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虐められっ子の俺→虐めっ子が嫌いな私

作者: ハル

私には、仲良くなりたい男の子がいます。

名前は(ひいらぎ) 白夜(しろや)。今年の春に転校してきて、今現在、


「なぁ柊、お前の母ちゃん、夜逃げしたんだって?」

「しかも父ちゃんは養育費残して自殺したってよ!アハハハハハwwwwwwwww」

「天涯孤独の身ってやつだなwwwwww」


虐めの的になっています。


「うわ、あれ。またやってるよ。てか、柊君はなんで何も言い返さないんだろ。」


そう、柊君はどんなに罵声を浴びせられても、どんなに暴力を振るわれようと、何も言い返さないし、何もやり返さない。


「おい、柊。聞こえてんのか?」

「………………………」

「無視してんじゃねぇよ!」


ゴッ


鈍い音が教室に響いた。


「………………………」

「お前のそう言うところがムカつくんだよ!!」






「はぁ、はぁ、はぁ、さすがに何か言い返すだろ。」

「………………………」


アザができようと、鼻血が出ようと、何もしない。ただにらみつけるだけ。


そんな彼を、私は助けたい。

別に、恋愛感情とか、そう言うのはない。言うなれば、人間に捨てられ、暴力を振るわれている捨て猫を助けたいと思うのと同じようなものだ。


「さすがにやり過ぎじゃない?柊君は抵抗してないのに。ほんっと、これだから男子は。」


本当に、男子は傲慢で、強欲で、救いようがない。


「私、ちょっと文句言ってくる。」

「私も。」

「私も言う。」


女子のグループの何人かが立ち上がって、柊君を虐めている男子たちのところに行った。


「ちょっと男子。柊君、可哀想じゃない。やめてあげなさいよ。」

「あ?うるせぇよ。お前ら女子に男のこいつは関係ないだろ?それとも何か?こいつのことが好きなの?」

「え?マジで?こんな辛気くさいやつのどこがいいんだよ。」


やっぱりダメだ。思春期の男女では話はかみ合わない。小学校に入った頃は、あんなに仲良かったのに。

十歳とはそういうお年頃なのだろう。



放課後、


「はぁ、何よあれ!『お前ら女子に男のこいつは関係ない』?虐められてる子がいたら助けちゃダメだって言うの!?」

「咲ちゃん、落ち着いて。」


柊君が男だから、女子の私たちは関係ないんだとしたら、柊君がもし、もしも、『柊君が男じゃなかったら』。


「ねぇ、私にいい考えがあるの。聞いてくれない?」




「え?そんなこと、出来るの?ホントに?」

「もし出来たら、私たちが口出ししても文句言われないね。」

「よし、明日の放課後、作戦開始!!」






「はぁ、」


今日は腹に八発、顔に十三発、首締めが二十秒、髪を引っ張るのが四回。ま、いつも通りだな。


顔に出来たアザに触れてため息をつく。


ほんの半月前、母さんは夜逃げし、父さんは自殺した。両親に捨てられ、祖父母も親戚もいない。結果、俺は孤児院に入れられた。

孤児院の中で最年少の俺は、孤児院でも虐められていて、もう今さら虐められたところで何とも思わない。

そんな俺を、クラスの女子は気にかけてはいるが、俺には別に要らないと思った。結局その場限りで、また別の時期に虐めが始まる。それだけでなく、女子の方にも虐めの矛先が向く。なら、俺がしばらく耐えればいい。どうせそろそろ学費がなくなるので、通えるのはあと二、三年だ。


「はぁ、」


俺は再度、ため息をついた。気分もあんま良くないし、今日は遠回りして帰ろ。路地裏なら目に付かないかな。


「今よ!」


路地裏に入ってしばらくして、突然背後から女子の声がしたかと思えば、俺の両腕は抑えられ、口に何か薬のようなものと、水を入れられた。口と鼻を閉じられ、俺はその薬のを飲むしかなかった。


「んー、んー!!」

「柊君、熱くなると思うけど、ちょっと我慢してね。」


今は秋だぞ。なんで熱くなるんだ、と思った瞬間、俺の体中が燃えるように熱くなった。


「熱い…なんでこんな…」


やばい、骨まで溶けそうな熱さだ。どこぞの名探偵じゃないんだからよ。

しばらくして、俺はあまりの熱さに気絶してしまった。





「成功ね。見事に女の子よ。」


柊君に飲ませた薬は、私の父親の知り合いが極秘開発した、性転換薬。飲ませた相手を細胞から作り替え、男は女に、女は男にする薬だ。


柊君の髪はどんどん伸びて、今では綺麗なサラサラロング。生え始めてきたすね毛や髭もすべて抜け落ちた色白な肌。クラスでも一番高かった身長は、138cmの私よりも低くなった。なのに、見る限りでは、胸は私より大きい。他にも腰の括れ、お尻などが激変していた。最後には、寝かせていると分かる程度にある股間についているものもなくなった。これで、柊君も女の子だ。


「さて、このまま放置するのも可哀想だね。」

「そうね。」

「私の家、ここからすぐだから、私の家に行く?」


私たちじゃぁ、人を運ぶのはかなり難しいので、私の家で寝かせることにした。


「名前はどうする?」

「うーん、そうね。名前に白があるから、白を使って可愛い名前だから……」

真白(ましろ)ってどう?」

「いいわね!」


柊君の新しい名前は、真白になった。


そう言えば、お母さんが新しい娘が欲しいって言ってたっけ。






「……ん…ここは?」


目が覚めたら、俺はベッドの上にいた。部屋には何もなく、勉強机と、ベッド、姿見があるだけで他には何もない。


少なくともあの孤児院ではない。あの孤児院にはこんなに綺麗な部屋はない。

ならどこだ?

部屋を見回していると、長い髪の毛が目の前に映った。あれ?俺の髪ってこんなに長かったっけ?


頭に触れてみると、いつものゴワゴワな感触ではなく、サラサラだった。しかも、頭に触れている手は白く、細く、そして小さい。あまりの違和感に、部屋にあった姿見を見る。


「何じゃこりゃ………」


声も、声変わり仕掛けていた頃よりも、いや、下手すれば声変わりする前よりも高い、可愛い声だった。

まるで女の子のような。

そう、俺は女の子になっていた。


「そうか、夢だな。あの後気絶したのか。」


ガチャ、


部屋のドアが開く。


「柊君、起きた?いや、今は柊ちゃんかな?」


うちのクラスの柊 沙織だ。同じ苗字だったからよく覚えてる。


「悪いけど、柊君には女の子になってもらいました。」

「何で?」

「諸事情です。」


ほう、話す気はないとな。


「沙織?何よ、話って。」


しばらくして、柊 沙織によく似た大人の女性が入ってきた。


「お母さん、前に言ってたでしょ?二人目の女の子が欲しいって。」

「確かに言ったけど……」


あ、もう読めました。俺を引き取る気だ。


「この子を引き取ろう?両親も親戚もいなくて、孤児院にいるの。」

「はぁ、確かに家族がいないのは可哀想よね。分かったわ。その子、名前は?」


白夜です、と答えようとした瞬間に、


「真白って言うの。」


と言われた。俺は白夜だ!真白じゃねぇ!


「そう、真白ちゃんね。あなた、うちに来る?」

「あの、いえ、悪いですし。」


迷惑をかけるに決まってる。あそこの孤児院の先生は、もう自分の子供のように世話している。引き取るときにはかなり粘り強く説得する必要がある。


「いいのよ。部屋は余ってるし。」

「いえ、そういう問題では………」

「いいから。もうあなたは私の娘なんだから。ここが今日から貴方の家になるんだから。」


なんだよ、この人も頑固だな。先生そっくりだ。はぁ、諦めるか。


「それじゃぁ、お世話になります。」

「そうそう、それでいいのよ。」


何がいいんだよ。


「服は私のを貸してあげるし、ランドセルはおばあちゃんに貰ったのが一つ余ってるよ。教科書もちゃんと用意してるから。」

「すみません。そこまでしていただいて。」


柊 沙織とその母親であろう人にお礼を言う。


「ちょっときて。私の服、気に入ったのあったらあげるわ。」

「沙織、これから服を買いに行くから大丈夫よ。」

「真白ちゃんも行くでしょ?だったら服は必要じゃん。」

「そうね。それよりも沙織、なんでこの子、男の子の服を着て、下着を着てないの?」

「もうボロボロだったから捨てちゃった。」


絶対嘘だ。俺が女の子になって、男の下着が必要なくなったからだ。




「はいこれ。」


柊 沙織の部屋に行って、服を受け取る。白いキャミソールとか言うやつと、プリ○ュアがプリントされたパンツ。


「お前、おちょくってんのか。」

「嫌だなぁ。冗談だよ。」


次に渡されたのは水色のパンツ。えらく新品っぽかった。


「新品だから大丈夫よ。」


なんだ、新品だったのか。


「はい。これ着て。」


最後に渡されたのは薄いピンクのワンピース。おい、俺は男だぞ。俺のでいいじゃねぇか。と思ったが、ブカブカで着れない。んでもって、捨てられた。

仕方ねぇ。観念するか。








「ちょっと遅くなっちゃったかな?」

「さて、服も下着も、家具も買ったし、住民票の更新もしたし、それでは……」


「「ようこそ!真白ちゃん!」」


みんなも気になるであろう孤児院の先生の説得だが、強引に突破し、先生は泣いていた。


「真白ちゃんは、沙織と同じ小学校に転校するから、仲良くしてあげてね。」

「わかりました。」


元から同じ小学校なんだがな。




翌日、


「転校生を紹介します。」

「柊 沙織さんの義理の妹の真白です。よろしくお願いします。」


俺は、元いたクラスに転校した。


他人としてクラスに馴染むことができそうだった。その理想をぶち壊したのは、やはり男子。俺をさんざん虐めたやつだ。


「柊、お前と似たやつ知ってるぜ。天涯孤独で、やたら無口なやつ。」

「あいつ、引き取られたらしいけど、お前が来てくれて助かった。お前も、虐めがいがありそうだし。」


はぁ、やっぱり変わらないか。ま、変わらなくても俺は大丈夫だし。


「ちょっと男子。真白ちゃん嫌がってるじゃん!」

「はぁ?お前らには関係ないね。」

「関係あるし!真白ちゃんは私たちと同じ女の子だもん。」


ありゃ?いつもなら俺が男だから女子には関係ないって言われるのに……


「こら!何やってるの!」

「うわ、先生だ。」

「俺、何もしてないっすよ。こいつが柊さんを虐めようって言い出したんすよ。」

「あ!てめぇ、裏切ったな!」


その後、俺を虐めた男子は職員室に呼ばれ、結果、家庭訪問をすることになった。


「真白ちゃん、大丈夫?怖くなかった?」

「……うん、大丈夫、だけど。」

「柊君、これが男子と女子の違いよ。男子は簡単に裏切るけど、私たちは絶対に裏切らない。柊君がなんで何も言い返さなかったのかも、この際聞かないけど、これからはみんなで支え合うの。ね?」

「そうよ。私たちを頼ってもいいのよ?」


あれ?なんで『柊君』って呼ぶんだ?


「柊君、実はね、みんなで相談して、柊君を女の子にしたの。柊君を助けるには、女の子にしたら一番いいって。」

「だからさ、あんな男子どもといるのは辞めて、私たちと遊びましょ?」


そうか、頑張ってくれたんだ。考えてくれたんだ。俺が諦めてたことを、違う形で叶えてくれたんだ。


「余計なことしてくれた。」

「ごめん、やっぱり余計だったよね。」

「これから色々大変だ。自分の名前は『真白』だって覚え直さなきゃならないし。」

「うん、わかってる。」

「トイレも男女で間違えるかもしれないし。」

「ほんと、ごめん。」





本当に、余計なことをしたのかもしれない。でも、私たちは誰かが虐められていて見逃せるほど心が強くない。その結果がこれだ。だから、何を言われても文句は言えない。


「ちゃんと、指導してくれよ?」


思いもしない一言と共に、柊君は笑った。それは、柊君が初めて見せてくれた笑顔だった。







三年後、


「ましろ〜ん、また男子がさ〜。」

「また?本当、男子は懲りないわね。」


中学生になった私は、虐められることはなく、逆に虐められている子を助ける側にいる。

話を聞くと、どうやら大事にしていたキーホルダーを奪われたらしい。


「うわ、柊だ。どうするよ。」

「へっ、所詮は女子。最悪力でどうにかなるさ。」


やっぱり男子は傲慢で強欲だ。三年前と何も変わっていない。だから男子なんて嫌いなのよ。三年前まで、その傲慢で強欲な男だったなんて、ほんと、バカみたい。男子だった頃より、今の方が断然楽しいもの。帰りに友達とクレープ屋に行ったり、休日にプリクラ撮ったり、買い物したり。



男子からキーホルダーを奪い返すと、その子はお礼を言って教室に戻っていった。


「真白、またお手柄ね?」

「お姉ちゃん、聞いて?あの男子、私のこと、怪力女って言うのよ?関節を抑えただけなのに。」

「それは酷いわね。」

「でしょ?」


義理の姉の沙織お姉ちゃんとも、仲良くやっている。よく考えたら、お姉ちゃんが私を女の子にしてくれなかったら、私はあのまま虐められるのに何の違和感も持たなかった柊 白夜だった。お姉ちゃんが、あの時のクラスの女子が、私を助けてくれた。私を変えてくれた。


私が変われたように、あの男子どもも、女子になれば、優しくなるのかな?その時は、私たちが全力で優しくて、可愛い女の子にしてあげるわ!

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