表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壁の街  作者: 山吹花絵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

五話 (視点ナサン)

 全身が心臓になったみたいにドクドクうるさい。俺がこの王国で忌み嫌われている存在だったという現実に、思わず逃げ出したくなる。だって、本当にこの世界からいらない存在になっちまったような気がしたんだ。

 俺が知りたかったことの中に、じいさんが読み書きを教えてくれなかった理由があった。城で仕事をしていたなら読み書きを教えてくれたってよかったじゃねぇかって、クィムに会ってからずっとぐるぐる考えてたから逃げるわけにはいかないと思い、座りなおした。

 「急に言われても、意味が分からないだろうけど魔法使い同士だから僕にもなんとなくわかる。特に帝国で一番の大魔法使いだったバプタイズ様からしたら明確にわかったはずだ。

 王国において魔法使いが迫害対象である以上、バプタイズ様はその素質を持った君を守らなくてはならないと思ったんだろう、でもすべての素質を持つ子供は救えない。それでも、目の前にいる君だけは救いたいと、あえて君に読み書きを教えなかった。

 大魔法使いであるバプタイズ様が、唯一君を守るためにした決断が、君を無知でいさせることだったんだ。

 言葉の本質を教えないことこそが、君を守れる唯一の手段だったんだよ。」

 そう話すエンリケスにすかさずクィムは「ですが、魔法使いならばなぜ……なぜ魔法使いが迫害されているこの国に来たのですか?」と聞いた。

 確かに、魔法使いを忌み嫌う国に来るのはおかしいと思う、しかしエンリケスは笑って「帝国ではね、この国よりも小さな違いを気にしているんだ。それが僕らにとっては窮屈だったしとても息苦しかった。

 僕たちは、平民だとか貴族とか、同性だとか異性だとかそんなことを気にせず、ただ自由に生きたかった。

 壁の街は、この町全体が家族みたいに生きている。もしかしたら本当はお互いに信頼とかはしていないのかもしれないけど、僕たちからしたら帝国にいるよりも、この街にいる方が自由に思えるんだよ。」とロドリゴと顔を見合わせて答えた。

 「じゃあ、あんたらはこいつが持ってるショカンとかいうやつの内容も分かんのか?」と震える声で聞いてみる。

 もう冷めてしまったコーヒーを飲もうとしていたクィムは、ポケットから紙を取り出してエンリケスに渡した。

 エンリケスは紙を受け取ると、しばらく黙って目を走らせた。

それから静かに息を吸い、「……内容を読み上げるね?

バプタイズ・ラファエル・ド・バルボーザ殿

 王家より下命を受け、現在取り組まれている新規装置について、改めて注意を喚起申し上げます。

 本装置は理論上、戦局において画期的な力を発揮することが見込まれております。しかし、未知の力を扱う以上、予期せぬ事態を招く可能性は否定できません。

 王家の意図は戦略上の勝利に重きを置かれており、民や国土への影響を十分に考慮しているとは言えません。技師として任務を忠実に遂行いただく一方で、装置の取り扱いには慎重を期すよう、強くお願い申し上げます。

 技術顧問ロレンソ・アランテス・デ・マルケス…。」

 そこで一度言葉を切って深呼吸をした後、「……要するにこれは、城の研究職――マルケスという男が、王命を伝えるためにバプタイズ様へ送った公式文書だ。国王陛下は装置の完成を望んでいるが、責任までは取りたくない。だからこうして、“注意喚起”という形で釘を刺している。」と俺たちを見た。

 ここにきてようやく、クィムの言っていたことが嘘ではないという確信が持てた。クィムは「その装置というものは、先ほど話に出た劇団の団長に預けられたものと関係はあるのでしょうか?」とテーブルの上でぎゅっとこぶしを握り締める。

 しかしエンリケスは首を振り、「それは僕らにはわからないんだ。」と申し訳なさそうに答えた。

 俺はただ、自分が魔法使いになっていたのかもしれないという事実だとか、爺さんが知らない間に俺を守ってくれていたこと、エンリケスとロドリゴの話、新しく得られたじいさんの情報だとかで、ただただ頭がぐちゃぐちゃだった。

 もう冷めてしまったコーヒーの味も、硬くなってしまったポン・デ・ケイジョの味も……今の俺にはわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ