ムリフェイン
「無理だよ」
空中で静止しながらムリフェインの少年がきっぱりと言い切る。それを聞いたフリージアは暫くの間目を瞬いていたが、数秒の後コテンと首を傾げながら尋ねた。
「なんで?」
「だってさー、あんた魔法使えないだろ?」
確かにこの世界に魔法というものは存在するが、誰にでも使えるわけではないし、ましてやまだ4歳のフリージアが扱えるはずもない。コクコクと首を縦に振りながら再度首を傾げる。すると大分警戒心も薄れてきたのか、少年はひらりとフリージアの目前まで飛んでいき、自分の顔を指差しながら確認するように尋ねた。
「ほら、オレの瞳は青色じゃん?」
「うん、キレーな色だよね」
素直に誉められてまんざらでもない様子の彼はフリージアの頭上にまで舞い上がる。
「ムリフェインにとって瞳の色は身分証明書みたいなもんなんだ。オレは青だから水の部族。ちなみに緑なら草木の部族。茶なら大地の部族だし、赤なんかもいるな。炎の部族だ」
『妖精みたいなもの……なのかな?』
『まぁそういう位置づけでいいでしょ、多分』
とりあえずムリフェイン=妖精的なモノという方程式を成り立たせる二人。一方二人の会話が聞こえていないムリフェインは妖精と認識されたことなど露知らず、構わず続けていく。
「オレ達ムリフェインはみんな魔力を持って生まれてくる。そこらの三流魔術師なんかよりもうんと強い魔力さ。オレは水の部族だからやっぱり水の力が一番強いけどね。んで、その魔法を行使して自然の成長を手助けしてるってわけ」
へぇ、と相槌を打ちながら何かを考え込んでいた様子のフリージアは、暫くして顔を上げると宙にいる少年へと問う。
「つまり、私がマホーを使えるようになればいいわけだ」
「まぁ、そーだけどさー。想像以上に難しいんだぞ、自然に関わるってことは。メッチャ繊細だし。てかそもそもあんたに魔力があるかどーかも分かんねーんじゃん」
「ぐっ……あるもん! ……きっと……た…ぶん……?」
もっともなことを言われてうろたえる少女を見て気の毒に思ったのか、少年が口を開いた。
「あー、まぁもし魔力があるようなら、教えてやってもいいけど」
「ホントに!?」
「ん。人間はあんまり好きじゃないけどあんたは気に入ったからね。悪戯好きに悪いヤツはいないんだ」
『うわぁ、めっちゃアブナイ理屈だな、それ』
レンの突っ込みなどどこ吹く風。不安げに目を泳がせていたフリージアは彼の一言で一気に元気になる。
「よし、それじゃ早速マホーを使えるかどうか調べなきゃね!」
気合い十分といった声音でフリージアが声を上げること数秒。
「……で、どーやって調べんの? それ」
レンも含め、この場にいる三人の気持ちが一致した瞬間だった。