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壁の街  作者: 山吹花絵


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五十九話 (視点ナサン)

 「……ん?」ふと小さな違和感に気付く。

 手元のボルトが、わずかに噛み合わない。

 力を込めれば締まる。

 だが、妙に引っかかる。

 「おい、このボルト、うまく締まらねぇんだけど……どこで調達してきた?」

 近くにいた見習い騎士たちに声をかけると、数人が顔を見合わせた。

 「は?そんなわけねぇだろ」

 「お前の腕が悪いだけじゃねぇの?」

 笑いが起きるだけだ。

 ――そんなはずはない。そう確信してはいたが、ここでもめても厄介になるだけだ。

 俺はため息をついて「……まあいい。」多少のズレなら手持ちの道具で直せるはずだ、そう思ってクィムの元へ新しいボルトを取りに行く。

 背後から騎士たちの話声が聞こえてきた。

 「だから言ってんだ、こんなのうまくいきっこないって……。」

  ――……やっぱりな。

 そう思ってクィムに「このボルト、ちょっと見てくれ。」とボルトを手渡した。

 クィムはというと、ボルトをじっと眺めながら首を傾げ「これのどこがおかしいのか、私にはさっぱりですが……経験者は語るというやつですか?」と小さな声で呟いた。

 俺は頷いて「なんか妙なんだ、念のためにもマルケスに調べてもらってくれ。」新しいボルトを握って作業に戻る。

 見習い騎士たちの視線、それが妙に合わないこの感覚……。

 目が合えばすぐに逸らされ、誰一人として落ち着いて作業している感じがない。

 ……さっきまで、笑っていたくせに。

 一瞬だけ、手が止まる。

 ――いや、気のせいか?

 そう思って、もう一度ボルトを締め直す。

 やはり、わずかに引っかかる。

 ……違う。

 ボルトを握る手に、じわりと力がこもる。

 おかしいのは、俺の腕じゃない。

 分かっている。

 分かっているのに――

 胸の奥がじわじわと嫌な感覚でざらつく。

 喉の奥が、ひどく乾く。

 見習い騎士たちの視線、その動き方――

 言葉にしなくても、分かる。

 ……分かってしまう。

 指先に、わずかに汗が滲む。

 工具を持ち直す。

 何事もないふりをして、手を動かす。

 ――こういう時は、大抵ろくなことが起こらない。

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