第二話 疑心暗鬼ランチタイム
私の隣に腰を下ろした、理事長はいそいそと、彼のお弁当箱の蓋を開ける。
……認めたくないけど。
相変わらず、レベルが高い。
この人の、お弁当は。
俵形の小ぶりのおむすびに、ほうれん草としらす入りの卵焼き。
ニンジンのベーコン巻きに、小松菜と油揚げのおひたし。
そして、デザートはシンプルなピックに刺してあるブドウとマスカット。
……つくづく料理上手な人だと思う。
「円城さん、今日もまた授業中に居眠りをされたそうですが……。
昨夜はよく眠れなかったのですか?」
「いえいえ、そんなことはありません。
むしろ、よく眠れました。
……まあ、ちょっと寝過ぎて寝坊しそうになったんですけど」
ひょいと、箸で唐揚げをつまんで口へ放りこむ。
うん、うん。
このジュワァーと感がたまらない。
こんなのでいいの、おかずは。
「そうですか。
昨夜は確か、貴女が飼っている『犬』の誕生日でしたね。
だからか、少し遠出なされたようですね。
けれど、あまり甘やかしすぎてはいけませんよ」
うわぁ……バレてる。
確かに、昨夜は『あちら側で』犬ーーリオの誕生日を祝ったというか。
奴に難くせつけられて、『あの洞窟』まで行く羽目になりーーって感心してる場合か!
「……理事長。
それは、理事長の勘違いかと。
私、『犬』を飼ってませんので」
頼む。
頼む!
頼むぅ!!
これ以上、質問しないでくれたまえ、理事長よ!
私のHPがどんどんゼロに近づいていく。
「それは失礼いたしました。
どうやら、他の生徒と勘違いしていようで」
そこまで言って、理事長はふっと笑った。
……ここに、理事長ファンの女子生徒がいようものなら、絶対、黄色い叫び声が中庭に響き渡っていただろう。
私には、優しいようで決して自分の底を見せない、この狸男の良さがちっともわからないが。
「ただ、円城さん。
今朝も『散歩』をされて、『不審者』と出会ったようですがーー私にその報告をしませんでしたね?
いつも言っていますが……その場合はすぐ、私に報告して下さい。
でないと、貴女に何かあった時、守りきれませんから」
薄々、わかってはいたけど。
わかってはいたけどさあ!
バレてるよ……。
これ、絶対、バレてるよ!!
「……はい。
申し訳ありません、気をつけます」
「円城さん、頼みます。
これは、理事長としての『命令』ではなくーー私個人としてのお願いです」
優しくて穏やかなのに、絶対に有無を言わせない口調。
ーー我ながら、お願いという言葉に弱くて困る。
「……はい、わかりました」
「ありがとうございます、円城さん。
それはそうと、お弁当を食べる手が止まっていますよ。
このままだと、食べ終える前に昼休みが終わりそうです」
それは……理事長ーーあんたのせいだろがい!!
それ以上、考えるのを放棄して、卵焼きにかぶりつくーーうん、うん。この卵焼きのちょうどいい甘さが、舌戦で疲れた脳を癒してくれる。
ちらっと、理事長を見れば、彼も上品な手つきで、彼の卵焼きを食べている。
ーー本当に謎が多いな、この人
箸でブロッコリーを口に運びながらーー私は昨夜のことを思い返した。




