表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われし鳥の生涯  作者: 鳥無し
4/21

第四話『日常』

 鳳郎ほうろう凰子こうこが出会ってから、二年以上の時間が過ぎた。

 その間にこの二羽の赤い鳥は愛をはぐくみ、二度卵を産んだ。卵の数は二度とも四つ。そのすべての卵が無事に孵り、島に住む赤い鳥の数は全部で十羽となった。

 そして今年も凰子が三つの卵を産み、鳳郎は心から幸せを感じていた。

 しかし、大きな幸せを噛みしめている中で、鳳郎は小さな不安を抱えているのだった。


   *    *    *


「父さん。今日はこれくらいで良いんじゃないですか?」

 一番目に生まれた息子鳥――名前を敬介(けいすけ)という――が、今日集めた食料を見ながら鳳郎にそう言った。

「ふーむ、そうだな。あまり採りすぎるのも良くない。母さん達も腹を空かせているだろうから、戻るとしよう」

 鳳郎はそう言うと、あたりで食糧探しをしている子供達を呼ぶために、一声鳴いた。

「んー! やっと終わりかぁ。今日は暑いし、この後は水浴びに行こうかな」

 傍に居た五番目に生まれた娘鳥――名前を(あかね)という――が、バサバサと羽をはためかせながらそんなことを言う。すると敬介がたしなめるように茜を睨んだ。

「まったくお前は……ろくに食料を探しもしないくせに、休むことばかり考えて……」

「えー、でも敬介兄さん。せっかく集めた食料を、他の小動物に取られないように見張るのも立派な仕事です。私が働いていないように言って、偉ぶるのはずるいと思います」

「見張りは三羽もいらない。俺と父さんだけで十分だ」

「……それがずるいって言ってるんだけどなぁ」

 茜が呟くように不満を口にすると、敬介がさらに小言を言う。茜は舌を出してそっぽを向き、果物をいくつか掴んで飛びあがった。

「あ、コラ! まだ話は終わっていないぞ、何処へ行く!?」

「母さんに食べ物を届けに行くのです。私はその後で、自分の食べ物を探しますよ」

 敬介は後を追って叱りつけたい衝動にかられながら、この場を離れる訳にも行かず、翼をはためかせた。

「父さん! あんなわがままが許されるのですか?」

 しばしの葛藤の末、敬介は微笑ましそうに兄弟のやり取りを見ていた鳳郎に、自分の不満をぶつけることにした。

「あいつは兄弟の中でも一番甘えん坊だからな。食料を一番に持って行って、褒めてもらいたいのだろう」

「だからと言って、叱りもせずに……」

「皆で集めた食料は食べずに、自分で食糧を探すと言っていたのだから、それが罰だということで良いではないか」

「父さんがそのように甘やかされるから……」

「やれやれ、また言っているのですか兄さん?」

 鳳郎の呼び声を聞き、食料を探していた他の二羽も帰ってきた。

 六番目に生まれた息子鳥――名前を(しゅう)という――が、呆れ顔で兄を見ながら地面に降り立つ。

「茜姉さんのわがままは今に始まったことではないでしょう? そのように怒ってばかりいては、兄さんも疲れてしまうでしょうに……」

「だからと言って放っておくわけにもいかないだろう! 叱る者が居なくなれば、あいつはいっそうダメになってしまうぞ!」

「ふぅ……」

 これ以上反論すれば、兄の怒りの矛先が完全に自分に向くことを知っている周は、そこで沈黙する。

「父様、これ……」

 最後に生まれた娘鳥――名前を澄乃(すみの)という――が、小さな木の実を鳳郎に差し出す。

「おお、私の好きな木の実だな。ありがとう!」

「はい……」

 褒められた澄乃は、顔を伏せて照れる。鳳郎はそんな娘鳥の頭を、軽く撫でてやった。


「お前達は先に戻っていてくれ。私は(ほこら)によってから帰ることにする」

「はい、分かりました。母さんにもそう伝えておきます」

 敬介がそう答え、子供達はそれぞれ自分達の分を掴んで飛んで行った。

 鳳郎はそれを見送ってから、島の中央に向かって飛んで行った。


   *    *    *


 島の中央にはとても高い崖があり、そのてっぺんには、鳳郎が二年前に作った祠がある。

 とは言っても、別に立派なものではない。細い木を何段にも組み上げ、太い木の枝をそこに立てただけのものだ。

 しかし、それだけのものを作るのも、鳥にとっては重労働だった。

 それに、大切なのは見た目ではなく、どのような思いを持ってそれを組み上げたかだ。鳳郎はこの祠に祈るのを忘れた日はない。


 鳳郎は祠の場所につくと、食べ物をいくつか供え、姿勢を低くして祠に礼をする。

「女神様。今日も健やかに過ごすことが出来ました。病に倒れることなく、嵐に襲われることも無く、私達は幸せに暮らすことができています。これもすべて、この地を与えてくださった女神様のおかげでございます」

 鳳郎は淡々と祈りの言葉を口にする。子供達の中には、そんな鳳郎の姿を奇妙な目で見て、笑う者もいる。

 凰子さえも、直接馬鹿にして笑うようなことはしないが、女神の存在は信じていないらしい。実際にその姿を見ていないのだから無理もないが……。

 実際に女神の姿を見、その言葉を聞いた鳳郎だけが、女神に対して敬いの心を持っている。


「さて……」

 鳳郎はいつもの祈りを終えると、大きく羽ばたいて空に舞い上がる。

 中央にそびえるこの崖からは、島のどこにでもすぐに向かうことができる。向かうは愛すべき家族の待つ場所だ。

 爽やかな風と暖かな日の光を浴びながら、鳳郎は優雅に飛ぶ。いくらも飛ばないうちに、目的地に着くことができた。


「ああ、鳳郎。おかえりなさいませ」

 ずっと巣の中で卵を温めていた凰子が、鳳郎の姿を見つけて頭を下げる。子供達は食事をしているところだったらしい。

「ただいま凰子。変わったことはなかったか?」

「はい、とても穏やかに過ごさせていただきました。……すみません、私はずっと巣の中で休んでいて……」

「何を言う。お前には卵を温めるという大切な仕事があるではないか。むしろ、外に出してやれなくて済まなく思う」

「ふふ……大丈夫です。子供達が話相手になってくれますので」

 凰子の横には、二番目に生まれた娘鳥――名前を菜穂(なほ)という――がちょこんと座っていた。そして、その後ろに隠れるように、先ほど餌さがしをしていた末の娘の澄乃も座っている。

「お父様。今度生まれてくる雛達は、何羽が雌で何羽が雄でしょうか?」

 菜穂が鳳郎に向かってそんなことを言ってきた。

「さて……そればかりは生まれてみないとな……。お前はどちらが多い方が良いのだ?」

「もちろん(メス)鳥が多く生まれた方が嬉しいです。今の兄弟は、(オス)が五羽も居るんですよ? しかも、茜はあんな性格ですから、落ち着いた話ができません。今も虫を追いかけたり、水を勢いよく浴びたりしているのでしょう」

 菜穂は、後ろに隠れている妹鳥の澄乃を優しい目で見る。

「私はこの子のような妹が欲しいと思っているのです。次に生まれる兄弟は、絶対(メス)が多い方が良いです」

「わ、私は茜姉様も素敵だと思います!」

 澄乃は、菜穂の視線を避けながらそう言った。すると菜穂は、そんな澄乃に体を寄せる。

「まったく……お前はどうしてそんなに可愛いのですか!」

「ね、姉様……やめてください……」

 澄乃は、菜穂から逃げるように飛び立っていった。

 菜穂は、鳳郎と凰子に一度頭を下げ、愛しい澄乃を追いかけて空に舞い上がる。なんだかんだいって、姉妹鳥三羽は非常に仲が良い。これから三羽で集まって遊ぶのだろう。


「ふふふ……賑やかでいいことですね?」

「ああ……そうだな……」

 凰子の言葉に、鳳郎は少し歯切れ悪く答える。違和感を覚えた凰子は、首を傾げて鳳郎を見た。

「何か気になることでも?」

「いや……その……な」

 鳳郎は考え込むように空を見上げた。何かを言おうとしているのだが、言うべきかどうか迷っている様子だった。

「……言い出しにくいことなのですか?」

 凰子はあまりに鳳郎が話をしないので、心配になってきたらしい。そんな凰子の様子を見て、鳳郎はようやく話す決意を固めた。


「実は……新しい島を探そうと思うのだ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
   ★上の拍手ボタンから指摘、意見、感想歓迎!★一文字『あ』と書いてもらえるだけでも、どの作品への拍手か分かるので助かります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ