六話 (視点クィム)
エンリケス殿とロドリゴ殿の厚意で仮眠をさせてもらえることとなった。
正直夜通しの移動で疲弊していたのもあり非常に助かった。出発は昼頃の予定で、ナサン殿はロドリゴ殿から部屋の鍵を受け取った。
「この部屋のカギだ。何かあったら起こすが、俺たちがカギを持ってたらお前たちも気が休まらないだろ?渡しておくよ。」とロドリゴ殿の気遣いもあって、金品を奪われる可能性は少し減ったような気がして、それだけで、胸の奥がわずかに緩んだ。
部屋に鍵をかけ、借りた布を布団代わりに二人で寝転ぶと、ナサン殿に「そういえばお前、さっきコーヒーとポン・デ・ケイジョ渡されたとき、なんであんな顔してたんだ?お前からしたら珍しいのか?あれ。」と聞かれた。
正直答えるか迷ったが、「珍しいというよりも、温かい食事が初めてだったので……。」とナサン殿のほうを見るとこちらを見て驚いた顔をしていた。
朝の人々が活動し始める時間特有のざわめきが聞こえるほどの沈黙に、「えっと、城では毒見が済んで冷めてしまった食べ物しか食べられなかったので……。まぁ、ある程度は体に毒を慣らしてますから、大抵の毒では死にませんが……。」と何処から説明したものかと思いながらも答える。
毒に慣れるにしてもかなりの毒を摂取しなければならない。喉が焼けるように痛くなるものも、摂取して数時間で高熱が出るものもある。そんな苦しいときでさえも、国王陛下や義兄はおろか、生みの母でさえも私の看病は侍女たちに任せっきりだった。
毒なんて気にせずに温かい食事が食べられる、そんな物語の中の食事風景には正直憧れがあった。それが叶ったような気がして、さっきは少し嬉しかったのが顔に出てしまっていたんだなと恥ずかしくなってしまった。
ナサン殿はこちらに背を向けてしまった。
まだ会って数時間程度の人にする話ではなかったな……。と反省していると、「大変なんだな、貴族様ってのも。」とぶっきらぼうに顔を見ずにナサン殿は呟き、何て返せばいいのかわからずにいると。「……まあ、この街に居たら何回かはあったけぇもん食う機会ってやつはあんだろ。」と言われ、嬉しい気持ちのまま眠ることができるのは初めてのような気がした。




