旅の夜
おはようございます。夏玉 尚です。
少し間が空きましたがどうぞ。
リリンッ リリリンッ!
目覚ましのベルの音で俺たちはベッドから起き上がる。
それぞれのベッドの上で身支度を整え、宿を出る。
「朝飯、どうする?」
「まだ燻製肉が残ってるだろ?それと乾燥させた果物もあったはずだ。」
俺はふくろから燻製肉二つと果物二つを取り出して、それを朝食として食べた。
「朝から肉ってのもなんだかなぁ。」
「俺達は王守護騎士でもないんだ、文句言うな。」
「わかってるさ。」
そんな会話をしながらいつも通りガレッドと道に沿って進みだす。
「昨日な、城の兵士から聞いたんだが、最近魔王が現れたらしいんだ。」
ガレッドが歩きながらそう語る。
「どこに?」
魔王、いずれ倒さなければならない敵かもしれない。地下のような魔王なら楽なものの、この世界の敵を見るからに簡単には行きそうにない。
「どこに、じゃない。この世界に、魔王が生まれたんだ。」
「生まれた・・・」
「あぁ。魔王ってのは史実によると幾千もの魔物の中から生まれるらしい。それが魔物同士が融合して生まれるのか、それとも偶然強大な力を持ったものが生まれるのかはわからないが。」
「じゃあ今までは平和だったんだな。」
「そんなこともない。ハーバーランドで見ただろうがこの世界には魔族もいる。今までは魔族たちと争っていたんだ。」
「じゃあ、敵が増えるわけか。」
「そうでもない。魔族と魔物達も俺達の見えない所で争っている。今まで魔物が劣勢だったんだがな。」
「じゃあ三つ巴か。」
「そういうことになるな。とりあえず魔王が現れたということは時が動きだすということだ。進みだした時間は止まらない、いずれ俺達人間も戦う日が来るだろう。」
「そうか。」
相変わらずガレッドは話ながらも進む速度を変えない。
汗が一筋流れてふと空を見上げると、陽が登り始めている。
周りは緑一色で唯一俺達の歩く道だけが土の色をしている。
今日は風が吹いていない。だから頬を伝う汗も顎から滴る。そして辺り一面に生えている背の低い草も揺れていない。
なのに一ヶ所草が揺れた。
反射で剣を抜く。ガレッドもいつの間に作ったのか俺の剣の何倍もある。言うならば俺の身長くらいある丈の大剣を取り出した。
どこから?そう思うかもしれないが本当にどこからかわからない。だけど不自然なところはなかった。とうとう暑さで頭がダメになったか。
オリハルコンの刃を煌めかせ、草むらに向けて切っ先を向ける。
どんどん草が揺れるのが近くなってくる。
「来るぞ!」
ほぼ声と同時に一匹のオークが槍を投げる構えで飛びかかってきた。
俺は飛んでくるオークの額に沿って剣を降り下ろす。
キィンッ!
オークは槍で俺の剣を弾く。だがオークの代わりに槍が真っ二つに折れた。
「グオッ!ヌガァァ!!」
オークは拳を構える。どうやら素手で戦うようだ。
『三倍段』
得物を持っている相手に対して素手で勝利するためには相手より三倍強くなければならない。
オークは太く、獣毛の生えた腕で殴りかかってきた。
腹を切り裂こうと俺は剣を繰り出したが、肝心の腹が見当たらなかった。
ズズ・・ン・・・
今のは上半身が地面に落ちる音である。下半身の方は槍が折れた位置にまだ立っている。
「なかなかいいな、この剣。」
「ガレッド!」
ガレッドは大剣をブンブンと振り回してオークの血を除けると、地面に刺した。
「いやー重いけど切れ味は抜群だな。」
「その剣も瑠璃鉱か?」
刃の部分に紫色の水晶らしき物が散りばめられていた。
「そうそう。瑠璃鉱は優れた石でな、本当は刃にも刀身にも使えるんだ。でもお前の剣は瑠璃鉱より良い石が使われてたから柄の部分にしか使えなかったんだ。」
「凄いな・・・!。」
「だろ?これで俺も戦力になれるぜ。」
「そうだな、心強い。」
「よっ・・と!」
ガレッドは大剣を納める。どこに戻したのかもわからないが、不自然なところは全くなかった。ごく自然に剣を片付けたように見えた。
「剣、どこに片付けたんだ?」
「え?あぁ、あぁ。」
ガレッドは誤魔化して歩き出す。
「剣、どこに片付けたんだ??」
俺はもう一度聞いてみる。
「まぁ普通に、だな。」
俺は盾を構えてみる。盾で殴っても死にはしないがとても痛い、と思う。鉄よりも硬いガラッド石で人を殴ることになるのは命名者ガレッドが初になるだろう。
「ガラッド石の盾で、ガレッドを殴る・・・か。」
「わかった!わかったから!だから下ろせ下ろせ!」
俺は盾を再び背に担ぐ。
「このふくろだよ!このふくろは数が制限されていて規定数以上は入らないけど大きさ、重さは関係ないだろ?その仕組みを利用した鞘を作ったんだよ!」
そう言いながら一振りの剣を鍛冶箱から出してきた。
その剣は至って普通の剣で、前に俺が使っていたガレッドの剣と何ら変わらない。
「いくぞ、見てろよ。」
そう言いながら剣を抜くと、鞘よりは数倍巨大な剣が姿を表した。それは先程ガレッドの使っていた大剣だった。
「すごいだろ?」
「あぁ。だけど何で隠してたんだ?」
「後々言って驚かせるつもりだった・・・。」
「そうか。」
「お前の反応はいつも薄いから面白くないんだよなぁ。」
「悪かったな。」
歩きながら、ガレッドは鞘に大剣を納めた。
それからいくつかの森を抜け、山を越える時には既に日が暮れかけていた。
「ここら辺で今日は寝るか。」
「そうだな。」
俺達はいつも通り、荷物を二つ枕として草原の上に置く。
この枕の中に固いものが入っていると寝るときに痛い。だからあらかじめ固いものは外に出しておく。
固いものといえば金で、最近は貯まっているので、重い上に大きい。
寝具の準備をした後は、焚き火を作る。二人で薪を拾い、魔法で火を着けると完成だ。
それらの作業を終えると、俺達は焚き火を囲んで座る。
食事はシルマの道具屋で買ったパンと肉と野菜だ。
焚き火を使って軽く調理し、食べる。
「腹一杯だ!」
ガレッドが食後に声をあげる。
「最近は金があるから食べ物が豪華になるよなぁ。」
「そうだな、なんでこんなに金があるんだろうな。」
「「 ん?? 」」
俺達は顔を見合わせる。金がなんでこんなにあるのか心当たりがないからだ。
「この金はどこで手に入れたんだ?」
「ハーバーランドとシルマじゃないのか?」
「いやいや、使った金を考えるともっと少ないはずだ。」
「後は、魔物からか?」
「本当にそうだろうか。」
「じゃあ何なんだ?」
「何か忘れている気がする・・・」
「俺が持っていた分の金は別におかしくない。ガレッド、俺がいない間に何かあったのか?」
「うーん・・・」
「「あっ!!!」」
「思い出したのか? というか今別の声も聞こえた気がする。」
日が沈んで間もない丘の草原で俺達以外の人間の声が聞こえた。
この丘の近くには森があり、そこから聞こえたのかもしれない。
「おい!あそこに人がいるぞ!!」
ガレッドの指差す方を見ると、暗闇の中、丘の下の草原にかろうじて人がいるのが見えた。
「一緒にいるのは・・魔物じゃないのか?」
中心にいる人を囲むように何かが蠢いている。人よりは猿に近い生物で、手に武器を持っているようだ。
「よく見えないからわからないが、行ってみるか。」
俺とガレッドは武器を持って草原を下りる明かりは持っていない。
微かだが、まだ見えるからだ。
「助けてくれー!!」
また声が聞こえる。その主はどうやら先程の声と同じだろう。
ある程度近くまで寄ると、魔物が人を囲んでいるのが見えた。
囲まれているのは荷を狙われた商人だろう。
魔物の数は三匹、こちらにはまだ気づいていない。
剣を抜きながら間を詰める。多分商人も俺達には気づいてないだろう。
まずは一匹。肩口から斜めに切り裂く。
横でガレッドが二匹目。まさに脳天から一刀両断だ。ガパッ、という音がした。
そして三匹目。俺とガレッドが同時に剣を降り下ろす。両肩から切り裂かれた魔物は四等分に別れた。
「アンタ、大丈夫か。」
驚いている商人に声をかける。
「は、はい。助けていただいてありがとうございます。」
「目の前で人が殺されるのを見てるなんて目覚めが悪いだろ。」
「見たところ商人か。夜道の一人歩きは気を付けるんだな。」
「あの、お礼といってはなんですが…」
と言って商人が鞄から出したのは、小包だった。
「何だこれは?」
「王国騎士の証でございます。」
「でも、なんでそんなものを・・・まさか」
商人はニヤリとした。
「あまり聞かぬ方が良いこともございますよ。」
「助けたのは間違いだったようだな。」
ガレッドが吐き捨てるように言った。
「いえいえ、その証がきっと役に立つときが来ますから。」
「そうか。じゃあこれで俺達は消えよう。」
「では。」
そして俺達は闇商人と別れた。
助けるべきではなかったかもしれないが、この証は使えるかもしれない。
焚き火のあるところまで戻ったところでガレッドが喋った。
「そうだ!この金は強盗を捕まえたときに貰ったんだ!」
多かった金の理由がわかったガレッドは、何だか爽やかな顔をしている。
「それくらい思い出せよ・・・」
「まぁまぁいいじゃないか!」
「・・・知らん。」
ガレッドの笑い声を聞きながら俺は寝返りをうって眠りについた。
いかがでしたか?
ではまた。




