第三話 預言者
~ゼノーシス国 宰相side~
「手筈は整っておるな?」
「仰せの通りに」
くくく、と含み笑いをする宰相、モゼール。
「ロセスを手にしたのは大きかったな」
「ええ、やっと王の権威を失墜させられますね」
「おい、あまり迂闊なことをしゃべるな。……どこに目が付いているかわからないからな」
「これは失礼を」
不機嫌な声をだしてはいるが、目は歓喜に満ちている。
その目が、部屋の入口にたたずむ長身の男に向いた。
「預言者ロセス様、くれぐれも今日は頼みましたよ?」
「……この下種がっ!」
「おやおや、言葉はお選びください。まぁ、あなたがそれでいいというのなら構いませんが。ところで、奥様はお元気ですか?」
ロセスの肩がびくっと震えた。
憤怒の顔で睨みつけるロセスだが、モゼールは頬笑みでそれに答える。
「くそっ!」
ロセスと呼ばれた男は、壁を殴りつけて出て行った。
それを冷笑して見送ったモゼールは、側近を呼ぶ。
「ロセスの監視とあやつの妻の牢の番を増やせ。決して目を離すな」
「かしこまりました」
「今日で変わる。今日から変わる。私が、この国の王となるのだ……!」
~ソフィアside~
今日は俺の13歳の誕生日だ。
精神年齢30歳。でも17歳から止まったままだぜ!
……だって年齢相応に扱われるんだ、成長するわけないだろーが。
そういや、前の世界で精神は体に引っ張られる、ということを聞いたことがある。
……一向にその気配がないんだが。女の子にならないんだが。
でもまぁいっか。生きてるぶんには支障ないしね。
俺は今に最高を求めたいんだ。
……体は女の子だけどね。
「ソフィア様、なにをしておられるのです!」
「なにっておまえ、見りゃ分かんだろ、昼寝だよ昼寝」
庭にある木の枝で寝ていた俺のところに、アイメンが血相を変えて走ってきた。くそ、もうばれたか。
「そうではありません、もう来賓の方々がお集まりになっているのですぞ!」
「えーめんどくさいー」
「ソフィア様!」
さっきも言ったが今日は俺の誕生日だ。13回目の。
それだけだったらなにも問題はない。むしろ誕生日はうれしい。普段食べない豪華なものとか食べることができるしな。
だだ、異常にめんどくさい。友好国の人とか、色目使ってくる貴族のばか息子とかばか息子とか。俺は男だと叫びたい。
それに言葉づかいを直さないといけない。
それがすっっっっごいつらい。なんか変態になった気分になるんだ。
「さ、皆様をあまりお待たせにするわけにはまいりません。今日はあの高名なロセス様もいらっしゃいますからな、しっかりとみだしなみを整えませんとな」
……あぁ、逃げたい。
ところかわって大広間の前。
「おそかったじゃないか、ソフィア」
しゃなりしゃなりと歩き、大広間についたらリゼル兄が扉の前で立っていた。
「わかっているとは思うが、今日は言葉使い「わかっていますわ、リゼルお兄様」……そ、そうか」
にっこりとほほ笑む俺。この時から、すべてをふっきるために。
そしてリゼル兄、そこで顔を赤くするな。
「あぁ、日ごろとのギャップがすばらしい!」
「うふふ、なにをおっしゃるのかしらロクフェルお兄様は?(その口閉じねーと殺すよ?)」
「目が笑ってませんよソフィア……」
どうやら変態とフレン兄もいたようだ。
「アリシアもいるよー!」
とてとてとて、ぱふ。
もはや麻薬ですね、はい。
みんな俺のことを入口で待っていてくれたらしい。入っててもよかったのに。
「すいません、おまたせしたようですわね。ではまいりましょうか」
そうして俺は、これからはじまる自己嫌悪との戦いに身を投じていった。
大広間に入ると、真っ先にミレディが駆け寄ってきた。
「ソフィア様!」
「今日はお越しいたたきありがとうございます、ミレディさん」
「そんな、当たり前のことでございます」
きれいなドレスに身を包んだミレディは、まるで天使のようだった。俺主観で。
ちなみにミレディのドレスを選んだのは俺だ。胸が強調されるやつ。
へへ、福眼福眼。
考えがおやじになってきたな……
それから少し他愛のない話をしていると、貴族の息子たちがやってきた。
こらミレディ、逃げるなっ!
「ソフィア様、お誕生日おめでとうございます! これをお受け取りください!」
「いいえソフィア様、わたしのをお受け取りください!」
「いやわたしのを!」
「おまえら、ソフィア様が困っていらっしゃるだろう! さ、ソフィア様、どうぞこちらへ」
「「「おまえこそ自重しろ!」」」
……なんだこれは。頭の悪さ全開じゃないか。
でも俺は微笑む。だって王女だから。泣かないんだからっ!
貴族たちのこの会話にそろそろ本気でキレそうになってたとき、大広間の入口のほうが急に騒がしくなった。
20代後半と思われる長身の若い男が立っていた。
「ロセス様がいらっしゃいましたぞ!」
あぁ、そういやそんなのが来るっていってたな。預言者、だっけか。
そもそも預言者ってなんだよ。前の世界と同じ意味でいいのか?でも宗教関係ないみたいだからちがうのか?
よくわからん。
「ようこそお越しくださいましたロセス様! ささ、こちらでございます」
ロセスと言われた男を大げさな態度で歓迎しているのは、宰相のモゼール。なに考えてるかわからない、俺の苦手なおっさんだ。
モゼールのにやけ顔が不快なのか、ロセスは顔をしかめている。気持ちわかるよ、うんうん。
モゼールとロセスが俺のところへやってきた。途中淑女たちにきゃいきゃい言われながら。
「ソフィア様、こちらは預言者ロセスと言いまして、的中率の非常に高い占いをなさります。ぜひとも、ソフィア様の華々しい未来を占ってもらいましょう!」
なるほど、占いの的中率が高すぎるから預言者なんて言われてるのか。
占いとかあんまり信じないんだけどな。
「はじめましてロセス様、どうかよろしくお願いしますわ」
どんなこと占ってくれんのかなー、ちょっとどきどき。
「はじめましてソフィア王女。これからあなた様の未来を見させていただきます」
ロセスはポケットの中から水晶玉を取り出し、テーブルの上に置いた。
「みなさま、これからソフィア様の未来を占わせていただきます! どうかご静粛に!」
おお、見事にみんな黙ったよ。この人ほんとにすごい人なんだな。
ロセスは水晶玉の上に両手をかざし、静かに目を閉じた。
待つこと5分。ものすごく緊張した空気が張り詰めるなか、ロセスは目を開けた。
「出ました」
ざわっと一気にしゃべりだす外野。俺のほうが緊張したっつうの。
「おお、分かりましたか! さっそくお教えください!」
モーゼスが騒ぐ。お前少し自重しろよ。
俺を見るロセス目は、悲しみに満ちていた。
……なぜそんな目で俺を見る。死亡フラグ立てんじゃねーよ!
「皆様、落ち着いて聞いてください。この未来は確実に訪れるものではありません」
「なにをおっしゃるロセス様。あなたの占いは的確ではありませんか。さぁ、お教えください!」
だから自重しろよこのハゲ! フラグ立ってんのに気付けよ!
モゼールにせかされたロセスは、重い口を開けた。
「ソフィア王女は、近い未来に国王を殺害します。そしてそのままこのゼノーシス国は崩壊するでしょう」
………………え?
場の空気が、氷ついた。
真っ白になった頭の片隅に、ロセスの「……すまない」という呟きがこびりついた。
プロットとか必要ないんじゃね?とか思ってたわけです。
はい、見事に積みました。この時点で。
そして魔物も説明もしていない。
すいませんでしたー!!
やっぱりプロットを書こう……
あ、あとアドバイスをもらって、ソフィア兄弟の名前をすこし変えました。