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彼方へのマ・シャンソン  作者: ツマゴイ・E・筆烏
Troisième mission 「進退す身辺」
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プロローグ 新たなる日常の開始

プロローグ 新たなる日常の開始


 三月三〇日。

 その日は天気に恵まれた晴天の青空が広がっていた。弦巻(ツルマキ)日向(ヒナタ)はそんな四月間近の程よく暖かくなってきた気候の中で静かに歩みを進めてゆく。快晴の空、何処までも広がってゆく壮大な大空を見上げながら、そんな空模様とは打って変わって鬱憤溜まった、おおよそこの天気とは似つかわしくない溜息を吐き出して小さく呟いた。

「道に……迷いました……」

 全くと言っていい程に覇気の篭らない声。

 周囲にきょろきょろと視線を配らせ、汗を浮かべる少年の姿はまさしく迷子と表現出来てしまうものであった。高校一年生にもなる年齢でこのザマは何とも情けなくてマンホールの下に埋まってしまいたい、と思い悩む次第だ。

 だけれど、日向は何時までもマンホールの下に居続けるわけにはいけない。

 例え、現在迷子になっている理由のほぼ大半がマンホールの下で生活していたと言う奇抜な生活背景の引き起こす『知らない土地は歩けないですよ、地元でも』と言う現象であるとはいえども――否、むしろそこからの脱却は必要不可欠の域にある。

「うう……ここは横浜何でしょうか……? ああ、もう、全く知らない風景ばっかりですよ、こんな大通り……! 裏通りしか行った事ないからわからないですよ……!」

 それはそれでどうなのだ、と言う事をさらっと零す。

 幼少期から最悪な父親である弦巻赤緯に育てられた日向は神奈川県横浜市出身とはいえ、その土地勘は恐ろしいレベルで無いと言っていい。より正確には一目に付きやすい大通りの域会をした事が無く、いつもコソコソ裏通りで移動していた経歴から彼には一般人がよくよく行き交う大通りが最早別の世界に見えていた。

 行き交う人々が視線で『田舎の子かしら?』、『迷子かな?』と言う視線を向けてくるのが、何とも悔しい話である。

 だからこそ見返さねばなるまい。

 そう、僕だってはまっ子なんですから!

 ぐっと拳を握り緊めて、

「ああ、しまった! 買い物リストがくしゃくしゃにぃっ!」

 思わず握りつぶしてしまった手の中の一枚の紙のリスト。

 そこには数点の品と思しきものが羅列して記載されていた。日向はしょぼんとしながらも握りつぶしてしまったリストを元に戻してゆく。

「ええ、と……まずは」

 視線でリストの一番上の品を目で確かめる。

「『マリアンヌ・フレール』のブレンド紅茶二〇〇グラム、なんですよね……」

 何処に売っているのだろうか。

 いや、売っている場所はわかるのだが、売っている店は何処なのだろうか。日向にとって今一番重要なのはその場所を突き止める事にあると言えた。そして彼はそこで目的の品を入手しなくてはならない。

 それこそが――、

「何としても買い物を成功させてみせるんです……! 何たって僕の雇用が掛かってるんですからね……!!」

 再び天に向けて握り緊めた拳を突き上げて、そう意気込む。

 そう――日向は今、大事な、大切な、重要なミッションに挑んでいる最中であった。ミッション・コード『ファースト・エランド』と名付けられた、この自身の進退に関わる重要な使命を全うせねばならないのだ。その内容は指定された店で指定された商品を購入し、無事に屋敷へ戻ってくると言うもの――。

 早い話が初めてのお使いである。

「きっとこっちに歩けばある気がしますしね!」

 何の根拠も無く適当に決めた左の方角目指して突き進む。

 それがミッション開始、一二分後に手渡された地図を紛失して、都会のど真ん中で迷子街道まっしぐらな弦巻日向の帰国後の風景であった。

 何故、そんな事になっているのか。

 その点に関して言及をするとなると時間は今より数時間程前に遡る事となる。

 そう、あれはトルコから帰国し、辿り着いた迎洋園家の邸宅で一晩を過ごした後の事から始まった出来事になる――。






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