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人外達の歩み  作者: 葛城 大河
第二章 帝国陰謀編
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第一話 依頼

最後の主人公登場‼︎ この章から、一章ごとに主人公が変わります。

アルカディア帝国。冒険者が多く集まる、その国の城下町に『何でも屋フリーランサー』と言う名の看板が掲げられている店の前に、一人の男が立っていた。男は、目の前の店にゴクリと唾を飲み込むと呟いた。



「………ここが、あの噂の何でも屋か」



どんなに危険な依頼でも受ける。それが、各地から聞いた噂だった。男は、ある依頼を持って田舎の村から帝国までやって来た。その依頼は冒険者に受けて貰ったのだが、今は何でも忙しいらしく、無理だったのだ。だからこそ、最後の頼みとして彼はここに来ていた。何もせずに、村などに帰れる筈がない。自分がこうしている今でも、村の住人が大変な事になっているかも知れないのだ。



男は扉の前で一回、深呼吸をすると意を決して扉を開けた。キィィィィと音を鳴らし開閉され、男は中に入る。室内は広く綺麗に整頓されており、男は周りをキョロキョロと見ていると視界の端に何かが映り、其方に視線を向けた。そこには一人の青年が椅子に座っていた。赤を基調とした服装に、紅い外套を羽織っている。その青年は、扉を開けた男性に気付き、視線を向けた。



「ん? 客か………?」


「し、失礼します。私の名は、」


「まぁ待てよ。取り敢えず座れ」



男性の名乗りを遮り、青年は対面に椅子を用意して座るように催促した。青年の言葉通りに、男性は対面にある椅子にゆっくりと座った。改めて青年を見る。茶髪に黒眼をした青年で、歳の程は19ぐらいか。身長は180cmはあるだろうと思う。男性は青年を見据えて、もう一度、名乗りを上げた。



「私の名は、リゼル・マグシスと申します。貴方が、この何でも屋のマーク・ウエダで間違いありませんか?」


「あぁ、俺が何でも屋『フリーランサー』の上田マークだな」



男性ーーーリゼルの言葉にマークはそうだと答えた。マークが自分の名前を入れ替えて言った事に、首を傾げる。が、すぐにリゼルは本題に入った。



「貴方に依頼をお願いしたい」


「ふ〜ん。取り敢えず、言ってくれ。それから考えるから」



マークの興味がない物言いに不安になるが、リゼルは意を決して口を開いた。



「私の村に、ある魔物が住み着いたのです」



その話にマークは、黙って聞く。リゼルの住む辺境の村。アルト村には、ある魔物がつい最近住み着いた。その魔物は週に一回は村にやって来ては、人を一人また一人と殺し喰らっているらしい。その魔物の正体は、鬼である。冒険者ではAランクに相当する魔物だ。ただの村人が、そんな鬼に勝てる筈もなく、為す術もなく殺されている。冒険者にも依頼を出したが、今は王都の方で、何かがあったのか忙しいみたいだ。そこで白羽の矢が立ったのは、この頃、名が広まっている何でも屋だった。



「如何か私の村を助けてくださいっ‼︎」



話終わりリゼルは沈黙するマークに、ガバッと頭を下げた。室内に静寂が訪れる。



(鬼、ね。其奴はどんくらい強いかなぁ?)



胸中で鬼の事を思い浮かべて、マークは考える。鬼と戦った事は、まだなかったなと思う。リゼルは駄目か、と不安そうな表情を見せた。すると、そのリゼルに気付いたのか、マークは答えた。



「良いぞ。その依頼を受けてやる」


「っ⁉︎ 本当ですか‼︎」


「あぁ、だからお前の村が、何処にあるのか教えろ」



マークの答えに不安な表情がなくなり、笑みを浮かべた。席から立ち上がり、マークは出かける準備をする。マークの質問にリゼルは、自分の住む村の場所を言った。アルト村は、このアルカディア帝国から馬車で移動して一週間は掛かる程の位置にある。リゼルの村の場所を聞いていたマークは、そうかと言い外に出る為の扉を開けた。



「行くぞ」


「………え」



マークの一言に、リゼルは訳が分からないまま、着いて行った。



マークとリゼルは、アルカディア帝国の正門前に着ていた。それに後ろから追いかけていた、リゼルはマークに尋ねた。



「あ、あの何故、正門前に」


「ん? そりゃ、今からアルト村に行く為だろ」


「は…………?」



何を当たり前なとでも言うような、マークの言葉にリゼルは呆気に取られる。ここからアルト村は、どんなに早くても五日は掛かる。今から行くと言うなら、馬車を用意しなければ行けないのだが、周囲を見渡しても馬車らしき物は何処にもない。そんな困惑しているリゼルに、マークは近付いて、



「それじゃ、行くとするか」


「ま、マークさん⁉︎」



マークはリゼルを脇に抱えた。リゼルが何かを言っているが、早く行きたい為に、マークは無視する。そして一歩。マークは踏み込んで、走った。容易に音の領域を突き破り、マークは光速に達する。通り過ぎるだけで、地面が抉れ草木が舞い散る。眼前に居る魔物を全て、消し飛ばしながら進む。そんな光速で進む中、抱えられているリゼルはというと、



「ーーーーあ、あぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」



必死にマークの体にしがみつくのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







アルト村。その村は山の麓にある村だ。村の外れにある井戸に、一人の少女が桶に水を汲んでいた。桶一杯に水を入れると少女は、それを両手で持ち村まで戻る。この村全ての家には、水路が繋がっておらず、こうして朝早くに村外れの井戸から水を汲まなければならない。少女も例外ではなかった。何往復も水一杯になった桶を運ぶのだが、屈強な男なら兎も角、まだ年端もいかない少女には、キツイ物があった。



汗を掻きながら、少女は家まで辿り着いた。桶を一旦置き、少女は家の中に入る。



「………ふぅ、これぐらいかな?」



台所に行きそこに桶を置いた。台所には、少女が置いた桶の他に五つ程、近くに水が溜まっている桶が置かれている。如何やら少女が往復して運んだみたいだ。頬を伝う汗を拭い、少女は台所の前に立つ。そして朝食を作る準備を始めた。これが少女の何時もの朝だ。別に少女は一人暮らしではない。弟と父親の三人家族である。だが、現在は父親が遠くの国に行き、弟は体が病弱な為、クレアが今は一人で頑張るしかない。朝昼晩の食事を作り病弱の弟の体調管理をするのも、姉の務めだ。



「ふぁ〜クレアお姉ちゃん」


「ん? 起きたのシュウ。もうすぐご飯が出来るから、顔を洗ってきなさい」



トントンと薬草を包丁で切っていると、後ろから欠伸が聞こえて、振り向くと女の子の様に細い腕と中性的な顔をした少年が居た。もし初めて見れば、誰もが女の子だと見違えるだろう。そんな少年にクレアと呼ばれた少女は顔を洗う様に促した。それに少年ーーーシュウは眼を擦りながら洗面台の方に向かって歩いた。その後ろ姿を確認すると、クレアは切った薬草を鍋の中に入れた。



「お姉ちゃん洗って来た」


「そう、ご飯が出来たから食べる準備をしてくれる」


「うん分かった」



クレアの指示にシュウは机に、箸を置く。クレアは薬草のスープを器に入れ、炊いていた白米を盛る。その盛られた白米とスープを取りシュウは机に置く。クレアが最後に焼きキノコと野菜炒めを手に持ち、机に座って、置いた。対面にはもうシュウが座っている。向き合う形で二人は両手を合わせた。



「「いただきます」」



そして、食べる挨拶をして二人は箸を持ち、目の前にある朝食を食べ始めた。



「「ご馳走様でした」」



クレアとシュウは食べ終わり、食器を片付ける。クレアは食器を洗い、片付けの手伝いをしているシュウに顔を向ける。



「シュウ後は私がやるから、休んでなさい」


「でもクレアお姉ちゃん………」


「でもじゃない。生まれつき身体が弱いんだから、休んでなさい」


「…………うん分かったよ。お姉ちゃん」



クレアの言葉に少し考えた素振りを見せ、シュウは頷き奥の部屋に行った。それを確認したクレアは、良しと袖を捲り食器を全部洗い流し部屋の掃除を始める。時間が過ぎ、部屋の掃除を全て終わらせ、クレアは服の洗濯をしはじめた。せっせと洗い終わった服を畳み綺麗に置く。幾つか洗い物が無くなった頃、家の近くで誰かの話し声が聞こえた。数は二人だろうか? 声が徐々に近付いて来る。クレアはお客さんかと思い扉の方に向かって歩き出すと、扉が開いた。扉の前に立っている男性が開けたのだろう。



開けられた扉の前には、二人の男性が居た。一人は歳をとっている男性でもう一人は、茶髪黒眼をした青年だ。そして、クレアは男性の方に眼を向け、驚いた表情をする。その男性はクレアの知る人物だったからだ。



「お父さんっ‼︎」



つい大声を出し、男性ーーーリゼル・マグシスに向かって抱き付いた。抱きつかれたリゼルは、クレアに微笑み頭を撫でた。



「クレア。待たせたな」


「うん。お父さん。それで何しに帝国に行ってたの?」



顔だけを向けてクレアは、帝国に行った理由を聞いた。リゼルは聞かれる事がわかっていたのか。笑みを深め視線を一人の青年に向ける。その視線をクレアも追った。そして手を青年に出すと。



「クレア、紹介しよう。彼はマーク・ウエダさんだ。私は彼を探しに帝国に行っていた」


「この人を? 何でお父さん?」


「そんなの決まっている。彼に鬼を倒して貰う為さ」


「ーーーーッ!?」



自分の父親の一言にクレアは驚愕した。鬼を倒す。即ちあの鬼人を討伐すると言う事だ。脳裏に村の知り合い達が鬼人によって、殺戮される光景が浮かんだ。無理だ。勝てる訳がない。あの鬼人は、普通の鬼とは違う。冒険者でも勝てないとクレアは、思っている。それ程までに、あの鬼人は強かった。言っては悪いが、目の前の青年はそんなに強そうには見えない。どちらかと言うと弱そうに見える。大丈夫なのか、と言うクレアの表情に、リゼルは気付いた。



「大丈夫だよ。クレア。彼は物凄く強いからね」



笑顔で告げるリゼルに、クレアは益々訝しむ。何故、そう断言できるのか。クレアは知らないが、リゼルはこの村に来る間、隣に居る青年ーーーマークによって余りに非常識な光景を何度も見た。それ故の信頼だ。光速で移動するマークの前に壁になる、魔物数体を一瞬にして肉塊に変えれば、誰だってそう思う事だろう。だが、それを知る由もないクレアは、父に招かれて家の中に入ってくるマークに、訝しみの視線を送るのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







マークは、リゼルに家の中に招かれ、早速、鬼を倒そうと動こうとしたのだが、リゼルに今晩は泊まって行けと言われ、その言葉に甘え泊まる事にした。その時、リゼルから二人の子供を紹介された。その内の一人の少女から、ずっと見られていたが、取り敢えず無視をした。



そして今、マークは敷かれた布団の上で横になっていた。隣では規則正しい寝息を立ててリゼルが寝ている。ふっと、起き上がり、リゼルが起きないように外に出た。



「帝国と違って、良い夜空だな」



外に出て、最初に眼にしたのは、宙にある綺麗に輝く星々だった。帝国とは違い、燦爛と多くの星が顔を出している。流石は山の麓だな、と感嘆な声を上げた。帝国の夜空と比較して考えていると、マークの脳裏に帝国に置いて来た助手である獣人を思い出し、戻ったら怒られるな、と苦笑する。そして顔を引き締めて明日の事を考える。鬼。それは力の象徴とされている存在だ。一説ではその膂力は幻獣種の頂点に君臨する龍にも引けを取らないと言われている。



その事に気づかぬ内に全身が震えた。早く戦ってみたい。マークの地が少し姿を見せた。この世界に来てから色んなのと戦ってきたが、鬼はまだ初めてだ。だからこそ、早く戦いたい。戦闘狂の一面。それが現れた。



「あ、あのマークさん」



すると、後ろから声がかかった。それに振り返ると、そこにはリゼルの娘であるクレアが立っていた。彼女のその表情は、何処か心配そうにしていた。別に心配される覚えがないマークは、首を傾げる。



「確かクレアだったは」


「は、はいそうです」


「それで? 俺になにかようか?」


「そ、その。マークさんは本当に鬼と戦うつもりですか………?」



最初は言いずらそうにするが、意を決して口を開いた。心配そうなその顔に、マークは心配の理由を悟った。文字通り彼女はマークの身を心配しているのだ。聞けば何人もの勇敢な村人が殺られたと聞く。理解してマークは薄く笑った。この娘は良い娘だ。他人の事を心配出来る程の。心配される事など、初めての事だ。存外、悪い気分ではない。



「心配するな。俺は成功率100%だ。鬼なんかには負けない」



安心させるようにそう言って、クレアの頭をポンポンと撫でて部屋に戻って行った。それに撫でられた頭の上に手を置き、クレアはただマークが入った部屋を見るのだった。




朝を迎えてマークは早くに起きていた。頭をポリポリと掻いて、周りを見渡す。と、視界の端にクレアが何処かに行くのが映った。両手には二つの水桶を持っており、うっすらと汗を掻いている。訝しながらも気になったマークは、気付かれないように完璧に気配を遮断して付いて行く事にした。数分程、歩くとアルト村の外れにある井戸に着いた。そこでクレアは水桶に紐を括り付けて、井戸の中に放り込む。そして水一杯に溜めた桶を頑張って紐を引っ張って井戸から持ち上げる。それをもう一度行った。そんなクレアの背中に近付き声をかけた。



「なにしてんだ?」


「ひゃっ⁉︎ ま、マークさん⁉︎」



突然に背後から声をかけられて、可愛い声を上げて振り返り、クレアの眼が大きく開いた。だが、すぐにマークに非難めいた視線を向けた。その視線に頭を掻いて、話を逸らすように聞いた。



「で、なにをやってんだ」


「………え」



マークの言葉に首を傾げるが、彼の視線が井戸と桶に向いていると分かって、なにに質問しているのかに気付いた。



「あっ、これはですね。アルト村の家には水路が繋がっていないので、こうして毎日桶で水を運んでるんです」


「なんか、面倒な事をしてるな」



クレアの話に毎日してるのか、と感心をするが、面倒くさいなと口にした。それにクレアは苦笑する。確かにこれはまだ幼い彼女にとって凄くシンドイ物だ。だが、ここから水を持って行かないと食事も風呂も洗濯も出来なくなる。それ故にやらなければいけない。マークもそれは分かってはいるが、面倒だと思った。



「マークさん。そろそろ行きましょう。朝食の準備をしないといけないので」


「お、そうか」


「はい。それでは」



クレアはそう言って、家の帰路にたった。せっせと桶を運ぶ彼女の姿に、マークは頭を掻いて近付く。そして何も言わずにクレアから桶を奪い取った。



「え? マークさん?」



行き成りの彼の行動に、呆気に取られて視線を向ける。だが、マークは桶を軽々と持った状態で言った。



「悪いな。もう腹が減って、早く食べたいから俺が持って行く」



桶を持つ彼の言葉に、意表を突かれたように眼を見開くが、すぐに笑顔になる。



「はい。なら、腕によりをかけて、作りますね‼︎」


「あぁ、そうしてくれ」



そして二人は揃って歩いて帰路にたった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







あの後、朝食を食べ終え、村近くの山に来ていた。因みに、クレアの朝食は、とんでもなく美味かった。店が普通に出せる程に。まぁ、それはさておき、何故、山に居るのか? リゼルが言うにはこの山から、例の鬼人が下りてくるらしい。故に、調べる為にマークは、この山を登っていた。家を出る際に、クレアに心配されたが何とか納得して貰った。



その時に、絶対に帰ってきて下さいっ‼︎ と言われた事を思い出して苦笑する。初めての事だ。自分の身を心配する人に会ったのは。前の世界では、誰も自分の事を心配した者は居なかった。それに、あれ程に他人を思う者は、はたして何人居るだろうか。恐らく居たとしても、数人ぐらいだろう。そんなことを思っていると、前の方からガササササッと草木を掻き分ける音が耳に聞こえた。鬼人か? 徐々に近付いてくる音に推測するが、感じる力に違うと断定する。そして、前の草木から、



「プギィィィィィッッ‼︎」


「やっぱ、動物か」



大きな三メートルはある、巨大猪が突っ込んできた。胸中で動物だと思っていたマークは、さして驚かずに体当たりをかましてくる巨大猪に対して、軽く腕を振り下ろした。瞬間ーーー山全体が揺れた。



パチパチと焚き火の音が聞こえる。マークは焚き火で炙った巨大猪の丸焼きを、その手に持ってそのまま口に入れた。口内に肉汁が溢れて、頬を緩める。美味い。マークはガツガツとその肉を物の数分で完食した。



「はぁ、めちゃくちゃ美味かったな」



巨大猪の残骸を見詰めて、そう呟いた。流石は自然溢れる場所で育った事だけはある。と、そろそろ探しに行くかと思い腰を上げたその時だ。マークの超人的な聴覚に、悲鳴が聞こえた。バッ‼︎ と後ろを振り向きアルト村の方角を確認した。その方角から黒煙が上がっていた。



「まかさ、鬼人が来たのか⁉︎ でも俺は会わなかったぞ」



彼はアルト村の方から、この山まで来た。なら、同じく山の方から来る鬼人と会う筈だ。しかし、現にこうして会わず、村は襲撃されている。その答えは一つだ。



「ちっ、行き違いになったのか」



舌打ちをして、マークは地面を足で掴み、村の方角を見据えて蹴った。次の瞬間ーーー地面が吹き飛んだ。木々が薙ぎ倒され、マークは音の世界を突き破り、一瞬にして光速に達し、アルト村に向かうのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇








クレアは食器の片付けをしていた。カチャカチャと水で洗う。それを終わらせると、父親であるリゼルと共に畑仕事をする。そんな中、クレアは時折、チラッと山の方角に視線を投げた。



「なんだ? クレア。マークさんの事が心配なのか?」


「あ、当たり前だよお父さんっ‼︎ だって、あの鬼人と戦うんだよ⁉︎」



そう告げるリゼルに、クレアは大声を出した。何故、普通にしてられるのか。リゼルは心配ではないのか、と見詰めた。それにどう答えたらいいか迷い、リゼルは頭を掻いた。はっきり言って、マークがこの村に来てから、リゼルはもう鬼人の事は解決したと思っている。それはひとえに、アルト村に来る際に、見せられた鬼人よりも圧倒的な力による所為だ。その為に彼は、安心して畑仕事が出来ていた。しかし、如何やら自分の娘はそうでないらしい。



まぁ、それはそうだろうとリゼルは納得する。初めは自分もマークを見た時は、依頼を頼むのを悩んだ程だ。外見的に体は細く見え、尚且つ彼自身に余り覇気がない。端的に言うと弱そうに見えるのだ。だが、実際は違った。外見で判断をしてはいけないと、理解させられた。



「大丈夫だよ。クレア。マークさんなら平気さ」



そう微笑みクレアの頭を撫でる。何故、そう言い切れるのかとジト目を向けるが、リゼルは笑みを崩さずに頭を撫で続ける。それにため息を吐いた。ここまで言うのだから、なにか確証があるのだろうと、自分に言い聞かせて釈然としないまま畑仕事を再開させた。しかし、未だ心配しているのか、山の方に眼を向ける。それにリゼルは苦笑して肩を竦めて、自分も畑仕事を再開しようとしたその時。それは起きた。



「ん? なんだ?」



まず最初に感じた違和感は、周りの騒がしさだった。クレアも気付いたのか、リゼルと顔を見合わせている。耳に意識を傾けリゼルは聞いた。



ーーーキャアァァァァァァァァッッッ⁉︎


ーーーうわぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉︎



「ッ⁉︎ これは悲鳴⁉︎ ………まさかっ‼︎」


「お父さんっ⁉︎」



耳朶に響く村人達の悲鳴に、リゼルは嫌な予感がして家の中に駆け込み、そこから剣を取り出して悲鳴のする方へ駆けて行った。それに怯えながら聞いていたクレアが叫ぶ。家を周りのリゼルが見た光景は、一体の鬼が村の仲間達を蹂躙している光景だった。



「な、なんで鬼人がここに⁉︎ マークさんは如何したんだっ」



鬼人が居る事に疑問を浮かべる。マークが殺られたとは思えない。そもそもリゼルには、彼が誰かに殺される想像が付かなかった。戦えば必ず相手が負ける。彼の力を目の当たりにしたリゼルは、そう感じた。だからこそ、鬼人がここに居る事に対して、最初に疑問を浮かべたのは、マークが殺られた事ではなく、何故鬼人が未だに存命である事だ。そこで考えた末にリゼルは思った。



「まさか、行き違いになったのか‼︎」



考えれば考えるだけ、そうとしか思えない。確証はないが、リゼルの中ではそれが正解だと断定した。



「くっ、こんな事になるとは」



まさか行き違いになるとは思わなかった。そうこうしている内に、鬼人は逃げ惑う村人達を襲う。しかし、その動きは遅い。よく見ると鬼人の顔が愉悦で歪んでいた。鬼人はゆっくりと追い掛けて遊んでいたのだ。その事にリゼルは苛立ちを隠せない。自分達は玩具ではない。と、そんな彼の視線が子供に狙いを決めた鬼人を映した。子供は余りの恐怖で、ガクガクと全身を震えさせ、尻餅を付いている。危ない。そう思いリゼルは走り、手に持つ剣を強く握り締め、鬼人の背中めがけて振り下ろした。



上から振り下ろされる銀閃が弧を描き、背中を斬り裂くーーー筈だった。



「…………え?」



リゼルの口から呆然とした声が出る。振るわれた剣は、鬼人の背中に当たると、バキンッ‼︎ と音を鳴らし根元からポッキリと折れていた。一度、自分の手にある剣を見て、鬼人を見た。その瞬間ーーーリゼルの全身に凄まじい衝撃が襲った。



「ぐ、がぁぁぁぁぁッ⁉︎」



地面を数回飛び跳ねて、リゼルは転がる。衝撃が来た所である左半身を見ると、



「ぐ、いっ……たい……な……にがっ?」



左腕があらぬ方向にひしゃげ、左足は骨が皮膚から突き出ていた。その事に眼を見開き、鬼人の方に視線を向けた。そこには鬼人が、腕を振るった姿勢で立っている。それに、あぁ自分は鬼人の攻撃を喰らったのだと理解した。すると、鬼人がリゼルの方に体を向けた。



「ウザッテェニンゲンダナ。アソビノジャマヲスルナ」


「しゃ、喋れるのか⁉︎」



鬼人が口を開き言葉を発した事に、リゼルは驚愕の表情を浮かべる。本来、魔物は喋る事が出来ない。それは魔物の部類に入る鬼人も同じだった。しかし、目の前の鬼人は今、普通に口を開き言葉を発している。如何言う事だ。そんな疑問を頭の中に浮かべる彼だが、此方にズシンと重量のある足取りで歩いて来た鬼人によって思考を戻した。鬼人は目の前に立ち止まると、リゼルの頭を踏み付ける。



「ぐっ⁉︎ あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉︎」



徐々に込められて行く力に、リゼルは絶叫を上げた。頭からメキメキと音が聞こえる。



「ニンゲンハ、ニンゲンラシク、ダマッテオレサマニクワレレバイインダヨッ」


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッッ」



鬼人の暴言に何も言えず、リゼルは頭を踏まれる激痛で叫ぶ。と、鬼人は頭から足を退けた。無くなった痛みにリゼルは、朦朧とした意識の中、鬼人を見やる。すると、鬼人は此方に向けて腕を振り上げていた。トドメを刺す気なのだろう。死の恐怖で体が如何しようもなく、震える。しかし、全く体が言う事を聞かず、逃げる事も叶わない。走馬灯のように脳裏に数々の経験した事が過った。その中で心残りなのがクレアである。如何かクレアだけでも生き延びてくれ。



そう思い眼を閉じた彼の耳に、コツンと何かがぶつかった音がした。それが何故か気になり眼を開けると、鬼人の背後で、己の娘が鬼人に向かって小石を投げてぶつけていた。その事に眼を見開き、今出せる大声で叫んだ。



「な、なにをやっているんだっ⁉︎ 逃げてくれ、クレアっ‼︎」


「いやっ‼︎ もう私の目の前で人が、死ぬのを見るのは嫌なの‼︎」



リゼルの言葉にクレアは、悲痛の声を被せた。人が死に絶えて行くのを見るのは嫌だ。それも己の肉親がとなれば、助けるに決まっている。だが、その思いすら鬼人にとっては下らない物だった。二度も人を殺すのを邪魔された鬼人は、苛立ちを隠さずにクレアを見る。



「ひっ………⁉︎」


「ドウヤラ、オマエカラクワレタイヨウダナッ‼︎」



鬼人の顔を見て怯えるクレアに向かって、地面を蹴り一瞬にして近付き胸ぐらを掴む。突如、鬼人に胸ぐらを掴まれ息が出来なくなるクレアは、暴れるが鬼人の腕はびくともしない。



「うっ……くぅ……」


「モウイイ、コムスメ。オマエカラ、シネ」



酸欠状態で呼吸困難に陥り、体が空気を欲する。そんな中、クレアの耳に聞こえたのは鬼人の死刑宣告だった。少しでも気を緩めば、気を失いそうな状況で瞳から涙を流す。前でリゼルが何かを叫んでいるが、クレアには何も聞こえない。そして鬼人の腕が膨張し、その彼女の細首をへし折ろうと力を込めた。もうすぐで死が近付いてくる。それにクレアは、父親に向かって笑顔を向けた。今までありがとう。その意思を込めて。



その時、彼女の頭に過ったのは、昨日家に泊まった一人の青年だった。何処か寂しそうな顔をしている青年。まるで世界から取り残されたかのような、孤独感を持つ人だ。そして残念に思う。ここに鬼人が居ると言う事は、もうあの人は。



「オワリダ」


「や、止めろぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ‼︎」



鬼人の言葉にリゼルは、喉が潰れる程に叫ぶ。クレアの笑顔を見て、彼はクレアの真意を悟った。自分を助ける代わりに死ぬ積りだと。自分が殺されている時に逃げてくれと。剛腕が一人の少女を破砕する為に唸る。その拳は容易に巨石を砕くだろう。それが鬼の持つ暴力の力だった。クレアは何も聞こえない中、脱力した。何故か怖くなかった。ただあるのは、迫り来る暴力の塊を冷静に傍観する自分。



「クレアぁぁぁぁぁぁッッ‼︎」



父の恐らくは己を呼ぶ言葉さえ、聞こえない静寂の中で、彼女は確かに聞いた。



ーーーおい、行儀が悪いぞ?



「…………え?」


「ぐ、グギャァァァァァァァッッッ⁉︎」



途端に感じる浮遊感。次の瞬間には、彼女は誰かに受け止められていた。眼をパチパチとさせ、その人物を見た。そして眼を大きく見開いた。そこには、



「よぉ、大丈夫か? クレア」


「ま、マークさん⁉︎」



クレアが死んだと思っていた上田 マークが居たからだ。しかし、未だに絶叫している鬼人が気になり、そちらに視線を投げると、また驚きに顔を変える。鬼人の手。というより、両腕が肘から先が無くなっていたのだ。まるで、鋭利な刃物で、斬り取ったかのように。と、マークは抱きかかえているクレアを下ろし、激痛で叫んでいる鬼人に、ある物を投げた。



「ほら、それお前のだろ?」


「グゥゥゥゥ、キサマァっ⁉︎ キサマガ、オレサマノウデヲォ」



投げられたのは鬼人の両腕だ。一体、何時斬り取ったのか。クレアは次々と変わる光景に呆然としていた。鬼人の後ろに倒れているリゼルは、マークが現れた辺りから安堵の息を吐く。これで安心だ。そう思いリゼルの視界が暗転した。それにクレアは気付き、駆け寄る。



「お、お父さんっ」



近付き容体を確認する。そして息をしていると分かると、ほっと息を吐く。それを横眼で確認したマークは、目の前で怒る鬼人を見た。憤怒の表情で、怒号を上げる。



「ヨクモヨクモッ。オレサマノ、ウデヲォ‼︎ カトウナニンゲンフゼイガァ‼︎」


「そんなのは、如何でも良いから、早く掛かってこい」


「ニンゲンガ、ナメルナァァァァァァ」



例え両腕が無くとも、鬼人は強い。その皮膚は剣すら弾く。だから鬼人は、目の前の人間如きなど容易く殺せると思っていた。一体誰が、自分の両腕を斬り取ったのかを忘れて。凄まじい脚力で、マークに肉薄して鬼人は蹴りを放つ。ヴォウッと暴風を巻き上げて迫る足刀に、危機感もなくマークは見詰める。クレアが叫ぶ声が聞こえる。それにマークは、クレアに向かって笑みを浮かべ、次の瞬間には鬼人の足が切断されていた。



「ア、ガァァァァァァァァッッッ⁉︎」



また訪れた激痛に、叫び声を上げる。片足がなくなり、鬼人はだらしなく前に倒れ込んだ。痛がりながらもマークに視線を向けると、彼は右手を手刀にしたまま鬼人を一瞥していた。彼の足元には鬼人の右足が落ちていた。全く見えなかった。一体、何時攻撃したのか。鬼人には認識出来ずにいた。気付いたら斬られていた。そう思うと恐怖が募っていく。理解が出来ないが故の恐怖。すると、マークは鬼人に向かって歩を進めた。一歩進む度に、鬼人の顔が歪んでいく。



それを遠くから見ていたクレアは驚くしかない。あの村の人達を蹂躙した鬼人を、圧倒している。いや、これは戦いですらないとクレアですら思う。鬼人以上の圧倒的な暴力。そこで何故、リゼルが安全を保障した理由が分かった。恐らくリゼルは、目の前でこの暴力を目の当たりにしたのだろう。そうこうしている内にマークは、恐怖で顔を歪めた鬼人の前に立ち止まった。



「さて、これで終いだな」


「ヒッ⁉︎ マ、マッテクレ⁉︎」



右腕を引くマークに、鬼人は悲鳴を上げる。最早、そこには先程までの威厳はなかった。その鬼人の問いに、彼は笑顔を向けて一言。



「無理」



その一言と共に右拳が振るわれた。鬼人の拳を容易く超えた威力を誇るソレは、腹部に突き刺さり、その次には鬼人の上半身を消し飛ばし、威力を落とさずに後方にある後方にある山を消し去った。そして村の周辺が轟音で鳴り響いた。圧倒的暴力がそこにあった。その出鱈目な光景にクレアは、絶句する。こうして実に呆気なく鬼人との戦いは幕を閉じた。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







夜。寝静まる時間帯にも関わらず、現在アルト村は騒がしくあった。それは村を襲っていた鬼人が居なくなったからである。そんな祭り騒ぎのアルト村の中でマークは、飲み物をチビチビと飲みながら夜空を見上げていた。そこに一人の男性が近付いてくる。



「マークさん。こんな所で主役が、なにをしているんですか?」


「ん? リゼルか。別に少し黄昏てただけだ」



この祭りはマークの為でもある。鬼人を倒してくれた、この村の救世主を祝う祭りだ。それなのに、主役が離れて一人寂しく飲んで居る事に気付き、リゼルは近付いたのだった。因みに、この世界では15歳を越えたら酒を飲める。マークと一緒に飲み交わしていると、クレアが食べ物を運んできた。



「マークさん、お父さんこれを如何ぞ」


「おっ、美味そうだな。クレアはやっぱり料理上手だな」



祭りに出されている料理は、クレアも手伝って作っていた。そして持って来た料理は、クレアが作った物であり、どれも美味しそうだった。それにリゼルは褒めて頭を撫でる。クレアはそれを嬉しそうにして笑顔を浮かべた。その隣では、マークが持って来た料理を口にして舌鼓を打っている。と、クレアが背後にある物を見て呟いた。



「それにしても、如何やって元に戻したんですか?」


「ん? 普通に力を使ってだが」



祭りが始まってから口にする言葉を、マークに言えば返ってくる答えは一緒だ。クレアの視線の先には山があった。そう、鬼人と共に消し飛ばした山が。そして思い出す、鬼人を倒した後の事を。クレアがリゼルを看病する為に、家に連れて行き、看病が終わって外に出ると山が戻っていたのだ。しかも鬼人に壊された物も。それに驚愕して聞けば、マークが直したと言う。その発言に、呆気に取られたのは記憶に新しい。最早、考えるのが馬鹿馬鹿しくなった程だ。



しかし、如何やって直したのかが気になったクレアは、こうして聞いてくるのだが。疑問しかない。そもそも彼の力はなんなのか。そこが気になる。その悩んでいる彼女に、彼はエールを飲みながら苦笑する。まるで、クイズを出されて答えが分からずに悩む子供のようだ。そうしてアルト村の祭りは夜長く続いた。



祭りのどんちゃん騒ぎで、疲れたのか村の人達は寝息を立てていた。そんな時、マークは起き上がった。リゼル達を起こさないように、歩いて彼は村全体を見れる丘に来ていた。アルト村の全貌を見て、笑みを浮かべてマークは手を振り上げる。そしてーーー



「これは本のちょっとの、何でも屋サービスだ」



マークは腕を振り下ろした。瞬間。山の川から村までに水路が出来上がり、そこから枝分かれし村中の家の中にまで繋がる。無かった物が現れた現象。これが彼の力の一端。【全ての事象を反転する能力】。『水路が無い』と言う事象を『水路がある』と言う事象に【反転】したのだ。因みにクレアが答えを出せなかった、山が元通りになった出来事も、この力の所為である。最早、万能に等しき力。マークは、それを気ままに扱った。そしてマークは、明日の為に寝る事にしたのだった。



翌朝。村は騒然としていた。それもそうだろう。一晩で無かった水路が流れていれば、誰だって驚く。その中でこの現象を行った者に気付いた人が居た。リゼルとクレアである。二人は、その人物、マークを探すが見当たらない事に首を傾げるが、やがてある事に思い至り、村の出入り口に走った。すると、案の定、彼はそこに居た。



「もう言ってしまうんだね。マークさん」



出入り口に居る彼の姿にリゼルは、もう行ってしまうと思い口を開いた。それにマークは笑みを浮かべ答える。



「あぁ、俺の依頼はもう終わったしな」



鬼人の討伐がマークの依頼だ。なら、もうここに居る意味はないだろう。そう告げるマークに、クレアは寂しそうな表情を浮かべていた。



「じゃあな」


「待って‼︎ あの水路はマークさんの仕業でしょっ」



別れを告げて背を向ける彼に、クレアは叫んでいた。確かに水路はマークの力によるものだ。しかし、マークはなんの事か分からないといった表情で返した。



「覚えがないな」



その返しの笑みに、クレアは彼がしたのだと納得して、目尻に涙を溜めて言った。



「また、この村に来てくださいね」



その言葉になにも答えず、マークは背を向けてアルト村を後にしたのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







マークはアルト村から離れ、ものの数秒で帝国に戻って来ていた。顔見知りになった門番と話して、帝国の正門を潜り、大通りを抜けて行くと、『何でも屋フリーランサー』と言う看板を掲げている建物の前に着いた。自分の営業している店だ。その店の扉に手を掛けて開ける。扉が開閉されて行き、店の中に入る。相変わらず代わり映えのしない部屋に、戻って来たと実感していたマークだが、二階の方からドタタタタタッと誰かが勢い良く下りてきた。



その人物は、マークを見ると眼を大きく開いていく。マークはなんでもないかのように、手を上げてその人物に口を開いた。



「よ、留守ば「ど」…………ど?」


「何処に行ってたんですかぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ‼︎」



物凄い速度でマークに詰め寄ると、その人物は涙眼で大声を上げた。それにマークはキョトンとした表情をする。



「いや何処って。確か机の上に置いた紙に書いてあっただろ?」


「確かにそうですけど。それでも『村に行って来る』だけじゃ分かりませんよっ」



ずいっと顔を近付けて、マークの書いた紙を眼前に持ってくる。鬼気迫ると言った表情の者にマークは、嗜めようとした。



「まぁまぁ落ち着けよ。コハク。お前は少し疲れてるんだ」


「お、落ち着ける訳ないでしょぉぉぉぉぉぉぉっ」



その人物ーーーコハク・リングスの絶叫が建物の中に響いた。あの後、コハクを落ち着かせたマークは、向かい合う形で座っていた。そしてマークは依頼で、出掛けた所まで話す。すると、納得したのかコハクは肩を落とした。その表情には、疲れが見て取れる。それに気になったマークは聞いていた。



「で? なにがあったんだコハク」


「マークさんが居ない時に、依頼がいっぱい来たんですよ。その中に、王族の物が」


「………王族?」



疲れたようにハハハと笑うコハクに、申し訳ない気持ちになるが、次に言った言葉に首を傾げる。王族。ここの王族と言えば一つだ。アルカディア帝国の王族から来たと言う事である。確かにこの頃、何でも屋が有名になったと自覚はあったが、まさか王族まで依頼を出すとは思わなかった。しかし、王族が出す程の依頼。それはどんなものか。少し疑問に思えば、物凄く気になってしまう。マークは前に居るコハクを見た。白銀に輝く髪が肩までかかり、頭上には狼耳がピコピコと動いている。



瞳の色は透き通る蒼。容姿は美少女と間違える程の中性的な顔をしている少年だ。立ち上がりそのコハクに向かって、マークは言い放った。



「それじゃ行くぞ」


「………え? 行くって何処にですか?」


「ん? 王城」



その言葉に体を硬直させる。コハクは眼を数秒間、瞬かせる。しかし、なんだかんだで彼との付き合いが長いコハクは、そう言う事を言ってくると分かっていたのか、半ば諦めたため息を付いた。面倒くさい事は嫌いなのに、こういう何かありそうな依頼は受けたがるのだ。



「はぁ、分かりました」



そう言ってコハクは、出掛ける支度を始めるのだった。










戦闘が一瞬で終わってしまった………

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