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私は平穏に生きたいだけなのに――現実と異世界の二重生活は、想像の斜め上へ  作者: いぬぬっこ


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第三話 青水晶と予定外の出会い

布団に沈む感覚は、日本でも異世界でも同じだ。


でも、落ち方が違う。


日本で眠るときは、沈む。

異世界へ行くときは、切り替わる。


ふっと、意識の奥で何かが反転する。


目を開ける。


見慣れた天井。

白を基調とした高い梁。淡い金の装飾。


ここは——


アルヴァレイア王立高等魔導学院、女子寮の一室。


私はベッドの上でゆっくり体を起こした。


「……おはよう、私」


日本では昼間。

こちらでは、朝。


カーテンの隙間から光が差している。


——が。


「遅い」


低く、よく通る声。


「主、寝すぎだ」


「誕生日だぞ」


「起きろ」


「……うるさい」


私は枕を顔に押し付けた。


四方向から、気配。


ベッドの足元に、白い狼。


毛並みは雪のように白く、瞳は薄い銀。静かで、凛としていて、無駄がない。


リオ。


私の使役獣のリーダー。


窓辺に黒獅子。


艶のある漆黒の毛。筋肉質で、尾がゆっくり揺れている。


ネロ。


戦闘になると一番楽しそうな顔をする、エース。


カーテンレールの上に、金色の鷲。


翼を畳み、こちらを見下ろしている。


ソル。


偵察専門。性格は意外と冷静。


そして、机の上。


とぐろを巻いている、青い蛇。


宝石のような鱗。細い目が知的に光る。


ラス。


頭脳担当。毒舌。


「……朝から圧がすごい」


私はゆっくり起き上がる。


「今日は覚えているだろうな」


リオが言う。


「もちろん」


私は伸びをする。


「リオの誕生日」


ネロが鼻を鳴らす。


「主が忘れていたら、我が叩き起こすところだった」


「叩くな」


「蹴るか?」


「やめなさい」


ラスがため息をつく。


「騒がしい連中だ。主、約束は?」


「覚えてるよ」


私は笑った。


「青水晶の洞窟、でしょ?」


リオの尾が、わずかに揺れた。


それが嬉しいのサインだと、私は知っている。


アルヴァレイアは今日は休学日。


訓練も講義もない。


だから、私はかねてから約束していた。


——水の元素を溜め込んだ、青水晶の洞窟へ連れていくと。


「絶景だと聞いた」


ソルが言う。


「光が反射して、天井が星空のように見えるらしい」


「水の精霊の気配も強い」


ラスが補足する。


ネロは単純だ。


「戦えるか?」


「戦いに行くんじゃない」


私は靴を履きながら言う。


「今日は観光」


「主の“観光”は信用ならん」


ラスが即座に突っ込む。


……それは否定できない。



学院の門を抜け、森を抜け、小一時間。


洞窟の入口は、崖の中腹にあった。


「……わあ」


中は淡く青く光っている。


岩肌に埋まった水晶が、内部の水を反射して、柔らかく揺れる光を放っていた。


「綺麗だな」


ソルが小さく呟く。


「……悪くない」


ネロも、少しだけ目を細める。


リオは私の隣に立った。


「気を抜くな」


「観光だよ?」


「観光ほど危険な言葉はない」


正論である。


私たちは洞窟の奥へ進む。


足元は湿っている。

水の気配が強い。


ラスが先に進む。


「魔力濃度、安定。だが奥に乱れあり」


「乱れ?」


「……自然ではない」


その瞬間。


足場が崩れた。


「主!」


リオの声。


私は反射的に後ろへ跳ぶ。


しかし、足元の岩が滑る。


「ちょっと待っ——」


水晶の壁が光る。


視界が一瞬、青く弾けた。


そして——


私は、ひとりだった。


水音だけが響く。


「……あれ?」


リオも、ネロも、ソルも、ラスもいない。


さっきまでいた通路は消え、違う空間に立っている。


「え、ダンジョンってそういう感じ?」


分断ギミック。


嫌な予感しかしない。


そのとき。


背後で、足音。


私は振り向いた。


そこに立っていたのは——


長身の、見知らぬ青年。


濃い藍色の髪。

水晶の光を受けて、横顔が静かに浮かび上がる。


衣服は学院のものに似ているが、細部が違う。装飾が多い。


目が合う。


澄んだ、けれど底の見えない瞳。


「……君も、はぐれたのか?」


低く落ち着いた声。


私は一瞬だけ、思考を止めた。


(……顔、整いすぎじゃない?)


でも口に出さない。


「ええ。観光のはずだったんですけど」


青年はわずかに笑う。


「青水晶の洞窟は、時々こういう悪戯をする」


悪戯。


言い方が慣れている。


「留学生?」


私は軽く首を傾げる。


青年は一瞬だけ間を置いた。


「……そんなところだ」


曖昧。


でも、敵意はない。


背後の水晶が光る。


遠くで、リオの咆哮が聞こえた。


私は胸の奥が、わずかにざわつくのを感じた。


——この人。


何かが、違う。


(でも今は)


私は笑った。


「じゃあ、一時的なパーティですね」


青年は、少しだけ目を細めた。


「面白い言い方をする」


その瞬間。


リオの気配が、近づいてくる。

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