表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人外達の歩み  作者: 葛城 大河
第二章 帝国陰謀編
8/13

第四話 それぞれの思惑

今回もマークは余り戦いません。

マークが圧倒的な【才能】を見せ付けた翌日。王城内にあるテラスで、紅茶をシャルロットと共にマーク達は飲んでいた。テーブル席に腰掛けて飲む王女の姿は、優雅である。深夜の事をシャルロットは知らない。もしも、第二陣が来て命を狙われたと知れば、シャルロットでも耐えられる物ではない。例え帝王の娘でも、彼女はまだ十代の少女。それなのに、彼女は恐怖の感情を押し殺している。簡単に出来る事ではない。



「今日は何をしようかシャル」



メイドに出された紅茶を啜り、美味しそうに飲むシャルロットに聞いた。シャルロットは手に持っているカップを置き、思案顔を浮かべる。初めて好き勝手に出来るのだ。やりたい事は沢山あるのだろう。



「ん〜そうですね。冒険者の方達のように、外に出たいですね」


「そ、外ってそれは流石に危険ですよ⁉︎」



聞いていたコハクがつい叫んだ。外に出たい。それは国の外を意味する事は誰でも分かる。彼女は、国外に出てみたいと言ったのだ。当たり前の事だが、外には勿論危険がある。それは魔物に襲われる事だ。王女を見れば、戦った事がないと容易に分かった。



「良いぞ。じゃあ、外に行くか」


「………え?」


「ま、マークさん⁉︎」



流石に了承されるとは思わなかったのか、呆気に取られた。横に黙って佇むメイドも驚いている。また始まった自由な行動にコハクは席から立ち上がった。今度は何を言い出しているのだと。



「ま、外に出ても大丈夫だろ。俺とコハクが居るんだから」



しかし、マークは然して気にせずに言った。自分とコハクが居れば安全だと。他の者が聞けば驕りや慢心と思われかねない発言だ。自分達なら何が来ても平気だと。外の世界はそんなに簡単な物ではない。どんなに準備をしても、危険が伴うのだ。のにも関わらず、彼は断言した。自分なら平気だと、大丈夫だと。そう安易に言ってのけた。何処からそんな自信が現れるのか。だが、そう言われるとコハクは反論が出来なくなる。



まだ、マークの力を知る者は、この場でコハクしか居ない。だから理解出来る。マークの力なら、確かに容易だと。あの圧倒的にして、規格外にして、出鱈目な、そして理解不能の力があれば、確かに簡単なのだとコハクは知っている。



「分かりました。確かにその通りですね」


「………なっ⁉︎」



先程まで止めようとしていた人物が納得した事に、侍女は驚きを隠せない。と言う事は彼も、マークの言葉に納得したと言う事だ。自分達が居れば、何も危険はないと。それが信じられない。



「と、コハクも認めた事で行くか。シャル」


「え、えっと、本当に良いのですか?」



席から立ち上がるマークに、おずおずと尋ねた。外に出て良いのかと。それに彼は、笑みを浮かべて答える。



「当たり前だろ。何も心配するな。俺達が居る以上、危険は絶対にない」



完全に断言する。絶対に安全と。この世に絶対はない。それはシャルロットも知っている。しかし、何故かマークのその言葉は信用出来る物があった。そう思うと、彼女も立ち上がり微笑を浮かべる。



「そこまで言われたら、行かなければ行けませんね」


「し、シャルロット様っ⁉︎」



シャルロットの言葉に侍女は悲鳴を上げる。一国の姫が、魔物が居る外に行くのだ。何としても止めようとするが、その前にシャルロットに声を掛けられた。



「メル私が居なくった事の言い訳よろしくね」


「し、シャルロット様⁉︎ 何を言っているのですかっ⁉︎」



ニコリと男を魅了する程の微笑を、貼り付けた彼女に侍女ーーーメルティアは眼を見開く。



「お辞め下さい。もしもの事があったら‼︎」


「でも、マークさんは、そのもしもは絶対に無いと言ってるのよ」


「そ、そんなの虚言です‼︎ 絶対なんてありませんっ。Aランクの冒険者なら兎も角、この方は冒険者でもない、ただの何でも屋ですよ‼︎」



冒険者ならば、少なからず信用出来た。彼等は魔物討伐のプロだからだ。しかし、ここに居るのは所属もなにもない何でも屋。何方の方が信用出来ると言われれば、前者の方だろう。そんな失礼だと理解して尚、メルティアは叫んだ。コハクは事実が事実なだけに苦笑をして、マークは侍女の名前を初めて聞いて、そんな名前だったのかと如何でも良い事を考えていた。自分の力を疑われ、それでも二人が何も言わない事にメルティアは尚更、危ないと告げる。



「だけどメル。貴方は昨日のコハクさんを、見たでしょう?」


「………うっ」



しかし、それを言われると何も言えない。メルティアはシャルロットと共に、賊を相手に圧倒したコハクを知っている。確かにあれを見てしまえば、魔物は大丈夫と思えてしまう。だが、侍女が王女をみすみす危険な所に行かしては、身の周りの世話を任された侍女として失格である。故に答える。



「し、しかし私はまだこの方の力を見てはいません‼︎ 彼が何れ程まで強いのか知りません」



だから彼女は、矛先をマークに向けた。シャルロットを含め彼女達は確かにマークの実力を見ていない。と言うよりも敵が行動を行う前にマークが、一瞬で叩きのめす故に見る事が無かっただけの事。メルティアの発言に、コハクが苦笑を漏らす。



「マークさんは、僕なんかより強いですよ」



コハクのその言葉に、シャルロットが本当ですか、と聞いてきた。それに頷きで返す。強いどころの話ではない。マークのソレは次元が全く違う。その規格外な【才能】は、見た技術の全てを強化して身に着け、全ての【事象】を意のままに反転させる。強いを通り越した圧倒的な存在。恐らく“この世界”でマークに勝てる者は居ないと思わせる力。それにコハクは、マークがまだ力を持っている事を知っていた。



「ま、コハクの言う通りだ。もしそれでも心配なら、お前も来れば良いだろ?」


「わ、私もですか」



一緒に来いと言われ困惑する侍女。それにシャルロットも被せた。



「そうですね。メルも一緒に行きましょう‼︎」


「え⁉︎ え、え?」



名案だと言うシャルロットに、彼女はより一層に困惑を露わにした。そして何か言う前にメルティアの腕は、王女に絡め取られた。



「さ、行きましょうメル」


「え、え、しゃ、シャルロット様ぁ〜⁉︎」



そうしてメルティアは、王女に引きずられてマーク達と共に王城から出て行った。………涙を流して。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「……行きましたか」



マーク達が王城から出たのを、見詰める影があった。執事服を着た男性だ。帝王の側近を務めるクロウ・ウィーティアだ。彼は影から、ずっとマーク達を見ていた。目的はマークが如何言った人物なのか判断する為だ。王に彼等に協力しろと命を賜ったが、すぐには協力する事をせずに、こうして観察に徹していた。人となりを見る為である。しかし、観察し始めたのは今日から。数時間程度で、その人物の人となりが分かる筈もない。



「私も着いて行くとしましょう」



城から離れ行く彼等に、そう呟きクロウは闇に溶け込むようにして消えた。クロウは気付かない。その姿をマークが、後ろ眼で見ていた事を。



アルカディア帝国から少し離れた場所には、広大な草原が広がっている。生えている草を踏み締めて、マーク達は歩いていた。侍女であるメルティアは、もう諦めて着いて来ている。そんな中、人生で初めての帝国の外にシャルロットは眼を輝かせた。



「これが外。凄いです」



前までは城の中から、外を見る事しかなかった。見る事と、実際に来る事は違うのだと実感する。時折吹く風が気持ちいい。草の薫りが鼻腔を擽る。喜ぶシャルロットとは反面、メルティアは怯えながら周りを見回している。魔物が何時来るのか気が気でない。そんな侍女の気など露知らずに、彼女は声を掛けた。



「ほらメルもこっちに来て。一緒に楽しみましょう」


「シャルロット様少しは警戒ぐらいして下さいっ‼︎」



メルティアが指摘しても、マーク達が居るから平気と答える彼女に、頭が痛くなる。何を根拠にそんな事を言えるのか。確かにコハクが強い事は分かった。しかし、メルティアは如何してもマークが強いと思えない。まだコハクの言葉を疑っていた。警戒心もなく歩くマークに、だからこそ、自分がしっかりしなければと思い警戒する。そのメルティアの姿にシャルロットは苦笑した。



「もう、メルはしょうがないですね」



自分の侍女は少々固い所がある。まだマーク達の主にマークの実力を信じていないのが、シャルロットでも分かった。呆れるが、彼女は自分の事を思っているので何も言えない。ま、言った所で頑固者の彼女は、聞いてくれないが。しかし、シャルロットは草原を歩きながら妙だと思った。噂でしかないが、外には魔物が多く存在し、一度出ればすぐに出会うと聞いた。



なのだが、自分が歩いて数分経っても魔物のまの字も出ない。低級で最も繁殖力を持つゴブリンでさえも、全く現れないのだ。それは可笑しいと思えてくる程に。



「如何したシャル」



疑問を浮かべる王女に、マークは声を掛けた。



「ここ数十分歩いているのに、魔物に会わないのが不思議なんです」


「魔物に遭遇する心配をしてたのか。なら大丈夫だ」



先程までのシャルロットの悩んでいた姿に、得心がいった風に答えた。それは如何言う事なのだろう。魔物が現れない所を歩いているのか、と思った。シャルロットの胸中で思った考えは、的外れの物だった。魔物が何故現れないのか。簡単な事だ。マークが周囲の半径五キロ圏内に居る魔物達だけに、殺気を送っただけの事。魔物にとって、その殺気を放つ者を絶対的な強者と感じた事だろう。



身も毛もよだち、全ての魔物が怖気付き、戦わずにして勝てないと思わせ、マークから何処までも逃げようと離れたに過ぎない。それによって魔物が居ない領域が出来上がった。世界一安全となったその場所を、シャルロットとメルティアは疑問に思いながら進んで行く。



(まだ俺達の事を追い掛けてるな)



二人の少女を横眼で確認しながら、王城を出た時から着いてくる気配にため息を吐く。大方、シャルロットを手助けしろと命令された側近の誰かなのだろう。誰なのかは想像が付くが。



(態々隠れずに、現れれば良いのにな)



何故、影に隠れてまで協力しようとするのか。まぁ、大体が予想出来るが。恐らくは、自分の事を観察しようと言う腹積もりなのだろう。別に敵対する訳でもないのに、これだ。侍女からは、戦闘面で怪しまれ、側近には観察と言うなの監視をされる。憂鬱だ。楽しい事は好きだが、面倒ごとは嫌いである。



(いっその事、隠れてる奴を引き摺り出すか?)



すこ〜し力を込めれば出来る簡単な作業だ、と思うがそれで敵対されても面倒だと気付き、やらない事にする。すると、遠くから魔物の気配を感じた。この辺り一帯に居た魔物よりも強いその個体は、マークが放つ殺気の中を普通に移動して近付いてくる。だが、殺気を少しだけ強めると、一瞬だけ空気が震撼したのと同時に、今から向かう先に到底敵わない化け物が居ると思ったのか、その魔物は全速力で後退して逃げて行った。



そしてはしゃぐシャルロットと、周りを無意味に警戒するメルティアを一瞥して、マークは晴天の空を見上げるのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







アルカディア帝国を象徴する、盾に剣が二本斜めから刺されている国旗を掲げ、数万の軍を率いて一人の男が帰って来た。先頭を他の軍馬より一回り大きい馬に乗り進む男。鋭い眼光が、己の国を見据える。国の正門まで近付くと、そこを警備していた兵が、緩んでいた表情をキリッと真剣な物にして、姿勢を瞬時に正すと左手を握り右胸に置き、右手に持つ槍を空に向けるようにする。



「ご帰還お疲れ様でしたっ‼︎ ルドルフ・ゼスフォード様‼︎」



大きな声を上げて、目の前の軍馬に跨る男ーーールドルフ・ゼスフォードに礼を取った。彼は兵士を一瞥して、何も言わずに軍馬を進ませる。その鋭い視線を向けられて、何かを言われるかとドキドキしていた兵は安堵の息を吐く。だが、



「……門を警備する兵よ」


「は、はいっ‼︎」



通り過ぎた軍馬が止まり、後ろを見ずに喋るルドルフに、兵士の若者は、背筋を伸ばして返事をした。



「門の警備は大事な仕事の一つだ。先程のような顔でやるのは、感心しないな」


「す、すいませんでしたぁ‼︎」



顔を青ざめて若者は頭を下げた。ここで首になってしまえば、生活が苦しくなる。ルドルフは顔だけを若者に向けて、数瞬、フッと笑みを浮かべた。



「次はないぞ」


「は、はい‼︎ ありがとうございましたっ‼︎」



軍馬を進ませる彼の背後に、若者は大きく頭を下げたのだった。



門から進みルドルフは、王城内に入り馬や兵を休ませて廊下を歩いていた。腰に差す剣がカチャカチャと揺れる。少し早足で進んでいると、目の前に一人の老人が現れた。ルドルフの知っている人物だ。



「久しぶりじゃな。ルドルフ」


「何のようだアルバート。私は今急いでいるのだがな」


「いや、なぁに遠征で出かけたお主が、こんなに早く戻って来たのが、気になってのぅ」


「ふん、それは知れた事だ。貴様こそ何故教えなかった。陛下が病に倒れた事を」



数ヶ月前に国を出たルドルフは、帝王が倒れた事を知らなかった。それを教えずに秘匿したであろう老人を睨み付ける。暴風のような殺気が襲うが、アルバートはなんの恐れも見せずに肩を竦める。



「なぁにお主を、心配させたくなかっただけじゃよ。それでお主に暴走されたら敵わんからな」


「………要らぬ心配をするな。確かに陛下が倒れたと聞いた時は、驚いたが暴走など愚かな事はしない」



下らない心配だと口を開く。他に理由があるだろうと、鋭い視線を向けるが、アルバートは何も言わずに嘆息した。その理由を言うつもりはないと分かると、ルドルフはもう話す事はないとばかりに、横を通り過ぎる。一刻も早く陛下の元に行きたかった。



早足で歩を進めて数分、とある扉の前でルドルフは、その足を止めた。扉には帝国の家紋が刻まれている。ゆっくりとした動作でルドルフは、コンコンとノックをした。それから数秒、中から「入れ」と言葉が聞こえ、ルドルフは扉を開閉させて中に入る。そしてベットの上で上体を起こす人影を捉えた。



「お体は平気なのですか陛下」


「あぁ、大丈夫だ。それよりも、数ヶ月振りだなルドルフ」



上体を起こしているレイベェルトを視界に捉え、その病で倒れたとは思えない姿にルドルフは、体を心配する声を上げた。レイベェルトは、その問いに穏和な笑みで返す。それはまるで、病などが嘘で治ったかのように。



「陛下が倒れたと聞いて、居ても立ってもいられず、来てしまいました」


「ネフェル共の様子は如何だった?」



ルドルフが遠征に赴いた理由、それは隣国にあるネフェル王国の調査の為である。何時、戦争が起きても可笑しくはない状態。それが現在の帝国とネフェル王国の関係だった。大半の国が奴隷制度を廃止にしたにも関わらず、ネフェル王国は未だに奴隷制度を実地している。そんなネフェル国が、兵士達に新たな武器を持たせ、不穏な空気を放っていると聞いたレイベェルトは、調査する為の軍を出したのだ。この帝国で最強と謳われるルドルフを。



「はっ! 調査した結果分かった事が一つ。確かにネフェル国は戦争の準備をしていますが、その矛先は我等ではない様子です」



遠くから見たが、あの国は確かに戦争の準備を行っていた。しかし、矛先が自国だと思ったルドルフだが、身を隠してネフェル国に潜り込んだ際、帝国ではなく別の所に戦争をしかけるという噂を聞いたのだ。それを話すと、レイベェルトは考えた素振りを見せる。改めて己の帝王の姿を見るが、健康状態その物だった。だが、病に倒れたのも事実。そして彼はその病の事も聞いている。治る事のない病気。恐らくは長くないのだろう。それなのに、そんな事を見せずに今も国の為に感がている。ルドルフは目元が熱くなるのを感じた。



「ふむ、まぁ良い。その話は後だ。遠征からの帰還で疲れたと思うが、ルドルフお前に協力して欲しい事がある」


「………協力ですか?」



疑問を浮かべるルドルフに帝王は頷く。そして、その協力して欲しい事を告げるのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







ルドルフ・ゼスフォードは、廊下を歩きながら先程の帝王の言葉を思い出して、顎に右手を添えて考えていた。願われた協力とは、ここに来ている何でも屋に助力する事だった。この国に来て、何かが起こっている事は知っていた。しかし、それがよりにもよって二つの勢力による争いとは。いずれに起きると思っていたが、まさかこんな時期に。嘆いてくる。



だが、そんな気持ちも瞬時に切り替える。起きている事は仕方がない。この問題を如何止めるか。そう言う風に思考をした時だ。ーーーカツン。と、やけに反響する音が耳朶に響いた。次の瞬間ーーー背後から殺気を感じ取った。



「ーーーーッッッ⁉︎」



半ば反射的に上体を後ろに逸らした。顔すれすれを何かがヴォォォンンッ‼︎ と通り過ぎる。床を蹴り後退して、視線を前方に向けた。



「あ〜らら、避けられちゃたかぁ〜」



少年が居た。見た目は十三程の歳の少年だろうか。その手には、少年が持つにしては大き過ぎる鈍く光る黒い光沢の大鎌が握られている。ヒュンヒュンと自由自在に鎌を振り回す少年は、笑顔を浮かべて残念そうに告げた。何処にでも居そうな雰囲気を持つ少年だ。だからこそ、油断なく見据える。一般の子供と何ら変わらない雰囲気を持つ少年が、笑顔のままで鎌を振り回しているのだ。気味が悪い。ルドルフは、不気味に思った。



「次は避けないでねぇ〜」


「………っ⁉︎」



最後の言葉を伸ばした少年は、次の瞬間には眼前に現れていた。眼を見開くルドルフは、しかし腰に差す剣を抜き払い視界の外から振るわれる鎌に剣で受け止めた。ギャリィッ‼︎ と火花を散らし鬩ぎ合う。



「ふっ………‼︎」


「わわっ⁉︎ と、とっと」



一瞬にして全身に魔力強化を施し、剣を押し切った。大鎌が弾かれて少年は、少し驚きながら態勢を立て直す。その動作は隙だったのにも関わらず、ルドルフは手が出せない。何故か手を出せば殺られると思ったからだ。少年は弾かれた大鎌を見てから、ルドルフを見る。ニタァァァと言う風に笑みを浮かべる。



「いやぁ〜凄いねぇ。流石は帝国最強だよぉ〜。しょうがないかぁ、少しだけ本気を出すかなぁ」



その言葉と共に少年の姿が視界から掻き消えた。驚く暇もなく、ルドルフは直感に任せて横に飛び退いた。瞬間。漆黒の風が通り過ぎガガガガガガッッッ‼︎ と音を鳴らしながら天井を壁を床を斬り裂いて行った。もしも、あそこに居たらと思うとルドルフはゾッとする。



「あ〜あこれも避けられちゃたよぉ」



背後から聞こえる言葉に、振り向いた。大鎌を肩に担いで少年が居た。



「……貴様は何者だ」


「ん〜? 僕ぅ? 僕は『十三死団』のメンバーだよぉ。まぁ、簡単に言うとぉ、ただの暗殺者だねぇ〜」


「っ⁉︎ 『十三死団』だと」



聞いた事があった。『十三死団』。それは十三人と言う少数だけで作られた組織。一人一人が出自不明、素顔不明の十三人の暗殺集団だ。何処を拠点にしているか分からない十三人だが、依頼さえすれば、どんな依頼さえも受ける。その成功率は100%と言われる。その最強の暗殺者達が『十三死団』。伝説に成り掛けている存在。そんな組織の一員が、目の前に居る。到底信じられる事ではない。汗がツゥと頬を垂れる。



「何故『十三死団』メンバーが私を」


「そんなの決まってるじゃない〜。依頼を受けたんだよぉ、邪魔な君を殺せってねぇ〜」


「………そうか」



そうではないかと思っていた。邪魔だと言う事は『貴族派』の連中が依頼をしたのか。何とも面倒な事を。ルドルフは、己の愛剣を握り締める。相手は少年とは言え、最強の暗殺者の一人。出し惜しみをしてる場合ではない。そう判断すると、ルドルフは己の愛剣を垂らし、無防備の状態になった。



「……? 如何言うつもりぃ〜。負けを認めたのぅ〜」


「…………」



少年の言葉にルドルフは無言だ。首を傾げながらも、少年は警戒を怠らなかった。帝国最強と呼ばれる戦士が、こんな簡単に負けを認めるとは思わなかったからだ。だから少年は、何が起きても良いように、気付かれずに構える。慢心や驕りは許されない。依頼を受ければ、その暗殺対象を真剣に殺す。それが『十三死団』のルールの一つ。もう先程の遊びで、ルドルフの実力が大体分かった。これからは、全力で殺しに行く。



少年から、兵士すら卒倒しそうな程の悍ましい殺気が現れた。大鎌を握り締める。少年を見据えてルドルフが、その言葉を言い放った。



「目覚めろ。我が剣よ『魂喰らい(ソウルイーター)』」



一言に力を込める。次の瞬間ーーー手に持つ剣が変化した。銀の刀身が血の如く真っ赤に朱に染まっていく。ドクンッと脈打つ音が剣から響いた。紅き剣を軽く振るう。そして床を滑るようにして移動し、少年に肉薄した。



「………はっ‼︎」


「おっとぉ〜。それ魔剣だったのぉ〜」



裂帛の息と共に放たれた斬撃を、少年は苦もなく大鎌でいなす。それよりルドルフが、魔剣を持っていた事に驚いた。それも最上級に位置する程の魔剣だ。『魂喰らい』と言う名を聞いた事がある。一太刀でも斬られれば、魂を文字通りに喰らい力を増す魔剣。喰らった魂は、様々な用途で使われる。身体能力の強化、五感の強化、体の再生など行使できる。一撃も当たってはいけない。



「怖いなぁ〜。でもぅ、僕のやる事は変わらないんだけどねぇ」


「御託は良い。さっさと、掛かって来い」



鋭い眼光で少年を睨む。少年はルドルフの言葉に、笑みを浮かべて腰を落とした。上体を前に倒して、床を蹴った。床すれすれで疾風の如く駆ける少年は、一瞬でルドルフに到達する。しかし、ルドルフは予測していたのか上段から魔剣を振り下ろす。それに対して床を滑らせて、大鎌を下から上に振り上げた。魔剣と大鎌が衝突する。甲高い音を響かせ空気が揺れた。



「ここまで音が響いて、誰も来ないとは」


「はははは、気付いちゃったぁ〜? ここには、クナちゃんが人払いの結界を張ってるから、誰も来ないよぉ〜」


「やはりか」



人払いの結界。名前の通り人を払う結界だ。そのクナちゃんと言う者も、恐らくは『十三死団』メンバーなのだろう。その気になれば、二対一の戦いになるかも知れない。剣の柄を握る力を強め、彼は全身に魔力を漲らせる。少年は雰囲気が変わったルドルフに、視線を向けた。次の瞬間ーーー脳裏に自分が斬られるイメージが浮かんだ。



「ッッッ⁉︎ うおっ⁉︎」



危機を感じて少年は後ろに後退した。が、もう遅くルドルフは紅き魔剣で一閃を放った。赤い線が走り少年の左腕を飛ばす。切断された腕から鮮血が滴り落ちた。



「いたたたたぁ〜。もおぅ、酷いなぁ腕が斬れちゃったじゃん」


「……貴様」



痛いと口にする少年だが、その表情は笑顔のまま。痛みを抱いているとは思えない。気味が悪い。何処か異常だと、ルドルフは思った。だが、それも少年の次の行動に驚愕する事となる。



「ま、良いかぁ〜。生やせば良いしぃ〜」


「な…に…っ⁉︎」



少年がそう言った時だ。ズリュッと音と共に切断された左腕が生えた。馬鹿な。あり得ないと少年を見る。だが、そこには五体満足の少年が居た。切断された事が嘘のように左腕も元通りだ。



「な、何をした貴様」


「んぅ〜? 何って、このままじゃ不便だから生やしただけだけどぉ〜。僕って不死身だしねぇ〜」


「不死身っ⁉︎」



なんだそれは。不死身と語る少年に、驚愕するしかない。死なない相手を如何やって倒せば良いのだ。冷や汗が流れるのが分かる。勝てるか分からない。いや、勝てないかも知れない。



(如何する? またアレを使うか。しかし、避けられてしまった)



ルドルフの切り札。先程使ったのがソレだった。少年には避けられてしまったが。同じ一撃は通じないだろう。だが、もしもアレが直撃すれば不死身でも倒せるのではないか。例え、不死身でも魂の全てを喰われれば、死ぬのは必然だ。



(ならば、これに賭けるしかないか)


「ん、また何かするのぉ〜?」



少年の言葉を無視して集中する。全てをこの一撃に込める為に。魔力を循環させ、強化して行く。放つのは過去最高の一撃。その一撃は、この魔剣の切り札だ。対象を一撃の元で斬り伏せる斬撃。ただ魔剣に貯蔵された魂の全てを、一撃の為に強化に回すだけ。あの時は三割分の魂しか強化に回していないが、今は全ての魂を強化に回す。超強化した魔剣の単純な一撃だが、単純だからこそ強力である。



斬撃の威力が強化され、剣速が強化され、動体視力が強化され、移動速度が強化される。これを使うと負担がヤバイが、言ってもしょうがない。相手は最強の暗殺者なのだ。ここでこの少年を倒し、そのままもう一人が来る前に離脱する。ルドルフは、魔剣に貯蔵された魂を燃焼させた。



「行くぞ『十三死団』‼︎」


「良いよぉ〜。おいでぇ〜」



変わらずの間延びした声を合図に、ルドルフは駆けた。異常な速度を出し、少年はルドルフの姿が消えたように錯覚した。そして全身を駆け巡る警戒音に従い、大鎌を振り抜いた。その勘は見事に当たり、大鎌を振るった方にはルドルフが居る。防御を取らなければ彼の喉は斬り裂かれるだろう。しかし、それでもルドルフは一歩前進した。大鎌はルドルフの首を捉えるが、それよりも先に彼の方が一手早かった。首に大鎌で斬られるよりも早く、少年の頭上から魔剣を振るった。凄まじい剣速を誇る斬撃。



その斬撃によって、少年は血の花を散らすーーー筈だった。



「ーーーーおいおい、なぁに負けそうになってんだよルイン」


「ーーーーッッッ⁉︎」



背後から聞こえた声。それに反応する間もなく、ルドルフは背中に生じた衝撃によって吹き飛んだ。



「ガハッ………⁉︎」



口から空気が漏れる。数十メートルは吹き飛ばされた。すぐに立ち上がろうとする彼だが、突如襲う謎の圧力によって床に縫い付けられた。



「ぐっ⁉︎ …これは…なんだ…⁉︎」



全身に力を込めても立ち上がる事が出来ない。それでも視線だけを、前に向けて自分をこんな風にした犯人を探した。だが、そんな時に背中から衝撃が起きて激しい激痛が襲った。



「ぐあぁぁぁぁぁぁッッッ」



ボキッと小気味の良い音を鳴らす。突然の痛みに耐えながら、原因を確かめると、ルドルフの背中を誰かが踏んづけていた。視線だけを動かして、その人物を捉える。



「テメェそれでも『十三死団』のメンバーかよ。幾らオレらの中で弱いと言っても、負けそうになってんじゃねぇ」


「は、はははごめんねぇ〜。思ったより強くてさぁ〜。流石は帝国最強だよねぇ」


「ルイン。テメェの言い分はそれだけか」


「ご、ごめんごめんてぇ〜。もう怖いなぁ、ギルザスさんはぁ〜」


「はっ、何が怖いだ。テメェは不死身だろうが」



少し焦りながら言う少年ーーールインに、ギルザスと呼ばれた男が鼻で笑ってから下に居る、いやギルザスの足に踏まれているルドルフに視線を移した。



「こんな雑魚に追い込まれるなんてな。それとルイン! 依頼の変更だ」


「依頼変更ですかぁ〜?」


「あぁ、変更した依頼内容は、ルドルフ・ゼスフォードの殺害から、洗脳に変わった」


「………ッ⁉︎」



黙って聞いていたルドルフは、男が言った発言に絶句する。今、この男はなんと言った? 驚愕する彼など気にせずに、二人は会話を続ける。



「洗脳ですかぁ〜? 如何やって洗脳するんですかぁ?」


「おいおい、ルインテメェオレを誰だと思ってやがる」


「……あぁ〜そうでしたねぇ〜。ギルザスさんなら、簡単でしたぁ〜」



ギルザスの言葉に得心がいったと声を上げる。確かに彼ならば出来ると、ルインは思い出した。洗脳や毒殺などは彼の得意分野なのだ。



「さぁて、という事で、テメェを洗脳する事になったから。あぁ、何も言わなくて良いぞ」


「くっ………⁉︎ き…さま…」



踏み付ける足を強めて、人の良い笑みを浮かべるギルザス。背中から激痛を感じながら、ルドルフは睨み付ける事しか出来なかった。



「クハハハハハッ。良いね良いね‼︎ その眼。潰したくなる」



狂ったように笑い声を発して、ギルザスは足を上げて振り下ろした。背中を強烈な一撃が見舞われた。



「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ………⁉︎」



鋭い痛みに絶叫を上げる。帝国最強の戦士が、情けなく叫び声を発した。それを面白そうに見下ろす一人の男。ルインがうわぁと声を出すが、気にせずにギルザスは懐からとあるビーカーを取り出した。



「おいルドルフ・ゼスフォード。これが見えるか?」


「ぐぅ…がはっ…う、うあ」



見えるように目の前にビーカーを持ってくが、ルドルフは聞こえないのか呻き声を上げるだけ。なんの反応も返ってこない事に表情をつまらなくさせる。



「ま、良いか。じゃあぺちゃっと」



だが、すぐに如何でも良いと顔を戻しビーカーを傾けて、中身を垂らした。紫の液体がルドルフの体にピチャンと跳ねる。数瞬、呻き声しか上げていなかったルドルフに異変が起きた。液体がビーカーから、何度も何度もピチャンピチャンと跳ねる。紫の液体はルドルフの体の中に浸透して行った。



「ーーーーあ、ああぁ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁああァァァァァァァァァァァッッッッッ⁉︎」



人が出すとは思えない絶叫を放つ。頭を両手で抑え込み、ルドルフは転がった。グルグルとグルグルと、しかし途中で止まると次は頭を床に何度も打ち付ける。額が切れて血がどくどくと流れるが一切気にしない。その光景を見ていたルインが言葉を溢した。



「相変わらずぅ、ギルザスさんが作る薬物は危険ですねぇ〜」



伸びた声とは裏腹に、ルインの頬には汗が垂れている。自分は死なない。しかし、痛みは感じるのだ。ルドルフによって腕を飛ばされた時も痛みを感じていた。だが、大抵の痛みに慣れているルインは、斬られた程度では喚かない。が、ギルザスの薬には一生痛みを味合わせる薬物が存在した。ルインは死なない。俗に言う不死身だ。その不死身たるルインが、その薬を投与されれば如何なるか。一生激痛を味わい死ぬ事も出来ずに、永遠と苛まれる。考えただけでゾッとする。



死ねない事は戦闘に置いて有利に働く。しかし、死ねない事は時に地獄に変わる。その例えの例が上記の物だ。死ぬ方が楽だと言う痛みを死ぬ事も出来ずに与え続けられる。ルインにとって確かに地獄だった。ギルザスだけは敵に回さないようにと心の中で誓う。すると、先程までの絶叫が聞こえなくなった事に疑問を抱き、ルドルフの方に視線を向けた。



「はい、洗脳成功」



ギルザスの言葉が響いた。そこにはルドルフ・ゼスフォードが立っていた。両腕を垂らしゆらりと立っている。



「よぉ、気分は如何だぁ。ルドルフ・ゼスフォード」


「………少し気分が良いな」



洗脳したとギルザスが言ったのなら、成功したのだろう。しかし、ルドルフの言葉使いと姿は洗脳したとは思えない。従順にするのではなく、元の人格のまま洗脳する。ギルザスの洗脳技術に感嘆するしかない。これならば、洗脳されたとは気付かれない。



「これでぇ、依頼は成功ですかぁ〜」


「あぁ、取り敢えずはな」


「取り敢えずと言うとぉ、まだあるんですねぇ〜」


「ま、そう言うこった。ルイン行くぞ。団長が待ってる」


「はい〜分っかりましたぁ〜」



背中を向けて歩き始めるギルザスに、言葉を伸ばしてルインも着いて行く。ルドルフは床に落ちている己の魔剣を拾い上げて、腰に差してから二人の後を着いて行った。その場から三人が消えた後、まるでそれが合図かのように、侍女や兵士達がその場を通った。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







一人の男が居る。男が居る場所は何もない、長時間居れば狂ってしまいそうな、真っ白な空間だった。その何もない空間で、目の前に映し出されている映像を銀に光る瞳で見詰めた。



「ーーーーく、クククク。こんな、こんな存在が居たとは。全くこの世界は広いな」



笑い声が反響して呟く。彼の視線の先、映像にはとある事が映っていた。一人の青年だ。茶髪に黒眼をした青年。その青年を見た男は、歓喜に震えた。男は強かった。それも果てし無く。その強さ故に、誰も男には敵わなかった。気付けば男は、『死神』と恐れ呼ばれるように成る程。そんな彼がとある組織を作ったのは暇潰し故にだ。自分が認めた十二人の強者達。暇潰しで作った組織だったが、思いのほか楽しめた。しかし、だが男はそれ以上の歓喜に打ち震えていた。



自分は強いと自他共に認められている。だが、映像に映し出されている青年と比べれば、自分など弱者に等しい。いや、弱者ですらない。あの青年にとって、己など戦いの相手などなり得ない。遊びすらにもならない程の理解の範疇を超えた存在。それが男が青年を見た感想だ。故に、打ち震える。自分以上の実力を比べる事すら烏滸がましい絶対的強者。こんな存在が、この世界に居たのか、と全身が震えた。



「良いぞ。良いぞ。彼と戦ってみたい。このオレの全てを、ぶつけたい‼︎」



男には特殊な技能があった。視えるのだ。強弱の一切が関係なく、彼には眼に映る全ての生物の力の波動を、その眼で捉える事が出来た。これは生まれながらにして持っていた、己だけの力。その瞳であの青年を見た時の戦慄は忘れられない。瞳に捉えた瞬間、映ったのは全世界すら覆い尚、広がっている埒外なオーラだった。宇宙の全てすら覆っていると思う程に。数秒見ただけで、頭痛が襲い吐き気を催し、肉体が悲鳴を上げた。これ以上、この理解不能な光景を見ては行けないと本能が訴えかけた。



勝てない。絶対にどんな奇跡が起ころうとも、あの存在には勝てはしない。だが、それでも挑みたい。探していた。男は自分以上の強者を探していた。ただ、初めて見付けた強者がトンデモナイ存在とは予想出来なかったが。



「あの男が動けば、意図も容易くオレ等の依頼と、帝国連中の考えなど、一瞬にして瓦解するだろう」



簡単に予想出来る結果だ。一度、あの青年が動けば、全てが終わる。だからと言って辞める訳がない。男は青年との戦いに夢想した。恐らくは、いや確実に自分は瞬殺されると分かっている。



「だが、オレはあんたと戦いたい」



真っ白な空間で、歪んだ笑みを浮かべる。



「おっと、如何やら依頼は成功させたみたいだな」



すると、もう一つ開いている映像を見て、男は言った。その映像には、二人の男がこの帝国の戦士ルドルフを後ろに連れて歩いているのが映っている。



「さて、残す所はあと一つと言う事かな?」



そう言い男は、中指と親指で輪っかを作り、それを弾いた。パチンッと乾いた音が鳴り、真っ白な空間から男の姿が消える。男にしか使えない男だけの固有魔法。その白の空間だけが、そこに残った。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「ご到着。ここが、今のオレ達が拠点にしている場所だ」


「ここが、貴様等『十三死団』の拠点」



ルインとギルザスが、辿り着いた場所はボロい小屋の前だった。流石に伝説の暗殺者達の拠点が、ボロ小屋とは思わずルドルフは本当なのかと、視線でルインに確かめた。ルドルフの疑惑の視線に気付き、ルインは何時も通りの伸びた声で答える。



「そうだよぉ〜ここが、僕達の拠点さぁ〜」


「そうか」



再度の答えに、もう何も言わずにボロ小屋を見据える。と、ギルザスが前に出た。



「入るぞテメェ等」



そう言って小屋の扉に手を掛けた。後ろを着いて行くルドルフ。そして開け放たれた扉の中に入りーーー彼の視界に燦爛と輝くシャンデリアと、床に敷かれる赤い絨毯や、奥にある数段の階段を上った所には円卓が鎮座しているのが映った。



「な、何だこれはッ⁉︎」



目の当たりにした光景に、呆気に取られる。ボロ小屋の中に入ったら、まるで城の中と思う程の場所に出るなど、誰が予想出来たか。そもそも小屋の中と、この場所の広さは完全に可笑しい。



「一つ目の依頼は完了したぜ」



驚くルドルフを無視して、何もない空間にギルザスはそう言った。何処に言ってるんだと、疑問に思うも束の間、それは現れた。



「ーーーーご苦労だったな。とは言え、遅過ぎだ」


「………ッッッ」


「そりゃないぜ団長」



背後から聞こえる声に驚愕して振り返る。二十代程の男が立っていた。何時からそこに居た。曲がりなりにも自分は帝国最強。なのに、全く気付かなかった。ギルザスやルインは、それが当たり前の光景かのように会話をしている。



「それで? お前がルドルフ・ゼスフォードか」


「…………」



ギルザスとの会話を切って男は尋ねた。それに無言で見据える。ルドルフは男の全体を観察した。全身が黒一色の服を身に付け、灰色の髪に銀の瞳を持つ男。観察していると、男は笑みを浮かべた。



「初めましてだな。オレは『十三死団』団長のゼオン・ドレッドノートだ。よろしくな」



ゼオン・ドレッドノート。『十三死団』の団長だと、この男は言った。ならば、この男が最強の暗殺集団の頂点。即ち最強なのだろう。汗が伝う、ルインよりもギルザスよりも恐らくは強い男。警戒心を高めてルドルフは、見詰めた。



「やれやれ、如何やらオレは嫌われているらしい」


「当たり前だろ団長。なんせ無理矢理、洗脳したんだからな」


「そうですよぉ、それで有効的だったら気持ち悪いですよぉ〜」


「ははは、確かに違いない」



何も答えないルドルフに対して、談笑する三人だ。それが何故か不気味に思えて仕方が無い。と、談笑をしていたゼオンが言葉を止めて周りを見渡した。



「如何やら全員が来たみたいだな」



その言葉と共に、この場に十つの閃光が発生した。全員が来た。ルドルフはゼオンの言葉に、バッと振り向いた。そこには十人の男女が佇んでいた。一人は巨大な槌を肩に担ぎ、一人は長大な槍を携え、一人は背中に二振りの剣を差し、一人は五メートル程の巨躯を誇り、一人は側に数体の異形の形をした人形を待機させ、一人は数十もの弓を背負い、一人は二本の戦斧を持ち、一人は異質な本を所持し、一人は巨大な獣を使役し、一人は眼球を植え付けた右腕をしていた。



十人が十人ともそれぞれが、己の武器を持ち立っていた。



「さぁ、最後の依頼を始めよう。帝国は変わる今日を持って」



愉快そうに笑い声を上げて、ゼオン・ドレッドノートは集まった者達に対してそう宣言した。
















帝国最強と言う割りにあっさりと洗脳されたルドルフさんでした。



誤字脱字を見つけたら報告お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ