表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私が唯一勝てないこと

作者: 永字八法

「ねえ、私のこと嫌いなんでしょ?」


「え、いや……」


「じゃあなんでこんなことするの?」


「えっと、それは……」


今まで見たことない目つきで怒る親友を前に、私も今までにないくらいうろたえる。

私のこと嫌い? なんて聞かれることが人生であるとは。

もちろん私はこの子が好きだ。

でも、正確にはこの子が悔しがる顔が好き。


小さいころ、なんの遊びだったか私が大勝したときにこの子が泣いてしまった。

他の友達はおろおろしたり、慰めたりしていた。

ここまでは普通の、小さな子供のよくある光景。

でも、なんと私は興奮していた。

そのころ興奮なんて言葉は知らなかったけど、もっとこんな顔を見たいと思ってしまった。

我ながらゲスである。


他の子の泣き顔も見たことはあるけど、この子ほどではなかった。

なんというか、この子の泣き顔はすごくそそられた。


それからというもの、私はあらゆることにおいてこの子を負かした。

勉強なら全ての教科で10点くらい上回り。

運動なら全ての競技で1秒くらい速く。

芸術なら全ての作品で一段階上の評価をもらった。

背だって胸だって私の方が大きい。

まあこれはたまたまかもしれないけど。

容姿……はともかく、服装は私の方が褒められることが多いと思う。


遊びに至っても、歴史あるボードゲームから最新のレースゲームまで、ことごとくこの子の上を行った。

でも、決して天才とかではない。

うまい人には普通に負ける。

それでも、絶対にこの子だけには勝ってきた。


やがて大きくなって泣かなくなり、かわりに悔しそうな表情を見せ始めた。

それもまた私を昂らせた。

思春期真っ盛りな私は、性的にすら興奮するようになった。


彼女の得意なものも、3日もあれば上回って見せた。

流石に負けるのが嫌になってきたのか、次第に対戦要素があるような遊びはしなくなってきた。

それでも、どんなことにも良し悪しがある。

スコアやタイムなど、競えるところは徹底的に勝った。

そして、悔しがる彼女を見て私はご満悦だった。


しかし今日。

史上最高に怒らせてしまった。

今までも怒られたことはあるけど「もう! なんで勝っちゃうの!」くらいだった。

でも今回は。


「…………」


「…………」


気まずい。

今回のゲームは、この子がかなり楽しみにしていて、シリーズも全部揃えているものだ。

もちろん全部私が勝っているが。

だから最近は一人でやっていたみたい。

でも、今回新しいものを買って浮かれているのか、対戦を誘われた。

満面の笑みを浮かべてコントローラーを渡してきたので、ああ、この顔を悔しさで染め上げたいなどと考えながら受け取った。

まあ、結果はいつも通りコテンパンにした。

そして今に至る。


「やっぱり私のこと嫌いなんでしょ」


「いやまさか……」


あっ、かすかに目が潤んでる。

ど、どうしよう。

……ちょっと興奮してきた。


「なんで私をそんなに負かすの。正直に言ってよ」


なんて考えてる場合じゃない。

100%私が悪いよね。

言うべきか。

なんて言えばいいのか。

私はあなたの悔しがる顔が好きなの、って言うのか。


「言わないと絶交するよ」


急がなきゃいけないみたいだ。

口に任せて弁明する。


「待って、えっと……私は……その……好きなの」


「えっ!? そ、そんないきなり…………で、でも」


「あなたの悔しがる顔が好きなの!」


「私も…………」


完全に真顔になってしまった。

頬が赤く染まったかと思ったら、一瞬で白くなった。

目も突き刺さるような冷たい視線を放っている。

またも見たことない表情で、とても怖い。

や、やってしまった。


「絶交ね」


「待って」


「…………」


「嫌いとかじゃなくて、なんというか、悔しがるのを見るのが好きで」


まさかほんとに絶交はしないと思うけど、私が悪いので許しを請う。

でも、墓穴を掘り始めたような気がする。


「…………」


「ごめんね? えっと、ほら、好きな子に意地悪しちゃうーみたいな? だからあなたのことはんぐっ!?」


私の墓穴掘りは、この子の口で止められた。

あれよあれよという間に、舌が私の口の中に入ってくる。

未知の感覚と、突然の出来事に私は困惑するしかなかった。


やがて、お互いの口に唾液の橋がかかった。


「ちょ、ちょっと!! いきなりなにをぁっ!」


またも言葉が遮られる。

私はベッドに放り出されていた。

手足をがっちり抑えられる。

親友の長い髪の毛が垂れ、私たちの顔の周りに帳を下ろした。


抵抗しようと思えばできた。

私の方が力はあるはずだし。

でも、できなかった。

いや、しなかったのかな。


「ね、ねえ……」


「負けないようにネットでいっぱい勉強してきたから」


いや、そこはどうでもいい。


私に覆いかぶさる顔は、今までに見たことのない、なんとも言えない笑顔だった。

今日は見たことのない表情をいっぱい見たなあ。

親友の手が踊りだす。


「ちょっ……」


「あなたの顔、可愛い」


私はどんな顔をしているのだろうか。

これから起こる初めてへの不安か。

それとも、期待か。



この日から、私がこの子に絶対に勝てないものができた。

お読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ