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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

私が唯一勝てないこと

作者: 永字八法
掲載日:2016/06/02

「ねえ、私のこと嫌いなんでしょ?」


「え、いや……」


「じゃあなんでこんなことするの?」


「えっと、それは……」


今まで見たことない目つきで怒る親友を前に、私も今までにないくらいうろたえる。

私のこと嫌い? なんて聞かれることが人生であるとは。

もちろん私はこの子が好きだ。

でも、正確にはこの子が悔しがる顔が好き。


小さいころ、なんの遊びだったか私が大勝したときにこの子が泣いてしまった。

他の友達はおろおろしたり、慰めたりしていた。

ここまでは普通の、小さな子供のよくある光景。

でも、なんと私は興奮していた。

そのころ興奮なんて言葉は知らなかったけど、もっとこんな顔を見たいと思ってしまった。

我ながらゲスである。


他の子の泣き顔も見たことはあるけど、この子ほどではなかった。

なんというか、この子の泣き顔はすごくそそられた。


それからというもの、私はあらゆることにおいてこの子を負かした。

勉強なら全ての教科で10点くらい上回り。

運動なら全ての競技で1秒くらい速く。

芸術なら全ての作品で一段階上の評価をもらった。

背だって胸だって私の方が大きい。

まあこれはたまたまかもしれないけど。

容姿……はともかく、服装は私の方が褒められることが多いと思う。


遊びに至っても、歴史あるボードゲームから最新のレースゲームまで、ことごとくこの子の上を行った。

でも、決して天才とかではない。

うまい人には普通に負ける。

それでも、絶対にこの子だけには勝ってきた。


やがて大きくなって泣かなくなり、かわりに悔しそうな表情を見せ始めた。

それもまた私を昂らせた。

思春期真っ盛りな私は、性的にすら興奮するようになった。


彼女の得意なものも、3日もあれば上回って見せた。

流石に負けるのが嫌になってきたのか、次第に対戦要素があるような遊びはしなくなってきた。

それでも、どんなことにも良し悪しがある。

スコアやタイムなど、競えるところは徹底的に勝った。

そして、悔しがる彼女を見て私はご満悦だった。


しかし今日。

史上最高に怒らせてしまった。

今までも怒られたことはあるけど「もう! なんで勝っちゃうの!」くらいだった。

でも今回は。


「…………」


「…………」


気まずい。

今回のゲームは、この子がかなり楽しみにしていて、シリーズも全部揃えているものだ。

もちろん全部私が勝っているが。

だから最近は一人でやっていたみたい。

でも、今回新しいものを買って浮かれているのか、対戦を誘われた。

満面の笑みを浮かべてコントローラーを渡してきたので、ああ、この顔を悔しさで染め上げたいなどと考えながら受け取った。

まあ、結果はいつも通りコテンパンにした。

そして今に至る。


「やっぱり私のこと嫌いなんでしょ」


「いやまさか……」


あっ、かすかに目が潤んでる。

ど、どうしよう。

……ちょっと興奮してきた。


「なんで私をそんなに負かすの。正直に言ってよ」


なんて考えてる場合じゃない。

100%私が悪いよね。

言うべきか。

なんて言えばいいのか。

私はあなたの悔しがる顔が好きなの、って言うのか。


「言わないと絶交するよ」


急がなきゃいけないみたいだ。

口に任せて弁明する。


「待って、えっと……私は……その……好きなの」


「えっ!? そ、そんないきなり…………で、でも」


「あなたの悔しがる顔が好きなの!」


「私も…………」


完全に真顔になってしまった。

頬が赤く染まったかと思ったら、一瞬で白くなった。

目も突き刺さるような冷たい視線を放っている。

またも見たことない表情で、とても怖い。

や、やってしまった。


「絶交ね」


「待って」


「…………」


「嫌いとかじゃなくて、なんというか、悔しがるのを見るのが好きで」


まさかほんとに絶交はしないと思うけど、私が悪いので許しを請う。

でも、墓穴を掘り始めたような気がする。


「…………」


「ごめんね? えっと、ほら、好きな子に意地悪しちゃうーみたいな? だからあなたのことはんぐっ!?」


私の墓穴掘りは、この子の口で止められた。

あれよあれよという間に、舌が私の口の中に入ってくる。

未知の感覚と、突然の出来事に私は困惑するしかなかった。


やがて、お互いの口に唾液の橋がかかった。


「ちょ、ちょっと!! いきなりなにをぁっ!」


またも言葉が遮られる。

私はベッドに放り出されていた。

手足をがっちり抑えられる。

親友の長い髪の毛が垂れ、私たちの顔の周りに帳を下ろした。


抵抗しようと思えばできた。

私の方が力はあるはずだし。

でも、できなかった。

いや、しなかったのかな。


「ね、ねえ……」


「負けないようにネットでいっぱい勉強してきたから」


いや、そこはどうでもいい。


私に覆いかぶさる顔は、今までに見たことのない、なんとも言えない笑顔だった。

今日は見たことのない表情をいっぱい見たなあ。

親友の手が踊りだす。


「ちょっ……」


「あなたの顔、可愛い」


私はどんな顔をしているのだろうか。

これから起こる初めてへの不安か。

それとも、期待か。



この日から、私がこの子に絶対に勝てないものができた。

お読みいただきありがとうございました

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