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再会

「うぅ……ん?」

――なんかもの凄い既視感


 再び瞼を上げたフリージアは思わず辺りを見回し、目を瞬いた。真っ白。上も下も、左も右も。


「せんていのま?」


 しかしぽつりと呟かれたその言葉に否定の言葉が返ってくる。


「いや、似てるけど違うよ。ここは夢の間的な空間だ」


「うわっ!? なんでいっつもいきなりでてくりゅの!? それにてきなってあばうとすぎりゅ……うぅ、しゃべりにくい……」


 頬を赤らめ心底嫌そうに呟いた少女を哀れに思ったのか、レンが気遣わしげに声を掛けた。


「えっと、別に声に出さなくても念じてくれたら会話できるんだけど……どうする?」


 レンの言葉を聞いた途端、ぱぁぁっと効果音が付きそうな勢いでフリージアの顔に喜色があらわれる。そして目を閉じること数秒。


『え、これで聞こえてんの?』


「うん、完璧」


『便利なもんだねぇ』


「ここは君の夢の中みたいなものだからね。基本望めば何でもできると思うよ。まぁそろそろ本題に入りたいから今試すのはやめてよ?」


 早速何か念じてみようと思っていたフリージアは口を尖らせるが、不承不承頷く。


『分かった』


「うわ、めちゃ不服そう。……まぁ、いいか。んー、何から話せばいいのかな。まずここは異世界ってやつだ。フォーマルハウトっていう世界。魔力に満ちているのが特徴で魔法やら魔物やらが普通に存在してるから慣れるまでは大変かもね」


『魔法!? うわ超楽しみ!』


「頼むからもうちょっと緊張感ってヤツを……いや、ごめん、なんでもないや」


 レンは思わず口を開くがフリージアのキラキラと輝く瞳を見、諦めたように首を振るとその言葉を飲み込む。出会って数時間と経っていないが悟ったのだ。あぁ、このコには何を言っても無駄なんだろうな、と。だがフリージアはそんな彼の言動など意にも介さず、これからの魔法ライフを思い描いているようだ。その証拠に――


 「うわっ、ちょ、ストップストップ! 魔物! なんか魔物溢れてきてるから! 想像すんなっ、あぁ、火を吹くんじゃない!!」


 さすが夢の間というべきか。フリージアが魔物や魔法を連想しただけで何も無かった空間が次々と魔物に埋め尽くされている。目を爛々と輝かせその光景に見入っている少女をなんとか諌め、ようやくレンが安堵のため息をついた。一方至極楽しそうな少女、フリージアは暫く年相応の明るい笑みを浮かべてけらけらと笑っていたが、笑いが収まると気が済んだようで自分が先ほど感じた疑問を口にする。


 『異世界ってことは世界ってやつは何個もあるもんなの?』


 同じく落ち着いた様子のレンは少し考える素振りを見せ答える。


「結構な数あるのは確かだ。正確な数はアイリスでは分かっていない。そうだな、三階建の貸家っていうの? あれを想像してみてよ。一階が下界、二階が地上、それで三階が天上界。ただ二階の地上だけ部屋がたくさんあってね。それぞれ薄い壁で仕切られてる。それが世界。さしずめ神が大家さんってとこかな。一応全てを管理しているのは神サマだからね」


『へぇ、じゃあ私は今違う部屋に住んでいるわけだ』


 納得した様子のフリージアにレンは苦笑を返す。


「そう。輪廻の輪で百の巡りを待てば同じ世界に生を受けることもできるんだけどね。どうにも死ぬのが早すぎてさ。輪廻の輪での転生が不可能な状況になっちゃった。……って元はと言えば俺のせいなんだけどさ」


『いや、だからそれは――』


「うん、分かってる」


 慌てたフリージアの声をレンの穏やかな声が遮る。その顔には一片の曇りもなく、目には一筋の光。


「君には本当に感謝してるんだ。助けてくれて、許してくれて、笑いかけてくれて」


 一旦そこで区切ると、今度はどこか悪戯めいた笑みを浮かべて優雅に一礼し、続ける。


「故にこれから先、力の限り恩返しに努めていく所存にございます」


「うん?」


 思わず心の中で念じるのも忘れ疑問を零す少女に、レンはますます笑みを濃くする。


「つまりさ、少なくとも恩を完済するまでは俺もこの世界で厄介になるから。どうぞよろしく」


 ようやく合点のいったフリージアは一気に表情を明るくし、弾む声で返す。


『ホントに!? 良かったぁ、どうにも一人じゃ心細くって。こちらこそ不束者ですがどうぞよろしく!』 


「……ん」


 少女の満面の笑みにふいと顔をそらしたレンを不思議に思い、フリージアが彼の視界に入るように回り込みながら尋ねると、少しはにかんだレンが戸惑いがちに言葉を紡ぐ。


「いや正直そこまで喜んでくれるとは思わなかったから、」 


「……」


 嬉しくて、と続けようとしたレンだが、いまいち理解できずきょとんとしてひたすら見つめてくるフリージアを前に急激に恥ずかしくなったのか、大幅に話を逸らす作戦に出た。


「そ、そんなことよりさ。本題に入ってしまおう、うん。」


『あれ、さっき入ったじゃん。世界が部屋で云々って』


「あ、じゃあその続き続き。とりあえず必要な情報だけいっておくと、ここでの君の名は【フリージア・アルカ・サダルスード】 サダルスード公爵家の一人娘、現在2歳」

 

 話を逸らそうとしたがためにいささか早口になってしまったが、どうにか誤魔化せたようで、少女の興味は自身の境遇へと向いて行った。興味津々といった顔つきで続きを促す。


『うんうん、それで?』


「それだけ」


『何故』


 伝えられた情報のあまりの少なさに驚いてフリージアが尋ねると、レンが困ったように笑いながら答える。


「いやー、実は俺も目覚めたばっかりでさ。あんまり分かんないんだよね」


 あっけらかんと言ってのけるレンにフリージアは小さく呻く――が、


『うーん。ま、なんとかなるか』


「なるでしょ」


 結局楽観的な考えに落ち着いた二人は思わず顔を見合わせ笑いあう。


「じゃあそろそろ時間だから。現実の方でまた会おう」


『あ、そういえばレンは現実ではどこにいんの? 見当たらなかったけど』


 一瞬驚いたような顔をした後、レンはまたも悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「俺は君のすぐ傍に――」


――すぐ傍……? お父さんっていうオチじゃないよね? それはちょっと……


 フリージアは夢から覚めていく感覚と、同時に一抹の不安を感じながら現実の世界へと帰って行く。


――そこはまるで夢の世界。魔力がある、魔法がある、夢のような現実。決して逃れられない現実。これから先、ひとりの少女が変えていく、変わっていく世界。それは歓迎するように少女を暖かい光で包みこんでいった。

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