鬼ごっこ
――昔から、鬼ごっこをする夢ばかり見てきた。
鬼ごっこと聞くとほのぼのした響きのように思えるが、それは間違いだ。
夢の中のルールでは、
捕まった者は喰われる
ということになっていたから。
まあ、実際そうなったことはないのだけれど。夢なんてそんなものだ。
しかし、全速力で走り回るせいか、起きた瞬間からぐったりする。
体というより脳が疲れているのだろう。
「で? いったい誰と“鬼ごっこ”してるわけ?」
僕の部屋のベッドに陣取り、君は呆れたような声を出した。
窓から差し込む西日が白い肌を照らしている。
「それは……いつもよく見えないんだ。周りが暗くて」
「ふうん」
気のなさそうな声。
話が終わりなら、ゲームでもしようか。
そう思って僕がテレビの前に立つと、君は不意にこんなことを言った。
「ねえ、夢の内容ってけっこう覚えてるものなの?」
虚を突かれた。
今まであまり考えたことがなかったからだ。
「……わりと、覚えてると思うけど。それに、毎回同じ夢だし」
「そうなんだ。あたし、ほとんど夢って見ないんだけど、忘れてるだけなのかなぁ」
「たぶんね」
据置のゲーム機にディスクを入れ、電源をオンにする。
一瞬、真っ黒になった画面に、僕の顔が映り込んだ。
「夢って、誰でも見てるらしいから。たぶん君も見てるんだよ」
「そっかぁ。どんな夢なんだろ」
「まあ、覚えてないならいい夢だってことにしとけば?」
見慣れたロゴが現れ、低い旋律が流れ出す。
僕はコントローラーを構え直し、スタートボタンを押した。
今日はやらないつもりだったけど、せっかくだから。
「ねえ、何のゲーム?」
彼女は僕の隣に腰を下ろした。
「あたし、あんまり詳しくないんだけど。一緒にできるかな?」
「もちろんだよ」
僕は愛想良く答える。
君をほっとくわけないじゃないか。
「だって、鬼ごっこは一人じゃできないだろ?」
始まりの合図は、軽やかな電子音。
瞬く間に周囲が闇に染まっていく。
君の驚いたような表情がたまらなく愛おしい。
ああ、言い忘れていたね。
僕は昨日、またあの夢を見たんだ。
そのとき初めて相手の顔がはっきりと見えた。
間違いなく、君だったよ。
それと、もう一つ。
僕が、鬼なんだ。
やっと夢が叶う。
さあ、逃げて。早く早く。
恐怖に引きつった顔で、どこまでも逃げて。
捕まったら、喰われちゃうよ。
読んでいただいてありがとうございます!
初投稿作品です。
何も考えずに書いてしまった……。