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人外達の歩み  作者: 葛城 大河
第一章 放浪編
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第一話 新たな世界

やっと第一話を投稿出来た‼︎ 放浪編は一話毎に三人の主人公が変わります。

広野。見渡す限りなにもない広野に、一本の線が入り徐々に開いていき、裂け目が出来上がる。そこから、スタッと人影が現れた。175㎝ぐらいの身長に、黒髪黒眼で、同じく黒い服を着た青年だ。彼の名前は、南波裕二なんばゆうじと言う。彼は訪れた見知らぬ土地を、見回した。そこには、草原があり自然の豊かさがあった。心地いい風が、裕二の頬を撫で空気を吸って息を吐いた。



「さぁて、ここは一体どんな世界なんだろうな」



口角を吊り上げて、裕二は降り立った右も左も分からない世界に楽しみが止まらないでいる。なにが待っているのか? どんな物があるのか? 考えただけで興奮してくる。が、すぐに冷静になり、改めて辺りを見渡した。



「といっても、ここは何処だ?」



初めて来た土地というより、世界の所為でここが何処なのか分からない。視界の先には、広い草原が広がっているだけ。だがそんなのは、関係ないと結論に至り裕二は、とりあえず街が見つかるまで、歩く事に決めた。地平線まで続く、草原を進んでいく。初めて来た世界だが、裕二は確かにここが異世界だと確信していた。まず、太陽が空に二つある事。これで、自分が居た世界とは、違うと判断できる。そして、裕二の前に居る、人の倍近くある巨躯の狼だ。



黒い毛皮に赤い瞳。ナイフのような鋭利に尖った犬歯。口からは、涎が溢れている。間違いなく裕二が居た世界の狼と明らかに品種が違う。その裕二よりも大きな狼が、敵対心を露わにして此方を威嚇していた。



「はは、何時振りだろうな? 敵対して来る奴が、現れたの」



あの世界じゃ、誰も自分に戦いを、目の前に立つ事すらしなかった。裕二が威圧を放てば、この狼も恐れて逃げ出す事だろう。それでも久し振りの事に嬉しかった。黒狼は、その牙で裕二に襲いかかった。俊足と言える速度で、疾走して顎を開いた。



「グルッ!?」



が、黒狼は次の瞬間、驚いた風に唸った。裕二の右腕に、牙が突き立てられている。なのに関わらず、黒狼は肉を引き千切れない。何度も噛み付き、顎に力を込める。だが、全くと言って牙が食い込まない。まるで岩だ。黒狼はそんな事を胸中で連想させた。もしかしたら、自分はとんでもない奴を襲ったのではないか。



「はははっ。そんなに戯れんなよ」



戯れてるつもりはないが、裕二の右腕に噛み付いて必死に唸ってる様は、裕二からして見れば、戯れているようにしか見えない。けど、これはなんだかんだで戦闘だ。裕二は、右腕に噛み付いている狼を見て少し驚かせる程度の威圧を放った。



「―――ッッ!? キャウンッ‼」


「……………」



だが驚かせる程度と言っても、それは裕二にとってはだ。黒狼にとっては、その威圧は凄く恐ろしいもので、自分の首に死神の鎌が添えられている想像をしてしまう。物理的に攻撃すら出来るんじゃないかと言う程の威圧感に耐え切れず黒狼は、情けない声を上げて尻尾を巻いて逃げ出した。戦うと思っていた裕二は、逃げられるとは思わずポツン、とその場に立っていた。ヒュ~と横から風が吹いた。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







黒狼から逃げられた裕二は、気を取り直して先に進む事にした。別に悲しんでなどいない‼ 肩を落としながら、歩いて行くと視線の先に街が見えた。



「おっ‼ 異世界初の街だ」



裕二は、異世界に来て初めての街に喜ぶと、早く着く為に地面を蹴った。瞬間。地面が踏み砕かれ、一歩目でパァァァン‼ と音の壁を簡単に突き破り速度を上げて光速・・で移動した。街が見えたとしても、それは彼の異常なまでの出鱈目な視力によるものだ。本当なら、もっと遠くにある。早く着きたがったが故に、彼は急ぐ事にした。……急ぎ過ぎだと思いもするが。



「なんだ? なんか全然、元気がないな」



街に着いた裕二だが、肝心の街は店すら開いておらず、歩いて居る住人は生気の欠片もない眼をして、俯いている。折角の異世界初の街なのに、裕二はガッカリした。見てみると、街の至る所に震えている者や、痩せ細って爪を噛んでいる者などしかいない。果てには、死体らしき物が所々に転がっている。これは如何なってんだ? 流石にこの凄惨な光景に、首を傾げた。気になった裕二は、近くに居た住人に聞く事にした。



「なぁ、これは一体なにがあったんだ」


「……………」



裕二の言葉に反応せず、虚ろな瞳で前の空間を見ているだけだ。こりゃ駄目だ、と思い彼は、これは仕方ないが街から離れる事にした。街の門から出て、裕二は移動しようとした。と、そこで良く考えれば、この世界の情報を知らない。ならまず、最初に情報を集める事から始めようと思った。この世界の住人から聞ければよかったのだが、最初の住人が、あぁでは聞きたくても聞けない。後ろを振り向き裕二は、街に漂う嫌な空気に眉を寄せる。そして、溜息をついて彼は右手を街の方向に向けて振るった。瞬間―――街全体に、暖かな光が覆った。その光は、全ての生命を甦らせる再生の力。その光に触れた住人達は全身の怪我が治り、壊れた心が直り、痩せ細った体が元通りになる。



突如、起こった奇跡の出来事に、街の住人達は呆然とした。だが束の間、彼は喜んだ。この街は、本当にギリギリだった。食料がなく、空腹で餓死する者や、精神が逝かれた者まで続出した程だ。なのに、精神が逝かれた者は正常に戻り、しかもあり得ない事に、数日前に死んだ者が蘇ったのだ。そのあり得ない現実に彼等は理解出来なかった。ただ分かっている事は、自分達が助かった事である。それが分かると無性に喜んでしまう。その光景に、裕二は笑った。別に裕二はお人好しではない。善悪問わずに娯楽の為なら彼はなんでもする。それが人殺しであろうと関係なかった。



だからこそ、街の住人を治したのは、同情したからでは断じてない。これで、ここの住人に、この世界の情報が聞ける。それが裕二の思いだ。態々、別の街に行くのが面倒くさかった。目の前に人が居るのに、何故? 別の街に行かなければいけないのか。なら、この街の住人を正気に戻して聞けば、良いと思ったから彼は力を使ったのだ。まぁ、一人治すも全員治すも、対して変わらなかったから全ての住人達を治した訳だが。門の前に出ていた裕二は、街の中に戻る事にした。入ると、周りの人達が自分の変化に、戸惑いながらも隣に居る人と抱き合っていた。



「なぁ、ちょっと聞いていいか」


「ん? なんだい? 今は機嫌が良いから、なんでも答えるよ‼」



それは重畳と近くに居た男性に、裕二は笑う。治したかいがあったと言うものだ。ならば、なんでも聞こうではないか、と裕二は男性に聞いた。



「まず、この世界の事を聞きたい」


「……? 別に良いけど、なにを聞きたいんだい」



裕二のこの世界・・・・と言う言葉に、男性は訝しむがすぐに戻し笑顔で尋ねた。顎に手を当てて裕二は、なにを聞くかを考えた。



「んじゃ、この世界の名前は」


「へ? えっと【魔法世界アルディア】だよ」


「へぇ、【魔法世界アルディア】ね」



なんでそんな事も知らないんだ? と言うような男性の表情を無視して、裕二は世界の名前を口にした。世界の名前よりも、魔法と言う言葉に興味があった。魔法。幾つも不思議な現象を起こす術。裕二の居た世界にはなかった技術だ。そんなまだ見ぬ魔法に裕二は高ぶった。男性が首を傾げている事に気づき、裕二は幾らか聞いた。魔法とはなんなのか? この世界に人間以外の種族が居るのか? 金の通貨はなにか? などなど裕二は男性に休まず聞いた。如何やら男性は、物知りらしく裕二の質問に間を開けず返してきた。そこで情報を整理すると魔法には普通の火、水、風、土、雷の五大属性があり、光、闇、氷、空間などの特殊属性があるらしい。種族も人間族、魔人族、獣人族、妖精族、精霊族が居るみたいだ。魔人族が住む魔界には、四人の魔王が存在しており、魔界の派遣を争っているとか。金の通貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨と値段が上がっていく。と、そこまで頷きながら情報を確認した。



「成る程な。良く分かった、あんた説明が上手いな」


「はは、そんな事ないよ」


「そうか? ま、それよりも、この街がさっきみたいな状態になったのは、魔人族の所為か」



知らない事を聞いた時の返しが上手かったから、裕二は男性を褒めたが謙虚に言われた。そんな事はないだろ、と呟き裕二は種族の説明をしていた男性の話を思い出した。なんでも街が、あんな風になったのは、数日前に魔人族が急襲して来た所為らしい。いきなり現れた魔人族達は、街を壊し何人もの人間を蹂躙して去って行ったとか。その際、食料なども魔人族の力によって、大半がなくなったとか。その所為で住人達は餓死していったのだ。今では裕二の力で、壊れた建物や死んだ人間が生き返ったが。



「大体、この世界の情報が分かったわ。助かった」


「別に良いさ‼ さっきも言ったけど、僕は今、気分が良いからね」


「ふ~ん。まぁそれは良いけどな。それよりもあんた等、食料とかあんのか?」


「……うっ!?」



眼を輝かせている男性に、無粋だと思うも裕二は聞いた。それに男性は、全身を硬直させた。ある訳がない。あったら彼等が、餓死寸前になる筈がない。知ったいて尚、裕二は言った。例えここで喜んでも、行き着く結果は同じ悲劇。喜んでいる場合じゃない。男性もその事に気づいたのか、顔を蒼白にしている。他の街に行けば良いのだが、食料もないのに、ここから数日もかかる街になど行ける筈がない。そんな男性を見て、裕二は苦笑した。



「しょうがねぇなぁ。これは情報料だ」


「えっ?」



裕二の言った言葉に男性は、意味が理解出来ずに見ていたが、次の光景に、素っ頓狂な声を上げた。彼が左手を横に突き出すと、次の瞬間。ドサドサドサ‼ と重量がある物が落ちて来た。その落ちて来た物に、男性は眼がこれでもかと言う程に見開いた。生肉、野菜、飲み物などなど数千トン程、なにもない所から現れた。無から有を生み出す。これが裕二の力の一端。【全ての万物を創造する能力】だ。二度目の信じられない光景を、目の当たりにして男性はバッ‼ と裕二の方に振り向く。笑みを浮かべる裕二を見て、男性は理解した。さっきの死んだ人間を生き返らせ、痩せ細った体を戻した現象は、目の前の人物がやったのだと。確証はないが、彼がやったのだと確信した。呆然と見ている男性に対して、裕二は用がなくなったという風に背中を見せて、門の外に歩いて行った。



「…………神様」



そんな後ろ姿に、男性はそうポツリと言葉を零した。



「ハックションッ。誰か俺の噂話でもしてんのか?」



男性に神認定されたとは気づかず、裕二は門の外に出て、クシャミをして鼻を啜る。情報を手に入れた裕二は、次は何処かに行くか悩むが、情報をくれた男性が言うには、南の方向に王都があるらしい。なら、そこに行くかと思った彼は、光速で移動せずゆっくりと歩き出した。



「やっぱ、徒歩は旅の醍醐味だろ」



そう言って腕を伸ばし裕二は前に進んで行った。王都に行ったら、まずはなにをするか。裕二は、そんな事を思う。金がないから稼ぐのも良い。こんな世界だ。ゲームのように冒険者ギルドもあるだろう。例え【創造】の力を持っていても、実物を知らなければ創る事は出来ない。逆に言えば、知っていれば好きなだけ創れるが。あの街には、食料だけではなく金すらなかった。だからこの世界の金を、裕二は【創造】出来ない。まぁ、なんでも【創造】で解決するのもつまらないから、裕二はそれで良かったと思っている。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







裕二が街から出て、早くも数時間が経った頃、裕二は偶然に通りかかった行商人と出会っていた。話を聞けば、行商人は王都の近くにある街に行くらしく、裕二はそこに同乗しても構わないかと、尋ねたところ了承を得た。そして今、裕二は馬車に揺らされながら、行商人と会話をしていた。



「乗せてくれて助かったわ」


「いえいえ、こちらとしては、その間の護衛を任せると言う事なので、安心ですよ」



ふくよかな体つきをしている、行商人は笑みを浮かべる。同乗する条件として、裕二は街に行くまでの道のり、行商人の護衛を頼まれたのだ。護衛程度の事など、造作もないので彼は簡単に受けた。



「それで? 一体どのようなご用件で王都に」


「ん~、ちょっと冒険者になろうかと」


「冒険者にですか。なら、頑張って下さい。なんでも王都で、冒険者になるには厳しい試験があるみたいなので」


「ほぉ、そうなのか。それは良い事を聞いたな」



馬車が走っている中、冒険者の事を聞いて、裕二は興味が湧いた。厳しい試験。一体どんな試験なのだろう。行商人とは、有意義な会話だった。流石は旅をしながら、物を売っているだけの事はある。



そして、馬車で移動する事、なにも起きずに三日が経った。その時、行商人が横で寝ている裕二に声をかけた。



「ユウジさん。街が見えて来ましたよ」


「おっ? ほんとか」



むくりと上体を起こし裕二は、行商人の視線の先を見た。裕二の視線に街が映る。距離は凡そ百メートルくらいだ。あの最初に着いた街よりも少し大きく、外からでも賑やかな音が聞こえてくる。裕二達が乗る馬車が街の門の前に居る、甲冑を着た兵士の前に止まる。入場手続きをしなければ行けないらしい。



「この街に来た目的は?」


「私は商人ですから、売りに来たんですよ」


「そうか……。因みに、なにを販売してるんだ」


「家庭で使う道具や、回復薬などです」


「……ふむ、分かった。入場料は一人銀貨二枚だ」



一通りの確認を終えると、行商人は兵士に銀貨を丁度渡した。因みに裕二の分は行商人に払って貰った。兵士は道を開けて、馬車を通らせる。



「ほぉ、賑やかだな」



門の中に入ると、色んな店が開いており、活気づいていた。街とは、こうでなくてはと裕二は思う。興味津々に眺めている裕二に行商人は、では、と言った。



「ユウジさん、私は商売を始めたいと思いますので、これで失礼します」


「ん、あぁ分かった。と、銀貨二枚分返すから、何処で商売をするか教えてくれ」


「銀貨二枚くらい別に良いのですが。まぁ、良いでしょう。私はとりあえず広場の方でやろうと思います」


「そうか。なら、金を手に入れたら、すぐに返しに行くわ」



そう言って裕二は行商人から離れて行った。とりあず離れた裕二は、金を稼ぐ為に外に居る魔物を倒して素材を売る事にした。この世界では、冒険者でなくとも討伐した魔物の素材が売れる。まぁ、冒険者の方が依頼人が居る為、貰える金が高い。住民の話で、魔物がよく出ると言う街の外れにある荒野に裕二は来ていた。なんでも、数日前からこの荒野から変な音が聞こえるとか。



「しっかし、なにもない所だなここは」



裕二の言う通り、ここは草木が全く生えておらず、まるでここだけ別の空間のようだ。そんな感想を抱きながら歩いていると、裕二は立ち止まった。不思議な圧迫感が裕二を突然に襲う。彼にとっては些細な程、小さな物に過ぎない。如何やら街の住人が言っていたのは本当のようだ。この荒野には何かが居る。裕二は感じ取った圧迫感をした方向に進んだ。進んで行くに連れ、異音が耳に聞こえ始める。その異音はグチュグチュやブチブチなど何かが貪る音だ。



「おっ、なんか凄い奴が出て来たな……」



そして裕二の眼に異形が映った。人のようで、人ではない。化け物以上に化け物。それが、今、目の前に居る化け物の感想だ。だが、その化け物に分かりやすい表現をするのならそれは、



「――――人のなり損ないだな・・・・・・・・・



人のなり損ない。裕二は目の前の化け物を、そう表現する。そして異形は目の前の裕二の存在に気づき、咆哮を上げた。それは余りにも荒々しく、だがそれでいて、泣いてるようにも見えた。裕二が、その姿に疑問を抱いて居ると、次の瞬間、異形は動き出した。地面を踏み砕き、異形は疾走する。丸太のような太い腕で裕二めがけて薙ぎ払った。暴風を巻き起こし、右腕が衝突し破砕音が鳴った。本来、普通の人間なら今の一撃で確実に死んだだろう。だが、生憎、裕二は普通ではなかった。



「………?」



右腕を突き出した状態のまま、異形は首を傾げた。目の前に自分が殴った筈の男が、平然と腹で右腕を受け止めて立っていた。ここに居た魔物達は等しく、異形の一撃で死んだ。なのに、この人間は生きている。それどころか、全く傷がついていなかった。異形は疑問を抱いていると、側頭部から強い衝撃が襲った。全身を揺さぶるソレは、異形を軽く横に吹き飛ばす。



「グガァ………⁉︎」


「行き成りなにすんだ」



すぐに立ち上がり異形は、前を向くと、そこには裕二が頭を掻いて立っていた。何をされたのか分からない異形は、困惑するが、何かをした相手が目の前の人物だと決めて、雄叫びを上げて跳び上がる。それに裕二は、自然体の状態から右腕を振るった。瞬間―――大気が振動した。



「ガァァァァッッ⁉︎」



そして異形めがけて、凄まじい衝撃波が直撃した。その一撃に異形の体が、一瞬にしてボロボロに成り果て、苦痛の叫びを放つ。ただただ邪魔な虫を払うかのような軽い動作で、引き起こされた現象。それを行ったのは紛れもない裕二だ。さっき異形を横に吹き飛ばしたのも、ただ軽く側頭部をはたいたに過ぎない。裕二にとって、異形は敵にすらなれなかった。だが、それでも自分を相手に襲って来た事に彼は嬉しかった。改めて異形の姿を見る。裕二によってボロボロになった体が、治っていく。その光景を黙って眺めた。―――面白い。彼は口角を吊り上げて笑った。



「グルアァァァァァァァァァァァァァッッッ⁉︎」



異形は怒号を放ち、両足で地面を強く掴む。そして全身から、どす黒い靄を放出する。それを裕二は、まるで玩具を買って貰える子供のように眼を輝かせた。何が出て来るのか。ワクワクと楽しみが止まらない。靄は異形の体に纏わり付いて行き、鎧のようになった。漆黒の鎧を纏った異形は、両腕を開き雄叫びを上げる。その叫びによって空気が震えた。



「……へぇ」



その変貌を目の前で見ていた裕二は感心した。一目で分かる。異形は強くなったと。恐らくアレは色々な事を学び強くなるのだろう。そう言う性質を持っている。れば戦るだけ弱点を無くし、防御力が増し、攻撃力が増大する。それこそ無限のように。それを思うと彼は笑いが込み上げて来る。何故、そのような怪物がここに居るのかは分からない。突然変異かも知れない。だが、そんな事は裕二には関係ない。こんな面白い物を眼にして、彼が引く訳がない。



「さぁ来い、なり損ない」


「GAAAAAAAAAAAAAAA―――――――――――ッッッ」



先程とは打って変わって、前にある物は粉砕させるかの如く地面を踏みしめて走る。障害物は砕き破壊する。さっきと違って異形は凄まじい程に強くなった。それはもう進化とさえ言える。といっても裕二は、それが如何した、と思った。眼前に迫る黒い砲弾を見据え、裕二は右腕をゆっくりと曲げて後ろに引いていく。そしてピタっと右腕を止めた。その態勢はあたかも「今から前を殴るぞ」と言ってるように見えた。異形は関係ないと言わんばかりに、対象ゆうじを踏み砕く為に駆け抜ける。そして遂に黒と黒が激突した。瞬間――――異形とその背にある・・・・・・・・・大地が消し飛んだ・・・・・・・・。比喩ではない。確かに裕二の放ったその右腕が、全てを消し飛ばした。ただ軽い動作で放ったにも関わらず、その威力は絶大だ。しかも驚くべきは、この力さえも裕二は物凄く・・・手加減したと言う事だ・・・・・・・・・・



その気になれば裕二は軽い動作で、世界すら完全に破壊できる。正しく人外。人の枠から外れた存在。



「ん~呆気なかったな」



突き出した右腕を戻し顎に添えて呟く。あの異形は耐久力も格段に上がっていた筈だ。それなのに今の一撃は耐えられなかったのか。物凄く手加減したというのに。裕二は興奮が冷めガックリと肩を落とす。これならもっと楽しめば良かったと、今更ながら後悔した。前を改めて見ると、大地が消えていた。その光景に頭を抱える。なんでもっと手加減しなかったと。折角の楽しめた相手だったが故に、裕二は項垂れる。が、それも束の間、裕二は気を取り直して、街に帰ろうと足を進めようとした時。後ろから何者かが降り立った。



「如何なってんだこりゃ? 『変わり果てた怪物グリードモンスター』を回収に来たら、何で大地が無くなってんだ………?」



降り立った人物は、目の前の光景に唖然するしかない。一体何が起きたら、こうなるのだろう。裕二もその人物を見据え眼を丸くしていた。背中から二枚の黒翼を生やし、額からは捩れた角が二本生えている。姿形は人だが、しかしその外見は全く異なっている。魔人族。街の男性が言っていた情報を照らし合わせ、彼がそうなのだろうと確信した。初めて見る人間以外の種族に、裕二は眼を輝かせるが、魔人の男は裕二に気付かず何かを探していた。十中八九あの異形だろう。証拠は無いが裕二は何故か、そう思った。異形をこの世から消し飛ばした張本人の彼は、もう居ない存在を探す魔人に申し訳ない思いを抱き話し掛けた。



「………なぁ」


「あぁん? 何で人間が、こんな所に居るんだァ」



眼に嘲笑の色を込めて、魔人は問い掛けた。その明らかな蔑みの視線に、彼は苦笑する。彼の笑みに魔人は、馬鹿にされたと勘違いをして睨み付けた。その反応に、まるで子供だなと笑った。



「貴様、この至高なる種族の俺を笑うなど、脆弱な人間風情が嘗めるなよ」


「成程。そう言うことか」



目の前の魔人の言葉に、さっきの視線の理由を理解した。彼、いや恐らく彼等魔人族は、自分以外の種族を甘く見ているのだ。それを理解した裕二は尚更笑った。それを見た魔人は、苛立ちを隠さずに事葉を放つ。



「笑うのを止めろ人間ッ!!」


「あぁ、悪い悪い。悪気はねぇんだ。ただお前を見てたら、背伸びをした子供にしか見えなかったから、つい笑っちまった」



そう言って悪気なく笑い続ける彼に、魔人は全身から魔力を放出させた。行き成りの事に裕二は、笑いを止め放出する魔力を見る。脳裏に魔法と言う単語が流れ、期待した眼差しを向ける。人間を超えた魔力量を放ち、魔人は眼前に魔法陣を展開させた。円が出来上がり、その中には複雑な術式が組み上げられていく。それを裕二は興味深そうな眼で観察していた。そしてその魔法が完成して、魔人は無詠唱で魔法名だけを叫んだ。



「燃えろ『クリムゾンバースト』」



炎魔法の最上級魔法に位置する火炎が、轟々と空気すら燃やし尽くす勢いで、裕二に迫る。その火炎に対して裕二は、無造作に片手で握り潰した。



「なっ………⁉︎」



今起きた出来事に魔人は絶句した。最上級魔法は古代魔法や神代魔法を除けば、魔法の中で最高位だ。そんな魔法を、当たり前のように前に居る人間は握り潰した。本来、人間が耐えられる筈がない熱量だった。なのに、結果は熱さなど感じてる様子がまるで無い。そんな未知な存在に、魔人は警戒心を高める。そして魔人は、蔑みの相手から明確な敵として認識して、裕二に尋ねた。



「―――お前は何者だ人間」



その質問は、何処の世界でも一緒だ。少し力を見せるだけで、警戒し誰もが同じ事を聞く。裕二はウンザリするくらいその言葉を聴いた。だからこそ、何時も通りに両手を広げ彼は、質問を投げかけた眼前の魔人を見据え、



「俺はただの娯楽好きな―――人外だ」



事も無げに言い放った。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「………人外?」



魔人は裕二の言った言葉を小さく呟いた。人外。何だ目の前の存在は人間では無かったのか。いや、人間では無いと言われ、魔人は納得した。魔法で身体能力を強化せずに、最上級魔法を握り潰すなど不可能に近い。それを前に居る者は簡単にやってのけた。それが信じられない。だが、人間ではないと分かれば納得してしまう。では一体、なんの種族なのか? 魔人は困惑する。魔人の知っている種族で、最上級魔法を魔法を使わずに握り潰す種族など知らない。自分たちの頂点たち・・・・である魔王や、妖精族と精霊族の精霊王たちなら可能だろうが、しかし目の前の人物は同族でも無ければ、妖精族や精霊族でも無い。そもそも魔人族の証拠である、角や翼、何よりも魔力が違う。妖精族と精霊族も同じ理由で違う。



益々、分からなくなった裕二の種族に魔人は頭を悩ましていると、裕二は魔人に、ここに居た異形の事を聞いた。



「なぁ、お前が探してたのって、ここに居た異形か?」


「……!? 『変わり果てた怪物グリードモンスター)』を知っているのか」



裕二の事を考察していた魔人だったが、裕二の一言に考えを隅に置いた。裕二の言った異形は確かに、探していた。何故なら、その異形をこの荒野に放ったのは、他でもないこの魔人だ。あの異形は魔人たちが作った兵器だった。生まれた当初は、弱かったが、異形は戦えば戦うほど強くなっていった。それは進化とさえ言える程の凄まじい成長速度だ。だからこそ、魔人は魔物が多く居るこの荒野に放ったのだ。目論見通り、この付近に居た魔物たちは異形によって喰らい尽くされたのだから。だが、裕二が『変わり果てた怪物グリードモンスター』を知っていると言われ、嫌な予感がした。そして魔人の予感は的中した。



「悪いな。その異形なら俺が、消し飛ばしちまった」


「なんだと………!?」



魔人は眼を見開いた。予想していた事が当たった事に、頭を抱える。運が悪い。まさか、異形を放った場所に、こんな存在が居るなど誰が予想出来るだろうか。折角の新たな魔人族の戦力を潰された事に、憤るがまた作れば良いと思い、裕二に視線を向ける。恐らくこの人物は、魔王様の障害になるだろう。ここで何とかして殺したい所、と魔人は考えた。幾ら最上級魔法を楽に潰せたとしても、当たりさえすれば殺せるだろうと魔人は推測する。そして魔人は間違えた。



「死ねっ!! 『グラウンドランス』」



地面に魔法陣を構成して最上級土魔法を放った。裕二の足場が盛り上がり、地面が土の槍を何十も形成して下から裕二めがけて突き進んでいった。裕二は動いていない。魔人は勝利を確信して笑みを浮かべた。魔人は失敗した。この時、魔人は戦わずに逃げれば良かったのだ。裕二を如何倒せばいいかなどと言う馬鹿な事を・・・・・考えなければ良かった。そもそも何故、見ても居ないのに最上級魔法如き・・の魔法の攻撃で殺せると思ったのか。



「なっ………!?」



魔人は驚愕した。突き進んだ土の槍が、裕二の体に接触した瞬間―――全ての土の槍が一斉に砕け散った。土の槍が当たったにも関わらず、裕二の体に傷らしい傷が付いていない。呆然としながら、それを見た魔人は理解した。戦うべきではなかったと。死ぬ気で逃げた方が、より生き残る可能性があった。眼を見開いている魔人に対して裕二は笑う。その笑みに魔人は、さっきのような怒声が言えない。言える訳が無い。



「攻撃したって事は、俺の敵で良いんだよな」


「あ……うっ……」



裕二の全身から圧倒的なまでの重圧が放たれた。それに魔人は汗を噴出させ、後ろに下がった。これで本当の意味で魔人は、どんな存在と相対したのか気付いた。裕二から発せられる威圧は、遠くに居た魔物すら怯えさせた。



(こ、こんな化け物に勝てる訳が無かった!? 例え魔王様でも…………!?)



そして魔人の意識が、そこで暗転した。理由は明白だ。裕二が光速で肉薄して、右腕を振るったからだ。異形に攻撃したのよりも弱く振るったのだが、魔人を倒すのにそれで十分だった。振るわれた右腕の衝撃で辺りの岩が瓦解した。



「………呆気なさすぎだろ」



そして又もやたった一撃で終わらせた裕二は、肩を落として街に帰るのだった。












まるで、ワンパンマンだ。

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