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彼の部屋。


ユアンは眠りについたイアルに布団をかけた。


すやすやと吐息をたてて眠る彼はとても安らかに見える。


イアルのベットに腰をかけ、彼の頬に触れた。


痩せて少し骨ばった頬や目の下のクマはやはり目立つ。



綺麗な顔立ちだった彼はやつれ顔色も食事をとったことによりマシにはなったが、健康な時の彼とは全く違う。



彼の役に立てるだろうか?



ユアンの恋心が彼に向いているのは定かではないが、イアルのためにも何かしたいという感情が彼女の中にあった。



彼女はおもむろに立ち上がり部屋を見渡した。



大分荒らされ、引きこもっていた時には使用人も入れなかったようで部屋の角には所々蜘蛛の巣すらはってある。



数日のことでこんなにも室内は汚れるものなのか、と驚きを隠せない。



「 さて、と。掃除しますか。」



まずは掃除から、という考えである。



彼が起きる前に元の状態に戻さなきゃ、それでもって彼の驚いた顔が見てみたいわ。



そんなちょっとしたイタズラ心も持って、作業に取り掛かる。



イアルが起きたらどんな顔をするだろう、と想像しながら部屋を手際よく片付けていくユアンはまるで幼い心を思い出したかのようだ。



「 こんなにイアルのことでワクワクするのはいつぶりかしら」



声が上がっていかにも上機嫌であることが伺える。



「 お嬢様、あまり騒がれますとイアル様が目をお覚ましになります。速やかにそして静かに作業することをオススメ致します。」



いつの間にか扉を開け入ってきたサリテルに説教をされた。



「な!いたのね!!ノックぐらいしなさいよ。」



恥ずかしさから顔が赤くなってしまうユアンだが、そんなことは気にしないというようなサリテルは


「ノックは致しました。反応がなかったので心配で入ってきたのですが、必要なかったですね。」


と言った。



この男、日に日に態度がでかくなっておるぞ?


リースとくっついたからって!!誰が恋のキューピットになってやったと思ってるのよー!!


と戯言をぬかしつつ手を動かしていくと、イアルへの想いとサリテルへの愚痴によりスムーズに掃除ができた。



荒れていた頃とは見違えるほど綺麗である。



「ん〜、こんなもんかしらね。」



ふふん、と鼻を鳴らすように得意げである。



イアルの様子を見に行くと変わらずすやすやと眠っている。



「………ん、…ユアン…」



ぽつりとイアルの口から寝言が飛び出した。



名前を呼ばれるのはくすぐったい。



それにしてもどんな夢なのかしら。



とユアンはイアルのベットの側に置いてある椅子に座ってイアルを眺めていた。



「ユアン……ユアン……俺の………俺の…!まって、行かないでくれ…置いていかないでくれ…………」



名前を呼んでいたかと思ったら、だんだんと息遣いが荒くなっていた。



さみしそうに、苦しそうに自分の名前を必死に呼んでいるイアルに多少の違和感を覚えた。



この感じはまるで…



そう考えていた時



「行くな!!!!!!!!!」



大声をあげ、イアルは上体を勢いよくあげた。


息は切れ、汗もすごい。



さすがにユアンもこれには驚き、ひゃっと小さく声をあげた。



その瞬間、イアルはガバッと頭をこちらに向けた。



「ユ…アン?…!…ユアン!!」



大切なものを見つけたかのように、椅子に座っていたユアンをベットへと引きずり込んだ。



弱っている人間とは思えない力で、ユアンもすかさず警戒体制へと入った。



が、それはすぐにとくことになった。



「ああ、よかった。…死んでない。生きてる!!俺のユアン。どこにも行くな。」



ぎゅっと優しくユアンを包み込むイアルの腕は微かに震えていた。



前の人生で死ぬ間際、うっすらとある記憶。


泣きながらユアンの名前を呼ぶその姿と今の姿が重なる。


「イアル…?体調は平気?」



ユアンは動揺を隠すように彼に問う。



「ああ、大丈夫だ。ユアンもいるし、良好だ。」



未だにぎゅっとしがみつく彼は、なぜか何かに怯えているようにも見えた。



「イアル…?…どうしたの?私は逃げも隠れもしない。ずっとここにいるわ。」



彼を安心させるよいに穏やかな口調でユアンは言った。



「 夢を…見たんだ。」



ぽつりとイアルの口から出た言葉は、ユアンの夢であるはずである何かを聞いてみたいという願望を引き出した。



「それは、どんな夢?…言いたくないのなら無理にとは言わないわ。でも、もし大丈夫だったら是非、聞かせて欲しいわ。」



そういうと、イアルはコクリと素直に頷く。



「最近見る夢なんだ。苦しくて、冷たくて、寂しい夢だ。何故だか君に伝えなければ後悔しそうだ。」



切羽詰ったようななんとも言えない表情を浮かべ彼はいう。



「そう、分かったわ。慌てなくていいから、ゆっくりと、聞かせて…?」


ふうと息をはき、イアルは夢の話をしだした。


「夢ではいつも君を失うんだ。小さい頃に出会い恋に落ち、2人で仲良く過ごしているんだが、いつの日にか妹ができて。そこから関係は狂い出すんだ。何故だか分からないが、君との関係はギクシャクしてしまう。いつだってそうだ。」



夢であるはずなのに。

そのはずなのに、前の人生と重なる部分がいくつもある。



「それでも、君は俺を愛してくれていた。……愛してくれていたはずなのに、君は何故かいつも…俺から…離れていく…それに…っ」



苦しいと言わんばかりに顔を歪ませ、言葉を詰まらせる。



「君は自ら命を落とすんだ。」



涙がつうっと1筋流し、こちらを見る。



ぼうっこちらを見ているイアルと目が合う。



これは。



彼は…



イアルは…夢を見て





前世の記憶を取り戻している。


















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