表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方へのマ・シャンソン  作者: ツマゴイ・E・筆烏
Quatrième mission 「ヒーローと休暇」
53/69

第十章 後篇:Colorful Heart Beat! ★挿絵あり

第十章 後篇:Colorful Heart Beat!


       1


 夜の帳降りし、不知火家。

 言葉通りに盤石なる大地に居を構えし堅牢なる外観誇る従家の名家。その家屋の中枢と呼ぶべき場所。不知火の家督が座す部屋――通称【百鬼の間】。

 そこにて現代の家長、崇雲は峻厳に座禅を構えていた。

 シンと静まり返った静寂の薄暗闇の中には一切の無駄が無く、微かな呼吸が聞えるのみだ。

 そんな中に一人の女性が足を踏み入れた。

「家長様」

「矢矧か」

 声の主、矢矧=セントーレアに崇雲は反応し、瞼を静かに上げた。

「バカ息子はどうした?」

「聖僧院の僧侶の一人。【聖僧院・二十一律師(にじゅういちりっし)】、【雷鎖鋸(ソー・チェーンソー)】宝戒寺長徳と激突。これを退けました」

「そうか。そうでなくてはならん。――だが何発かかった?」

「合計で二発になります」

「……一撃で仕留められなかったのは癪だが、及第点ではあるか」

「いえ。その後も、宝戒寺長徳は立ち上がり、佐伯勇魚嬢を結界にて人質とした後に自爆を行おうとしたところを聖僧院【聖僧院・七宝僧都(しっぽうそうず)】の【凍結般若(フリージング・ベンシー)】青蓮院歔欷の介入により、痛み分けの様な形で――もとい、平和的解決に至った様子です」

「なるほど。幹部が出向いて仲裁したか。もう少し、早く来ればあのバカもこんな事案に関わらずに済んだことだろうに。甚だくだらん限りだ」

「……ですが家長様。弦狐の少女を救えた事自体は喜ばしい事では」

「淘汰されると言うならば、それはそこまでの事だ。わざわざ助けるまでもない話。この世は弱肉強食が摂理なのだからな」

 一切の疑問を感じさせぬ不動の宣言。

 相も変わらずお堅いお方だ、とセントーレアは嘆息を浮かべる他にない。

「それよりも問題は別にある。聖僧院の僧侶と衝突した――この事は遅かれ早かれ、他の門徒にも伝わってゆく事だろう。そうなれば、確実に別の勢力も動き出す。あのバカめが、関わらずともよい火蓋を切りおって」

「別の勢力……と、言いますと」

「それは候補がいくつか上がる。――あのバカ息子は渦中に飛び込む癖が昔から抜けておらんからな。どうせ今回の事が切っ掛けに、他の勢力と将来的にいざこざを抱えていく羽目になるだろうさ。奴にはそういう資質が、性質がある」

 仰々しく嘆息を浮かべる崇雲。疲弊と呆れ。そんな様子が見てとれていた。

「あのバカは、鍛え続けていればいいのだ。家督を継ぐべく、ただ鍛練に励んでおればいいというのに、わかっておらん」

「まあ、家長が御固くもあれば、自由奔放を求める気持ちも生まれようものでは?」

「皮肉か?」

「割と」

「ふん。まあそうなのだろうよ。私はこの方針を緩めるつもりは一切ないがな。九十九には最強無敵を目指してもらわねばならんのだ」

「最強無敵、ですか」

 セントーレアは知っている。

 不知火家の目指すもの。

 最強無敵。

 文字通りに最強で無敵足る益荒男になれ、と言う不知火家の家伝だ。その為に不知火の後継者は強い男ではなくはならない。九十九も日夜鍛練に励み続けている様に、この家は常に強者の巣窟でなくてはならないのだ。

 その過程でいかに一般常識が欠損しようが。

 人間性が崩壊しようが。

 不知火家の次代は常に最強無敵である事が望まれ続けている。

「――本当に面倒な話だ。あんな女子と関わるなど、な」

「佐伯勇魚の事ですか? 確かに僧侶ではありますが……」

「そんなものは些末だ。問題は――まあよい。何事も無ければそれに越した事はないだろう。下がってよいぞ、矢矧」

「……わかりました。失礼します」

 そう言って区切る崇雲。

 何を言おうとしたのか相変わらずわからない。だが、何かを常に知っている姿勢を見せるのもまた崇雲と言う飛び抜けた資質を持つ男の在り方だった。

「仮に何か起きるとすれば、それもまた精々、乗り越えるべき壁とするまで」

 誰に言うでもなくそう呟いて、

「強者には戦場が不可欠だ。お前が飛び込んだ場所に修羅となる場が巻き起こるならば、それもまたよしというだけの話か」

 家から離れ、敵と相対した息子の姿を思い浮かべ、その瞳に全てを燃やし尽くす様な獰猛な炎を灯す。

「厄介事を抱えたのはお前だ。火種は小さくとも、火蓋は切った。火は燃え上がる事は自然の摂理。精々にして自らを磨け。高みへと伸し上がるべく奮闘するのだな、九十九よ」

 そして今宵の全ては終幕する。

 常世の全て、そのどこかにしこり程度の禍根を残しながら。

 ひっそりと何事も無かった様に。

 いつも通りの朝を迎えるべく寝静まってゆくのだった。


        2


 5月7日。黄金週間が明け、普段通りの朝が戻ってきた。会社員は会社へ。学生は学校へ。休みと言うのびやかな日々が涼風の様に過ぎ去った次の日の光景は得てしてどことなく緩慢な空気が漂うものである。

 しかしこの少年を覆う空気は緩慢だが、どこか気色が違うものだった。

(憂鬱だなあ)

 机の上で頬杖をつきながら、連は快晴の青空を死んだ魚の眼で見ている。

 遠くから女子のヒソヒソ声で「弓削日比君の友達の彼……ええと、なんだっけ? まあいいや、彼どうしたん?」、「さあ……? 普段と比べるとなんか存在感あるよね。変に黄昏ててうざいっていうか」、「ねー、普段はこう弓削日比君の傍でなんかいるっぽいけど」、「で、名前なんだっけ?」、「休屋」、「あーそれそれ」と言う、あんまりな会話が耳に入ってくるも、それに憤慨する余力も連には無かった。

 やがて女子たちの会話が「今朝のニュースだけど連続強姦魔の脱獄囚逮捕されたんだって」と言う話題に変って「良かったよねー」、「安心した」、「けど警察後手後手だったよね」口々に話のネタを弾ませていく。

 正直、強姦魔とは比べものにならない敵と戦う羽目になった連としてはあまりピンとこない様な感覚を得てしまう。今の気持ちは何とも言えずふわふわと浮いている感覚である。

 またその一因として、

「……本当に一夜で修繕されてっし」

 窓から見える校舎。連がいる校舎。どちらも完全に普段と変わらぬ在り様だ。どうやったんだよ、と溜息を発しながらつい視線を窓の外、空へと向ける。青々とした鮮やかな青空がさっと広がって美しい。

(空はあんなに晴れ渡ってるっつーのに)

 何故、自分の心は曇天模様なのだろう、と連は咽び泣いた。

 クラスメイトのでっぷりした体躯の少年、三本杭(さんぼんくい)福丸(ふくまる)が「なに鬱屈してるんだぞい休屋殿。何があったかわからんが、こういう時はグフフ。こう言ったものでも見て、英気を養うんだぞい!」と言いながら、雑誌を一冊開いて連の前に見せつけてくる。見れば有名なモデル体型の歌姫である『MAYA』や『CLAIN』、『冴月紅亜』のライブシーンなどの姿が映っていた。相変わらず歌手とは思えない程のスレンダー巨乳ぶりに一瞬意識が引き寄せられる――が、それでも気分は張れず「あ~」と言った嘆息が溢れる。

 渾身の一手が効かなかった事に嘆いたのか『愛冠たんぽぽ』、『津花波聖紫花』と言った面々の掲載写真を見せてくるが、それも効かず。やがて、福丸は反応を寄越さない連にある種の敗北感でも抱いたのか「う、うぉーん! 休屋殿がEDになった――!」とない事喚き散らしながら去っていった。

「誰がEDだよ。たくっ。……はあ」

 そんな連の姿を確認すると苦笑を零す美青年の姿があった。

「れーんきゅ。黄昏てんなあ」

「朧」

「ま、仕方ないけどな。あんなことあった翌日だし」

「まったくだっつの」

 今まで体験した事も、体験するはずもなかった非日常。

 妄想の中ではしゃいだ世界とは裏腹の過酷な世界。そこに一旦とはいえ、足を踏み込んで命を取り留めるべく戦った事は連として誇るでもなく現実味の湧かない事だった。

「それですめばよかったってのになあ」

「ははは。言えてるな」

 感慨に耽るで済めば良かったはずなのに。

 天魔、ヴァイスハイト=オクゼンフルト。牛の天魔は確かに告げたのだ。

 休屋連はすでに関係者となっている、と。

 その原因――その根幹であるだろう秘密。連は己の左胸を、心臓の鼓動を確認しながらげんなりとした表情を浮かべた。

(死なない――いや、生き返るとか嘘だろ)

 連は死ななくなった、と言う事態が発生している――らしい。それもなんだかわからない力で生かされていると言う可能性がある始末だ。

 死ねば確認出来るのだが、死を簡単に選べる精神はしていない。確認する必要があるのだろうが、とてもではないが選べない。連の【死去】は簡単では無いのだ。痛みを伴うし、生き返る時が凄く気分悪い。あんなのゴメンであった。

「まさかれんきゅーが人類の夢、不老不死になるとはな」

「お前、それ俺が嬉しいと思うか? この顔に、このスペックで不老不死なんてなっても嬉しくねぇんだよ! 朧くらいならともかく、この顔だぞ!」

「まあ整ってねぇしなれんきゅー。むしろ崩れてる」

「言葉を包めよ! わかってっけどさ!」

 不老不死ならば、せめて顔かたちがこう美青年になったりとか副作用は無いのかと連は願いたくなるくらいだ。この姿形で不老不死になったところで、連のスペックでは社会人以降の鐘の稼ぎに大いなる問題が浮上しそうなくらいである。

「まあ――俺が思うに本当に不老不死かは疑問だけどさ」

「え?」

「いやさ。そこらへんまだわからないじゃんか」

「て言うと、どういうことだよ?」

「不老不死っつっても、何百年も生きるとかとは違う可能性あるだろ? そもそも不死ではあるけど、不老が無いかもしれないし。寿命で終わるってだけの死んでも生き返るってだけな可能性もあるし……」

「……え、なにそれ凄く使えねぇんだが……!」

「そっか? むしろそんくらいを願った方がいいんじゃないか?」

 朧の言葉に連はそうなのかねー、とぼんやりした返答を返す。

 正直なところで言えばよくわからないままなのだ。

 現実味が湧かない。まさしくその通りに、連は事態が掴めていない。何が起こっているのか、何が起きてしまったのか、その全てが判然としないままに進んでいるのか停止しているのかも何もかもわからないままだ。

 その中で得た力は【死んでも生き返るだけ】と言う力。

 これと言って身体能力が高まったと言う事も無い。痛みを感じなくなるわけでもない。ただ、生き返れるだけの力。凄くはあるが強くは無い。

(この力で……俺、今後、またあんな化け物と戦う羽目になったりしないよな?)

 ぶるり、と背筋が震えた。

 自分が嫌な場所へ赴いてしまったような恐怖感に苛まされる。

(ちくしょ。空はこんな快晴なのに、本当気分は曇天だっつの……)

 はぁ、と溜息を零したところで教室の扉から一人の男性が入ってきた。

 担任の禿山一平太だ。簡素に「お前ら席につけー」と声を発すると生徒達はわらわらと自分の席へ戻っていく。そうして一平太は名簿を机の上に於くと急に咳払いをした。

「さて、HLを始める前に一つニュースだ。このクラスに新しい仲間が増えるぞ」

 担任の言葉を訊いた生徒達がざわめきを発した。

「せんせー、美少年ですかー!?」、「残念女の子だ」、「じゃあ美少女っすか!?」、「おお目の覚めるような美少女だぞ」、「きたぁああああああああ! 美少女来たぞお前ら!」、「騒ぐなよ。どうせ弓削日比の関係者か何かだぜ?」、「そうそう。こういう時はどうせ弓削日比なんだ」、「マジか弓削日比殺すっきゃねぇな」、「弓削日比を殺せー!」、「ひゃっはー!」。

 近くで朧が「何で俺の名前出てきたんだ? っていうかなんで殺されそうなんだ?」と不思議がっているが、連もそう思う。朧は時々殺されるべきなのだ。

 そして今回の転校生も、きっとどっかで関係した美少女に違いない――、

「よし入ってきてくれ」

 そこまで思考が行き着いた事で連は予見がついてしまった。

 カツカツ、と靴音を鳴らして入ってくる一人の美少女。

 均整の取れたプロポーションに新緑の鮮やかな緑髪。何色なのかと問われれば熟考してしまう不思議な色彩の瞳。美少女が多いと言われる連のクラスに於いても、それに追随する異国を匂わせる端正な美貌の持ち主。

 鷹架理枝。

 朧と邂逅し、連の命脈を今へと繋げた不思議な少女。そんな彼女が、連達の日常に堂々と姿を現した瞬間であった。

 絶句し「あ、あい、あいつ……!」と指を震わせる連に「やっほー、綺麗所がまた増えたぜれんきゅー!」と歓迎している朧の姿に少女は呆れ半分で微笑を浮かべていた。

 その整った美貌に教室がどよめきを零す中、渦中の少女は気品のある佇まいで優雅に一礼すると口元にやわらかな笑みを浮かべる。

「初めまして。鷹架理枝と申しましてよ。お見知りおきを願いたすわ」

 見覚えのあり過ぎる一人の女生徒。

 嗚呼こう来るか――。

 そんな呟きを残して机に突っ伏す、休屋連の連休明けの朝の光景だった。


        3


 連休明け。ゴールデンウィークが終わり、他の学校と同じように、この広大な敷地を誇る超名門高校である芳城ヶ彩共同高等学院もまたいつもと変わらぬ日常に溢れていた。相も変わらずに絢爛豪華で何度見ても学校とは思えぬ程に富んだ設備は都市の様ですらある。そんな場所を行き交う生徒達は、自分達の学校に誇りを持っているのか、誇らしげに和気藹々と談笑を躱しながらそれぞれの学校を目指していた。

 そして場所はシラヅキへ最も近いバス停。

 バスの扉が開けば、そこからどっと学生たちが降りてくる。バスが学校までではなく学校に近い場所で停止するのは安全性が関わっているらしい。そしてそんな中に陽皐秀樹は混じって歩いていた。

 行き交う生徒達の会話はありきたりだったり、話題に即したものばかりだった。

 ゴールデンウィークの間どうしていたか、だの。

 連続強姦魔が捕まってやっと安心出来るね、と言った女子の安堵の声がしたり。

 今朝ニュースで言ってたんだけど海外の有名プロボクサーの遺体が墓から消えちゃったんだって、と言った不思議な事件に纏わる話のネタだったりだ。

「ふああ……」

 そんな会話をつい耳で拾ってしまいながら、大きな欠伸を一つ零す。

 こくり、こくりと首が傾げる。それもある意味、致し方ないだろう。

(あー……、しかし昨日は本当、怒涛の出来事ばっかあった感じするぜ……)

 たはは、と苦笑を浮かべて秀樹は肩を僅かに下げる

 個人的にはテレビのニュースより、遥かに鮮明な光景。

 なにせ、昨晩に秀樹はヒーローにあったのだ。アメコミに登場する――と言った容姿よりかはもっと特撮ヒーローの様なヒーローに。なにかの撮影かと言おうにも、撮影要素が一切無い。暴漢に襲われて助けられました、みたいな顛末だ。

(そして帰ったら、帰ったで優佳さんが不機嫌そのものでありました、とさ)

 さっと秀樹の顔が昨晩を思い出して蒼褪める。

 昨日の夜から今日の朝にかけて終始つーんっとそっぽ向かれてしまったのだ。

「嫉妬かね?」

 とか、呟いたら怒涛のごとく怒られた。諸々投げるわで手が付けられず、ご機嫌を損ねてしまったらしい。

(仕方ねぇな。時間ある時に、なんか機嫌直す事しとくか)

 疲れて帰ったら更に疲れる出来事の立て続け。中々に過酷だが、妹がなにやら嫉妬っぽい反応を示した事に関してはむしろ秀樹ポイントは高くなるのだ。むしろ、足蹴にされるシーンを想像する方がせつないだけに感謝感激である。

 優佳にそれを言ったら「きもいです」とか言われそうなので言わないが。

「ふへへ」

 そして最後に秀樹は思い出し笑いでにやけていた。

 確かに大変な事の立て続けであったが、それでも秀樹の心は浮かれている。なんといったってそれは女子と――美少女とデート出来た事が嬉しい限りだ。

(クラスのモテない男子諸君――俺は一足先に冒険をしちまったぜ)

 ふっと勝ち組の笑みを漏らす。

 周囲の登校する男子生徒が「おい、アイツマークな」、「ああ。なんていうか女子と良い事起きてしまったぜオーラを感じる」、「そうそう。恋人が出来る前の何故かモテまくる連中と同類の匂いがする」と言う発言が零れるが、有頂天な秀樹は悲しいかなそれに気づく事はない。

 そしてそんな秀樹はその視線を受ける最中に、一人の女生徒を発見した。

 紫色のロングヘアー。それだけでも特徴的だが羊の様なあの不思議な髪の跳ねを間違えるわけもない。軽く走って駆け寄ると思い切って秀樹は声をかける。

「お。よー、明日香。はよっす」

「ひでき、だ。……はよ、っす」

 挨拶をすれば、どう挨拶すべきか悩んだのだろう一拍の後に秀樹と同じ挨拶を手を挙げて返す純真さに秀樹は「お前やっぱおもしれーな」と快活な笑みを零していた。

「……ひできの、感性は、へん」

「唐突にひどくね!?」

「そんなこと、ない。私と、話して、面白いこと、ないよ?」

「ははは。バカ言うな明日香は」

 はっはっは、と可笑しそうに笑いながら、

「――明日香。可愛い女の子と会話してて楽しくないなんて男はいねぇんだよ。そうでないならそいつは男じゃねぇな絶対」

 と、やたら力強い語調で彼女の肩に手を置いていた。

 明日香が「そ、そう、なんだ」と何だか引き気味に頷いているが気のせいだろう。

「それはともかく、昨日はありがとな明日香」

「? なにが?」

「いや、買い物つきあわせてもらってさ。こう言っちゃなんだが、デート気分楽しめて嬉しかったんだぜ俺?」

「そー、なんだ?」

「おう」

「でも、デートじゃ、ない。ひできと、私は、友達。恋人とかじゃ、ないし」

「お、おう。勘違いするなって言いたいんだな。結構ずっぱりさんな明日香さんだぜ」

「なに、が?」

 相変わらず表情の変わらない様子で小首を傾げる羽叶。

 これは勘違いするなというよりも、むしろ事実を述べただけの反応だと秀樹は悟って「相変わらず独特だぜ……」と、明後日へ視線を向けていた。羽叶がますます頭に疑問符を浮かべていたが、小さく口を開いて、

「でも、私もひできと、買い物、楽しかった、よ」

「そうか? そうか? それならよかったぜ」

「友達と、行けたのは、嬉しい」

「……そっか」

 ニッと笑みを浮かべ、明日香の頭に手を置く秀樹。

 友達と一緒に出掛けた事が無かった可能性が高い。明日香羽叶は不思議系に思われていると言う事は秀樹も知っている。だからこそ、この発言は秀樹としては実に嬉しかった。

「ひでき」

 だから、

「また、今度も、一緒に、出掛けてくれ、る?」

 無表情に、しかし僅かにキラキラした期待感を宿した瞳を持つ少女に陽皐秀樹は全力で答えよう。

「いいぜ。こっちから頼みたいくらいだ」

「秀樹から、だと、変なとこつれこまれそうだから、考えさせて、ほしい」

「……うん。女子からのお誘いは断るな。男子からのお誘いは警戒しろって事かな?」

「なんか、変な本に、書いて、あった」

「明日香さんは知識が豊富なんだか乏しいんだかわかりづれぇなぁ!」

「男子の、誘いは、熟考せよ、って」

「おお、そうか。確かに間違いではないな。ただ俺のハートはブルーハワイな気分だぜ」

「……それ、悲しいの、陽気なの、どっち、なの……?」

 不思議がる羽叶の質疑に秀樹は楽しげに笑って返す。

 そうこう話していた秀樹だったが前方にまたも見知った人影を見つけて「お」と小さく声を零した。隣を歩く友人らしき少年と談笑している様で、丁度横顔が確認できた。顔立ちはイケメンで整っているが如何せん、目つきが酷く悪い――悪人面とも言えるイケメンの顔を確認すると少し離れた位置から声を発した。

「よ、おはよーさん鎧潟」

 すると振り返った男子生徒は秀樹を確認し、羽叶を一瞥しびくりと体を震わせる。

(どしたアイツ?)

 秀樹が訝しむも、クラスメイトの鎧潟楔は、すぐに挨拶を返してくれた。

「お、おう。おはよう陽皐」

「ん? 知り合いか? おはよ、誰だか知らないけど」

「おう、はよー。誰だかわかんねぇけど」

「ははっ」

 楔の友人が朗らかに笑う。

 そんな中で秀樹は軽く首を捻る。

 普通に挨拶しただけのはずなのだが、思いのほか驚かせてしまったのかね、と考えた秀樹だったがはたと気づく。

(そう言えば隣に明日香がいるし、驚かせもするか)

 これはあれか。休み明けに知り合いに彼女が出来たとか思わせたのだろうか?

 しかしここで調子づいたところで待っているのは羽叶の容赦ない事実スマッシュと、楔の呆れ半眼だろう。ふっとシニカルな笑みを浮かべた秀樹は嘆息と共に泡沫の見栄を捨て去った。

「そっちの子は――お前の知り合いか陽皐?」

「ああ。明日香ってんだ」

「明日香羽叶。よろしく。ひできの、ともだち、してます」

「そうか。おはようとよろしくだな。俺は鎧潟楔」

 そう言って差し出された手を羽叶は一瞬躊躇したがすぐに握り返す。

「で。鎧潟は連休どうだった?」

「え?」

「いやだからゴールデンウィーク。なんかあったかねーって」

「そ、そうか。いやあ、こっちは大変だったぞ。お前達の方は――何かあったか?」

「へへん。聴いて驚け。俺はここにいる明日香と――」

「荷物持ち、したり、して、くれたの」

「――ってわけだ」

「いや、ドヤ顔で決め込んでるけどそれはどうなんだ……いや、羨ましいが」

 美少女と出かけられた。それだけで男子高校生足るもの、素晴らしい心持になれるものである。楔の「よかったな」と言う言葉に「だろ? 羨ましいだろ?」と自慢すれば「まあ結構。でも言いふらしてると男連中に粛清されるぞ」、「それが困るよなー」などと馬鹿馬鹿しい様な会話を弾ませる。

「それで鎧潟はどーよ? 何が大変だったん?」

「何が大変だったと言うと色々あるんだが……」

 ははは、と楔は苦笑を零し、

「……本当に、大変だったものでな……」

 眼が死んだ。

 よくよく見れば目元に隈が出来ている。

「……お前、どうした? 連休徹夜でゲームでもしたんか?」

「そんなものかな……」

「お、おおう。徹夜もゲームも程々にしとけよ」

「ああ。肝に銘じておくよ。まあ、無理そうだけどな……」

「そ、そうか」

 どうしたのかね? と、秀樹は内心汗をかきながらも、踏み込んだ事を訊くのもアレなので言葉を濁して閉口する。そんな様子に「悪い」と苦笑を零すと楔は、歩行速度を上げた。

「ほら、急ごうぜ。遅刻してしまうぞ陽皐。咲夫(さくお)、行くぞ」

「オッケー」

「ん? ああ、それもそうだな。明日香、急ぐぞ」

 そう言って咲夫と言う少年と共に駆け出した楔の後に続き秀樹は明日香の手を握って歩き出す。羽叶は一瞬驚いた様子だったが、すぐに小さく笑みを零して、

「ひでき」

 ぽそりと小さな呟きを洩らした。

「ん?」

「あの、ね」

「おう」

「学校、いつもより、なんだか、楽しそう」

「……」

 唐突に告げられた一言に秀樹はしばしきょとんとする。

 しかしすぐにニッと快活な笑みを浮かべると、

「バーカ。学校は元からすげえ楽しい場所に決まってるだろ? 図書館ばっかにいるから見落としちまうんだぜ?」

「そう、なんだ」

「そうそう」

 うんうんと頷いて。

 秀樹は羽叶の手を取りながら広大に存在する芳城ヶ彩の校舎を見据えながら、胸の奥にたくさんの大きな期待感を膨らませていた。入学した時とは別種。あの時よりも確実に面白い事が身近に感じられている高揚感。そんな溢れ出る想いを胸に、

「さ。行こうぜ、明日香」

 羽叶の手を取り、秀樹はどこか新鮮な気持ちを胸に抱き歩きはじめていた。


       4


 学校に来るのは今まで通りだ。

 だが今日の弦巻日向は今までの心持とは全く別物であった。歩き見る景色がまるで違う。そよぐ風がどこか心地よい。世界が色づいて見えている。ウキウキとした弾む様な気持ちが胸の中で芽吹いている。そんな心の風を体現する様に日向は髪型も変わっていた。先の戦いで何故か伸びていたものだから後ろで留める様な髪型になっていたのだ。

 歩くたびにそよそよと揺れる毛先は彼の心の在り様を現す様に弾んでいる。

 早く、早く。早く、自分のクラスへと気持ちが急かすままに日向は自らのクラスの前へと辿り着く。

 心臓がトクンと高鳴る。

 この先にいるだろう少女の姿を思い浮かべ、頬が火照った。気持ちの正体を知るだけでここまで全部が変わってしまうものなのか、と言う衝撃と戸惑い。仮眠も一切出来ず、体中が、心全部が彼女を求めて止まない程だったのだ。

 扉の前で大きく深呼吸し、どうにか調子を整えようと試みる。

 しかし、網膜に焼き付いた少女の笑顔にぽふんっと日向は真っ赤になってしまう。

 う~っと恥ずかしさから唸り左右にぶんぶん首を振る。

「エリカさん、好き。頑張るしっ」

 自分を鼓舞し、扉に手をかけた。

(頑張らなくちゃ。行動しなくちゃ恋人なんて出来っこないから。わうー……草食系になるなヘタレるなっ。肉食系になるの、がおーっ)

 絶対にヘタレない。

 ヘタレてなるものか。

 自分がやれる限りの気持ちを見せて、少年は高嶺の花の様な美少女目掛けてひた走る。そんな気持ちを胸に扉を開け放つと、いつも通り、自分の席へ歩いていく。

 そこに――少女はいた。

 相変わらずの華やかな美しい茶髪のロングヘアー。

 透き通る様に美しい明るめのブラウンアイ。

 すらっとしたスレンダーなモデル体型に、きゅっとくびれた腰から続く服を押し上げる豊満な胸元を持った、少女として完成された様な綺麗な少女。内側に宿る心も清廉潔白な程に厳しくも優しい心根の持ち主だ。

 新橋エリカ。シラヅキの制服が良く似合う美少女が、いつものように、友人達と談笑している光景がそこにはあった。

 その光景。エリカと言う少女を瞳が識別した瞬間に日向の心がバクンと高鳴る。


(ああ、やっぱりボクは――エリカさんが、好き、になってる)


 それはきっと夕陽に染まる世界で見た彼女の笑顔が発端で。

 いや、もしかすれば出会った時からかもしれなくて。

 ぽーっと顔が火照りそうになるほどに、目の前の少女はどこまでも輝いていた。湧き出る嬉しい、愛しい、恋しい、と言う気持ちをそのままに少年はエリカの傍に寄るとはしゃぐ様に挨拶をしていた。

「エリカっ、エリカっ♪ おはよーっ♪」

「え? あ、ああうんおはよう。……おはようだけど、なんか凄く、その、えっと、顔が近くないかしらね? というか、髪型変わってない? ――って、何よ急にどうしたのよ? そんなにジッと見られると気恥ずかしいんだけど……」

「見惚れてるだけだから気にしないでいーです♪」

「うん、安定のアンタらしさだけど気にするからね?! がっつり気にかかるんだからね!?」

「今日も弦巻君は大胆だね~っ、おはよっ。ヘアスタイル変わったんだ?」

「おはよう、弦巻君。みたいだね、似合っているよ」

「おはよーございます、刑部さんも、クローリクさんも♪ えと、これは少し色々ありまして髪型変えたんですよね」

 初音(はつね)=V=クローリク。

 刑部(おさかべ)真美(まみ)

 エリカがクラスメイトの中でも親しくする友人である両名にも嬉しそうに笑顔で挨拶を返すと日向は本命である少女に熱を帯びた眼差しを向ける。

「……えと、弦巻?」

 何故かエリカが頬が熱くなるのを感じた。

 予感があった。

 日向と幾度か接した彼女だからこそ感じる予感が。嵐の前触れに等しい日向のどこかぽーっとした様子をエリカが無自覚に知っており、無自覚に理解しているが故に。

「エリカさん、エリカさんっ♪」

「な、何よもう――って、きゃっ」

 驚きの声を奏でるエリカ。

 彼女からしてみれば当然の反応だ。

 何故なら、彼女の身体に今、日向が満面の笑みを浮かべて嬉しそうに抱き着いてきたのだから驚くなと言う方がおかしい。その上、日向は「う~~~~♪」と、嬉しそうな声を洩らしながらエリカの胸元に顔を埋めて、すりすりとしだしたではないか。伴い、エリカの豊満な千房がむにゅむにゅと柔らかく日向の顔を包む様に様々に形を変えてゆく。

「ちょ……! ば、やんっ、こら……っ、なに、女の子の、胸に……ッ! ああ、もう本当なにしてんのよ、このエロわんこっ!」

 ぎゅーっと一生懸命に抱き着いてくる日向に対してエリカは驚天動地の動揺を隠せぬまま真っ赤な顔で声を上げた。

「離れなさい、殴るわよ!?」

 と、叫んでも「ヤー」と幼子の様な反応で、首をふるふるして、イヤイヤと返すものだから無性に恥ずかしさが込み上げてきてしまい、同時に何がどうして日向が急にこんななったのか、と言う疑問が浮上する。

(な、なんなの、ちょやっ……ちょ、バ、カァ……! 一生、懸命にぎゅってしすぎ……!)

 最後に逢ったのは、デートの日だったか。

 その後、メールのやり取りをした。

 その時点で日向から受け取る彼の好感度は正直エリカからしてみればこっぱずかしく鳴る程に膨大だったと言うのに、

(今日のコイツ……この間より、ずっと私の事……なんだか欲しがってるんだけど!? なんか胸元でさっきから「エリカさん、エリカさんっ」って名前ばっか連呼してるし……!)

 そして口や顔を動かすものだから感触が伝わって逐一、感度を刺激されてしまう。

(女の子の――っていうか私の一番、弱い部分で何をしているのよコイツは……!)

 ぽよぽよとしたエリカの胸元の感触を嬉しそうに満喫する日向の顔をみて真っ赤になって赤面するエリカは、

「い、いつまですりすりしてんのよ離れなさいばかっ」

「うー、でも今、本当にすごくて凄いの」

「凄くて凄いのって言われたって意味わかんないわよ! ……も、もうっ。そんなくっついてこないのっ」

「うー」

 想いが伝わらない事のもどかしさからなのか、日向はより一層エリカへのすりすりとした甘え方を見せる。そして彼女の頬にふっと口を触れさせた。

「――」

 首から頭頂目掛けてエリカの肌が真っ赤に染まる。

 今、何をされたのか。エリカの思考が思わず停止してしまう。だが、同時にこの感触が覚えがあるものだから――覚えがあるという事自体にも赤面して――少女は慌てふためいた。

「な、なななな……! あ、あん、あんたは朝から人に何してんのよ!? 急にほっぺにキスしてくるとか馬鹿なの!? アホなの!? しかもちろって舐めたでしょ!?」

「うー。だってエリカ好きなの。アピールたくさんするしっ!」

「たくさんしなくていいのっ! す、好きなのはわかったから!」

「わかられるの恥ずかしいからヤー」

「どっちよ!? わかってほしいのかわかってほしくないのかどっちよ!?」

「うー、なんかもうわけわかんないくらい大好きなんだし! 好きでたまらないし、すっごくエリカが恋しーの……!」

「は、はい!? た、たまらないって言われたってねぇ……!?」

 うー、と真っ赤な顔で一生懸命にエリカへ好意を伝える様に抱き着いてすりすりする日向。当然のごとく、エリカの友人らはそのさまを見守っているわけで、

挿絵(By みてみん)

「わー、弦巻君てばだいたーん!」

 ふわぁ、と口元に手を当てて初音が朱面してしまう。

「エリカが本当に大好きなんだな、弦巻君は」

 そんな様子を見守りながら真美があはは、と可笑しそうに笑っていた。

「いやいや笑ってないでどうにかしてくんない二人とも!? 私、生きてて今が一番恥ずかしいくらいになってんだけど!」

 微笑ましいものを見る様な二人の視線に抗議の声を上げるエリカ。

 なにせこうして日向がすりすり甘えてきているのは教室内なのだから当然だ。周囲から驚きや嫉妬の様な声が聞こえてくる。絶対に関係を勘繰られる、と言う羞恥が体の奥底からむくむくと沸き起こってくるのだ。

 だから友人二名にどうにかして、と訴えかけるが、

「え? えー……でも、弦巻君本当に幸せそうだし邪魔するのもいけないかなってっ」

「そうだな。なんだか見ていて心温まる光景だし……」

「ほんわか見守ってないで!? 私は体も温まる勢いなんだからね!?」

「ふふ。けれど、エリカも少し嬉しそうじゃないか?」

「うんうん。少しだけ許してる感じがっ」

「してないっ! 嬉しそうにもしてないしっ!」

 必死になってエリカは反論する。

(そりゃ好意をこんなに持たれて嬉しくないわけじゃないけど、こんなに甘えられてくるのは恥ずかしい――じゃなくて!? そうじゃないでしょ、なにを変な方向に考え走ってんの私!? ここは鋼の意思でそんなことないって言う場面なわけで……!)

 日向の体温が自分の頭に熱でも帯びさせはじめているのか、ふっと湧いた恥ずかしい想いを必死になって振り払うエリカだが、その間にも肝心の本人が喜色満面の笑顔で体温を混じり合わせ続けてくる。

「エリカさん、あったかいし、おっぱいふかふかで気持ちいーです♪」

「うっさいばかっ! 女の子の胸でふにゃふにゃしてないの!」

「ふにゃふにゃしてないし。好き好きしてるんだし!」

「こっぱずかしい台詞ばっか吐いてんじゃないわよ、このどすけべわんこっ!」

 休日明けの教室にエリカの必死の叫びが木霊する。

 自分の胸元で、エリカと言う少女を堪能する様にすりすり甘えてくる甘えん坊な同級生の姿にエリカは頭が火照りそうだった。

(ああ、もう! 本当にもう! 今まで男子とは距離置いてたのに、コイツだけはホントに一生懸命ぐいぐいきまくるんだから……!)

 普通こんな恥ずかしい事しないでしょ、と内心で爆発するエリカだったが次の瞬間に耳に聞こえてきた声に最早どうしようもなく赤面した。

「お、おい……。新橋さんと弦巻が……!」、「嘘だろバカな……! 入学以降、数多の男子生徒に告白されても断り続けた新橋が……!」、「弦巻あの野郎、あんなくっつきやがって……!」、「そう言えば、ゴールデンウィークの間に……」、「二人でデート……」、「やっぱり何か進展する様な事が……」。

 クラスメイト達の声がこんな時ばかり鋭敏になった聴覚に届いてくる。

(ああああああああああああああああああ……!? やっぱり、何か誤解が加速しまくってんだけどぉおおおおおおおおおおおおおおお!?)

 内心で絶叫する。

 そりゃあそうだ。白昼堂々こんな行動に及ぶ男女がいればエリカだって『仲が良い』ではなく『恋人なんだろうな』と思うに決まっている。加速的に自分達の関係が勘違いされているのが普段、恋愛関係に鈍いエリカにだってわかってしまった。

「く、ぅ~っ」

 俯いて全身を沸騰させる。

 生まれてこのかた、ここまで恥ずかしい気持ちになったのも、恥ずかしい程に恋愛感情ぶつけられたのもエリカと言う少女にとって初めての事だった。

(わんこが懐いてるだけ、わんこが懐いてるだけ、わんこが懐いてるだけ……)

 真っ赤な顔でぶつぶつと必死に唱える。

 そんな恥じらう最愛の女の子の声に陶酔する様に日向は「わうー♪」と子犬の様な甘えた鳴き声を零しながら嬉しそうにぎゅっとより一層強く抱き着いて、

「――絶対、エリカさん欲しいし頑張る。ヘタレたりなんかしないし」

「は――はぁっ!? い、今なんか妙な事言わなかった!? な、なにおかしなこと言ってんのよバッカじゃないのもうホントに!」

 ついぽろっと零した言葉にエリカを仰天させて、日向は想いを明確に表現しゆく。

 恋心は芽吹き、息吹を奏で始めた。

 さあ――想いを遂げるべく日向の胸中に咆哮は歌を歌う。

 世界は旋律に溢れ、色は無限に溢れ出てゆく。

 されどまだ足りない。至福の感情へはまだまだ足りない。限りなく際限なく限界など消えてなくなれとばかりに想いは大海に漕いでゆくのだから。

 日常は想いと共に加速してゆく。

「エリカーっ♪ エリカーっ♪ 大好きーっ♪」

「知らないってんでしょ朝からそんな大好きオーラ満々にして抱き着いてすりすり甘えん坊になってるんじゃないのっ! ひゃんっ、ちょ、やぁ……っ、そんな胸元に埋まってないで……殴る! 絶対に殴るんだからねバカ――――ッ!?」




第十章 後篇:Colorful Heart Beat!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ