イアルの部屋。
イアルは私が出かけてから外へ出ていない?
「引きこもりってやつかしら?」
イアルの遣いに問いかける。
「はい…お食事もお残しになることが多く、我々は心配しているのです。ですが、外にはお顔を見せませんし、我々が中に無理矢理入ることはできません。」
まあ、主人には逆らえないものね。
でも、どうしてあんなに完璧だった彼がそんなになってしまったのか。
「で?私は具体的に何をすればいいの?」
"具体的に"とは聞かれないと思っていたようで、うーんと首をひねり出す。
「我々が考えるにイアル様か唯一お部屋に入る許可をさしあげるのは貴女様でございます。具体的に、と申されましても貴女様がイアル様にお会いしてくださることしか思いつきませんで…すいません。」
申し訳ないと悲しそうな顔をして述べる。
「攻めている訳では無いわ。では、私はイアルの部屋へ入るわ。私が部屋へ入ったら、サリテルにマハテ村の薬草である綿華と甘菊をすり合わせホットみるくと合わせるよう伝えて。あなたは、一人分の食事を持ってきて。」
はいっ!と勢いよく返事をし、ありがとうございますとお礼を告げられた。
イアルの部屋の前に立ち、入室の許可を得ようとした。
ノックを2回。
「イアル…お部屋へ入ります。」
返事はない。
勝手に入っても彼は怒る人ではない、1度だけの無礼お許しください。
そう心で唱えユアンは扉を開けた。
カーテンが閉まっていて、灯りもついていない。
ベットの近くのイスに人影が見える。
「灯り…つけるわね。」
ぱちん、と音が鳴る。
灯りがつくと、部屋の様子がよくわかる。
本や服が床に散らばっている、というより歩くスペースがあまりないほど床に広がっている。
よく見ると破られている。
イアルが座っているイスに近づく。
イアルの正面へ立つとユアンは驚いた。
目が赤く、少し血走っているようにも見える。
それにクマも目立つ。あまり眠っていないのだろう。
よくみると少し細くなっているきがする。頬骨が前より目立つ。
泣いたのだろうか、頬に涙の跡が見える。
「イアル…?私がわかる?」
ユアンは片手をイアルの額に寄せる。
その瞬間、イアルは目から1粒の涙をこぼした。
「…ンか…」
久しぶりに出したような掠れた声だった。
「ええ、ユアンよ。」
ユアンは優しく微笑む。
「ユアン…ユアン…っ!…俺の…」
何度かユアンの名前を呼ぶ。
「ただいま旅行から戻ったわ。それより、イアル、あなた痩せたわね。」
空いていたもう片方の手もイアルの頬にそえた。
すると、イアルはその手を優しく包み込んだ。
「ああ、ユアン、ユアン…俺のユアン…」
いつもは"僕"と言っていたイアルが、いつもは涙など絶対に見せないイアルが、それさえも忘れボロボロと涙を流し私の名前を呼んでいる。
「イアル。あなたがこんな事でこんなに痩せてしまうなんて。」
ぽろっと思っていたことを口に出す。
「俺にとって君は俺のすべてだ。誰かに与えるなんてしたくない、俺が隣にいないのにどこかへ行ってしまうなんて悲しい。」
弱々しい声で、涙を流しながら訴えるようにこちらをみつめる。
今までの人生、こんなことがあっただろうか。
こんなに激しく感情を表に出すイアルは初めて見た。
「そう、ね。あなたがそんな風に思っていたなんて知らなかった。」
あまりの出来事に少しばかり言葉が詰まる。
「俺はいつだって君のことを愛してる。愛してるのに、君は。去ってしまうんだ。去ってしまう…俺はどうすればいい、どうすれば君は俺といてくれる?」
イアルは苦しそうな表情を浮かべている。
ひどい状態であるがユアンは愛してるなんて初めて言われ困惑した。
「そ、それは、あたなが元に戻ったら考えるわ。まずは、食事よ。」
多少命令口調であったが、テンパっていたユアンは気づかない。
コンコンとノックが響く。
「お食事とサリテルからのお飲み物です。」
ありがとう、と受け取るとイアルの元へと運んだ。
食事はおかゆと頼んでおいた飲み物
近くの机に置き、スプーンをもちおかゆをすくう
「食べれる?」
スプーンを持ってそう聞くと、イアルは少し下を向いた。
「どうしたの?具合がわるい?」
問いかけると口をわずかに開いた。
「ユアンが食べさせてくれるのか。」
珍しく耳が赤い。
「ええ、もちろん。」
そうかと答えるとんっと口をあける。
か、可愛い。
姿はずいぶんと前世の頃に似ている。
前のように物静かな印象というより、無愛想というような印象の持ち主になってしまった。
これは私が原因か。
おかゆをイアルの口に運びながら考える。
「顔色が少しよくなったわ、よかった…」
はいこれ、と飲み物を差し出す。
マハテ村で飲んだ心を癒すものだ。
一口飲むとあからさまに表情が変わった。
安堵したようだ。
「調子は?」
「だいぶ良くなった。ありがとう。」
笑顔を見せたイアルは、言葉通り体調がよくなったらしい。
といってもまだ完全に戻った訳では無い。
「さあ、次は仮眠よ。クマがヒドい」
ベットに入るよう言う。
すんなりとお願いを聞いてくれた。
「さあ、目を閉じて。」
イアルはベットに入るも、ユアンのことをじっと愛おしそうに見つめなかなかと寝ようとしない。
「…どうかした?」
目線に気付きユアンは問いかけた。
「次起きた時、君はいる?」
「ええ、もちろん。」
イアルは安心したのかすっと目を閉じた。




