エルフの国 クリスマス番外編
こんばんは、すらいむ[N]です。
今回は遅れながらクリスマス番外編となります。
楽しんでいただけたらと思います。
ではどうぞ。
村の入り口で俺は精霊の声を聞いた。
地下世界の精霊とは違う静かで重みのある声だ。
『旅人よ、今より少しばかりの間、別の世界へと旅立ってもらう。時間軸がこの世界とは違うのでそこは安心しろ。この世界の一秒が向こうでは一年に値する。お前の目的はこの世界を侵略しようとする魔神の討伐だ。今のお前でも十分に倒せる敵だ、行ってくれるな?』
突然の言葉に俺は納得がいかなかった。
「なぜ俺が行かなければならない。この世界の戦士は俺よりも強いのだろう?ならそいつらを行かせればいいじゃないか。」
『ふむ、簡単に言えば 扱いやすい ということだろうか。お前は別の世界からやって来た、世界間の移動をしたことのある人間だ。この世界の人間は世界の移動などしたことないのだ。だからお前に行ってもらいたい。』
「ぬぅ・・・」
『お前も強くなれると思うぞ。』
「・・・わかった。行ってくる。」
すると徐々に俺の体が光に変わっていく。
世界が朧気に崩れ、ぼやけていく。
数秒後、視界がはっきりしてくるとそこは一面真っ白な世界だった。
「寒っ!!」
口からは白い息が、体からは震えが現れる。足は白い土に埋もれていて、とてつもなく冷たい。
この土はなんだ?今まで見たことがない。
俺は冷たさでしびれてきた手のひらで白い土をすくった。
「冷たっ!!」
白い土は驚くほど冷たかった。しかも手の平に乗った途端溶けていく。最後に残ったのは少しばかりの水だった。
何だこれは・・・、一体俺はどんな世界に来てしまったんだ。このままでは凍え死んでしまう。
俺は危険を感じて、歩みを進めた。
白い土は空から延々と降り積もっていく。
終わりはないのか?俺は歩みを進めながら空を見上げる。
「がっ!」
土が目に入った!とても目が痛い。
俺は急いで土を目から取り除こうとする。
駄目だ!溶けた!!とうとう目のなかで溶けてしまった。
俺は絶望した。
失明するかもしれない。その場合精霊は助けてくれるのか。
精霊のせいでこうなったんだ。精霊が前もってこの土のことを言わなかったからこうなったんだ。
痛む目と凍える体を庇いながら前へ進む。なにも見えない白い土が降り注ぐなか前へ、前へと・・・。
あぁ、急に目の前に建物の影が現れた。
よく見ると大きな大木だった。
それはそれは大きく、なぜ今まで見えなかったんだろうと心のそこから思う。
とにかく俺は大木を目指して足を進めた。
足の感覚がない、俺はちゃんと歩けているのだろうか。
もはや白い息すら出ない。呼吸はできているのだろうか。
時折り走る目の痛みだけが生きていることを感じさせる。
急に体が暖かくなった。
大木の葉の影に入ったからか、白い土も降ってこない。
体も動きやすくなったが肝心の体力が限界を迎えた。
くッ・・・
俺はとうとう膝をつく。暖かさで意識が朦朧としてくる。
倒れまいと踏ん張っていたところに誰かが駆けてくる足音がした。
足音が近くまで来たところで俺は安心と共に力が抜けた。
倒れる俺の体を誰かが支えてくれたところで意識は途絶えた。
・・・ここは?
目覚める前に思った。暖かい、そして目が痛くない。
ガバッ!
「わっ」
俺の横で声がした。横を見ると女性が本を読んでいた。
人間・・・ではない。髪の色が綺麗な緑で、耳が尖っている。
「誰だ?」
俺は聞いてみる。
「あっ、初めまして!私はメルと言います。エルフの国へようこそ。」
本を閉じて、軽く頭を下げる。
「俺を助けてくれたのは君か?」
「は、はい!この国の西端でフラフラしていたあなたを助けるよう女王様に言われ、助けました。」
「そうか、ありがとう。ところでこの世界に魔神とやらはいるか?」
「それも含めて女王様からお話があります。体が大丈夫なようでしたらこの階段を上っていってください。」
メルは大きな階段の方を指す。
ベッドを出て周りを見渡すと、この部屋の造りがわかった。
この部屋は俺が先程見た大木のなかにある。大木はエルフの城だったということだ。
上を見上げると白い土が積もった。葉が見える。頂上に女王がいるのか。
俺は持ち物を確認し、階段を上った。
階段は一段一段が繋がっておらず、まるで光の結晶の上を歩いているような感覚だった。
上りきると王座に女王らしきエルフが座っているのが見えた。周りには、護衛と思える男性エルフが二人たっている。
俺は服装をただして女王の前まで歩いた。
「ようこそ、いらっしゃいました。ここはエルフの国、あなたはこの世界を救う勇者様ですね。」
女王は美しさと気品を持ち合わせている。一言一言に魔法でもかかっているような感じがする。
「そうだ。この世界を救うためにやってきた。途中でメルに助けてもらわなければたどり着くまでに死んでいたがな。」
「申し訳ありません。」
「いや、別に構わない。それよりこの世界を覆っている白い土は何だ?」
「 雪 のことでしょうか?」
「 ゆき と言うのか。・・・それで雪には毒は含まれているか?ここに来る途中、目に入ってしまったんだ。とても痛かったんだ。」
「ご安心を。雪に毒はありません。そしてこの雪は本来今の季節は降らないのです。この雪を操っているのは北にある氷の城に住むサタンが原因なのです。」
「ではそのサタンを倒せばいいんだな。わかった。」
「ありがとうございます。 場所はここから北、氷でできた城です。 このようなことは私が小さい頃にも一度あり、その時にはあなたと同じように別の世界から来た人間の小さな勇者様と共に氷の女王を倒しにいきました。その時の事は今でもよく覚えています。」
「そうか、この世界も大変なんだな。」
「いえ、普段はとてもとても平和な世界です。本来ならばこの季節は桜が満開になり、それは綺麗なのですよ。魔神サタンを倒せば再び桜が咲き誇るはずです。」
「その桜を是非一度見たいものだな。それでは行ってくる。」
「ではこの国の入り口まで送りましょう。」
そして女王は何か唱えた。
気がつくと俺は国の入り口にたっていた。入り口にはメルが待機していた。
「その格好では氷の城にたどり着く前に死んでしまいます。どうかこれを。」
メルは分厚い防寒着を俺に手渡した。
「私の力は女王様の子供の時より弱いのです。足手まといになりますので、唯一唱えられる魔法をあなたに唱えます。」
すると、メルは女王と同じように何かを唱えた。
「なんだこれは?」
なにも変化がなかったので俺はメルに聞いてみた。
「これは力の受け渡しをする魔法です。今、女王様の力の一部をあなたに渡しました。いつ使うかはあなたの自由ですので、役に立てて下さい。」
俺はありがたい力を受け取り、防寒着を着て国を出た。
道がわかればこの世界は狭かった。
体が冷えきる前に、氷の城にたどり着いた。
俺は早速中に入ると、床一面氷が張っていた。
恐る恐る一歩氷の上に踏み出すと、つるりと滑った。
なんとか壁で止まることができた。が、これからどうしろと言うのだろうか。
とりあえず頭のなかで考えて、滑った。
何回か滑ると階段へと着いた。
階段も氷でできていたが、質が違うのか滑らなかった。
階段を上るとそこは赤い絨毯が敷かれていた。まるで城の王室みたいだ。
中央には大きな針葉樹が立っており、全身赤色の服をまとった巨漢が彩飾をしていた。
俺は剣と盾を構え、ゆっくりと歩いていった。
近くまで寄っても巨漢は気づかない。 木の彩飾に夢中のようだ。
「あのー」
俺は声をかけてみた。
すると、木にレースを飾りながら巨漢が振り向いた。
「何の用じゃ?この忙しい時期に。プレゼントならもうすぐ届けるから家で待っておれ」
その顔は優しげな老人だった。白い髭を生やしている。
「お前の名前は?」
俺は人違いかと思ったが聞いてみた。
「?サタンじゃがそれがどうした。」
サタンは不思議そうな顔をする。
敵はこいつだった。
「恨みはないが倒させてもらう。
俺は剣をサタンに向かって突きだした。
バチンッ!
剣は軽く弾かれた。一瞬何が起こったのかわからなかったが、どうやらサタンの大きな手に弾かれたようだ。
「しょうがないのぉ、せっかくこの季節にしたというのに。この季節は皆が楽しみにしておるのじゃ、邪魔をするな。」
サタンは先端に白い球がついている赤い帽子を被った。そして大きな白い袋をもってこちらに向き直った。
「ふぅ、かかってこい」
サタンは準備ができたようだ。
「やぁぁああぁあ!!」
俺はガレッドの剣を振りかぶってサタンへと飛びかかった。
予想通り平手が左側から襲ってきた。
俺は体を左に反転させ、サタンの手のひらを縦に切り裂いた。
「ぐおっ!」
手のひらを切られたサタンは一瞬揺らいだ。
「ちっ!こうなれば・・・」
サタンはエルフたちがやったように何かを呟いた。
突然後ろから俺は何かに突き飛ばされた。
ドゴッ!
俺は壁にぶつかった。様々な装飾と共に俺は床に落ちた。
立ち上がってサタンを見ると、サタンのとなりにはとても大きい二本角の虎のような獣がいた。
「よしよし、可愛いのぉ。出発前にこいつを始末しておこう。」
「グルルルン」
サタンの声に応じるように獣が嘶いた。
サタンは獣の後ろに繋がれていた、乗り物に飛び乗った。
俺は構え直し、攻撃に備える。
「いくぞっ!」
獣が勢いよく走ってきた。俺はギリギリまで引き付けて右へと転がった。だが立ったと同時にサタンの左拳が俺の顔面に迫ってきた。
ギィン!
俺はなんとか盾で防いだが、反動で壁に背中を強打した。
「うっ!」
肺から空気が押し出される。
俺なんとか壁を離れ、部屋の中央に立った。
サタンと獣は壁ギリギリで旋回し、再びこちらへと向かってきた。
だが、俺の手前で獣は止まり、サタンが高く飛び上がった。
ドドオオオォォォン!!
サタンは天井を持っていた袋でぶち抜いた。
ガラガラという瓦礫の落ちる音と共に、風と雪が部屋に舞い込んできた。
サタンは再び乗り物に乗り、呪文を唱えた。
「サタンクロス」
突然部屋の中に舞い込む雪の量が倍に増え、風は暴風と化した。
俺は盾を構えてはいたが、まるで部屋全体が襲ってくるようで、盾がちっぽけに思えた。
やがて雪は集まって巨大な氷結晶となった。
俺はその氷結晶見たとき、これは危険だと確信し、それと同時にメルにもらった女王の力を思い出した。
俺は目をつむり、全身に力を込め、女王の姿を意識した。
体が暖かくなる。
やがて部屋全体が暖かくなる。
体が熱くなる。燃え尽きそうだ。
目を開く。氷は溶け、雪は全て部屋に入ると同時に水に変わっている。
サタンは驚きに唖然としている。
「なにっ!?これは・・・どういうことだ!」
獣は驚きこちらに突進してくるだが水に濡れた絨毯は滑る。獣は滑り大きく倒れた。
勿論獣の引いていた乗り物に乗っていたサタンは床に放り出された。
呻いた後、サタンはすぐに立ち上がった。
「死ねぇえぇえええぇええ!!」
サタンは雄叫びをあげながら袋を振り回して襲いかかってきた。
俺はガレッドの剣を腰に指し、柄を握って集中する。
手から剣に力が流れていく。
「せやぁあぁああぁあああぁ!!」
サタンより速く、俺は濡れた絨毯を駆ける。
袋を持っているのは右手、俺は左肩から下を切り落とすように素早く剣を抜き、その勢いで斬った
サクンッ
サタンはそのまま俺のいた場所に向かって走っていく。
切られた左肩から下は横に転がり、赤黒い血を地面に垂れ流している。
もしかしたらこの赤い絨毯は誰かの血の色なのかもしれない。
サタンの左半身は勢いよく先決を吹き出している。
俺は血をぬぐい、サタンの方に振り向いて走る。
トンッ !
俺は軽く飛び、右手に握る剣で一筋の線を引く。
スパッ
ブブブブブブッッ!
サタンの頭が首と離れ地面に落ちる。
サタンはそれでもそこにいない俺に向かって走る。
だが首と肩から吹き出る血の勢いが弱まると次第に走りが遅くなり、血が止まるとほぼ同時に赤い絨毯の上に倒れた。
俺は剣を鞘に納め、サタンのもとへと向かう。
サタンの持っている袋をガサッと開ける。
そこにはおびただしい数の首が入っていた。エルフか人間か、魔物か、動物かはわからない。頭骨だけがびっしりと詰まっていた。
サタンが飾り付けていた針葉樹はサタンの技によって凍り、崩れていた。
降り積もっていた雪も止んでいた。
外に出ると一面真っ白の世界はなく、花と緑の溢れる世界となっていた。
俺はエルフの国へ向かった。
大木には桜が咲き誇り、エルフたちは喜び、舞い踊っていた。
俺は真っ直ぐ大木の中へと入る。
一階にいるエルフたちは俺を見て笑顔を見せ、感謝の言葉を述べる。
二階へ上がると教会と宿があり、神父が神への感謝を祈り、宿では客が笑いながら酒を飲んでいる。
屋上へと上るとメルと女王が笑顔で俺を迎える。
女王の前まで行くと女王が口を開く。
「この度の件、感謝の限りでございます。エルフ一同喜んでおります!お礼をしたいと考えているのですが・・・」
「いや、結構だ。俺は自分のいた世界に戻らないといけない。」
女王は少し悲しげに頷いた。
「あ、あのっ!ありがとうございましたっ!」
メルが涙目で告げる。
「春になったらまた私達のことを思い出してくださいね。」
女王が微笑みながら言う。
すると横にふっと精霊が現れた。
俺以外には見えてないらしい。
『さぁ、戻るぞ。』
精霊の手が俺の額に当たる。
視界がぼやける。
あぁ、戻るのか。長いようで短かった気がする。
数秒後、視界がはっきりしたときには村の入り口にいた。
手には桜の枝が握られていたが、精霊が持っていってしまった。
この世界にも四季があり、春があればいいなと心から思う。
いかがでしたか?
次からは本編に戻ります。




