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私は平穏に生きたいだけなのに――現実と異世界の二重生活は、想像の斜め上へ  作者: いぬぬっこ


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第一話 普通で普通でない日常

一度きりの人生を後悔しないように——そんな言葉をよく聞く。


その言葉を口にする人は、きっと一本の線を思い描いている。

多少曲がることはあっても、他の線と交わることはあっても、基本は一本。


けれど、私が思い描く人生の線は——二本だ。


なぜなら私は、生まれた時から、

日本で生きる私と、異世界で生きる私。

二つの人生を、同時に歩んでいるのだから。



「……」


眠い。

私は今、猛烈に眠い。


「……で、あるからして。

ソクラテスはーー」


……。

…………まぶたが重い。

……………………すぅ。


「……円城さん?

円城さん!!」


…………はっ!


「はい!

ターシャは起きました!」


机に伏せていた頭を、勢いよくあげる。

……ん? ここは教室。

はっ! 間違えた!


「……はぁ。

円城まどかさん。

貴女は、まだ夢の中にいるようですね」


そこで、倫理の先生は軽く眉間の皺を揉んだ。


「円城さん。

こんなこと、本当は言いたくありませんが……貴女、倫理の授業にもう出なくてもいいですよ」


「確かに、そうですよね。

私がこれで、倫理の授業中に居眠りしたのは、ちょうど20回めですから。

そう言われるのも当然です。

あ、でも、これは決して先生の授業が退屈というわけではありませんから、安心して授業して下さいね!

むしろ、授業内容的には、しっかりと先生が準備して講義して下さるから面白いですよ!」


クスクスと、クラスで笑いが起きる。


「だったら、寝るんじゃありません!!

毎度、毎度……貴女と言う人は私の授業の度に居眠りをして!

そんな人から面白いと言われても、全然信用なりません!!」


倫理の先生のこめかみが、ピキッと音をたてる。


「あっ!

先生、論点がズレてますよ!

今は先生の授業の面白さよりも、私が授業に出席する必要があるのかと言うのが、そもそもの論点でーー」


「円・城・ま・ど・か・さ・ん?

貴女は真面目なんですか!?

馬鹿にしているんですか!?

いえ! 絶対、馬鹿にしているでしょう!!」


「先生。

それは心外です」


「それは、こっちのセリフじゃー!!

毎回、毎回、居眠りして!!

私が陰で他の生徒や教員からなんて呼ばれてるか、知ってます!?」


「はい!

もちろん、知ってます!

最強の催眠教師、催眠おじさん先生です!!」


「キィーー!!

私がこの見た目から、そう言われることを一番嫌っているのに!!

目の前でそれを言いますか!?」


前の席の子の肩が、プルプルと震える。


「??

先生が、知っているかと聞かれたので答えただけですが……」


倫理の先生の話が脱線しすぎて、ついていけない。

現に。

クラスのみんなも、先生の理論がよほどおかしいらしく、教科書に頭を埋めて肩を震わせている。


「ええい!

もう、結構です!!

円城さん!!

貴女は廊下に立っていなさい!!」


倫理の先生が唾を飛ばしながら、廊下を指差す。


「……はい」


結局、今日も倫理の先生の言いたいことがよくわからないまま、怒らせてしまった。

うーん……ちゃんと受け応えはできていたと思うんだけどな。


ーー

昼休み。


私は、お弁当と水筒を持って、中庭のベンチに移動した。


友達とカフェテリアで一緒に食べる、というこの学園の生徒の多くが選ぶ選択肢は取らないーーというか、取れない。


ぼっちだからな、私は。


私が通うこの高校ーー聖マグノリア学園は、日本のセレブ御用達の小中高一貫の共学の学園で、季節の花が一年中咲き誇る中庭やら、有名な一流シェフの料理が楽しめるカフェテリアに、最新のタブレットやゲーム機器が完備された娯楽館など。

まあ、とにかく豪華で美しく、最先端を行く学園である。


……正直、私にとっては肩がこるような学園だけど。


と、それはさておきーー


「いただきます」


お弁当の蓋を開ける。

ふりかけご飯と卵焼き。

タコさんウィンナーと唐揚げに、プチトマトと茹でたブロッコリー。

そして、デザートの苺。

完璧なお弁当である。

ちなみに、作ったのは私だ。

自画自賛だが、いいのである。

なんせ、私が食べたいものしか入ってないのだから。


箸を手に取り、卵焼きに手を伸ばすーー


「おや、おや。

こんなところで会うとは奇遇ですね、円城さん。

よかったら、お昼をご一緒しても?」


某人気声優を彷彿とさせる、穏やかで優しい、いつまでも聴いていたくなるような声が、私の手を止めさせる。


いやいやいや、奇遇じゃない。

絶対に、奇遇なんかじゃない。

だって、このやりとり、毎日のようにしているよ!?


「…………どうぞ」


確信犯の相手の顔を見上げる。


「ありがとうございます、円城さん」


学園内の抱かれたい男ランキング一位のーー私にとっては得体の知れない警戒ランキング一位の男性ーー学園理事長・東雲司が、いい笑顔でこちらを見下ろしていた。


……これは、今日も適当に話さないといけないのかーー私の夜の夢の話を。


いや、違う。

正確には夢なんかでは、決してない。

こちらとは違う世界でのもう一つの生活の話を。


この人は聞きたがっている。

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