葉に、私の意思に反して身体がピクリと動いた。確かに、ラスティンの言う通りその保証は無い。クレオブロスは自身の名に於いてと言っていただけ。ただの口約束事……だけど……。


「それでも……それでも(すが)りたいんです! そのチャンスが目の前にあるんです! たとえそれが叶わなくても……やってみるだけの価値はあるじゃないですかっ!」


 立ち上がってダンッ! と、私はテーブルを両手で叩き付けた。フィリアンがそれを見て、剣を抜こうと僅かに動くがラスティンがそれを制す仕草をした。

 しまった。つい……。


「すみません。カッとなりました」


「良い。それで? どういう手段でそれを達成するのだ?」


「人々には目的というモノがあります。それは千差万別で、例えばこのミキ=アウレーならば、騎士見習いとなる事が目的です。それを達成する事で、私は経験を得る事が出来ます」


「なるほど。では、お前はこれまでに幾つもの目的とやらを達成し、レベルとやらが上がっている訳か」


 私は首を大きく横に振る。


「いえ。ある事件で、それまでに得た経験は全て失いました」


「ある事件?」


「はい。ミネアの村で起きた、領主の御子息が村人夫婦を殺害した事件です」


「おい。それって……」


 今まで黙っていたフィリアン教官が口出しした直後、ラスティンは片手を上げてそれを制す。


「詳しく話せ」


「はい」


 私はミネアの村での事件を詳しく話して聞かせた。領主の嫡男から執拗に迫られていたルジェさんの事。森の中へ逃げ込み刺されて死んだ事。

 ラスティンは顔色一つ変えずに聞いていたが、フィリアンは明らかに驚いた顔で聞いていたし、リリアナ王女は涙ぐんでいた。


「あの時の私は……いえ、唯の言い訳ですねこれは。あの事件の後、私は私自身を鍛え直す為に、アカデミー生であったミキ=アウレーに憑依をしたのです」


「ミキ=アウレー。いや、コンドウミキよ。お前がとった行動は、どれも浅はかな行動であったと言わざるを得んな」


 ラスティンの言葉に私は小さくなって返事をした。


「お前の処遇は後日伝える。それまで、自室にて謹慎を命ず。良いな」


「分かりました。では、失礼致します」


 立ち上がり軽く会釈した私は、城を出て真っ直ぐに寄宿舎に戻った。玄関のドアを開けると、両膝を抱え座っているエルミーヌと目が合った。


「ミキ! 遅かったじゃない!」


 萎んでいた花が、パッと開くような笑顔で私をギュッと抱きしめた。


「心配してたんだから」


 フニュッとしたマシュマロのような感触が、私の首元を圧迫する。だけど、私の様子がおかしい事にすぐ気付いたようである。『どうしたの?』と聞くエルミーヌに『なんでもない』と応えた。


「ちょっと疲れただけだから。部屋に戻って休むね」


 心配そうの私の顔を覗き込むエルミーヌ。私としては、思いっきり明るく振る舞ったつもりであったが、心配されてしまう程の表情であったらしい。


「きっとこうすればなおっ!」


 私の背後に回り込み、胸を揉みしだく構えを見せたエルミーヌに、振り向きざま上から下へと拳を振り下ろし、エルミーヌを重力の赴くままに()(つくば)らせる。


「ミキちゃん酷いよぉ」


 やかましい。ヒトの胸を揉もうとするからだ。


「でも良かった。いつものミキに戻った」


 え? アンタまさか……。


「ありがとエルミーヌ。元気でた」


 微笑む私を見てエルミーヌの顔が赤く染まる。え? なんで?


「と、とにかく。私は部屋に戻るから」


 ボーッと惚けるエルミーヌをその場に置き去りにして私は部屋に戻った。



 翌日。

 お昼を済ませた午後の昼下がり。少しづつ厳しくなっていく陽だまりの中で微睡んでいると廊下の方がやけに騒がしく、だんだんとコッチに近付いてくる。その騒ぎの主は私には誰だか分かっていた。


「ミキ! 居る!?」


 ガチャリとドアを開け放ち、エルミーヌが部屋の中に入ってくる。


「居ない」


 シーツを頭まで被り窓の方を向く。


「なんで?! どうしてミキが謹慎処分なの?!」


 あー、やっぱりその事か。一応口止めされているからなぁ。さて、どうしたものか。


「んーと。片付けサボったから?」


 まぁ、片付けが予定されていた日には、私は地下牢に囚われていたのだから、あながち間違ってはいない。


「え?! そんな理由で!? だったら私なんてもっと酷い事してたわよ!」


 ほう。


「フロアを誰かに押し付けて遊んでいたり!」


 ほぉう。


「お客さんに出すケーキをつまみ食いしてたりしたんだから!」


 …………。


「あ……ね、ねぇ。ミキちゃん。あなたの背後に(オーガ)が見える……のは気のせいだよね?」


「アンタってやつは! 皆一生懸命ヤッてたってのに! この口か?! この口が悪いのか!?」


「いひゅい! いひゅい! みしひゃんひゃめて!」


 そんな事もお構い無しにエルミーヌの口をギューっと横に引っ張ってやった。


「まったくアンタって()は! 後で皆に誤ってもらうわよ! それと、謹慎の件はラスティン様の命令なの!」


「えっ!」


 ラスティンという名前を聞いて、私に説教されてシュンとしていたエルミーヌの目が輝き出した。


「まさか……まさかあの、アルスネル近衛兵団隊長の? 王国ナンバーワンの?! ラスティン=アレクサード様!?」


 良くご存知だ事。


「……そうよ。そのラスティン様よ」


「ウソ! ヤダ! マジ?! それでそれで? どうだった? ラスティン様のブ厚い胸板わぁっ! いひゃいいひゃい!」


 私は再びそのけしからん口を横に引っ張った。どうしていつもシモに話を持っていくんだ? 溜まってるのか? この娘。


「ホント、ミキって加減を知らないんだから……そのうち目覚めちゃうゾ。私。あっ! 御免なさいっ!」


 ブンッと振り上げた私の拳を見て、エルミーヌは頭を抱え即座に謝った。


「あんまり詮索してると、ラスティン様に睨まれるわよ」


「う……そ、そうだね。と、ところでミキ。これからどうするの?」


 どうすると言われてもな。


「どうもこうも、なるようにしかならないでしょう?」


 だよねぇ。とエルミーヌは頷いた。そう、なるようにしかならない。今の私は、判決を待つ囚人の様なものだ。あの時の殺気からして死刑もあり得る。良くてアカデミー退学辺りだろう。しかし、そうなると……。


「傭兵にでもなろうかなぁ……」


 私の呟きにエルミーヌの耳がピクリと動いた。

 傭兵という職業は、国家に所属しない風来坊の様な人達の総称だ。しかし、国に雇われている傭兵も少なくない。大抵の人は、魔物を狩り素材を手に入れて売ったり、各国の斡旋所から依頼を受けたりして稼いでいる。


「……ヤダ」


 は?


「私もついていくから。ミキが傭兵になるっていうのなら私も行く!」


「アンタ。アカデミーどうするのよ?」


「ミキの居ないアカデミーなんて……行く価値無いわ!」


 うっわ。言い切りやがった。だけど。


「エルミーヌ。そう言ってくれるのは嬉しいけど、だけどダメよ」


「何で!?」


「お父さんになんて言うの?」


「うっ!」


 エルミーヌの顔が見る間に青くなってゆく。親父さんは元より、集落の皆が立派に騎士となって戻ってくる様にと、送り出されたエルミーヌには、それを無下にする事は出来ないだろう。


「心配してくれてありがと。でもね、エルミーヌはエルミーヌの目標に向かって頑張って。私は私で頑張るからさ。そして、一人前になってまた会おうよ」


 涙ながらに私の胸に飛び込み、ワンワンと泣くエルミーヌの頭をいつまでも撫でていた。



 翌日、城からの使者が私の部屋を訪れ、ラスティン隊長の元へと案内された。再び合間見えたラスティン隊長は、相変わらず山積みとなっている羊皮紙に目を通しサインを続けている。ちゃんと休みを取っているんだろうか? この人。


「足を運んでもらって悪かったな。見ての通り私は非常に忙しいのでな」


 持っていた羽根ペンをティーカップに持ち替えて、もう冷めてしまっているであろう紅茶を一口啜る。


「さて、早速だがコンドウミキ。キミの処遇を伝えよう」


 ラスティンが机に両肘を付き、組んだ掌の上に顎を乗せる。私は、それを見て姿勢を正した。


「お前は、後先考えずに行動する癖があり、自分だけで何でも出来ると思っている自信家でもある。それは、団体行動が礎となる騎士には向かない性格だ。よって、コンドウミキ。キミにはアカデミー……」


 私は目をギュッと瞑り、身体の横に付けていた掌を握る。ラスティンの言葉を聞いて、私のアカデミー生活は終わりを告げられるのだと思っていた。そうなると、ミキ=アウレーが死すまで、私はこの身体から抜け出す事は出来なくなる。つまりは、長くて数十年はこの世界に釘付けが確定してしまう。

 

「で、自分を鍛え直せ」


 続けられた言葉に私の目が点になった。


「聞こえなかったのか?」


「あ。い、いえ。……でも、どうしてですか?」


「このまま世に放っても、お前の悪癖は治らん」


 ちょっと。乙女になんていう言い草。だけど、当たっているだけに言い返せない。


「今までよりも、もっと厳しくシゴいてやる。それと、お前の力は人前で無闇矢鱈(むやみやたら)に使うな。アレは魔女にしか使えぬ力、要らぬ誤解を招かぬ様慎め。よいな」


「は、はい! 有り難うございます!」


 私の目には涙が溢れ、ラスティンの像をボヤかせる。勢いよく腰を直角に折り曲げると、その涙が床に落ちた。


「……実はだな。お前を処断すべきだという意見も多かったのだ。だが、リリアナ王女が皆を必死に説得してな……」


「姫様が?!」


「それが無ければ、お前は火あぶりとなっていただろう。王女の行動を無に帰さぬ様、しっかりと励めよ。よいな」


「はい!」


「よし。では以上だ。下がれ」


 私は再び勢い良く腰を曲げ執務室を後にした。



 ―― 数分後 ――


「それで? いつからソコに居た? フィリアン」


 ミキ=アウレーが退室した後、ラスティンは再び羊皮紙に目を通しながら、本棚の陰に向かって声を掛けた。


「なんだよ。気付いていたのか」


 本棚の陰からフィリアンが姿を見せた。


「どういうつもりだ?」


「まぁ、嬢ちゃんの処遇が気になってな……でも、良かったのか? あれで?」


 ラスティンはペンをコトリと机に置き、フィリアンの目を見つめる。


「邪悪な感じはしない。そう言ったのは、お前ではなかったか?」


「そりゃそうだけどよ。反対派も多いんだろ?」


「それくらい黙らせるさ。それとも何か? 胸部は魔女だから、処断する。と、でも言うのか?」


「う。あ、あれはだな…………アレは男のロマンだ!」


 右拳を握り力説するフィリアンに、ラスティンは何がロマンかと心の中で嘲笑する。


「どちらにしろ、リリアナ王女が彼女をいたく気に入っていてな、友として迎えたい。と、まで言っておるのだよ」


「物好きな姫サンだゼ」


 フィリアンは呆れ顔で、頬をポリポリと掻く仕草をする。


「それにな、お前とその剣があれば何とでもなるだろう?」


 ラスティンは、フィリアンが腰に下げている鞘を指差す。フィリアンが愛用している幅広の剣(ブロード・ソード)には特殊な力が込められており、先の魔女との戦いの時にも、用いられたものである。その性能はラスティンの折り紙つきだ。


「彼女に恩を売っておけば、いずれ来る魔女との戦いに役立ってくれるかもしれんしな。ダメなら斬り捨てるまでだ」


「えげつねぇな」


「とにかく、例の件に彼女も加えておく。残りの人選早急に頼むぞ」


「へいへい」


 フィリアンはクルリとラスティンに背を向け、ドアから出て行った。

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