消えない想いは…重い
爽やかに、風が吹いた。風は私の頬を撫でて、飛んでいく。
「さよなら、だね」
涙が流れた。この涙も、風が飛ばしてくれたら良いのに。
駅のプラットホームで、私と彼は一言も言葉を交わさず、ただ視線を絡ませるだけ。こうなることはわかってたはずよ、あの人のことを知ったときから。そう自分に言い聞かせても、切ない気持ちはどうにもならない。
「……離れたくないよ」
「俺もだよ。でも、親父に逆らったら……」
その先は言われなくてもわかった。――私と彼は二度と会えなくなる。彼の父親の力は絶大だ。私なんかが、太刀打ち出来るわけ無い。愛の力だって、現実の前ではいとも簡単に崩れ去ってしまう。
「四年だけでしょ……また、すぐ会えるよね」
風が強くなった。プラットホームに電車が入ってくる。辺りの声が騒がしくなったのは、気のせい……?
でも、もうタイムアップ――時間切れ。最後に一言だけ、言わせて。愛してるって言わせて。
「――……」
なのに、何も言えなかった。私と彼の間にある、無言の壁。それは、電車のドア一枚程度じゃ、足りない。
『電車が発車致します――』
どんどんスピードを上げて流れていくのは、電車と私の心。最後の一言さえ言わせてくれない電車は意地悪。
「あと四年なんて……長いよ」
私はその場にしゃがみ込むと、手に顔を埋めて泣いた。恥ずかしいなんて思わなかった。
慌てんぼうの電車だけが、ただただ恨めしかった――……。
* * *
「さよなら、だね」
彼女は涙を流しながら、そう言った。未練がましい涙ではなく、ただ流れるだけの涙は芸術品のようだ。
俺は何も言えずに、ただ彼女の瞳を見て立ち尽していた。プラットホームに響く数々の会話が、BGMとして流れていく。
「……離れたくないよ」
彼女は斜め下に視線を落とし、ポツンと呟く。それは彼女の本当の思いだろう。それがひしひしと伝わる分、俺は心が痛い。
「俺もだよ。でも、親父に逆らったら……」
その先をはっきり言ったら駄目な気がした。言ってしまったら、何かが壊れてしまう気がした。
親父の思うがままにしか動けない自分が歯痒くて――情けなくて、心が締め付けられた。愛の力だって、現実の前ではいとも簡単に壊されてしまう。
「四年だけでしょ……また、すぐ会えるよね」
彼女のその台詞は俺に言ったわけじゃなく、自分に言い聞かすための呪文なんだと思った。
四年間、彼女は俺のことを想っていてくれるだろうか。こんな腑甲斐ない俺に、愛想を尽かさないだろうか。帰ってきたときに彼女に相手がいても、俺は何も言えないだろう。そうなっても仕方が無い。
プラットホームに電車が滑り込んできた。無情な電車は強制的に俺と彼女を引き離す。
「――……」
彼女がガラスの向こう側で、何かを言った。しかし、その声は俺まで届かない。
音が無い空間の中で、俺は彼女の顔を瞼の裏に焼き付ける。四年の間、挫けそうになったら思い出すから。
『電車が発車致します――』
出発のアナウンスと共に、電車はスピードを上げていく。彼女の姿がどんどん小さくなっていき――最後には消えてしまった。
四年後には胸を張って、君を迎えに行けるようになりたいから。だから、あと四年だけ……待っててください――。
2010.11.28