五十七話 (視点ナサン)
劇団員の騒ぎ声で俺とクィムは目を覚ました。半分寝ぼけたままテントを出ると、治安監察局の連中とバレエダンサーたちが言い合いになっている。
「ちょっと、怖い目にあった子にもう少し気ぃ使うとかないわけ!?」
バレエダンサーたちに詰め寄られ、監察局の男たちは完全に気圧されている。
「朝から元気だよなぁ……。」
目をこすりながら、ガブリエルがふらふらと隣に来た。
クィムはもう目が覚めたのか、小声で囁いた。
「では、作戦開始と行きましょうか?」
俺は大きなあくびをひとつして声をかけた。
「あのさぁ、俺たち現場に居合わせたけど? 俺たちからは聞かなくていいのか?」
その一言で、場は途端に静まり返った。
監察局の連中は、よほど居心地が悪かったのか、すぐに俺たちのほうへやって来る。
「だからさ、イゴールと俺とこいつで歩いてたときに、たまたま現場を見かけたんだよ。
そしたら、ちょうどいいところに騎士団が通りがかったから……男どもはそっちに任せた。
で、俺とクィムでここまで連れて帰ってきたってわけ。
あの二人とは初対面だし、家がどこにあるのかとかは知らねぇ。」
――と、それだけを伝えた。
ガブリエルも肩をすくめる。
「俺も、ここに来てからの面倒をバレエダンサーたちと一緒に見てたくらいだから、ほとんど知らねぇな。
食欲はないわけじゃないらしいし、そんなに心配すんな。」
監察局の連中は聞き取りを終えると、まるで厄介ごとから逃げるように、その場を後にした。
しかし一人だけ、若い局員が足を止めて振り返り歩いてくる。
「何か思い出したことがあれば、すぐに少女を連れてくるよう、団長に伝えてください。必ず……。
それと――本来お伝えすべきことではありませんが、あの男たちは人身売買に関与していた余罪が出ました。
……もう、日の光を浴びることはないはずです。では。」
そう言い残し、足早に去っていった。
「……随分と物騒ですね。」とクィムが呟く。
「……だな。」
俺はそれだけ返して、朝食の匂いが漂ってくる方へ歩いていった。




