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新たな日常

「めんどくさ」


『あのさ、仮にも公爵令嬢なんだからもう少しオブラートに包めない?』


 サダルスード公爵家本邸の一室。華美な装飾もなくすっきりとした印象のその部屋には、ロングドレスに身を包んだ賢そうな老齢の淑女と、透き通るような水色の髪を持つ幼い少女が机を挟んで向き合って座っていた。だが、少女――フリージアの呟きを拾ったのはその女性ではない。フリージアは不満そうに口を尖らせると、自らの指に嵌る装飾の少ない琥珀色の宝石へ目を向けた。


『無理。マナーとか興味ないし』

 

『いや興味の有無が問題じゃないんだから。公爵家に生まれた以上最低限の礼儀は必要なんだよ』


 心中でどうでもいいと言わんばかりに呟けば、フリージアの頭に直接声が響いてくる。澄んだきれいな声で決して耳障りなわけではないのだが思わず眉を顰めて不平をもらす。


『慣れないなぁ、この感じ。ねぇレン、いつまでこの状態が続くわけ?』


『今はまだなんとも。まぁそのうち猫の姿には戻れるかな』


 そう、力を使いすぎたレンは回復を待つ為にキャッツアイ内で療養中。守り人である彼はキャッツアイの魔力と融合することが出来るのだという。彼が居るのは天上界の宝玉の中。下界の宝玉はネックレスとして首から下げている。ディオーネの命令では安全な場所へ運べとのことだったので、とりあえずは目の届くところで管理し護っておこうということになったのだ。


『そうそう、その猫になれるってどゆこと? 私にもできる?』


 元来動物好きのフリージアは菖蒲色の瞳をきらきらと輝かせながら問いかける。


『いや、俺もともと猫なんだよ。その、まぁ、軽く死にかけてたらディオーネ様が助けてくれてさ。そのときに魔力を分けてもらって人間の姿をとれるようになったんだ』


『死にかけっ!? え、なん――』


「お嬢様? 聞いていますか?」


 フリージアがレンのどこか言い淀んだ説明に反応し、思わず驚きの声を上げたとき、幸か不幸か教育係の淑女、アザレアの声がそれを遮った。意識を取り戻してから1年と数カ月経ち、4歳となったフリージアは彼女から簡単なマナー講座を受けている。どうやらずっと何かの説明をしていたらしい彼女は、反応の無いフリージアを見て不審に思ったようだ。


「あ、ごめんなさい。アザレア。なんだかつかれちゃって」


 慌ててレンとの会話を切り上げると、少し流暢になったその口調でアザレアの声に応答する。するとアザレアは暫し考える素振りを見せ、優しく微笑み提案してくる。


「お嬢様。今日は天気がよろしいですから、息抜きに少し庭園に出てみましょうか。こんな日にはあの子達が見られるやも知れません」


「あのこたち? だれ?」


「それは会ってからのお楽しみです。お嬢様とは気が合うかもしれませんね」


 アザレアは少女のように楽しそうに笑うと、フリージアの手を引いて歩きだした。


『誰だろう? レン分かる?』


『さぁ……?』

 

 

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