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冒険者ギルドグレース支部の短編集

セリアのおつかい

作者: 加賀カエデ

何となく書きたくなったのでシリーズ化。

冒険者ギルドグレース支部。

わたしはいつも通りの時間に出勤しました。

今日は何だかそわそわした雰囲気の皆さん。いったいどうしたんでしょうか?


「ネフィさんおはようございます。何かあったんですか?」

「セリちゃんおはよ。実はまたメルがやらかしてね……。しかもこれはメルだけの責任じゃないから」


このギルドで一番しっかりしているネフィさんにお話を伺ったところ、メルさんがまた何かやっちゃったみたいです。


「何をしたんですか?」

「実はね、この依頼なんだけど」


そう言うと、ネフィさんはわたしに『泡沫草の採取』という依頼の書かれた紙を見せました。

泡沫草は万病に効くなんて言われたりもするくらいに、薬師さん達にとって大事な薬草です。


「この依頼で何か…… 」

「うん。メルが承認した依頼で、ちゃんと納品もされたしそれ自体は問題なかったんだけど」


では何が問題なんでしょう?

依頼を完了したなら何にも悪くない気がしますが。


「納品された泡沫草を依頼主に持っていくのを忘れて、期限が過ぎちゃったのよ」

「それは……!」


依頼主にも冒険者さんにもギルドにも迷惑がかかるから、研修中に何度も注意されたことじゃないですか!

……でも、なんでメルさんはそんなミスを?

おっちょこちょいなメルさんですけど、今までそんなミスはしなかったのに。


「メルさんはどうして……」

「一つは納品自体がギリギリだったこと。もう一つが、その日メルが早退していたこと。ついでに次の日風邪で休んだこと」


早退というと……スカートをはき忘れていた日ですか。


「それはメルさんが悪いわけでは」

「依頼の受継ぎをしていなかったのはメルが悪い。けど、その後に誰もフォロー出来なかったからこれはギルド全体の問題なの」


確かに休みなら皆でカバーするけど早退したときは……何もしていなかった気がします。


「って、ならこんなこと話している場合じゃないでしょう!?」

「ギルド長とメルが頭を下げに行っているから、私達はその間ちゃんと仕事を全うする。それが今やること」


どうやらわたしがギルドに来た時には、もう話はまとまっていたみたいです。


「はい。分かりました!」


今は受付の仕事を頑張ります!




▲▽▲▽▲▽




「セリア、ちょっといいか?」

「何ですか、ギルド長?」


ギルド長が帰って来たようです。

ですが、手にはまだ泡沫草の入った麻袋があります。


「何というか……依頼主が『セリアちゃんが持ってこないと許さん!』って言って追い返されてしまって」

「……どういうことですか?」


嫌な予感しかしませんけど。


「依頼主までこれを持っていってもらえないか」

「……分かりました」


ロリコンな人とは極力関わりたくはありませんが、何も対処しなかったわたしにも責任がありますし。


「じゃあこれを南東区画の……」




▲▽▲▽▲▽




わたしは今、依頼主の自宅へ向けて歩いています。

右手には大きな麻袋、左手にはお詫びのお菓子です。

南東区画は道がまるで迷路みたいで覚えきれていませんが、ギルド長が地図を書いてくれたので迷う心配はありません。


「……大丈夫かな」


迷う心配はありませんが、やっぱり不安は拭いきれません。

乱暴をされそうになったら全力で迎撃していいのですが、そうするとギルドの評判が悪くなってしまいます。

こちらに負い目があるので、強く出てはいけない気がしますし……。


「着いちゃった……」


深呼吸をして、扉をノックします。

家の中から誰かが近づいてくる音がします。

少し待つと扉が開きました。

すぐに頭を下げて謝罪します。


「あ、あの……!この度は申し訳ありませんでした!ギルドの者ですが……」

「……」

「きゃっ」


無言で手首を捕まれて、家の中に引っ張りこまれました……!

ど、どうしたら!抵抗していいんでしょうか!?

でもまだ暴力ってわけじゃないし……。

でも、向こうの部屋に何があるか分かりませんし。

……部屋の扉を開けてわたしから注意がそれた時に魔法で気絶してもらいます!

麻痺の魔法、いや空気を圧縮して鳩尾に、それとも身体強化で殴った方が……。


……そんなことを考えていると、すぐに部屋の前に到着してしまいました。

依頼主の方が扉に手を掛けました。

今です!とにかく全部ぶつけます!


「……ごめんなさい!気絶してください!」

「セリアちゃん、お誕生日おめぐふぉあ!!」


……へっ?

今の声、ひょっとして……。


「……メルさん?」

「……」


気絶してますが確かにメルさんです。

これは一体……?

メルさんの顔についている偽のお髭を剥がしていると、部屋の向こうから扉が開きました。


「ありゃりゃ。これは失敗かな?」

「だから、そもそも設定に無理があるんだよ」

「……ネフィさん?それにギルド長も……。」


状況がさっぱり分かりませんけど……。


「セリちゃん、とりあえず中に入って」

「えっ?あの、えっと」

「……はあ。もうぐだぐだだな」


ネフィさんに連れられて部屋の中に入りました。



そこにはメルさんの字で『セリアちゃん、お誕生日おめでとう!』と書かれた紙が壁に貼ってあり、部屋の中央には沢山の料理が並んでいました。



「こ、れは……」

「メルがね、『セリアちゃんは誕生日をお祝いされたことがないらしいから、私達で誕生日パーティーをしようよ!』なんて言ってね」

「休んだ日にやることがないとかで、計画も全部立てて俺達を誘ってきたんだよ。……結果は見ての通りだが」


メルさんが、これを?

確かにそんな話をした記憶はありますが、おぼえてくれていたなんて……。

あれ、めからなみだがあふれてきます。


「ちょ、泣かないでセリちゃん!」

「あ、ありがと、ござい、ます!」

「わかったから!だから泣き止んで、ね!?」

「本当にぐだぐだだな……」




▲▽▲▽▲▽




「はい、誕生日プレゼントだよ」


ご飯の後、復活したメルさんが麻袋から何かを取り出しました。


「え、これって」

「泡沫草はまだ納品されてないし、期日までまだまだあるよ。これはセリアちゃんへの物」

「本人に運ばせるとか、けっこう綱渡りしてたのね」

「全くだ」


わたしが持ってきたお菓子を食べながら、そんな話をしています。

プレゼントを受け取りました。魔法具のようです。


「それはね、飛行魔法具だよ。これなら台を使わなくても受付が出来るでしょ」

「しかも仕事に使うものとか……」

「もっとアクセサリーとか服とか、日常に使うものにしてやれよ」


メルさんはダメ出しされまくってますけど、とってもありがたいです。

今までは資料を取る度に台を動かさなくちゃいけなかったから、冒険者さん達を待たせてしまっていました。

だからこれはすごく良いものですが……。


「高かったんじゃないですか?」

「プレゼントの値段なんて聞かない!……今度から使ってね?」


メルさんが笑顔でそう言います。

狐耳と尻尾が垂れ下がっているので、ものすごく高かったようですけど。

だからこそわたしは満面の笑みを浮かべ、こう答えます。


「もちろんです!」






メルさんはセリアちゃんを思って計画しましたが穴だらけです。


エルフには誕生日を祝う習慣がないというただの雑談のつもりだったセリアちゃん。


ネフィさんとギルド長は何やかんやで参加。すでにメルさんとセリアちゃんの仕事も分担して終わらせています。裏で動くのが得意なタイプ。

メルさんが早退したときにセリアちゃんは対処出来ていなかったから、ちょっとした説教もかねて。

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