書斎ではお静かに
「しずかにね、そーっと、足音立てないで」
「いや、オレ飛んでるんだし足音立たねーって」
まずは魔力を調べる方法を調べよう、ということになったフリージア一行は公爵、つまり父ライラックの書斎へと忍び込んでいた。
「えーと、まほーの本、まほーの本……あっ、これとか?」
暫くずらりとそびえる本棚を前に思案顔のフリージアだったが、おもむろに一冊の分厚い本を手に取ると床に広げてみる。それを見て書斎の中を所在なさげに飛びまわっていたムリフェインの少年も寄ってきたが、何故かフリージアが本を開いたまま身じろぎしない。
『フリージア? どうした?』
「あー、あのさ」
不審がってレンが声をかけるとようやく気まずげに口を開いた。
「……よめない」
「……は?」
『……え?』
二人の気の抜けた声に、フリージアはもはや笑うしかない。フリージアの乾いた笑いが空間を支配すること数秒。
「字、読めねーのに書斎に行こう、とか、……バカだっ……バカがいる!!」
「すっ、少しならよめるんだよ、かんたんなやつなら!」
『ちょ、静かに! バレる、バレるから!』
ムリフェインの爆笑とフリージアの弁解の声で一気に騒がしくなった父ライラックの書斎。
「何か、騒がしいようだが?」
レンの制止も虚しく、書斎の扉は開かれた。そこにいたのはこの書斎の持ち主、公爵ライラック。
「あ、あは。おとーさま。ほ、本日はおひがらもよく、ちょ、ちょっと外であそんでこよーかなー……」
「フリージア? 外で遊ぶのも良いが、その前に父様と少しお話をしようじゃないか」
「いやぁ……はい」
脱出を試みたフリージアだったがそれが無理だと悟ると、道連れだといわんばかりに、こそこそ逃げ出そうとしていたムリフェインの少年をがっちりと手中に収めた。
「は、はなせって、オレちょっとほら、花とかアレしなきゃだし……」
「おや、そちらはムリフェインかな? どうだい、君も一緒に話をしようじゃないか」
「や、オレは……はい」
笑顔だが目の笑っていないライラックを前に、抵抗空しく項垂れる二人。
『……俺、姿見えなくて良かったわー』