表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉たる千隼と鬼憑きの姉妹  作者: 忍野佐輔
一章 お姉様と徹甲弾と六角ボルト
6/38

一章 お姉様と徹甲弾と六角ボルト(その5)

 詳シイ話は移動しながらしよう。

 そう(もみじ)に言われ、千隼(ちはや)飛鳥(あすか)は鈴鹿女学院の駐車場へと連れてこられた。第一校舎の裏手にある駐車場には、セダンタイプの乗用車が一台。そのすぐ横にパンツスーツ姿の女性が立っていた。

 近づいてきた三人に気づき、女性はメガネを直してから千隼(ちはや)へ微笑みかける。

「半日ぶりね、千隼(ちはや)ちゃん」

 柔和な笑みに、メガネの下の優しげな瞳。少し頼りなくもあるが柔らかい物腰は、新任教師を思わせる。実際、鈴鹿女学院に彼女の外見はよく溶け込んでいた。

 だが、千隼(ちはや)は知っている。

 彼女が警官であり、中でも警視庁捜査一課に配属されている刑事である事を。

「貴女が水無瀬(みなせ)飛鳥(あすか)さんね。初めまして、警視庁捜査一課の深山(みやま)(さち)です」

 飛鳥(あすか)は広げられた警察手帳をまじまじと眺め「本当に警察なんだ……」と驚いていた。確かに(もみじ)の外見では、いくら警察手帳を見せられたとしても信じられるものではない。

 (さち)飛鳥(あすか)の肩に掛けられているボストンバッグを見て頷く。

「荷物はまとめてきてくれたわね? それじゃ、とりあえず車に乗ってくれる?」

 そう(さち)に促され千隼(ちはや)は後部座席へと乗り込む。それを見て、少し戸惑いながら飛鳥(あすか)千隼(ちはや)の後に続いた。(さち)は運転席へ、(もみじ)は助手席へと腰を下ろす。やがて発進した自動車は、一般道へ向かうスロープを下りだした。

「これから、わたし達は八王子の方にある官舎へ向かいます」

 (さち)がバックミラー越しに、千隼(ちはや)飛鳥(あすか)へ笑いかけた。

「詳しい事情を話す前に、もう一度自己紹介をしておきましょうか」

 そこで(さち)は言葉を区切り、先に学院の敷地から一般道へと自動車を滑らせる。落ち着いた所で、再び話し始めた。

千隼(ちはや)さんはよく知ってると思いますけど、私達は警察です。――でも、まあ、見ての通りちょっと風変わりな部署なんだけど」

 ね、(もみじ)ちゃん。と(さち)が助手席の(もみじ)へと声をかける。「そうな」とだけ返す(もみじ)

「私達は警視庁刑事部捜査一課の《特例疾患(とくれいしっかん)犯罪対策室》に所属しています。《突発性とっぱつせい欠落部位けつらくぶい再生症候群さいせいしょうこうぐん》に関わる事件を扱ってるわ。んー、それとも《SCT》って言った方が判りやすいかしら」

「えす、しー、てぃー?」

「《(おに)()き》を捕まえる特殊部隊、って聞いた事ない?」

「ああ……」

 (さち)に言われ、飛鳥(あすか)は幼児期の記憶を探るような表情で頷いた。千隼(ちはや)もその気持ちはよく判る。昨晩《(おに)()き》に襲われた時も《SCT》などという単語は欠片も思い浮かばなかった。言われてから「そういえば、そんなのがあったな」とようやく思い出すような名だ。

 しかし、設立時には大々的に発表された部隊だったように思う。

 きっかけは五年前の《822事件》。

 残暑厳しかった八月二十二日に、日本全国各地で同時多発的に発生した大量殺人及び破壊活動の総称である。犯人達は白昼堂々、次々と人を襲い、そして喰らった。彼女らは全員が半狂乱状態であり、中には破壊活動をする者まで現れる始末。都内で言えば国立競技場が餌食となり、建物の半分が文字通り吹っ飛ばされた。再建には五年もの月日が必要とした。

 今なお影響を残す、死傷者数千人にも及んだ平成の大事件。

 当初は組織的な犯行を疑われていたが、やがて犯人達には一切の繋がりがない事が判明。共通項は『女性である事』と『過去に肉体の一部を大きく損壊している事』。そして『失っていたはずの肉体が再生している事』のみ。

 だが、事件はそこで終わらなかった。

 それから程なくして『失った肉体が再生した』という事案が多発するようになったのだ。やがてそれは《突発性(とっぱつせい)欠落部位(けつらくぶい)再生(再生)症候群(しょうこうぐん)》という病として定められる。それは女性のみが発症し人を喰らいたがる病。その異様な症状を、世間が《(おに)()き》と呼ぶようになったのもその頃だ。

 急増する食人事件。

 大きな社会問題となった《(おに)()き》に対して政府は《特例疾患(とくれいしっかん)対策法》を施行。ほどなく警視庁が刑事部内に新設したのが《特例疾患犯罪対策室》である。

 英名は《Special-Capture-Team》。直訳するなら『特別捕縛班』となる。

言うなれば《SCT》は『(おに)()き専門の捕縛部隊』である。

 ――と、千隼(ちはや)が参考にしたネットの百科事典には記されていた。

 千隼(ちはや)も昨日まで詳細は知らなかったのだ。

 というのも、《822事件》から一年ほど経った頃から徐々に《(おに)()き》という単語が聞かれなくなったからだ。当然、捕まえる相手がいないなら《SCT》も話題にのぼらない。《822事件》に関わりの薄かった人間など、《(おに)()き》を都市伝説だと思っていたりする。

 実際には《(おに)()き》も《SCT》もこうして存在しているわけだが。

 ふと、飛鳥(あすか)が首を傾げた。

「でも、何でその《SCT》があたし達を? お姉とも知り合いみたいだし……」

「え? 千隼(ちはや)ちゃん、何も話してないの?」

 (さち)は驚いたのかハンドルを揺らしてしまい、少しだけ車が蛇行する。助手席では(もみじ)が呆れたように「あー、やっぱりノう……」と呟いている。

「どういう事、お姉?」

 飛鳥(あすか)から刺さるような視線を向けられる。家に帰ってから話そうと思っていたが、仕方がない。千隼(ちはや)は昨晩の出来事を白状した。

(おに)()き》に襲われた事、《SCT》に助けられた事、その後は朝まで事情聴取を受けていた事。(もみじ)は直接自分を助けてくれた人間であり、(さち)は事情聴取の際の担当刑事だった事。

 そして、

「お姉、あたしをバカにしてるの?」

 千隼(ちはや)の話を聞き終わった飛鳥(あすか)の第一声はそれだった。

 確かに突拍子もない話。「だが本当なんだ」と千隼(ちはや)が言うと意外にも飛鳥(あすか)は「別にウソだとは思ってない」と否定。

「そうじゃなくて。どうしてあたしに話さなかったの?」

「あ、いや……あまり心配をかけたくなかっただけで、バカになんて、」

「ほら! ほら、ほら、ほら! やっぱりあたしを子供扱いしてる。あたしに話しても意味がないと思ってるから、そういう言葉が出てくるんだ」

 取りつく島もない飛鳥(あすか)に、千隼(ちはや)は戸惑う。

 昔はこんな刺々しい妹ではなかった。私の言う事をよく聞いたし、物わかりも良かった。いつも『千隼(ちはや)お姉』と私の後をついてきて、今日のような夏の日にはよく徒競走して勝った方がコンビニのアイスを奢るなんて賭けをしていた。少なくとも千隼(ちはや)は、仲の良い姉妹だと思っていたのだ。どうして、こんなにも嫌われてしまったのだろうか。

「姉貴ヅラもいい加減にして。何様のつもりよ。あの時も――」

「まァまァ、飛鳥(あすか)クン」

 と、飛鳥(あすか)の言葉を遮ったのは(もみじ)だった。

「責めるなら(わたし)タチを責めてくれないカ? 我々が千隼(ちはや)クンを朝まで拘束していたわけだし、外で気軽に話すような事でもない」

「でも、それとこれとは――」

(わたし)タチが、もっと早く《(おに)()き》を捕らえていれば良かった話だ。これは我々の責任なのだヨ」

 そう(なだ)められ、憮然(ぶぜん)としながらも「……すみません、お騒がせしました」と飛鳥(あすか)は矛を収める。しかし千隼(ちはや)への怒りはおさまらないらしく、窓の外へと視線を向けてしまった。

 仕方なく、千隼(ちはや)が話の続きを促す。

「それで、その《(おに)()き》は捕まったんですか?」

「そうそう。本題はそこなの」

 空気を切り替えようとした千隼(ちはや)の意図を察してくれたのか、(さち)が少し芝居がかった動きで、口早に話を進める。

「昨日うちに《舌の(おに)()き》は、逮捕したわ」

「《舌の(おに)()き》――は?」

 千隼(ちはや)の脳内に疑問符が浮かぶ。逮捕も何も《舌の(おに)()き》は《SCT》が殺したではないか。千隼(ちはや)はアスファルトに転がる《舌の(おに)()き》の表情を覚えている。

 しかし千隼(ちはや)の戸惑いを、(さち)は別の意味に捉えたらしい。「そ、」と短く肯定する。

「――《左脚(ひだりあし)(おに)()き》は未だ逃亡中。しかも被害者まで出してね」

「……現場を誰かが目撃したんですか?」

「いえ、そうではないけれど――」

 (さち)が言うには、今朝早くに切断された左脚(ひだりあし)が発見されたのだと言う。骨格から推定して若い女性のもの。《(おに)()き》は人を喰らう際、必ず遺体の一部を食い残す。その部位は《(おに)()き》が必ず持つ(まだら)()(よう)の部位に対応する事が判っており、今のところ例外は無い。つまり《左脚(ひだりあし)(おに)()き》の食い残しだろうと《SCT》は判断したらしい。千隼(ちはや)は《舌の(おに)()き》も喰らった女性の舌を吐き出していたと思い出す。

 無論、《左脚(ひだりあし)(おに)()き》の犯行だという決定的証拠は見つかっていない。

 だが、左脚(ひだりあし)の切断面の特徴や周囲に血痕が残されていない事、現場が住宅街のど真ん中でありながら、悲鳴を聞いた証言一つ聞かれなとなると《(おに)()き》でもなければ不可能だろうという話になったらしい。

「それに見つかった場所が問題でね」

 (さち)は少し言い淀むが、意を決したように口を開いた。

水無瀬(みなせ)さん達の家の近くなの」

「私たち……の?」

「そ。名前とかは出せないけれど、いつも早朝にランニングしてる女の人知らない?」

 知っている。

 彼女も千隼(ちはや)と同じく鈴鹿女学院の卒業生だった。千隼(ちはや)より何期も先輩だったが、学院のジャージを着てランニングしており、それがキッカケで知り合ったのだ。

 飛鳥(あすか)も思い出したのか「もしかして、うちの学校のジャージ着てる――?」と問う。

「多分、そう。高校の時のジャージを着て出かけたって話だから」

 問いを肯定された飛鳥(あすか)は言葉を失った。

 たとえ知り合いではなくても、顔を知っている人間が殺されたという事実は大きな衝撃を与える。千隼(ちはや)も何も言えない。

 (さち)の説明は続く。その女性はいつものようにランニングに出た直後に襲われたらしい。そして左脚(ひだりあし)が発見されたのは、それから約30分後。そんな短時間で左脚(ひだりあし)を切り落とす事が出来るのは《(おに)()き》くらいのものだろう、と。

 それでね――と、眉をひそめて「あまり言いたくないんだけど」と前置きしてから(さち)は結論を口にする。

「状況から見て、彼女は千隼(ちはや)ちゃんを脅迫する為に殺された。――少なくともわたし達はそう見てる」

「脅迫?」

「逃げた《左脚(ひだりあし)(おに)()き》が、わざわざ事件現場に近い水無瀬(みなせ)さん家の近くに現れるなんておかしいじゃない?」

「ええ、まあ……」

「しかも証拠になりかねない左脚(ひだりあし)を放置した。――それは『何か言えばお前もこうなるぞ』っていう脅しだと思うの」

 話が見えてきた。

 千隼(ちはや)がそれを口にする前に、(さち)が答えを告げる。

「わたしたちの考えはこう。――《左脚(ひだりあし)(おに)()き》は水無瀬(みなせ)さんに顔を見られたと思い、口封じをしようと事件現場近くに戻ってきた。けれど千隼(ちはや)ちゃんは見当たらない。そこへ、たまたま千隼(ちはや)ちゃんと同じジャージを着た女性が現れた。焦っている《左脚(ひだりあし)(おに)()き》は、その女性が千隼(ちはや)ちゃんと知り合いかもしれないと考える。そして、」

「捕まえて、私の話を聞き出してから……殺した」

 千隼(ちはや)の言葉に、(さち)は「かもしれない」とだけ答えた。

「実際に彼女が千隼(ちはや)ちゃんの事を喋ったのかは分からないわ。けど、わざと見つかるように死体を残す理由はそう多くない。口封じが難しいなら、せめて脅迫しようって事でしょう。何か警察に話せば、千隼(ちはや)ちゃん――それか飛鳥(あすか)ちゃんをこうしてやるぞ、って」

 それは違う。

 千隼(ちはや)は心の中で否定する。

左脚(ひだりあし)(おに)()き》は私を守ろうとしていた。《舌の(おに)()き》から私を庇ったのだ。顔を見られたから殺さねばならないというなら、そもそも庇ったりなどしなかっただろう。

 しかし、千隼(ちはや)はそれを口にはしなかった。

「ま、そういうわけなのだヨ」

 助手席から身体を捻り、(もみじ)が後部座席に座る千隼(ちはや)飛鳥(あすか)を覗きこむ。

「これから君タチ二人は、(わたし)タチに護られて貰う。早晩《左脚(ひだりあし)(おに)()き》も、人違いに気づくだろうしの」

「警察署で、ですか?」

「いやいヤ」

 (もみじ)飛鳥(あすか)の問いに苦笑する。

「そんな場所デは、命が幾つあっても足りんヨ。都市伝説の言う通り《(おに)()き》は本物の『鬼』と言っても過言でハない。不老不死の怪物で、銃弾なんぞものともしない。通常の警察組織じゃどうにもならん」

「だから、わたし達が来たの」

 (さち)はカーナビを操作し、目的地を表示。

「これから千隼(ちはや)ちゃん達には、わたし達が用意したマンションへ移って貰うわ。荷物は後でわたしと(もみじ)ちゃんが取ってきます。……そういえば千隼(ちはや)ちゃんのバイクは、」

「後輩に預かって貰います。整備屋に勤めてる子がいるので」

 食い気味に千隼(ちはや)は答える。(さち)は少しの間、思考するようにバックミラー越しに千隼(ちはや)を見ていたが「これから行く場所は教えないようにね」と釘を刺して承諾。

「ちょっと待ってください」

 慌てて口を開いたのは飛鳥(あすか)だった。

 後部座席から少し身を乗り出して、前に座る二人へと詰め寄る。

「あの、この地図を見ると、だいぶ学校から遠いようなんですけど――朝は送って貰えるという事ですか?」

「えっと……何のことかしら?」

「部活です。夏休みは毎日、朝から練習があるので」

 (さち)(もみじ)が視線を交わらせる。スッと(もみじ)が視線を逸らし「お前から説明しろ」と言わんばかりに、(さち)へ手をヒラヒラと振った。

 (さち)は少しため息を吐き、眼鏡の位置を直してから口を開く。

「ごめんなさい飛鳥(あすか)ちゃん。部活は暫く休んで貰うことになるわ」

「……そんな困ります! 秋の大会に向けて練習が、」

飛鳥(あすか)ちゃん」

 赤信号に合わせて車を止めた(さち)が、体をひねって後部座席の飛鳥(あすか)と視線を合わせる。

「それでも、あなた達の命には替えられないわ。千隼(ちはや)ちゃんと飛鳥(あすか)ちゃんを護るにはこれが一番良いの」

「でも相手が《(おに)()き》ならどこにいても一緒じゃないですかっ!」

 短距離走者の肺活量で放たれる怒声が、車内を満たした。

 一瞬の静寂。

 その後に口を開いたのは(もみじ)だった。

「それなら安心シテくれたまヘ」

 (もみじ)は後部座席へ振り返るように千隼(ちはや)飛鳥(あすか)へ視線を向けて、コツコツと、額に刺さる二本の六角ボルトを叩いた。

(わたし)も《(おに)()き》ダ。そこらの鬼ニは遅れは取ラん」

 空気が凍る。

 ――《(おに)()き》だって?

 千隼(ちはや)は驚きながらも、どこかで納得していた。

 鬼無里(きなさ)(もみじ)という少女が《(おに)()き》だと言うならこの奇異な外見も説明がつく。顔の半分を隠すほど長い前髪は《舌の(おに)()き》にも《左脚(ひだりあし)(おに)()き》にもあった特徴だ。鬼のツノのように、額を割って生える二本の六角ボルトも、尋常の人間ではない証拠だろう。

 ついでに言えば昨晩、千隼(ちはや)を抱えたまま《左脚(ひだりあし)(おに)()き》の蹴りを避けてみせた驚異的身体能力も《(おに)()き》であるが故だとも考えられる。

 千隼(ちはや)(もみじ)と視線を交わす。

 絹のような白い前髪。その奥には、金色(こんじき)双眸(そうぼう)があった。

「も、(もみじ)ちゃん!?」

 氷結した空気を割って、悲鳴のような声をあげたのは(さち)だった。

「そんな事、一般人に言っていいことじゃ――」

「何を言ウ。いズレ判る事ではなイか。それに不安を取リ除いてヤッタ方が良いに決まっておロウ」

「よ、余計に不安です! 《(おに)()き》と一緒なんて――」

 飛鳥(あすか)が会話に割り込む。

 信号が変わる。(さち)は自動車を発進させながら、飛鳥(あすか)の言葉に答えた。

「それは安心して。(もみじ)ちゃんは人を襲ったりしない《(おに)()き》なの。それは《SCT》と警視庁が保障する。でなければ、(もみじ)ちゃんはここには居ないわ」

 と、(さち)はため息混じりに説明。「ああ、後で始末書だわ……」という呟きを千隼(ちはや)の耳が拾う。

「マ、というわけダの。(わたし)たちが護るからニハ何も不安はありゃあせん。それに《対策室》の捜査班は優秀ダ。じきに《左脚(ひだりあし)(おに)()き》も捕まるデの。――千隼(ちはや)クンもそんな顔をするナ」

 眉をひそめる千隼(ちはや)に、(もみじ)がそう笑いかける。

 それに対して千隼(ちはや)は「ええ」とだけしか答えられなかった。

 内心が、表情に出ていないかだけが心配だった。

 これはマズイ。

 恐ろしくマズイ事になった。

 警察に護衛されるだけならまだしも、この二人は対鬼(おに)()きの専門家である《SCT》の刑事。しかもその内の一人は《(おに)()き》だと言う。他にも《SCT》の隊員は大勢いるのだろうし、もしかしたら警察所属の《(おに)()き》がもっと他にも居るかもしれない。

 そして彼らは皆、《左脚(ひだりあし)(おに)()き》を逮捕する為に動いている。

 そんな奴等と、私と飛鳥(あすか)は共同生活をする事になるのだ。

 これ以上の危機が他にあるだろうか。

 千隼(ちはや)は隣で「大会まで日が無いのに」とぼやく飛鳥(あすか)をみやる。



《SCT》が追う、《左脚(ひだりあし)(おに)()き》。

 それは妹の飛鳥(あすか)のことなのだ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ